チーム1年目を振り返る ~パールイズミ×チーム サイクラーズスネル~

目次

2024年にJプロツアーを走る新チームとして立ち上がったチームサイクラーズスネル。プロトンでは、蛍光グリーンと藍色のジャージが非常によく目を引いた。2025シーズンへの意気込みを聞いた。

パールイズミ×チームサイクラーズスネル

 

“実業団”チームとしての立ち上げ

2024年、全日本実業団競技連盟(JBCF)のトップカテゴリーであるJプロツアーを走るチームとして立ち上がったチームサイクラーズスネル。

今あるほとんどの国内プロチームの形態とは異なり、選手も企業で働きながらレース活動を行うまさに“実業団”チームとして初年度の2024年シーズンを戦い切った。

パールイズミ×チームサイクラーズスネル

2024年初戦を走ったチームサイクラーズスネルのメンバー

 

改めてチーム発足の経緯について、チームサイクラーズスネルの松村拓紀マネージャーはこう語る。

「サイクラーズはサーキューラーエコノミー(循環型経済)を推進する資源リサイクルを中心としたグループ9社を持つ持ち株会社です。2011年から、現在はグループ会社の一つである東港金属(2020年にサイクラーズ設立持ち株会社化)がJCFさんをスポンサードしていたということもあって、自転車業界とは接点がありました。
 
国内のロードレース界はマイナー競技ということもあり、アスリート活動としての収入が少ないため将来的な不安を抱えた選手が少なくなく、時にはレース活動を断念する選手もおり、国内のロードレース界全体の将来を懸念していました。そこでサイクラーズでは、そういった選手たちの受け皿として実業団型のプロチームを作って、選手を“選手兼社員”として迎え入れていくという形で2023年にチーム構想を立ち上げ、デュアルキャリアを支援していくことにしました。
 
アスリートが持つトレーニングやレースに対しての目標設定や目標達成に向けた計画を着実に実行していく意識とスキルは、ビジネスにも活かせると判断し、かつ、仕事をすることによってアスリートとしての活動でもパフォーマンスを上げられる相乗効果が期待できると考えました。
 
選手としては将来的なキャリアへの不安が解消されることで競技に集中でき、アスリートとしてのパフォーマンスも向上し、さらにアスリート活動を終えた後のセカンドキャリアの準備として、仕事のスキルを身につけておくことで将来的なサポートにもつながります」

 

デュアルキャリアの実際

2024年は7名の選手がチームに所属、そのうち4名は選手兼社員という形で平日は8時間勤務という形態であるが、その半分はトレーニングの時間として充てられている。
 
他のメンバーは学生もおり、うち1名はインターンという形で週2回の勤務をしながら学生生活と並行した。
 
パールイズミ×チームサイクラーズスネル

チームサイクラーズスネル所属選手の佐藤光

 

チームサイクラーズスネルの選手として加入した佐藤光は、前述した大学生インターンとしてオフィスインテリアなどを扱うグループ会社にてEC管理の仕事を週2日行い、週2日は大学での授業を受け、その他をトレーニングに割いていたと話す。
 
他チームにも所属した経験のある佐藤光にとって、こういった環境で選手生活を送ることについてどう考えているのだろうか。
 
「前年までの経験で、土台のないチームにいることは不安でした。今こうしてサイクラーズで安定し、なおかつ、選手を辞めた後の将来も考えられる環境にいられて、とても幸運だなと思っています。
 
僕は結構欲張りな人間なので、自転車だけじゃなくて、いろんなこと手を出してみたい。だからこうやっていろいろ経験できる環境が僕にとっては、ストレスのない環境です。今年の4月からはインターンをしている会社に新卒入社が決まっており、本格的に競技と仕事のデュアルキャリアをスタートさせることが楽しみです」
 
一方で、国内プロチームと違って、選手として100%トレーニングやレース活動に集中できないという点もある。他チームから移籍してきた選手などは、もともと競技100%という生活を送ってきていたため、半日仕事、半日トレーニングという生活に慣れが必要だったこともあったと松村マネージャーは話す。
 
この形態を取れることには、主戦場とする国内レースのレース距離が短いという特性も関わってくる。
 
「現代のトレーニングが長時間型から効率型へ移行してきている中で、24時間のうちトレーニング以外の時間を他のことにもトライできると考え、上記のような勤務形態として取り組んでもらっています」
 
パールイズミ×チームサイクラーズスネル

チームサイクラーズスネルの松村拓紀マネージャー

 

先のことを考えれば、競技だけに集中してきたところから引退していきなり社会経験も特になく就職活動となると、難しい面がどうしてもあるが、経験もありつつ所属している会社にそのまま入ることができるのであれば、セカンドキャリアへの移行は非常にスムーズだ。松村マネージャーはさらなるメリットがあると話す。

「明確なモデルケースがあるとないとでは、選手の将来に対する不安は違うと思います。1990年の前半までは、国内のロードレース業界も基本いわゆる実業団型チームがほとんどでした。そういった方々にお話を聞くと、そのまま会社にいられることも給与面でも安定感があるし、会社の社員の方々からのサポート、社員の仲間としての応援などが競技者としてのモチベーションにつながる、という声がすごく多かったという話も聞いていて、そういったところを僕らもできたらなと思っています。
 
国内のシーンでは、今のところでは初ですが、以前こういった形態のチームがあったことを知ってはいたので、原点回帰といいますか、今の日本でアスリート活動する、支援する一つの良いモデルケースになるのかなという気はしています。なので、スタッフの僕らもそういった使命感を持って会社と一緒に取り組んでいますね」

 

プロトンで際立った蛍光グリーンのジャージ

パールイズミ×チームサイクラーズスネル

集団の中でよく映えたチームサイクラーズスネルのジャージ

 

鮮やかな蛍光グリーン×藍色の組み合わせは、昨シーズン、他チームにはないジャージの色味で集団内で非常によく目立っていた。

チームジャージの色味やデザインを決めるにあたっては、このような意図があったと松村マネージャーは話す。

「藍色がサイクラーズグループのコーポレートカラーで、グリーンも3年ほど前には使用していました。また、バイクショップスネルと一緒にチームを立ち上げるにあたって、スネルさんもちょうど緑をモチーフにしていたので、2色をうまくミックスさせていきたいというのがまず考えとしてありました。そのコンセプトをパールイズミさんに相談させてもらい、何パターンかデザインを起こしていただきました。グリーンの色味に関しては、4~5パターンぐらいいただいていましたね」

パールイズミ×チームサイクラーズスネル

ロードスーツを2024シーズンは最も使ったと佐藤は話す

 

パールイズミ側からは、彩度を抑えたグリーンなども提案があったが、実際の色見本から現在の最も明るくて発色がいい蛍光グリーンが選ばれることとなった。

1年間ジャージを着用した佐藤は、「レース中、プロトンで走っていても、同じチームの選手はすごく分かりやすいですし、存在感は非常にあるのかなと思っています」と話した。

さらに、パールイズミのオーダーウェア全体の使い心地に関してもこう話す。

「とても気に入ってますね。特に僕はパッドをだいぶ気にする方なんですけど、パッドの薄さがいい塩梅でサドルに非常に食いつくし、上半身もシワができづらく、エアロも通気性もバランスよく作られてるので、とても使い心地が良いです」

パールイズミ×チームサイクラーズスネル

暑い夏にはメッシュタイプを選ぶ機会が多かった選手もいたそうだ

 

結果まであと少し

昨年2月末のJプロツアー初戦の鹿児島のロードレースでは、チームで集団を率いる姿が早速見られ、チームの新しいジャージをアピールしながら走りの存在感も示す機会となった。

さらに、翌日のクリテリウムではチームに所属する大学生選手の一人、松本一成が3位で表彰台に乗るなど、「インパクトで言うと、ちょっと出来過ぎなぐらいのストーリーでした」と、松村マネージャーは笑う。

パールイズミ×チームサイクラーズスネル

鹿児島の初戦でプロトンを引く姿を見せたチームサイクラーズスネル

 

2024年のチームの目標は、Jプロツアーでの1勝とチームランキング5位以内。そして全日本選手権U23カテゴリーでの優勝を掲げていた。
 
結果、2024年のJプロツアーのチームランキングは9位。個人ランキングのチーム最高位は、9月のサバイバルな南魚沼ロードレースを2位で終えた佐藤光の10位。また、全日本U23でも佐藤光の5位が最高位であった。
 
松村マネージャーは、「目標に対して達成度で言うと、80点ほど」と話す。
 
「2025年は、選手が目標に向けてよりフォーカスしてもらえる体制をと考えています。2024年の目標が高かったかというと選手のポテンシャルから考えると実現可能ではあると思っていたのですが、初年度ということもありチーム運営も手探りな部分が少しありましたので。
 
彼らのポテンシャル全部を出せれば、Jプロツアーでの優勝は達成できたなと思っています。選手は本当によくやってくれていると思います。選手のみんなの意地というか、初年度でそれぞれが何か爪痕を残したいと思うところがあったので、今季はそれぞれが持つポテンシャルをさらに発揮してくれば目標は達成できると思っています」
 
パールイズミ×チームサイクラーズスネル

南魚沼ロードレースを2位でフィニッシュした佐藤光

 

佐藤光は前シーズンを振り返り、こう話す。

「僕としては、結構探り探りだったかなというのはあります。鹿児島の初戦でだいぶ目立ってはいたんですけど、なかなか結果につながらないというのもあって、みんなでどうしたらいいんだろうと、動き方を考えた年でもありましたね。

だけど、みんなで協力した南魚沼ロードレースでは僕もいい成績を取れましたし、そういう経験をうまく積み重ねていけば、勝てるチームになるんじゃないかと思っています」

 

2024年の全日本選手権タイムトライアルでの優勝、さらにはロードレースでも優勝争いを演じた金子宗平も社会人レーサーの一人だ。佐藤光はこう続ける。
 
「全日本タイムトライアルで優勝した金子さんも僕たちみたいなデュアルキャリアです。効率重視で追い求めるところを追い求めていけば、結果につながると信じて愚直にやっていきます」

 

松村マネージャーは、そういった目標設定こそがデュアルキャリアを形成する価値であると話す。

「金子宗平くんもそうですし、(佐藤)光もそうなんですけど、効率を求めて自分で何か物事を組み立てていくっていうことが、アスリートとしても非常に重要な資質であると思います。グループ代表の福田が狙っているところはまさにそこで、こういった資質が、競技力向上はもちろんビジネスの成功につながるところだと私も思っています。
 
このような資質を持った選手が増えることでビジネスにも還元できますし、自分の力にもなるし、ひいてはアスリートとしてのパフォーマンスを上げられることにもなると思います」
 

パールイズミ×チームサイクラーズスネル

ロードレースはヨーロッパが本場であり、そこに行けなければ自転車を諦めるという選択をする選手も多い。しかし、チームサイクラーズスネルは、自転車選手を続ける一つの選択肢として道を示していきたいと松村マネージャーは語る。

「若くして才能ある子たちが自転車を降りてしまうのは、国内の自転車競技においても損失だと思います。そういったアスリートを我々の環境で受け入れることができれば、選手が競技を続けられる。そういうことで国内のレースレベルを上げていくこともできるかなと思っていて。これは他のチームとは違う、チームサイクラーズスネルの特色だと思っています。
 
ロードレース競技、エンデュランス系の種目って自転車に限らずだと思うんですけど、遅咲きの選手もいると思うんですね。そういったことを踏まえていくと、環境があれば可能性を見出せると思います。
 
私もプライベートで法政大学の監督をさせていただいてますけど、可能性のある学生が大学卒業で競技を諦めてしまうことなく、選択肢の一つとして続ける場があるということを示せれば、大学経由の国内実業団チーム、そこからのプロという道もできるかなと思います」

 

2025シーズンに向けて

パールイズミ×チームサイクラーズスネル

佐藤光は来るシーズンに向けて意欲を見せる

 

2025年シーズンの開幕まであと一月と迫った。今シーズンについて佐藤光は意気込みを語る。
 
「チームとして目標に掲げている『Jプロツアーランキング5位以内』を目指して走っていきたいですね。今年、クリテリウムとロードレースでまた変わった別々のシリーズになって、ポイントの争いが難しくなってくるんですけど、うちのチームはロードレースで結構動けている自信があるので生かしていきたいです。
 
個人としては、今年は個人ランキング10位で終われたので、10位以上を狙っていきたいです。あと、全日本選手権の表彰台。ちょっと大きすぎる目標ですけど、言葉にしないと進まないものなので狙っていきたいですね。根性で取りたいです」
 
パールイズミ×チームサイクラーズスネル

チームサイクラーズスネルのウェアを担当するパールイズミの清水秀和専務と佐藤光、松村マネージャー

 

松村マネージャーも今シーズンに向けてこう話した。

「まずは自分たちにしっかり矢印を向けて、自分たちがどうやって高められるかにフォーカスをしてもらえる環境を作っていきたいな思っています。

さっき光が言ったように、チームの目標としてもチームランキング5位以内というところはブレさせず。あとは一勝というところですね。

また、Jプロツアーでの結果を出すっていうことはもちろんなんですけども、選手としての一番の目標は全日本だと思うので、ここでの成績はしっかりと追い求めてもらいたいなと思っています。全日本を調整レースで出る選手は誰1人いないので、本当の勝負の場で真価を見せてほしいなと思っています」

プロトンの中で一際目を引く蛍光グリーンのジャージのように、チームサイクラーズスネルの2年目の光る活躍に期待したいところだ。