2024全日本選手権ロードレース 男子エリート詳報 “念願”でなかったタイトル

目次

2024全日本選手権ロードレース 男子エリート詳報

レースの転換点

6月23日、マスターズのレースが行われた8時には激しい雨が降ったが、男子エリートが始まる11時には少し雨も弱まってきた。

男子エリートは、日本サイクルスポーツセンターの1周8㎞のアップダウンしかほぼないコースを20周する総距離160㎞で争われた。

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JCL TEAM UKYOが集団先頭で仕掛ける

 

昨年よりも静かなスタートを迎えたが、小石祐馬(JCL TEAM UKYO)や新城幸也(バーレーン ヴィクトリアス)らが序盤から動いたことで集団は、一気に20〜30人ほどまで人数を減らした。その中でも、ディフェンディングチャンピオンの山本大喜を擁するJCL TEAM UKYOは5人全員を残し、盤石の態勢を整えた。

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序盤にできた宮崎と増田の2人逃げ

 

その後、増田成幸(JCL TEAM UKYO)が単騎で飛び出すと、前々日のタイムトライアルで好調ぶりを見せ、「ロードはチームで勝ちに行きます」と話した宮崎泰史(キナンレーシングチーム)がジャンプ。

集団とのタイム差は最大2分半ほどまで開いたが、増田は集団にいるチームメイトのアシストに徹底し、ほぼ宮崎の先頭固定。途中、増田のパンクにより宮崎は単独先頭となり、集団もペースを上げたことで逃げ切りにはいたらなかった。

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金子のペースアップにより先頭は4人に

 

残り7周で金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)が集団のペースを上げると、レースの展開は大きく動き始めた。ついてきたのは小石、山本、小林海(マトリックスパワータグ)の3人のみだった。

「絞ろうとしたつもりはなかった」と金子は話す。

「ペースアップして、それに同調してったら抜け出しちゃって。泳がされるのも嫌だなと思って、ペースで行ってたら3人が合流してくれました。メンバーが結構良かったんで、このままいけるんじゃないかなって思って行きました」

石上優大(愛三工業レーシングチーム)もそれに食らいつくべく追ったが、そのタイミングで落車はしなかったものの路肩に落ちてしまった。

「追ったときに、下向いてて路肩落ちちゃって。僕のミスなんで、それはもう自分の責任なんですけど、それで(逃げに)乗りそびれちゃったんです」

追走は、新城幸也(バーレーン ヴィクトリアス)、留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト)、石上、岡篤志(JCL TEAM UKYO)の4人となった。

追走に入った留目は、序盤から集団先頭付近に位置し、ワールドチームに所属してから初めての全日本ということで、スタート前からプレッシャーも多く背負っていたようだった。

「すごいプレッシャーだらけでした。たくさんの観客がいて、留目!留目!と呼んでくれて、去年よりも本当にもうすごく(応援の声が)増えていました。あと、家族もみんな来てくれて、たくさんの労力とお金と、いろいろかかっている中でのプレッシャーで、絶対勝ってジャージを持ってきたいという気持ちがありました」

 

微妙なタイム差

2日前に2度目のタイムトライアルチャンピオンの座を手にした金子は、ロードレースとのダブルタイトルを狙っていた。今年は、練習時間も増えたことで勝算があった。去年と今年の違いについて、こう話す。

「会社に練習時間を確保できるようにしてもらってるんですけど、去年まで午前に練習していたのを、午後練習するようにしたことで夜、遅くまで、もう限度なく乗れるようになって、去年より走行距離も増えました。CTLで言っても、1.2倍ぐらいまで、去年の1.2倍ぐらいの練習量にできています。あと、1回に乗る距離もかなり伸ばせているので長距離のレースも走れるようになりました」

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追走も徐々に人数を減らし3人に

 

4人になった後も、後ろに追いつかれることを嫌った金子は、積極的に先頭を引いた。

「後ろのメイン集団を意識したというか、何だかあんまり回らないというか、TEAM UKYOも2人いるから、もっと回ればタイム差つけられるんじゃないかなと思ったんですけど、微妙なタイム差で。多分、自分にプレッシャーをかけて脚使わせようとしてるのかなと思いつつ、でも追いつかれるのは嫌だから、仕方ないなと思って。平坦とかはあんまり引かなかったですけど、上りとか後ろにいても得しないようなところで、なるべく後ろからはタイム差を取れるように意識して」

先頭とのタイム差は大体40秒程度。追走にいた石上は、こう話す。

「思ったより開かなかったんで、前が崩れれば全然可能性はあるなと思ってたんですけど、ただ言うてもやっぱり取り残された組なので、場所的には不利というのは変えられなくて。ただ新城さんも留目もちゃんとチームに恥じないように普通にちゃんと引いてくれました」

岡が脱落してから、3人はローテーションを均等に回した。しかし、新城は途中下りでの単独落車の影響もあった。

石上は追走グループでこんな会話もあったと話す。

「『余裕があるんだったらもう引き倒してあげるよ』と新城さんに言ってもらったんで、『お願いします』と言って追いつくために、やってもらいました」

新城が追走グループを引くシーンもあり、先頭を目視できるところまで近づいたものの誰も先頭の後輪を捉えることはできなかった。

 

勝ち逃げの中での思考

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4人の先頭グループ

 

ほぼ勝ち逃げ確定の先頭4人のうち、2人を送り込んだJCL TEAM UKYOは圧倒的有利な形を作り出した。

小石ならば逃げで、山本ならばスプリントでと役割もできていた。小石は逃げグループでのローテーションに加わったが、山本はつき位置で加わらなかった。

後方で山本が脚を叩いているシーンが中継でも多く見られたが、ラスト6〜7周から腕も脚もつっていたと山本は話す。

「ごまかしごまかしで走り続けてました」

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先頭グループの最後尾で最後の機会を狙った山本

 

その理由についてこう明かす。

「ヨーロッパのレースとか、結構ハイレベルなレースを今年走っていて、圧倒的に世界と比べてパワーが足りないなと自分の中で感じていました。パワーウェイトレシオじゃなくて、絶対値がもう確実に自分は低い。もちろん全日本選手権の連覇も目指して、自分の中ですごく重要でしたけど、それ以上に強くならないといけないというところで、今年は去年に比べて2㎏ぐらい体重を重くして、筋肉量を増やして、パワーを出すためにやってきてたんで、やっぱりこのコースの毎回もがくような上り返しだと、自分のような筋肉質の選手は、かなり厳しくて」

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ラスト2周を前に仕掛けた小林。少し3人と離れる

 

残り2周、コントロールラインの手前から小林がペースアップを仕掛ける。3人と少し間を空けたが、金子は「ペースでいけばいけるかな」と冷静だった。

結局4人のまま迎えた最終周、途中、小石のアタックもあったが、難なく3人がつくと一度小石は先頭から離れた。

先頭3人はスプリントに備えた。金子はこう振り返る。

「本当のプランは、少人数だったらラスト4周ぐらいのどこかでかけて、抜け出して独走というのを考えていました。監督ともその作戦で考えてたんですけど、JCLが2人いて、小石さんが回って、大喜さんはずっとマークで、どうにも抜け出せる雰囲気じゃなく、でもこのメンバーならスプリントいけるかなとは思ってスプリントにしましたね。

スプリントは冬にちょっと練習していました。10年間やっていて、今まで練習したこと一切なくて。だからもう、YouTubeで『スプリント 方法』とかそういうレベルで検索したら、結構いいのが出てきて、それを真似したら200Wぐらいで上がって。ちょっと自信がある状態だったんで、もしかしたらいけるかなって思って。

ピュアスプリントでもないんで、いけるかなって思ったんですけど」

一度遅れた小石が先頭の牽制により復帰し、先にスプリントを開始。

山本もスプリントを開始するが、先頭に出切るはできなかった。

「終盤、筋肉がもう限界になっちゃって、でもそれでもやっぱりもがいて勝負するしかないと自分の中で考えていたので、小石さんにも上りじゃなくて、下りとか平坦基調のところで攻撃してほしいっていうのは言っていたんです。小石さんも最後アタックしてくれて、2人の他の選手に脚使わせられたんですけど、もう最後のスプリントで全身、脚も腕ももう全部つっちゃってて、かからなかったですね」

小石を金子が捉え、さらにその後ろから小林が発射した。

小林が右拳を掲げた。

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“念願”ではなかった今年のタイトル

小林にとって、“念願の”全日本ロードのタイトルかと思われた。しかし、今年は特に、そうでもなかったようだ。

「今日も僕は無理だと思ってたので。今までで一番気合い入ってなかったです」

スタート1時間前までチームカーで寝ていたぐらいのリラックスぶりだった。

しかし、その感じには覚えがあった。2016年、U23カテゴリーでタイムトライアル、ロードレースの二冠を達成したときも、レース1時間前まで宿にいたそうだ。「起きたらなんかスタート時間が早くなってて」と笑う。

レースが始まってからも、勝てる気はしていなかった。

「レース序盤からきつすぎて、速すぎて、この人たちは何を考えてんだろうと思って。20周あるのに何をしてるんだろうと思って。集団見たらもう小さくなっていて、こんなの無理に決まってるだろうと思っていました」

金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)が絞り込んだ4人の勝ち逃げに食らいついてもなお小林は、「僕は金子が勝つだろうなと思ってました、正直」と話す。

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日本チャンピオンジャージを着用する小林

 

しかし、どうにか生き残るべく何度かハッタリをかけた。

「もう僕はきつすぎて、どうやって脚溜めて、どうしようかなとずっと考えていて、でもやっぱり単騎だし、金子はもう強くてすごく周りに脚を見せてたんで、さらに小石と大喜がいて、大喜は脚を溜めていて、できるだけ僕が強いように見せつけなきゃなと思っていました。じゃないと、金子に全開でアタックされたら僕はちぎれると思ったんですよ。

だから、自分から先に動いておこうと思って(ラスト2周のところで)アタックして、その後も最終周も上り返しみたいなところでアタックして、自分から動いて、周りが動かないようにさせました」

それが効いたようで、しっかりと警戒の対象となった。

「金子も後半、あんまり余裕がなさそうで、最後の上りもすごい見ながら警戒していたので、よし、これはまんまとハマったなと思っていました。でもまだそれでも脚の自信はなかったです。スプリントかぁと思って。でもスプリントだったらワンチャンいけるかもしれないなと思って、最後、金子が先にかけたんですけど、かけて、(後ろに)ついた瞬間に、あ、まくれる!とは思いました」

フィニッシュライン間際で勝利を確信した小林はガッツポーズを見せた。

「本当に、一番勝つと思ってないときに勝つんですね」

小林は、歩いて表彰式に向かいながらそう話した。

 

それぞれの目的に向け

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表彰式に並んだ小林、金子、山本の3人

 

タイムトライアルで優勝、ロードレースで2位という今年の出来について、「人生最高潮といったところです」と金子は話す。来年はダブルタイトルを狙うか聞くと、「いや、今年がピークだと思います。まあ、頑張ります」と笑った。

連覇を狙った山本は、盤石の態勢ながらも3位という結果。

「ヨーロッパで走るからにはナショナルチャンピオンジャージ着て走りたかったですけど、逃してしまったのが悔しいです。でもここで、取れなかったからといってやめるわけにはいかないんで、さらに強くなることを考えていきます。

今回、体重が重たかったから勝てなかったとかそういうんじゃなくて、体重が重たくても勝てるような選手にならないといけない、さらにもっと強くならないといけないなと感じましたね」

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走り終えた留目

 

今回6位で終えた留目は、今シーズン、目指していたワールドチームに入って、数レースをアシストとして走った。

「もうみんな桁違いに強いですね。今回のレースは僕がエースとして走れたんですけど、海外のレースだと僕がエースとして走れない。誰かのアシストをしないといけなかったり、いろいろ制限がある中で走っていて、今回は久々に自分のために走れたレースなので楽しかったです」と、今回のレースを振り返った。

留目は、6月16日までスロベニアのレースを走り、その後拠点のジローナに戻ってからバルセロナへと向かい、そこから成田へと飛んだ。さらにはバイクロストすらして、先に伊豆に着き、初めて使うタイヤのテストのために雨の中で乗ったところで、怪我はなかったものの落車をしていたそうだ。

「来年こそ、もうちょっと現地に早く入って調整をして、今回TTもちょっとスカスカだったんで。本当に、何としても日本チャンピオンジャージを着てヨーロッパで走りたいので、頑張ります」

次回への決意をそう語った。

 

2024全日本選手権 男子エリート リザルト

1位 小林 海(マトリックスパワータグ)4時間47分25秒

2位 金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)+0秒

3位 山本大喜(JCL TEAM UKYO)+0秒

 

 

第92回全日本自転車競技選手権大会ロードレース 男子エリート

期日:2024年6月23日(日)

会場:日本サイクルスポーツセンター(CSC) 静岡県伊豆市

大会ウェブサイト(日本自転車競技連盟)