ボンジュール!ついにフランスも、5月11日から、外を走れるようになりました!
素直にうれしいです。外を走れるようになった初日に、皆さんに報告しようと思って動画を撮ったんですけど、あまりに興奮しすぎてうまくしゃべれなかった(笑)。でも後から見直してみたら、そこが逆にいいのかもしれないなぁ〜と。結局それをSNSに上げました。うん、やっぱり良かったです、外は……!
だって風を感じられた。たとえローラー台で高い出力はだせても、風は感じられなかった。
風になりたい……って言うと、何だか詩人みたいでおかしいかもしれないですけど、そもそも僕はちっちゃい頃からこんな憧れを抱いてきたんです。たとえ無風でも、自転車の上でなら絶対に風を感じられる。風の中にずっといられる。そんな感覚が気持ちいい。時にはつらいこともありますよ。向かい風や横風はやっぱりきつい。でも追い風に乗って、流れるようにスピードを上げて走るというのは、別格です。
ロックダウン解除前夜は、ローラー台とはしばらくサヨナラということで、色々と片付けて、それから自転車の整備をしました。ずっと固定されたままだったので、決してガタがきてるわけじゃないんですけど、それでもメンテナンスしてあげる必要がありますからね。バーテープを張り替えて、折れたブラケットを外して付け直して、それから隅々まで磨き上げて。気持ちが改まりました。何だか「衣替え」みたいな気分でした。
久しぶりに外を走るときに注意したいこと
それでも外に走りに行ったときは、ちょっと怖かった。一応、バイク点検した限りでは大丈夫そうだったんですけど、汗とかで部品が腐食してて折れたらどうしよう……って。こういう浮かれた気持ちのときが一番危ないですから。
それに外は危ない! 僕らが自転車に乗るのが久しぶりだったように、自動車を運転する人も、久しぶりなんですよね。自転車との距離感覚が分からなくなっているのか、すっごくヒヤヒヤさせられました。事故には気をつけなきゃいけない、と改めて気が引き締まりました。
日々ローラー台でしっかり鍛えていたし、時々マウンテンバイクで自宅1km圏内を走ってはいたんですけど、外をロードバイクで走るのはまったく別物でした。呼吸の仕方も、使う筋肉も違う。汗をかく量もまるで違う。
一番びっくりしたのはダンシング。あれ、これってこういうモノだったっけ!?、みたいな。今までずっと普通に味わってきた感覚のはずなんですけど。しかも「脚、痛ぇ!」って。思わず笑っちゃいました。
ローラー台は、外に出られない自転車選手にとっては、間違いなく最高のエクササイズです。だって実際にペダルを回せるわけですから。だけど自転車とローラー台とは、まったく別物なのだとしみじみ実感しました。フレームのしなりとか、ハンドリングとか、車体を倒す動きとか、そういう特有の動きが自転車にはあるんだなぁと。1週間くらいだったらそんなに違和感はなかったのかもしれません。でもこれだけ長い間、まったく別の動きの乗り物に乗っていると、はっきりと違いが分かりますね。
自転車とは単に縦軸……固定ローラーだと軸が1本になるんですけど、その固定された1本の縦軸だけで走る乗り物ではない。実は複数の軸がさまざまに組み合わさり、それが絶妙な均衡を保って走っている。そもそも自転車はスピードを出していなければ、慣性の法則が効かずに不安定になってしまう乗り物ですからね。固定ローラーだとその揺らぎがないので、走り方も使う筋肉も変わってくるんでしょう。
例えば3本ローラーだったら、そういう自然な動きも可能です。でも固定ローラーの方が、長期間、屋内で安定して練習を続けることができる。それはそれで非常にありがたいことです。ただ、実際に外を走るのと、固定ローラーとはやっぱり違いました。久しぶりに外を走った翌日は、何というか、ダンシングで使った部分の筋肉がいい感じに疲労を覚えましたもん。
正直に言うと久しぶりに乗ったとき、「あれ、これって自分の自転車でいいんだよね?」ってなっちゃったんです。昨日までこれでローラー乗っていたから、間違いはないはずなんだけど、本当に自分のなのかなぁっていう。映画の見すぎかもしれないですけど、QRコードとかで自転車と自分がつながっていて、「あ! これぞ自分の自転車だ!」ってマッチする感覚があったら良かったのに。こう思えちゃったほどです。
あ、あと、これも映画の見すぎって言われちゃうかもしれないですけど、何か外出制限明けのトレーニングではふだん見られないようなものが見られるかも、なんてちょっと期待してたんですよ。廃墟になった町……草が伸び放題で自然に還った町の中を、野生動物が歩いている……とか。いろいろ妄想してたんですけど、いたって普通でした(笑)。所々草刈ってない所はありましたけど。
決して浮かれているつもりはないけど、外に出られて、やっぱり楽しくて。擦れ違うサイクリストたちと「脚が痛いね!」なんてジェスチャーで笑いあったりもして。本当はみんなと、久しぶりの外での運動で楽しいよね、なんてグループライドしながら語り合いたいです。でも今はまだ、それを許される時期ではない。ちょっと寂しいですけど、いや、まだまだ、まだまだなんだ、と思い直してます。
外を走りに行くときは、できる限りの準備をしてます。普通なら500mlのボトルだけですが、今は1リットルを2本用意してます。大きめのサドルバッグに補給食やレインウェアもしっかり入れて。かなり重たいですよ。でも、まあ、リハビリにはちょうどいいかな。
泥除けもつけてます。まさしくツーリング仕様。とにかく今は長距離を安全に走ろうモードになってます。今の僕にはロングライドが足りないし、しばらくはロングライドが主体になると思うんで、ちょうどいいかな。そんなに速く走らなくてもいいから、とにかく距離を積み重ねていく。屋内に籠ってばかりで色白になっちゃったので、日焼けもしなきゃいけないし(笑)。
まだしばらくは独り練習です。チームとしては、6月中旬くらいから小さなグループに分かれての合宿をしようと考えているようです。今はまだどうなるかわからないですね。どれだけの人数が集まれるのか、どうしたら合宿が可能なのか。まだまだ時間が掛かる問題だと思います。
実戦復帰はどうなる?
レースに関しても同じです。UCIがレースカレンダーを発表しましたし、自転車界隈は8月からレースやるんだ! うぉーーーっていう雰囲気になってます。だけど、最終的には、国や自治体が決めることだから……。確実ではない。もしかしたら新型コロナウイルスの感染の第2波がやってきて、また欧州全土がロックダウンされちゃうかもしれない。そんな恐れだってあります。だから浮かれず、騒がず、慎重に状況を見ていくべきでしょうね。
これは、自治体から無料で送られてきたマスク。洗って繰り返し使えます。フランスは「人の多い場所に立ち寄ったり止まったりする場合はマスクすること」となっているので、準備しています
質問コーナー:今回も感想や質問ありがとうございました!
1)前回、汗でブラケットのパーツが折れる話がありましたが、フミさんがローラー台トレーニングをするときに「あると便利!」な汗対策グッズがあれば教えてください。(コジーさん)
柔軟剤……じゃないですか!? 顔を拭いたときに痛くないように、ふわっふわなタオルを使ってください(笑)。
実はファビアン(カンチェラーラ)がよく、レース後のタオルに不満をぶちまけてたんです。「おい! なんだこのタオル! ガビガビじゃないか!!」って。周りはみんな「ええっ?」ってびっくりしますよね。だってあんなに厳しいクラシックレースをいくつも勝って、雨やひょうの中を平気で走ってるんですから。本当は硬いタオルなんて痛くもかゆくもないはずなんです。でもファビアンは、タオルはふわふわじゃないといや(笑)。
いや、僕がここで言いたかったのは、汗はどんどんかいてください、ということ。汗はかいた方がいい。だから水をちゃんとたくさん飲んで、汗をたっぷりかいて、柔らかいタオルで顔や体を拭いてください。
僕はシンプルにタオルで拭くだけです。自分の汗を拭くタオルと、床や自転車に落ちた汗を拭くタオルとが必要です。この外出制限中は1日2回、午前と午後に1回ずつローラー台に乗っていたので、つまりは2倍のタオルが必要で、洗濯機とローラー台を行ったり来たりの日々でした。
あとはサーキュレーターかな。体を冷やすためにできるだけ大きめなものを使うといいですよ。
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2)UCIからレーススケジュールが発表されましたね。すごいスケジュールになっていますが、狙っているレースはありますか?(トオル・Mさん)
チームがパリ~ルーベのワイルドカードをもらっているので、10月下旬の、つまり最後の最後に待ち構えるモニュメント目指して走っていきたいですね。
予定どおりにいけば8月から10月下旬までレースが続くけど、集中力を切らさず乗り切ることはできるんじゃないかな。ふだんならツールに山場をもっていく選手、クラシックにピークを合わせる選手、ジロに照準を定める選手……とそれぞれが異なる目標に向かって調子を上げ、そのレースの後はたいてい少し落とす。でも今年は全てが一気にどーんとやってくる。だから集中して最初から最後まで走り切る選手も出てくるでしょう。疲労感は大きいかもしれないけど、可能ではある。
え、10月末のルーベ? きっと地獄です。雨が降る確率は高いし、台風みたいなのも……もしかしたらぶつかるかもしれないですよ。気候も、リザルトも、春のルーベとはまったく違うルーベになるんじゃないかな。
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3)外出自粛で長時間のサイクリングができていません。外出できるようになったら100kmのサイクリングやヒルクライムレースに出ようと思っているのですが、今できる準備はありますか? また、自粛が開けていきなり100km走っても大丈夫でしょうか?(PonGoさん)
久しぶりの長距離に行く前に、まずは自転車のメンテナンスをしっかりとするべきですね。
僕のチームメートでも、「よし!外に出れる!」って喜び勇んで走り出したのに、メカトラで足止め食らっちゃったパターンがかなりあるんです。ローラー台から外してそのまま乗りに行っちゃうと、いろいろなトラブルが起こり得ます。まずは自転車整備をきっちりしましょう。バイクショップに行ってメンテナンスしてもらうのが確実かもしれません。
だって100km走ろうと思って出かけたのに、途中でメカトラにあって、電車で帰る……なんてことになったら残念ですから。こういう時期なので公共交通機関にも気軽に乗れないでしょうし。そういった意味でも、念には念を入れて、準備をするのがいいんじゃないでしょうか。
準備さえ整えば、あとは気持ちだけ。気合を込めてしっかり走りさえすれば、距離はきっと乗り切れます!
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とにかく今は外を走れてうれしい、トレーニングができて楽しい、そんな気持ちです。もちろん日々気をつけなきゃならないことは、まだまだたくさんあります。世界中が大変な状況であることにも、まるで変わりありません。
でも、8月に、もしかしたらシーズンが始まるかもしれない。だから僕は、そこに向かって、頑張って走っていきます。
気候も爽やかで、走っていて気持ちの良い季節です。皆さんも安全に、自転車ライフを楽しみましょう!
別府史之
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(宮本あさか)