ロード選手強化育成の未来は? JCFに独自取材

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ロードレースのナショナルコーチが空席となり、1年以上が過ぎた。今年度は男子ジュニア・女子の専任コーチも不在。この6月に開催されたアジア選手権には、男子アンダー23も、女子も、代表派遣は行われなかった。

JCF(日本自転車競技連盟)としての活動は、以前にも増して、表から見え難くなった。ロードレースの強化や育成の方針がはっきりと公に説明されることはなく、未来の展望どころか、現在地がどこなのかさえも不明瞭なまま。

今回、サイクルスポーツとして、JCFに直接問い合わせる機会を得た。連盟ロード部会長を務める安原昌弘氏の同席のもと、昨年ロード部会に新設されたゼネラルマネージャーに就任した加地邦彦氏に、連盟として現在取り組んでいる活動と、さらには日本ロードレース界の現実と理想について話を聞いた。前後編でお届けする。

強化方針を転換

令和6年度のJCF事業計画書の、強化育成・ロード種目の項には、こう書かれてある。

「ロード競技としては、先を見据えてジュニア、U23の強化に努めるべく、強化方針を転換し、トラック中距離等と連携し強化を図っていき、先の2028年、2032年に向け次世代のための強化活動を中心としていくと同時に、タレント発掘作業を進める。(以下略)」

昨季の「エリート選手へのアジア選手権や世界選手権派遣を通じてのUCIポイント獲得」、「U23以下のカテゴリーでは(中略)国際競技力向上へ繋がる国内活動の取り組みと、可能な限りの国際大会への派遣」といった、比較的高めの目標とはかなり異なる。

また令和4年度の「次世代の人材育成として、他種目ともガッチリと肩を組み、若きタレントが勇気を持って世界に挑戦できる環境を整備する」、「世界で活躍する日本人選手の走りをメッセージとして、挑戦する事の素晴らしさ、ロードバイクの楽しさ、風を切り自然と一体になる気持ちよさを国民に伝えてゆく」というロマンチックな文言もない。

まさしく文中で触れられているように、強化方針は転換された。

まず、エリートについて言及されていない。逆に、ジュニアという言葉が登場する。トラック中距離との連携も、示唆されている。そして、2028年と2032年、つまり2つのオリンピックイヤーが記されている。間違いなく今のジュニア、アンダーの選手たちがエリートとして活躍している頃であり、JCFロード部会が育成の最初の着地点として見据えている場所だ。加地氏はこう解説する。

「ただ8年後にいきなりメダルを獲ってくれ……ではなく、まずは出場枠『2枠』を確実に取れる国になっていること。また現在は男女ともほぼ自動的に代表が決まっていますが、選択肢が多くて悩まされるような状況になっていなきゃだめです。8年後にこの理想にどれだけ近づけているか、ですね」

育成・強化のパスウェイ

jcfの描くパスウェイ

理想の実現のために、JCFロード部会が作成したものが「パスウェイ」だ。ちなみに2023年4月にはすでにJOC(日本オリンピック委員会)に提出されたそうだが、ようやく2024年6月になって初めて、その存在が一般に知られるようになった。

「これは育成から強化までを、どのように考えて、どのように進めていくのかを表現したものです」と加地氏が語るように、競技レベルと年代別カテゴリーによって、パスウェイは4つの段階に分けられている。図の左から「Foundation(基礎)」「Talent(才能)」はアンダー23歳以下限定。右側の「Elite(エリート)」「Mastery(達人)」は、いわゆるエリートカテゴリーの選手に当てはまる。

「自転車に乗る人が増えない限りは、自転車競技をする人は増えない。ロードレース人口が増えなければ、エリートの選手も増えてこない。だからこそ、いかに左側部分を意識するか、を明確にするためにこのパスウェイを作りました。

最終的なゴールは一番右側です。現状としては、右側の『Elite』にいる選手は、日本人としては3人しかいません。男子の新城選手と留目選手、そして女子の與那嶺選手。しかも今年、もしも留目選手がワールドチームに入らなければ、2、3年後にはEがゼロになりかねないという状況でした。

ただ、頑張ってEを増やそう!って意気込んだところで、実は、連盟としてできることはほぼありません。連盟にできることは、その手前のTに当てはまる選手をいかに増やしていくかですし、さらにはその手前のFをどれだけ増やせるかなんです。それを順番にやっていくしかありません」

ジュニアのランキングシステム

パスウェイの「Foundation(基礎)」と「Talent(才能)」部分を、果たしてどう広く、厚くしていくのか。JCFロード部会は、2024年現在、複数の構想を抱いているという。その1つ目が、ジュニアのランキングシステム導入だ。

「部会員の高体連出身者・関係者にヒアリングした結果です。数多くのレースの成績をバランスよく評価し、ランキング制度を取り入れることで、良い選手が見つかる可能性が高くなるはずだという結論に至りました。だったら試しにまずはランキング制度を作ってみよう、と検討作業を行っています」

全国各地で行われているジュニアカテゴリーのレースに、難易度や重要性に従ってポイントスケールを作成。各選手には順位に則ったポイントを付与し、シーズンを通した個人ランキングを作成する。あくまで高体連やインターハイとは無関係であり、純粋に連盟のパスウェイに則ったシステムになる予定だ。

このランキング制度により、ジュニア選手たちの活発なレース活動を促すと同時に、各地の新たなレース創設のきっかけにもしたい、と加地氏は語る。ただし一番の目的は、連盟の強化指定としてふさわしい人材を選び出すこと。

実は現在、ジュニアの強化指定の一部は、公募に頼っている。過去、強化指定選手がインターハイを優先し、ナショナルチームでの遠征を辞退する事例が多発したため、「自己推薦」による人数確保を余儀なくされたのだという。

「気がつくと、この自己推薦のウェイトが大きくなりすぎてしまったんです。でも、部会員の意見をまとめると、やはり一定数は、システマチックに、良い選手を選ぶべきだと。その上で、もう少し別の目線で、高いポテンシャルを持ってはいるけれど、まだまだレースではいい結果が出せていないような選手も選んでいく。ジュニア世代では、やはりこういう、先を見越した選び方も必要ですからね。

今後はランキングを利用した定量的な選び方と、主観的な選び方のミックスでやっていけたらと考えています。もちろんナショナルの価値をどう上げていくか。それも大切になります。これは高校の先生方も巻き込んでやっていくしかありません」

後編へ続く

※取材は2024年4月末に行いました