Jプロツアー第2戦 志布志クリテリウム 寺田吉騎のラスト1周逃げ切り勝利
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JBCF開幕戦レースの翌日の2月25日(土)、鹿児島県志布志市にて第2回志布志クリテリウムが行われた。終始アタック合戦が続いたが、逃げができないままラスト1周、3人が抜け出した。そこからさらにシマノレーシングの寺田吉騎が飛び出し、単独で逃げ切ってJプロツアー初勝利をつかんだ。
濡れた路面での58km
雨脚が強まった開幕戦の夜。前日までの予報では、翌日の会場である鹿児島県志布志市志布志町では12時頃から晴れる予定であったが、午前中が終わってもどんよりと厚い雲が空を覆い、細かい雨が降り続いた。
Jプロツアーのスタート前に一時止んだものの、再び降ったり止んだりを繰り返し、地面が完全に乾くことはなかった。Jプロツアーは、1周2.9㎞のL字型のコースを20周する総距離58㎞で争われた。
前日の優勝者でリーダージャージを着る岡本隼(愛三工業レーシングチーム)とU23ジャージを着用する宇田川塁(群馬グリフィン)が先頭へと並び、その後方にはランキング上位者と前日と同じく地元チームであるシエルブルー鹿屋が並んだ。
12時15分、レースがスタートすると早速逃げに出ようとアタック合戦が始まる。
あらゆるチーム、もはやほぼ全てのチームと言ってもいいほど多くの選手が代わる代わる抜け出そうと試みるが、誰も差を作り出すことがなかなかできないまま周回数を減らしていく。
中盤、そして終盤に入っても逃げは決まらず、集団スプリントに切り替えるチームもあった。
前日の勝者であり、この大会での2連覇がかかる岡本隼を擁する愛三工業レーシングチームは、前半はアタック合戦に参加しながら、ハードなレース展開にしたいという思惑があったが、そのような状況となったために、ゴールスプリントや最後の展開に向けてスイッチ。
「(スプリントの)隊列に新人も入れてやってみようというのも一つの目標だったので、そういうふうに切り替えて走りました」と岡本は振り返る。
ラスト2周、キナンレーシングチームやスパークル大分レーシングチームが集団スプリントに向けて先頭を位置取り、集団を縦に長く伸ばしていく。
そんななか、チームブリヂストンサイクリングの河野翔輝は虎視眈々と抜け出すチャンスを狙っていた。
「ラスト5周ぐらいからずっと様子を伺っていて、どこかで絶対お見合いに入るだろうなと前の方で見ていました。ラストの折り返しでジャンが鳴る前に、ちょっとお見合いが入ったんで、もうここしかないと思ってちょっと早かったですけど行って、それで行き切れるなら、それもそれで良しで、それで後ろから来られても、それはそれで今の僕の実力なので、まあいいかなと思ってとりあえず行き切ってみました」
最終周に入る手前の折り返しコーナーで、河野が集団から一人飛び出した。
集団の前方に位置していたシマノレーシングの寺田吉騎は「追ってください!」とチームメイトの冨尾大地に伝え、冨尾はすぐさま寺田を後ろにつけた状態で集団を抜け出した。
冨尾は今シーズンからシエルブルー鹿屋からシマノレーシングへと移籍したばかりだが、自身の地元でもある鹿児島のレースで最後に見せ場が訪れた。
「元々僕は逃げにチャレンジする日にしたいと昨日のミーティングで伝えていて。鹿児島なので地元でしたし、昨日はいい走りできなかったので、今日はちょっと目立って、個人的には逃げて敢闘賞とかを取りたいなと思っていましたが、逃げが決まらなくて。あとはもうチームのために走るだけだったんですけど、僕はこうやってクリテリウムで最後まで先頭集団で仕事をするのが初めてで、分からないことがいっぱいあったんですけど、でも最後よっちゃん(寺田)に行け!って言われて、ラストのジャンのところでいい位置を取れていたので、そこで行くしかなかったです。もう行けるところまで行って。よっちゃんは先週のAACAでも勝っていて強いのは分かってたので、行ってくれると信じて」
先頭を走る河野は、「脚のある寺田が来たんで、これは無理だろうなとは思いましたけど、でも何があるか分からないので、とりあえず最後まで踏んで」。
河野までの距離を冨尾が詰め、もう一つの180度コーナー手前で寺田が飛び出した。
「かわしたのはコーナー手前で、先に僕が曲がって、立ち上がった後、後ろを見たら河野さんが離れていたから、もう1人で行くしかないと思って。それまではすごく脚溜めていたので、いつでも発射できますという状態でした」
寺田はこう話す。
一方の河野はこう振り返る。
「最後の折り返しで寺田選手と合流したんですけど、結構彼の勢いが良かったのでつけなくて。そこら辺は僕の力もありますけど、技術不足な部分もあるので、これから改善していけたらなと思います」
寺田が独走状態となり、集団が追いかける。しかし、寺田は集団とのタイム差が数秒ついた状態のまま最後のUターンをクリア。
集団では、愛三工業レーシングチームの岡本が前日の再現のように草場啓吾と共にスプリント態勢を整えるが、岡本がコーナーで他選手と接触し弾かれ、スプリントを披露することは叶わなかった。
集団からはチームサイクラーズ・スネルの松本一成やキナンレーシングチームの孫崎大樹が寺田の後ろからスプリントを開始した。
「もう怖くて、後ろを向くのが。もう抜かれてもいいから、とにかく前だけ見て頑張ろうと思って」と話す寺田はひたすら前に向かって踏み続け、最初で最後に振り返ったのは、フィニッシュラインのほんの手前だった。
集団に対して僅か1秒、しかし勝利を確信するのに十分な差をつけて逃げ切り、寺田は大きなガッツポーズを見せた。
前週のAACAでも勝利を収めている寺田。Jプロツアーでは今回が初勝利となる。
「うれしいですね。先週AACAという長良柄川で行われているレースでも優勝できて、それでコンディションが良いのはすごく実感していたので、鹿児島でもどこかで発揮できるかなと思ってたんですけど、ちょうど今日しっかり見せ場は作ることができたので良かったです」
「冨尾さんが僕を活かしてくれました」と寺田は言い、チームの勝利のためにアシストした冨尾は、「チームで勝つってうれしいですね。めちゃくちゃいい1日になりました」と、お互いに雨と跳ね返りで泥まみれになった顔にとびきりの笑顔を浮かべた。
個人ごと、チームごと、それぞれの課題を試す場として
この鹿児島でのレースで2連勝、2連覇には届かなかった岡本はレース後、落ち着いた様子でこう話した。
「そんなに簡単ではないというのはありますし、(最後のコーナーで)弾かれて最初はちょっと頭にきてたんですけど、そういうのもレースだし、スプリントはそういうもんだと思いますし、もっと完璧に行けていればそういうこともなかったかもしれないし。次に備えるだけですね。
レースって毎回勝っていい思い出で終われれば最高なんですけど、負けることが多いし、そういうのを積み重ねて、チームとしても自分としても強くなっていくんだと思います」
チームブリヂストンサイクリングにとっては今回、主力メンバーがいないからこそ新たなチャレンジの場となっていた。河野はこう語る。
「今回の鹿児島は、ブリヂストンの型にはまらない、いつもだったら無難にスプリントをして、他のチームもそれを狙ってくるのが分かってブリヂストン頼みになる動きになるかなと思っていたので、せっかくなので、スプリントじゃない勝ちの狙い方、今回みたいに1人1人抜け出して、そういった勝ち方をしてみようという作戦を立てていました。ロードもクリテもスプリントは狙わずに、最後まで抜け出しを図って走っていました」
また、今後はフルメンバーで出るレースが多くなるとのこと。
「そのときはブリヂストンらしい勝ちの狙い方をするので、こういうフルメンバーじゃないときは、逆に型にはまらないレースをしていけたらいいなと思います。それが結果的に自分たちの力にも繋がっていくので、頑張りたいなと思います」
新設チームのチームサイクラーズ・スネルは、今回の2レースで確かな手応えを感じていた。自身も鹿屋体育大卒である三瀧監督はこう話した。
「今日の松本の3位というのももちろんうれしいんですけれども、昨日のレースで、後手を踏んでしまったミスはありながら、それをカバーするように即座に佐藤(大志、宇志)兄弟が中心となってタイム差をキープして、最後はキナンに奪われましたけど、そこの展開まで持っていけた、レースを壊さなかったというのは、今日以上に、僕たちにとっては自信になったかなと思います。
今日のクリテリウムに関しては、僕たちにとっては一番厳しい状況だと思っていたんですけども、松本の良さも出ましたし、その前の湯浅(博貴)のうまい場所取りであったり、佐藤兄弟のコーチングであったり、最終的に松本と湯浅で勝負というところで展開を持っていけたのが、今後他のチームに対しても、ワンチャンあるなと印象付けさせることができたかと思うので、戦い方がだいぶ変わってくるかなとは思います。これに満足せず、一つずつ前に行ければなと思います」
リーダージャージは、前日のレースで2位、この日のレースで5位に入った小野寺玲(ヴィクトワール広島)へと移った。
「久々のJプロツアー復帰で、久々に(リーダージャージを)着られて、(ヴィクトワール広島の)オレンジになったと思ったらまた赤になってしまって(笑)。次戦が宇都宮ということで、赤いジャージを着て凱旋できるのってなんだか面白いですね」と小野寺は笑う。
今年移籍したばかりの小野寺だが、宇都宮ブリッツェンにいた頃に比べると、スプリントに向けたチームの手厚いアシストというよりも、この2レースでは、自らの力で着に入り込んでいるという印象があった。
「やっぱりどうしても経験値自体はみんなまだない状況のチームでもあるので、そこは今までのように先輩たちがいたチームとは違ってやりづらさはありますけども、それでもみんなしっかりと僕の周りに集まってくれるような動きも見ましたし、昨日のロードレースでも本当にみんなが僕を信じて、ちゃんとアシストする動きをしてくれたんで、すごく伸びしろしかないチームだと思っています。
みんなとこうやって信頼関係を築けることによって、僕が今までブリッツェンで引っ張ってもらってきたように、今度は僕がそうやって引っ張っていければなというような、そんな手応えは今回のレースで感じましたね」
まだまだ成長過程にあるチームへの移籍は、小野寺自身の立場を変えることにもなりそうだ。
さらに、Jプロツアーはこれまでより集団の密度が増え、難易度も上がった。しかし、小野寺はなじみのメンバーと切磋琢磨できる機会があることを強調した。
「アンダーとかでなじみのメンバー、昨日優勝した岡本選手もそうですけど、そういった選手たちとも常に一緒に走れるので、より刺激的なシーズンになりそうですね」
各個人、各チームで課題はそれぞれ。急激な成長というのは難しいが、一戦一戦でそれぞれが得られるものは意外と大きいはずだ。
Jプロツアー第3&4戦は、3月23日~24日に栃木県真岡市と宇都宮市にて開催される。真岡芳賀ロードレースはJCL初年度に初開催されたレースであり、JBCFに所属し続けるチームは走ったことのないコースとなる。また短い周回コースでのロードレースとなるが、今度はどのような展開が生まれるだろうか。チームごとの戦略といったところにも注目したい。
第2回 志布志クリテリウム
1位 寺田吉騎(シマノレーシング) 1時間18分13秒
2位 孫崎大樹(キナンレーシングチーム) +1秒
3位 松本一成(チームサイクラーズ・スネル) +2秒
Jプロツアー第2戦 第2回 JBCF 志布志クリテリウム
開催日:2024年2月25日(日)
開催地:志布志しおかぜ公園(鹿児島県志布志市)
https://jbcfroad.jp/jprotour/