富士クリテリウムチャンピオンシップ決勝 シマノ寺田がロングスプリントでの勝利
目次
第3回目となる富士クリテリウムチャンピオンシップ。決勝は、予定通りのチームブリヂストンサイクリングのコントロールの中、先週も勝利を挙げた寺田吉騎(シマノレーシング)が最後に早がけで抜け出して勝利を掴んだ。
強風吹き荒れる2日間
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早咲きの桜の花がまだ残った潤井川の河川敷。女子は1戦目、2戦目共に小林あか里(弱虫ペダルサイクリングチーム)と渡部春雅(明治大学)の戦いに
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2戦目で勝利した渡部が総合優勝を飾った
3月2日~3日、Jatco presents 富士山サイクルロードレース2024 富士山クリテリウムチャンピオンシップが行われた。両日とも晴天には恵まれたが、強い風が吹きつけた。
初日は、静岡県航空協会富士川滑空場の1.4㎞の平坦コースを30周する予選が、UCIコンチネンタルチーム、クラブチーム、学連チームを3組に分けて行われ、それぞれ上位25人が翌日の決勝へと勝ち上がった。
決勝に全メンバーを残したのは、チームブリヂストンサイクリング、シマノレーシング、愛三工業レーシングチーム(5人出走)、キナンレーシングチームの4チームとなった。
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レバンテフジ静岡とチームブリヂストンサイクリングのメンバーが先頭へと並んだ決勝
翌日3月3日は、富士市道臨港富士線、通称青葉通りの富士市役所前特設周回コースへと場所を移し、午前中から女子やジュニア、マスターズ、決勝を逃したメンバーによる交流戦などが行われた後、14時29分に富士クリテリウムチャンピオンシップ決勝がスタートした。
コースは例年どおりの1.8㎞を30周する54㎞。スタートラインでは、地元のレバンテフジ静岡とチームブリヂストンサイクリングが先頭に並んだ。
混沌の前半戦
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決勝の日は、一日中綺麗に富士山が見える日となった
今回のレースには、2月26日までインドで開催されていたトラックアジア選手権でメダルを量産してきたばかりのチームブリヂストンサイクリング(ブリヂストン)の窪木一茂、橋本英也、今村駿介、兒島直樹も参戦。予選でも集団を崩壊させるような圧勝劇を見せたため、多くのチームや選手たちが警戒し、決勝でもレース展開を作ってくると予想した。
しかし、チームブリヂストンサイクリングの宮崎景涼監督は、ブリヂストン対全チームという構図を想定し、最初から最後までブリヂストンがコントロールするだけのつまらないレースにはしたくないと、半分の15周までは集団後方で待機し、誰が逃げに行こうとも1分差までであれば全く動かないということ、最後のスプリントのエースは河野翔輝でいくことを事前の作戦で決めていた。
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頻発するアタック。しかしまだ集団は活発な状態
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集団と差を開き始めた7人。後ろからは追走の動きも
レースがスタートすると同時にアタック合戦が開始。大学生チームなど逃げたいメンバーも多く、数周は完全に逃げは決まらず不安定な状態が続いたが、7周目、山本元喜(キナンレーシングチーム)や中井唯晶(シマノレーシング)ら7人が少し集団と差を開き始める。さらには9人の追走集団もでき、15秒程の差を詰めにかかった。
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先頭逃げグループの7人
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追走集団の9人
周回数の半分に近づく頃には先頭と追走グループがジョインした一方、ブリヂストン勢が影を潜めた集団は、どこかのチームが組織立って牽引する訳でもなく、15周目に入る頃には逃げとのタイム差はおよそ1分まで広がった。
やはりブリヂストンのやり方をうかがっていた岡本隼(愛三工業レーシングチーム)は、「ブリヂストンが昨日の予選でかなり圧勝して、本当に力を見せつけながら勝ちたいというプライドを持ってやってる感じでした。今日は、最初はどういう展開になるかなと思ってたんですけど、逃げにも誰も乗せず、自分たちでやるんだというのが分かって、それに乗る形でした」と話した。
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16人の大きな逃げグループとなった
作戦通りの後半戦
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きっかり16周目に集団先頭に顔を揃えたチームブリヂストンサイクリングのメンバー
16周目、“定刻発射”でついにブリヂストンのメンバーが集団前方に集まると、一気に加速し始めた。1分あったタイム差を周回数を追うごとに10秒、20秒と、みるみる縮めていく。
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ブリヂストン勢が前を固め、逃げとの差を縮める
山本や中井がギリギリまで粘るが、27周目で逃げを吸収。その後も数名が集団からもう一度飛び出そうと仕掛けるが、ペースを緩めることなくブリヂストンは集団を率いたまま全てを飲み込んでいく。
ラスト2周に入ると、シマノレーシングや愛三工業レーシングチームも最後のスプリントに向けて集団内で態勢を整え始めた。
中井が逃げに入っていたこともあり、脚はフレッシュだったと語る寺田吉騎(シマノレーシング)は、「今日は最後のスプリントにかけていました。ブリヂストンがもうすごくいいペースで引いていたので、自分が途中でアタックしても無駄脚になるなと思って、それで最後に温存してスプリントでやってみようと思って」と目論んだ。
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地元の声援を受けて、ラスト1周の鐘と共に飛び出した高梨
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愛三工業レーシングチームが先頭に立って、高梨を追いつつスプリント態勢を作る
最終周を知らせるジャンが鳴ると同時に、地元チームであるレバンテフジ静岡の高梨万里王が単騎でアタック。
ラスト1㎞を切り、最終コーナー前に高梨を吸収し、ブリヂストンの隊列が先頭に出切った。そのまま最終コーナーを立ち上がると、横風が吹いており、集団は右側に寄った状態。
ラスト500mで集団から少し前に飛び出していたブリヂストンの橋本を目掛けて、大前翔(慶應義塾大学)が左側から早がけのアタック。
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(走者から見て)左側から大前が仕掛け、右側から寺田が飛び出す
大前のタイミングに飛びついたのは寺田だった。右側から勢い良く大前をかわすと、そのまま一度失速しながらも踏み直し、一人フィニッシュラインへと一気にもがく。
「僕はちょっと後ろの方にいたので、早めに前に上がろうと思って。そうしたら、慶應の大前翔さんが、スプリントで早掛けしたので、それに反応してつきました。そこから、もう自分のタイミングでもいける!と思って、ラスト200mぐらいでみんな左側に寄っていたので、右側からスプリントして」寺田はこう振り返る。
後ろからはスプリントを開始した岡本隼や窪木一茂もその背中を追うが、十分な差を開いたまま、フィニッシュラインを切ると寺田は両手で握り拳を掲げた。
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十分な差を開いたままフィニッシュラインを切った寺田がガッツポーズ
2週連続で奇襲を許してしまい、2位となった岡本は、「シマノの寺田選手のことが先週わかっていながら、同じような展開を許してしまったというのは、やっぱり悔しいですよね。ただ、やれるべきことは自分たちとしてはしっかりやって、先週駄目だったところはしっかり対策してチームで動いてやってるので、それは良かったんですけど。(スプリント時、)自分の距離を決めてやるんじゃなくて、相手に合わせて、もう少し動く必要もあるかなとは思いますね」と改善点を語った。
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9位でフィニッシュラインを切った河野
チームからは窪木が3位に入ったものの、今回のブリヂストンのエースを任されていた河野は、スプリントでは不発となってしまった。
「しょうがないですね。やることはやったし、展開的にはもう完全にブリヂストンの展開でしたけど、先週の鹿児島の通り、寺田吉騎が強くて。もう本当に今日も絶対来るだろうなと警戒してたのは寺田と岡本隼さんだけでした。
やることやって負けたので、もうそこはもう悔いはないです。ただ勝ちたかったというのが本音ですし、この地元の静岡で勝たなければいけなかったというところもあるので、その辺りはチームでいろいろ反省して改善して、まだここからシーズン続くんで次絶対勝とうと思います」
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チームメイトの勝利を喜ぶシマノのメンバー
スプリンターとしての開花
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シマノレーシングのメンバーが動画で勝利の瞬間を振り返る
フィニッシュ後、ピットへ帰ると、YouTubeの中継動画でフィニッシュシーンを野寺秀徳監督と共に全員で確認し、「もうぶっちぎってましたね。本当にびっくりです、自分でも」と言った寺田だが、本人よりもチームメイトや監督の方が寺田の強さに圧倒されているようであった。
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寺田の強さを讃えるメンバー
野寺監督は寺田についてこう話した。
「本当にすごいですね。調子が良いのは本当にわかっていたし、先週勝って、彼の本当の実力が試されるのが今日以降の話かなと思っていたんですけど、もう早速あれだけの力を見せたのは素晴らしかったですね。
もちろんブリヂストンがあれだけ組織立って、作戦として中盤以降どんどん逃げを詰めていくというのをきっちりやりきったのはさすがというか、やっぱりチームとしてのレベルは一段階上なので、彼らをいかに崩すかというのがシマノレーシングと他のチームの思いだったと思います。シマノとしては、中井の逃げが行ったとき、まず一つブリヂストンが苦しんでくれればなと思ったんです。あれを詰めるのも決して楽じゃなかったはずなんです。
ただ最後は、寺田の力に頼るしかなくて、もう本当にどうなるかという感じでしたけど、まさかあんなに爆発力を見せて勝ってくるとは全く思ってなかったから、ちょっと僕もびっくりしていますよ。
強い選手はたくさんいるけど、彼はスペシャルなものを持ってるということは、シマノに加入してから僕もようやくわかったというか、本当にこんな強いんだってわかったので、今後に期待できる選手なんじゃないかなと。どういう形かは分からないですけど、日本を代表するような選手になってほしいなと思いますね。
チームとしては、寺田みたいな選手がいると、今までぽっかり空いてた能力のところを彼1人が埋めてくれる。大仲(凛功)とかもスプリントができるし、それだけでチームがいろいろな動きにチャレンジできるようになったし、本当に彼みたいな要素が入ると、彼1人の力以上に力が何か生まれる感じがするので、楽しみです本当に」
アタックポイントを見極める力と、長い距離を踏み続けられる脚力、先週に引き続きまぐれの勝利では決してないことを寺田は証明してみせた。
先週のJプロツアーでもU23ジャージのトップに立っている寺田は、U23最終年でUCIレースでも結果を出したいとも話した。確実にシマノレーシングの選択肢の一つになりつつ、他チームにとっては、警戒すべき相手の一人となったはずだ。
富士山サイクルロードレース2024
富士クリテリウムチャンピオンシップ リザルト
1位 寺田吉騎(シマノレーシング) 1時間18分24秒
2位 岡本 隼(愛三工業レーシングチーム) +0秒
3位 窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング) +1秒
周回賞は、山本元喜(キナンレーシングチーム)と山里一心(アヴニールサイクリング山梨)が獲得。敢闘賞は、河野翔輝(チームブリヂストンサイクリング)
Jatco presents 富士山サイクルロードレース2024
第3回富士クリテリウムチャンピオンシップ
2024年3月2日(土)
静岡県航空協会富士川滑空場(静岡県静岡市清水区蒲原)
富士川滑空場特設周回コース(1.4km)
2024年3月3日(日)
富士市道臨港富士線(通称:青葉通り/静岡県富士市永田町1-100地先周辺)
富士市役所前特設周回コース(1.8km)