60年の歴史を背負い、世界の頂点へ:2024年チームブリヂストンサイクリングの軌跡

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2024年、チームブリヂストンサイクリングは60周年を迎え、オリンピックと世界選手権で新たな歴史を刻んだ。長年掲げてきた「世界レースでの勝利」という目標を達成したチームの躍進を、監督と選手たちの声で振り返る。

2024年チームブリヂストンサイクリングの軌跡

チームブリヂストンサイクリングの面々。窪木は世界選手権の金メダルとアルカンシエルを着用していた

2024年チームブリヂストンサイクリングの軌跡

パリ2024オリンピックの3種目で入賞した証。左から窪木の男子オムニアム6位、長迫のチームスプリント5位、今村の男子マディソン6位

 

1964年創立:60年にわたる挑戦の歩み

今年のパリ2024オリンピックに5人の選手を輩出し、さらに世界選手権ではチームメンバーである窪木一茂が男子スクラッチ種目で世界チャンピオンに輝いたチームブリヂストンサイクリング。1964年の東京オリンピック開催をきっかけに、ブリヂストンサイクル社の自転車競技部として創設されたこのチームは、今年で創立60周年を迎えた。

その名前は幾度か変遷を経たものの、60年間にわたり一貫してサイクルレーシングチームとして活動を続けてきたこのチーム。現在のサイクリングプロチームの中で、これほど長い歴史を持つ例は、世界的にも極めて稀である。

>>チーム公式サイトより、『チームの歴史』

 

2018年に現在の『チームブリヂストンサイクリング』へと改称し、トラック競技でのオリンピックメダル獲得を目標に大きく方針を転換した。

そして7年後の今年、オリンピックでのメダル獲得には至らなかったものの、自転車競技界で最高の栄誉とされるアルカンシエルを手にした。世界レベルで戦い、勝利するという長年の夢を、2024年に実現させたチームブリヂストンサイクリング。今年のレースシーズンを終えた監督と選手たちに、今の思いを聞いた。

 

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2018年トラック競技への大胆な舵取りからのアルカンシエル

2024年チームブリヂストンサイクリングの軌跡

選手、チームスタッフ、そしてチーム監督として20年間チームブリヂストンに関わり続けている宮崎監督

 

ーーオリンピックへ5人のチーム員が出場、そしてアルカンシエルの獲得。創立60周年に加えた華々しい結果におめでとうございます。

宮崎景涼・チーム監督:
「今年は60周年というチームの大きな節目であったのと同時に、オリンピックというとても大切なシーズンでした。その年にチームは過去最高の結果を残せました。

オリンピックでは目標としていたチームパシュートでの出場に加えて、中距離種目全てへの出場、短距離種目ではケイリン、スプリントにも太田りゆが、そしてチームスプリントには長迫吉拓が出場してくれました。

選手たち個々の目標という意味では残された課題はあると思いますが、チームが掲げてきた目標はしっかりと達成できました。また、窪木が初めてブリヂストンのチームにアルカンシェルを持ち帰ってくれたことも、チームにとっても今後の大きな目標になりますし、日本の中距離競技としても大変有意義な結果を残してくれたと思っています」

 

ーーチームブリヂストンが長きにわたり掲げてきた目標を、今年に大まかに達成したという印象でしょうか?

宮崎監督:
「自分がチームに関わっているのはここ20年ぐらいなので、過去の先輩たちがどういう想いでやってきたかというのは、本当の部分では分からない部分はあります。ただ、自転車競技で世界に挑戦をし、世界のトップを目指してきた結果、目標通りに世界チャンピオンを獲得でき、一つの区切りとして達成感を感じています」

 

ーー2018年にトラック競技へと大きく舵を切った成果が出ましたか?

宮崎監督:
「2018年の当時で言うならば、長くロードレース競技でヨーロッパを拠点に活動した結果、世界との差はとても厚いものに感じられていました。ただ、そんななかでもヨーロッパで活動していればいつかは結果が出るはずだという想いはありました。

ですが、それでもあまり良い結果が出なかったのが事実だったので、やはり何かしらやり方を変えるのは必要だったと思います。

当時、チームをトラック主体のメンバーにしようという話をした当事者であった自分の思いとしては、まだオリンピックではメダルを取っていませんし、まだまだ通過点です。さらに、このノウハウでトラックに限らずロード競技も含めた自転車競技で世界的に活躍できるチームにするのが目標です」

 

トラック団体種目の進化と成長の理由

2024年チームブリヂストンサイクリングの軌跡

アルカンシエルを着用した窪木、2年連続2位からの優勝はまさに3度目の正直

 

ーー東京2020以降、特にトラック団体種目の成長は特に目覚ましく、チームパシュートとチームスプリント両方でオリンピック出場を達成し、両方とも世界選手権では良い結果が出ています。その理由を選手から聞かせてください。

今村駿介:
「まずは、外国人のコーチが日本に来て大きく体制が変わり、そのタイミングでチームブリヂストンにも日本代表レベルがそろい、より(世界トップレベルと)近い距離感、近い空間を作れたというところが、大きなきっかけかなと思っています。単純に一緒にいる期間も長くなりましたし、これまでそれぞれ分かれてトレーニングしていたのが、当たり前のように毎日一緒にトレーニングするようになりました。

普段のみんなのコンディションが分かる状態で、毎日が鬼気迫る『選ばれる選ばれない』の勝負の世界というか、「負けられない」というのを身近に感じながらトレーニングしてきました。これで単純に競争意識がより具体的に芽生えてきて、さらに若い選手も入ってきたことで、強い選手はどんどん力を伸ばしてきた結果が、今のタイムや結果につながってきているのかなと思っています」

 

窪木一茂:
「今、今村選手が言いましたが、特にこの東京2020からの4年は、団体種目の結果が一時的に出てると思います。チームパシュートでは、リオ2016オリンピックの後の4年間と短いスパンでは結果は出せなかったと思うんですよ。ですが、連盟や僕らのチームブリヂストンを始めとする支えてくれる方々が8年という長いスパンで見てくれたことが、すごく影響していると思います。

何よりパリオリンピックまでは絶対にそのままで続けていくんだっていう気持ちで、東京オリンピックを目指した選手もそのまま競技を続けてきたおかげで結果が出たのかなと思います。すぐに結果は出るものじゃないと思うし、やっぱり世界のレベルはまだ高いので、そこにおいては月日が必要だった、そしてその結果が出てきている。

その環境、周りのサポートがあったからこそ、直近の世界選手権で、チームパシュートで念願の順位決定戦(メダル争い)に出場できたという流れになったと思います。このまま継続すれば、もっともっと、結果がついてくるのではないかとも思っています」

2024年チームブリヂストンサイクリングの軌跡

男子チームパシュート、男子マディソンでパリ2024オリンピックに出場した今村

 

ーー東京2020からパリ2024までのオリンピックに向けて活動して来た選手たちは、この8年間をどう振り返りますか?

窪木:
「僕の中では早く、今までの競技人生で本当に充実してた8年間だったと思います。誇りを持てる8年間だったと思うし、2つのオリンピックを体験したのがやっぱりとても有益で、オリンピックに限らず大きな目標に向かって打ち込んだ4年×2というのは、競技を辞めてからも生きてくる経験ができたなと思います」

 

今村:
「2018年からチームがトラック主体になり、実質オリンピック予選が始まるタイミングでの切り替わりだったので、東京に関しては、今思えばもっとガッチリとオリンピックに対してフォーカスできればよかったのかなと思っています。

まず東京に関して言えば、チームパーシュートがオリンピックに出れないと決まり、連盟の強化を外れた後でもしっかりとチームはサポートを続け、ネーションズカップを始めアジア選手権や世界選手権にも派遣してもらえました。チームが目指す目的目標というものがブレることなくやってきたので、僕らもやるべきことに集中して、強くなるということに特化できました。

ベルリンの世界選手権が9位で予選に上がれず、もうその時点でオリンピックに出れないというのは分かっていたけれど、一大会一大会ちゃんとタイムだったりを更新できたのが今年のパリオリンピックまでの成長に大きく貢献していると思っています。結果的にパリでの自分の結果はすごく良いと言えるものではなかったですが、一つの目標として達成できたのはすごく良かったなという感じがします」

 

求めるのは実力と社会性を兼ね備えた選手

2024年チームブリヂストンサイクリングの軌跡

2024年は悲願だった世界チャンピオンを輩出したチームブリヂストンサイクリング

 

ーー今年60周年を迎えるチームとしての年月を、長くチームに関わっている宮崎監督個人としてはどういう想いで捉えますか?

宮崎監督:
「チーム員からチームの担当社員となり、監督となって来ました。自分が監督に就任させていただいて今年で4年目、いわゆる手前みそじゃないですが、この4年間は本当にいいチームができているなと感じています。

それは自分の手腕がどうこうというよりは、単純にみんな同じ目標を掲げて選手を集めたというのが一番大きいです。今まで、いろいろな想いがある選手たちがチームに混在するのは仕方がないことではあったんですが、この4年間でいうと、本当にみんなが同じ目標に向かって努力をしてくれたこと、これが今のチームの一体感として結果につながったのかなと思います。

ただ、まだこれで終わりにしてはいけないですし、この流れをうまく次の世代につないでいける形を作るのが、今の自分がやらなければいけないことなんだろうなと思っています」

 

ーーこれからチームブリヂストンに入りたいという選手がいたら、どんな選手であって欲しいと望みますか?

宮崎監督:
「もちろん実力を持つ強い選手たちに来てもらいたいというのはあるんですが、やはり人としてしっかりしている選手の社会性を重視したいですね。日本のトップチームとして世界で活躍するためにも、そういった人として憧れられる資質を持つ選手を集めたい。これは今までもそうですし、今後も変わらずそう考えていきます。

私も選手たちをかなり見てはいますが、実際に手を挙げてもらうのが一番です。自分が目指すものに対して、受け身ではなくて自ら行動するというのが選手としては大事な資質。ただ待ってるだけではロードもトラックも勝てないので、自分から手を挙げてもらいたい、と考えています」

 

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数年前を振り返れば、世界レベルの大会では予選通過すら叶わなかったチームブリヂストンサイクリング。そこから7年間をかけてアルカンシエルまで獲得したチームは、次のロサンゼルス2028オリンピックでのメダル獲得を目指していく。

チームブリヂストンサイクリング公式サイト