日本の強豪ジュニア選手の挑戦 U19ナショナルチームのイタリア遠征レポート
8月15日から27日までの日程で、U19(ジュニアカテゴリー)日本ナショナルチームのイタリア遠征が実施された。
チームは8月18日に初戦としてナショナルレースの「コッレーニョ・セストリエレ」を走り、8月24、25日には遠征の核となるUCIクラス1のワンデーレースが2日間続く「デュエジョルニ・ディ・ベルトヴァ」に出場した。
U19日本ナショナルチームのイタリア遠征参加選手
<<U19 2年目/2006年生まれ>>
岩村元嗣(初芝立命館高等学校)
2024年 インターハイ ロードレース優勝
2024年 高校選抜ロードレース優勝
2024年 アジア選手権ロードレース U19 6位
2024年 Trofeo Klimabus(イタリア、ナショナルレース)2位
2024年 Tour de l’Abitibi (カナダ、UCI2.Ncup)山岳賞2位
望月蓮(山梨県立吉田高等学校)
2024年 高校選抜 個人パーシュート優勝
2024年 Trofeo Comune di Vertova(イタリア、UCI1.1)12位
2024年 Eroica Juniores – Coppa Andrea Meneghelli(イタリア、UCI1.1)18位
<<U19 1年目/2007年生まれ>>
成田光志(学校法人石川高等学校)
2023年 インターハイ ポイントレース優勝
2024年 全日本選手権マウンテンバイクXCO U19 2位
2024年 全日本選手権シクロクロス U19 優勝
松井颯良(初芝立命館高等学校)
2024年 全日本選手権ロードレース U19 優勝
吉田奏太(鳥取県立倉吉西高等学校)
2023年 特別国体 少年ロードレース優勝
2024年 インターハイ ポイントレース優勝
2024年 全日本選手権ロードレース U19 3位
今回のイタリア遠征に参加したのは、日本のU19世代を代表する高校生たち。岩村、望月、成田はすでにヨーロッパでのレース経験がある一方、U19初年度の松井と吉田は今回が初めてのヨーロッパでのレース参戦になった。
遠征初戦の「コッレーニョ・セストリエレ(ナショナルレース)」はトリノ近郊での103km、獲得標高2032mという厳しい上り基調のレースで、岩村が7位に入賞する好走をみせる。その後、約1週間かけて北イタリア・ベルガモ近郊の山間部で調整を行い、いよいよヨーロッパの強豪が顔をそろえる人気のUCIレース「デュエジョルニ・ディ・ベルトヴァ」に臨んだ。
近年、プロ入りの低年齢化(U19でプロ契約を結ぶ選手が急増)、ジュニアギアの撤廃などを受け、レベルが格段に高まるヨーロッパのU19。選手の体格、集団のスピードなども目に見えて変化しており、ワールドチームのスカウトたちが、ダイヤの原石を見つけるべく目を光らせているカテゴリーだ。またワールドチーム直下のU19育成チームも増えており、今大会にはデカトロンAG2Rラモンディアルやレッドブル・ボーラ・ハンスグローエの育成チームらも参戦し、38チームから177人(8月24日)がスタートラインに立った。
世界選手権を1カ月後に控えたタイミングで、北イタリアの山岳部を舞台にした今大会。今年は30チームがキャンセル待ち、地元クラブチームは出走人数を4人に制限するなどの措置が取られるほどの人気を誇り、スタートラインに立つだけでも容易ではない。必然的に欧州のトップチーム、選手が集まり、歴代の優勝者にはフィリッポ・ガンナ(イタリア)やマルク・ヒルシ(スイス)らが名を連ねているが、今年も世界選手権さながら、世界のトップ選手が一同に集まった。
初日のレース「トロフェオ・コムーネ・ディ・ベルトヴァ(UCI1.1)」は10.5kmの周回コースを8周回するプロフィールで、コーナーや細い道が多いだけでなく、街中を駆け上る石畳区間も含まれており、日本ではまず経験できない難易度の高いコース設定だった。
レースは序盤から猛スピードで始まり、数周回するとパワーで後続を引きちぎるかのようにして、有力選手による先頭集団が形成されかけたが、相次ぐ落車の影響でニュートラル措置が取られた。残り3周でレースは再開され、最終周回では5名が先行する展開となり、メイン集団には望月、岩村、成田の3人が残った。そのまま5選手は逃げ切り、メイン集団でのスプリントに挑んだ望月が集団内7番手、12位でのフィニッシュとなり、強豪選手を相手にしっかりと存在感を示し、同じ集団内で成田が22位、岩村が55位に続いた。
翌日の「トロフェオ・エミリオ・パガネッシ(UCI1.1)」は前日とスタート地点は一緒だが、山岳方向に舵を取り、5つのKOMを越える137kmの山岳コースで、日本ナショナルチームが今回の遠征でもっとも重要視していたレース。
中盤になり周回コースに入ると13人の先頭集団がレースをリードする展開となった。終盤に向けてメイン集団から岩村らが追走を仕掛ける動きが見られ、先頭から脱落した選手らといくつかの追走集団が形成された。
先頭集団からは昨日のレースで2位、昨年の世界選手権ではジュニア1年目で2位、今年の世界選手権の優勝候補とされるポール・フィツケ(ドイツ、Team Grenke Auto Eder)が単独でアタックを仕掛けて先行。そのまま圧倒的な力を見せて逃げ切る結果になった。
そして果敢に前を追った岩村が20位、集団内で粘りの走りをみせた成田が57位、望月が59位でフィニッシュした。
熾烈な出場枠争いのなかで、日本ナショナルチームを招待したイタリア人関係者たちからの大きな期待も受けて、懸命に闘いベストを尽くした日本ナショナルチーム。両日とも半分以上の選手がリタイアする厳しいレースになったが、初日の望月の12位、2日目の岩田の20位など、高い評価を得る結果になった。
しかし選手たちはこの結果には満足せず、さらに上を目指している。今回コンディションが優れなかった松井と吉田は両日ともリタイアとなったが、日本では得られない貴重な経験を積んだ。遠征を終えた選手たちからは「悔しい」「もっと上を狙いたい」「でも楽しかった!」などの声が聞かれ、それぞれに充実した遠征になったことが伺える。彼らのコメントを紹介しよう。
岩村元嗣(初芝立命館高等学校)
「両日とも先頭集団に乗れなくて悔しいです。逃げができる場面で僕は後ろにいて、脚があるのに逃げに乗れなかった。序盤の位置どりを改善したい。今回の経験で自分の弱みを頭で理解できたので、改善しようと思います。日本だと僕より強い人はあまりいませんが、こっちにはバンバン強い選手たちがいる。シクロクロスをやってる成田選手は位置どりがうまい。パワーでは勝負できると思うので、彼のような上手な位置どりを身につけて、世界に挑んでいきたいです」
望月蓮(山梨県立吉田高等学校)
「24日は運にも恵まれて、いい感じに走れて12位でしたが、25日は序盤から前日にぶつけてしまった膝が痛くて、思うように走れず悔しいです。しっかり修正して、これからのヨーロッパ滞在でもう1段階上げて、世界選手権に選ばれたらそこで頑張りたいと思っています。(昨年も同レースを走っているので)経験を生かして位置取りなど、修正して走れたというのはとても良かったです。去年は脚が全然足りないと感じましたが、今年は前でも走れるかな、という感触や自信を得ました。でも地脚もトップとは差があるし、位置取りや経験もまだまだ足りないと思うので、やれることを一つ一つ、やっていきたいです。
ヨーロッパのレースは大好きです。バチバチやっている感じ、勝負しているという感じで楽しい。日本でも海外のレースを意識して、前半から自分で動くようにしていて、海外での経験が国内のレースでも生きているかなと思っています。将来的にはワールドツアーを目指しているので、U23に上がっても一歩一歩やっていけたらなと思います」
成田光志(学校法人石川高等学校)
「イタリアでレースを走って、練習できたことが楽しかったです。イタリアは2回目ですが、この環境が好きです。世界のトップが本気で走っている、そのような場所でのレースは面白いし、出場できることをありがたいと思います。走っているときはきついんですが、終わってみると本当に楽しいと感じます。今回はまだ力が足りないと感じました。落車なく完走できたことは良かったことですが、最後は脚がなくなってしまうのが問題で、来年は世界選手権やこれらのUCIレースでトップ10に入れるくらいの力をつけて再挑戦したいです。
海外のレースを経験して、自分で考えることが一番大事だと学びました。周りの人のアドバイスも聞きながら、よく考えて、自分の身になることを吸収していきたいです。世界のトップを追いかけて、自分もそうなりたいと思います」
松井颯良(初芝立命館高等学校)
「(初めてヨーロッパのレースを走って)日本とぜんぜん違うという印象を受けました。集団の中の状態や、海外選手の走り方も日本とは全く違って、もうみんなガンガン当たりにいって、死ぬ気で走っているという感じです。ここまでやらないと世界では闘えないな、と強く感じました。一瞬ではあったんですが、近くでトップの選手たちの走りを見れたことは、いい経験になったと思いました。
来る前からちょっと不調だったので、そこに悔いが残りますが、今回の経験を生かして、日本でももっと積極的な走りができるようにしていきたいと思います。まずは10月末に四日市での全国ジュニア(自転車競技大会)があるので、しっかりと体調を整えて、積極的にレース展開を作れたらいいなと思います。走っていて、めっちゃくちゃキツかったんですけど、楽しかったです」
吉田奏太(鳥取県立倉吉西高等学校)
「今回の遠征では、初めての海外レースで緊張していて、体調を崩してしまいました。全然成績は良くないし、集団からも遅れてしまいましたが、体調を崩す前の初戦など、楽しくレースすることはできました。日本ではあり得ないようなコースを走ったり、知らない背の高い人たちと闘うことは楽しかったです。
最終戦は、周回コースまで残る、絶対残るという目標でスタートし、目標はクリアすることができました。だいぶレースに慣れることができましたが、次はもっと最後まで残って闘えるよう、頑張っていきたいです。日本でも自分から攻めるレースをしたいと思います。
今回、同世代の日本の選手たちと一緒に過ごして、他の学校の選手たちはこんなことしているのかという発見もありました。そのような点でもいい経験になったと思います。今回の経験を学校の仲間に伝えて、みんなで強くなりたいと思います」