「マイナビ ツール・ド・九州2024」の見どころを辻 啓さんに聞いてみた
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九州を舞台に2024年10月11日(金)〜10月14日(月・祝)で開催されるステージレース形式のロードレース「マイナビ ツール・ド・九州2024」。観戦に行く予定の人、行きたいと思っている人に向けて、サイクルフォトジャーナリストの辻 啓(つじ けい)さんに大会の見どころについて聞いた。
おさらい〜「マイナビ ツール・ド・九州2024」とは
福岡県、大分県、熊本県で行われる、エキシビジョンが1つ、本ステージが3つの合計4日間で行われるステージロードレース。九州でのサイクルツーリズムの推進、近年九州を襲った自然災害からの復興の象徴にするといった目的から2023年に記念すべき第1回大会を開催した。今回で2回目の開催となる。
UCI公認レースであり、カテゴリーはステージレース クラス1と高い。国内外から合計18チーム・約108人の選手が参加する。
辻啓さんに聞く「マイナビ ツール・ド・九州2024」の見どころ
日本で開催される貴重なステージレース
中島:さてさて辻さん、「マイナビ ツール・ド・九州2024」は、日本国内で開催されるロードレースとしては珍しいというか、貴重なステージレースですよね。本場ヨーロッパで数々のステージレースを取材してきた辻さんから見てどう思いますか?
辻:この大会はステージレースならではの魅力が詰まっているな、と昨年取材していて感じました。“ステージレースならでは”というのは、「旅」の要素が入っている、ということです。
中島:旅、ですか?
辻:そう。日本ではワンデーレースが主流で、しかも周回コースでぐるぐるまわるものが多いんですが、ステージレースで、かつスタートからフィニッシュまで別の場所に移動していく“ラインレース”になると、“旅感”が出てくるんですよ。それがこの大会にはある。
例えば本場ツール・ド・フランスであれば、ラインレースで各ステージをつないでいくので、これを観戦していこうとすると毎日200km〜300kmくらいの距離で移動することになります。すると、その地域の特色のようなものが、毎日移ろっていくんですよ。レースの内容もそうですが、景色であったり、食べものであったりと何から何まで、毎日変わっていくっていう旅感が出てくる。それと同じものを、昨年の大会を取材していても感じられたんです。
中島:ほぉ。
辻:日本では他に「ツアー・オブ・ジャパン」というステージレースが開催されてはいるんですが、やはり周回コースが多いんですよね。過去、他にラインレースもあるにはあったんですが、ラインレース本来の姿と言いましょうか、各地域の特色が反映された、“ステージレースらしいステージレース”というものが、この「マイナビ ツール・ド・九州」の魅力だなと感じられるんです。
中島:今回は前回からコースが変わっていますね。
辻:そうなんですよね。今回は部分的に周回コースが組み込まれていて、“100%ラインレース”ではなくなっており、そこまで大きな移動距離はないです。とはいえ、それでもやっぱりライン区間の長さは長いんですよ。先日、車と折りたたみ自転車を組みわせて各コースを試走してみたんですが、前回以上にその土地ならではの要素が含まれていると感じられるコース内容になっていましたよ。
中島:コースマップを見ると、たしかにそれが分かりますね。
辻:ただ、周回コースにも魅力があって、周回が多いほど観戦者にとっては何度も選手が目の前を通るので、良いことも多いんですよね。完全なラインレースだと、ほぼ一か所でしか見れない。まあ、スタートを見てそこから先回りしてフィニッシュを見るくらいはできますけど、それ以外だとちょっと難しい。観戦して楽しいという意味では、一部周回コースが組み合わされたことによって、絶妙なバランスのコースレイアウトになったと思います。
出場チームが豪華。地元チームの活躍も見逃せない
中島:では、個別のステージについて話をする前に、やっぱり気になる出場チーム・選手についてです。まだ今の時点では出場選手が確定していませんが。
辻:今回はUCIワールドチームがアスタナ・カザクスタンチームとEFエデュケーション・イージーポストの2チームと、昨年より1チーム増えて豪華になりました。そしてUCIプロチームがコラテック・ヴィーニファンティーニとトタルエナジー。トタルエナジーはツール・ド・フランスに出てますし、見慣れたチームでしょう。つまり、海外レース中継で皆さんが見るような強いチームが4チーム来るわけです。彼らが日本の九州の地を走るわけですから、それだけでワクワクしますよね。
「マイナビ ツール・ド九州2024」はUCIのステージレース クラス1に位置付けられていて、実は日本国内では最高峰なんですよ。
中島:そうか、「ツアー・オブ・ジャパン」より高いのか。
辻:そうなんです。だからこそのこの豪華招待チームなわけです。しかも、各チーム少しでも来季以降に向けてUCIポイントを稼ぎたい思惑がありますから、かなりモチベーション高く、アグレッシブな走りをしてくれるはずです。
辻:あと、選手じゃないんですが、アスタナ・カザクスタンチーム監督のアレクサンドル・ヴィノクロフさんは今だに根強い人気があって、昨年チームカーを運転するヴィノクロフさんの方にむしろ選手より注目が集まってたりしました(笑)。今年は来日が予定されていないようですが、往年の名選手がチームスタッフとして帯同する場合もあるので、選手以外にも注目は多いです。
中島:それは楽しみですね。でも、やっぱり日本人選手も応援したいところです。昨年は日本人選手が総合表彰台に立つか、みたいな展開もあって、手に汗握って見ていました。
辻:そうですね。しかも、九州に拠点のあるチームが何気に多いやん! というのも注目ポイントなんですよ。VC FUKUOKA、スパークルおおいたがそうです。他のチームでも九州が地元の選手もいますしね。
中島:日本人選手にもチャンスはありますかね?
辻:コースは“上りが厳しいけど厳しすぎない”というか、絶妙な内容なので、うまく展開すれば彼らにもチャンスはあると思いますよ。総合争いにも絡めるでしょう。
【エキシビション】小倉城クリテリウムの見どころ
中島:では、個別ステージについて見ていきましょう。まずはエキシビジョンの小倉城クリテリウムです。
辻:コースは前回と同じですね。このステージの魅力は、何と言ってもその壮大な光景です。城の周りを走るという、日本らしさが最も感じられるステージです。しかも、城の向こうには近代的な建物があって、そのミックス感がまた何とも日本らしい。その中を選手たちがものすごいスピードで駆け抜けていくんですから。
中島:このステージは観戦するにはもってこいですか?
辻:ですね。レース時間としては1時間ほどですが、頻繁に目の前を選手が通り抜けます。もし写真を撮るのなら、一周回の最後にあるコーナー(大きな商業施設の前にある)がおすすめです。適度にスピードが落ちるので、撮影しやすいですよ。お城の天守閣の上から撮るなんてのもいいでしょう。
【ステージ1】大分ステージの見どころ
中島:これは前回から大きくコースが変わったステージの1つですよね。
辻:ガラッと変わりました。最後の一部区間だけ周回があるのですが、そこに至るまで、別府をスタートとしてだいぶライン区間が伸びています。
中島:いわゆる山岳ステージ。
辻:走る分には厳しいですよ。ただね、景色がもう最高です。何と言っても、スタートしてすぐ始まるやまなみハイウェイ区間が見どころです。ここは車やモーターサイクルでドライブするのに最高だと人気の道で、普段からそうしたツーリングで訪れる人が多いんですよ。
中島:有名だし、定番ですよね。
辻:そこを封鎖してレースしちゃうんだから、もう、なかなかに価値のある区間ですよ。特に途中で見られる長者原の景色はこの土地ならではの独特なものがあり、いい写真が撮れますよ!
ただ、交通規制の時間や区間をよく調べて移動する必要があり、そこは注意です。他のステージにも言えることですけども。詳しくは、大会公式ウェブサイトにそうした情報がまとまった観戦スポット一覧が各ステージごとにまとまっていますから、そちらをよく確認してほしいですね。
【ステージ2】 熊本阿蘇ステージの見どころ
中島:これは阿蘇の外輪山をなめるようなコースレイアウトですよね。
辻:そうそう。晴れると阿蘇の山が見えて、もうとにかくきれいなんですよ。このステージも昨年からコースが変わっていますね。スタートから箱石峠までは同じなのですが、そこから途中で3周回コースが入ります。昨年は本降りの雨で阿蘇の景色が見えなかったので、今年はぜひ晴れてほしい。
中島:天気次第ですが、やはり見どころは阿蘇の景色ですか?
辻:それもさることながら、このステージはぜひレース展開を楽しみたいところです。アップダウンの連続で決定的な逃げが決まりにくいコースレイアウトなので、最後まで誰が勝つか分からない、面白い展開が期待できます。最後はきっと、フィニッシュまで残った集団によるスプリント勝負になるんじゃないかな。
中島:どこで観戦したら良いでしょう?
辻:そうですねぇ、どこを取るか悩ましいところですが、フィニッシュ地点がいいと思いますね。最後は町役場まで約500mほどの上りになっていて、上りスプリントになるはず。それはなかなか見応えがあると思います。
【ステージ3】福岡ステージの見どころ
中島:さぁそして、最後の福岡ステージです。
辻:昨年は完全なラインレースでしたが、今年はコースのほとんどが周回となっています。このコースはね、もうずっと短い峠を上って下ってのインターバルが続くんですよ。なかなか逃げが決まるような上り坂でもなく、かといって終盤でポッと抜け出した選手の逃げがそのまんま決まってしまった、みたいな展開もあり得るし、ほんと絶妙なコースですね(笑)。
中島:ここは周回を見てからフィニッシュ地点へ移動してフィニッシュシーンも見る、ということができるんじゃないですか?
辻:やりやすいとは思います。周回コースからフィニッシュ地点へと向かう道に入る交差点にコンビニエンスストアがあるんですが、ここで観戦して自転車でフィニッシュまで移動する、という方法がいいでしょう。繰り返しますがくれぐれも交通規制に注意し、レースのさまたげとならない道を通って移動するよう細心の注意を払ってくださいね。折りたたみ自転車があると便利かも。
辻:このステージの見どころはフィニッシュ地点だと思います。宗像大社(むなかたたいしゃ)の前に立つ鳥居に向かってフィニッシュするようなかたちとなるので、めちゃくちゃかっこいい光景が見られますよ。“映え写真”も撮れるでしょう。
中島:まっすぐな道で、ヨーロッパのレースのフィニッシュシーンみたいでかっこいいですよね、これは。
辻:そうそう!
観戦を予定している人・行きたい人に向けて辻さんからのアドバイス
中島:最後にまとめを。観戦に行きたいな、行く予定だという人に向けて、何かいいアドバイスはありますか?
辻:はじめに、ステージレースには「旅」の要素がある、と言いました。“スタート地点がここで、フィニッシュ地点がここで、そして翌日のスタート地点はあそこだから、宿はここらへんにとって……”とか、“おいしいものがこの辺にないかな”とか、そういったことを考え・探すところからステージレースの楽しみはもう始まっていると思うんです。私もツール・ド・フランスの取材をするとき、そのような旅の組み立て方をしていて、それもまたすごく楽しいんですよ。
中島:ああそうか、それは面白い。辻さんならではのアドバイスです。もう観戦に行く予定の人は宿を予約したり行程を組んでいるとは思いますが、大いに参考にしたいです。
辻:何も全部のステージを回らなくても、九州旅行に行くついでのどこかの1日をどこかの1ステージにだけ当てる、なんていう観戦の仕方でも十分面白いと思います。全ステージ回るにしても、それぞれスタートとフィニッシュだけ見て、あとは観光に時間を回すのも全然アリですよ。せっかくその土地に行っているわけですから、もちろんレースがっつり観戦もいいですが、そうした土地ならではのものも楽しみたいですよね。
なお、今年は昨年に引き続き、私を含めたサイクルジャーナリストで組むメディアチームによる速報情報の発信に力を入れる予定です。どんどんその場で撮影した写真とともに情報を公式SNSで出していきます。公式YouTubeチャンネルでレースのライブ中継は配信されるにせよ、やっぱり貴重な国内ステージレースですから、今レースがどんな展開なのかをより深く知れた方がいい。これは、本場ヨーロッパのレースでは当たり前に行われていることなんですよ。それを日本でも実現したい。
現地にレースの観戦に行かない人でも、現地の様子がよく伝わるような発信を、リアルタイムで行っていきたいと思います。誰が逃げてるとか、こんな景色の中を走ってるんだ、みたいなね。
中島:現地で選手が通過するのを待っている人にとっても、待機時間が決して暇にならなさそうですね。辻さん、ありがとうございました。