THE ROAD RACE TOKYO TAMA2023 パラサイクリングTTレポート&優勝者インタビュー
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2023年12月3日、東京都の多摩地域を舞台に開催されたロードレース「THE ROAD RACE TOKYO TAMA 2023」。
9時に八王子市の富士森公園をスタートして調布市の武蔵野の森公園前スタジアム通りでフィニッシュする健常者エリートのロードレースと並行し、8時より武蔵野の森公園付近の1周約6kmの周回コースで「パラサイクリング タンデム タイムトライアル」レースが実施された。
レース距離は男子が4周23.7km、女子が3周17.6km。パラサイクリングの公道を使ったロードレースは日本では数少なく、エキシビションレースでなく特にナショナルチームが競う国際レースは、2016年に伊豆大島で行われたアジアパラサイクリング選手権、2021年の2020東京パラリンピックなど過去に数えるほどしかない貴重な機会だ。
早朝スタートで健常者のレースと同時進行とあって観客は少なめだったが、現場にいた人は日本自転車史に残る貴重な瞬間を目撃したことになる。
男女ともポーランドチームが優勝
同時期にレースが重なったため、参加はアジアを中心に男子6組、女子4組(出走3組)と少人数であったが、タンデムロードレースの強豪であるポーランドチームが男女とも参戦し、世界レベルの走りを沿道に印象づけた。
日本からは木村和平/三浦生誠(パイロット)ペアが出場し、優勝したポーランドのカロル・コピチュ/マルチン・ビャウォブウォツキ(パイロット)のペアから約4分差で2位となった。
パラサイクリング男子リザルト(4周23.7km)
1位 カロル・コピチュ/マルチン・ビャウォブウォツキ(パイロット)/ポーランド 31分00秒30
2位 木村和平/三浦生誠(パイロット)/日本 34分59秒96
3位 ソムラック・プ-パッブ/スラチャイ・ハアジャトゥラット(パイロット)/タイ 36分22秒86
パラサイクリング女子リザルト(3周17.6km)
1位 ドミニカ・プティラ/カミラ・ヴイチキエヴィッチュ(パイロット)/ポーランド 28分09秒59
2位 イ・ソンスン/ベク・スンヨン(パイロット)/韓国 30分23秒73
3位 ワッチャローポン・ブンマ-ラート/アッチャラー・セーテン(パイロット)/タイ 31分33秒05
優勝者インタビュー
優勝したポーランドの男女両ペアに、レース終了後ホテルにて話を聞いた。
▼男子優勝は16歳&ロードTTの元プロ選手
男子優勝のカロル・コピチュ/マルチン・ビャウォブウォツキ(パイロット)は、MB(男子視覚障害)クラスUCIランキング8位のペアだ。
長身でクールなファッションのカロルはもっと年上に見えるが、競技登録で17歳、満年齢で16歳の新星だ。盲学校でスキーなど色々なスポーツをやっていてコーチに自転車の才能を見出され、タンデム競技を始めたという。
「とても面白い、楽しい、と感じている。運もあったけれど、このような良い成績が出ているので続けていきたい」。
パイロットのマルチンはタイムトライアルを得意とし、2017年にはジロデイタリアにも出場している元プロロード選手だ。もう充分やり切ったと感じて2019年に引退したが、タンデム歴20年というポーランドナショナルチームのベテランパイロットから声をかけられ、パラサイクリングの世界へ足を踏み入れた。
ペアを組んですぐの今年4月、イタリア・マニアーゴでのUCIパラサイクリングロードワールドカップが彼らのデビュー戦となった。タイムトライアル8位、ロードレース9位と初戦から入賞、ポイントを獲得する。
将来の目標については「まだ学生なので、まずは学業を終えて、いい仕事について欲しい、と両親は言っています」とカロル。
「パラリンピックを目指せるからトレーニングキャンプに来てと周りは言っているんだけど、親はまず学業と思いますよね」と苦笑するマルチン。
若さのポテンシャルと、コミュニケーション力も経験値も高いベテランとの相互作用で今後が楽しみなペアだ。
(註)年齢、ランキング順位などはレース開催日現在のデータ
▼男子レースに出ていたドミニカ
女子優勝はドミニカ・プティラ/カミラ・ヴイチキエヴィッチュ(パイロット)。今回はドミニカのいつものパイロットが来られないため、普段は別の選手と走っているカミラと初めて組んでの来日という。
ドミニカがタンデムを始めたのは2020年。最初に見つけたパイロットが男性、次も男性で、しばらくは男子のレースに出場していた。UCIレースには男女ミックスのペアが出られるクラスがなく、コロナ禍の影響もあってUCIポイントとは無関係なレースで走っていた。その後、女子のパイロットと組まないかと言われ、ポーランドチャンピオンシップで優勝してナショナルチームに入ることができた。
「男子のレースは距離も長いし、もう大変だった」と苦笑するドミニカ。2021年パラサイクリングロード世界選手権タイムトライアルでは銅メダルを獲得している。
パイロットのカミラは昨年5月にタンデムでのキャリアをスタートし、2022年パラサイクリングロードワールドカップ・ケベックシティ大会ロードレース3位などUCI国際大会で入賞を重ねており、ドミニカも「経験豊富なパイロットで安心」と信頼を寄せる。
ポーランドに限らず、強豪国は男女とも国際大会の同じ障害クラスに複数選手を送り出している。「ポーランドには良い育成システムが?」と尋ねると、マルチンの答えはNO。
「英国、オランダ、ベルギー、ドイツにはとても良いシステムがあるが、ポーランドはずっと遅れていて、やっと今のレベル。それでも強いのは、フィジカルだけでなくメンタルが強い人がいるからだと思う」と彼は分析していた。
THE ROAD RACE TOKYO TAMA 2023とは
2021年3月に東京都が策定した「『未来の東京』戦略」の「戦略16 スポーツフィールド戦略」には、東京2020大会のスポーツレガシーの最大限の活用、パラスポーツのファンを増やし定着させる仕掛け、スポーツ×DXでQOL・QOSを高め健康づくりにつなげる、という3つの基本方針と、それを実現するための各年度のアクションプランが示されている。
この戦略を推進する事業として「環境にやさしく、健康にも良い自転車を更に身近なものとするため」の自転車に関する様々なイベントのプロジェクトとして「GRAND CYCLE TOKYO」が始まった。
「GRAND CYCLE TOKYO実行委員会」は、東京都スポーツ文化局などの様々な組織がともにこの活動を推進するために設置された。同委員会が主催する令和5年度の取り組みとして前年度末の3月に発表した企画のひとつが「多摩地域のロードレース」であった。
今回のレースはTOKYO 2020の自転車ロードレースコースに加え、1964年東京オリンピックの自転車競技会場だった八王子エリアを使ったオリンピックレガシーのレースコースであることや、パラサイクリングカテゴリのレースの開催、また、フィニッシュ地点近くの味の素スタジアムで開催された、幅広い層が気軽に楽しめる「STUDIUM FESTA」は、都の「戦略」の基本施策を踏まえたイベントコンセプトがうかがえる。
「未来の東京」戦略
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/choki-plan/
戦略16 スポーツフィールド東京戦略「スポーツフィールド・TOKYO」プロジェクト
https://www.sp.metro.tokyo.lg.jp/seisakukikaku/mirainotokyo-senryaku/html5.html#page=291
GRAND CYCLE TOKYO 令和5年度の取組
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/03/03/08.html
THE ROAD RACE TOKYO TAMA 2023(GRAND CYCLE TOKYO)
日程:2023年12月3日(日)
ロードレース会場:富士森公園(八王子市)〜武蔵野の森公園前スタジアム通り
パラサイクリングロードTT会場:味の素スタジアムあじペン広場〜武蔵野の森公園〜スタジアム通り(周回コース)