酷暑の中の宇都宮ラウンドとコロナ禍でのJプロツアーの価値

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3連休の初日である8月8日(土)、栃木県宇都宮清原工業団地にてJプロツアー第4戦宇都宮クリテリウムが無観客で開催され、地元チームの宇都宮ブリッツェン、小野寺玲が大会3連覇を達成した。翌日9日(日)には、ジャパンカップのコースのフィニッシュ地点でもある宇都宮市森林公園から鶴カントリー倶楽部周辺を走る特設コースで宇都宮ロードレースが行われた。そこでは、逃げ集団からさらに抜け出したトマ・ルバが力を見せて独走勝利を飾った。

5戦を消化した今、新型コロナウイルスの影響でアジア圏でUCIレースがほぼない状況でのJプロツアーの価値を考える。

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それぞれのリーダージャージを先頭にスタートしていく集団

声援が聞こえない地元での勝利

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およそ2kmの短いコースにU字ターンが3つ盛り込まれる超絶インターバルレース

例年であれば、地元宇都宮ブリッツェンの赤い旗がはためくゴールラインへと飛び込んだ集団は大歓声に迎えられたはずだ。最終コーナーを終え、スプリントから即席のガッツポーズ披露した勝者が口にしたのは、「実は僕はエースではなくて」。

エースを任されていたのは、今シーズン限りの引退を表明したばかりのチームのスプリンター、大久保陣。彼が引退記者会見を開いたのはその週の頭のことだった。

「今日は陣さんを軸として展開していくということだったので、完全に僕は今年で引退する陣さんのために走る気でいたんですけど、ラスト2周くらいのところで陣さんの調子が優れないということを聞いたので、展開上最後の1周、僕が行くしかないと思ってそこは切り替えて、他のチームに取られるくらいだったら取りに行こうという気持ちで行きました」

勝利を手にした小野寺玲は話す。しかし、当の本人も宇都宮クリテリウムを昨年、一昨年と連勝を飾っており、3連覇という期待もかかっていた。

「正直、みんなから3連覇期待してるよって言われて、いつも以上にプレッシャーを感じて柄になく緊張して臨んだレースだったんですけど……」と少し笑って言っていた。

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逃げが決まるまではアタックが頻発

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ヒンカピー・リオモベルマーレの門田祐輔は、逃げ続けたうえ、最終スプリントでも4位に入った

逃げグループができた序盤から宇都宮ブリッツェンは、増田成幸、小坂光、西村大輝、鈴木譲を中心に集団コントロールに徹していた。それに加わったのは、同じくスプリントで勝負をしたい愛三工業レーシングチームとチームブリヂストンサイクリング。最終周回でやっと逃げを捕らえた集団が最終コーナーを曲がってくると、前方に顔をそろえたのはやはりその3チームのメンバーだった。

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ラスト1周まで逃げ続けた5人

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宇都宮ブリッツェンを先頭にコントロールを行う集団

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愛三工業レーシングチームやチームブリヂストンサイクリングも加わって逃げとの差を詰める

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逃げと集団とのタイム差は終盤にかけてみるみる縮まった

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ラスト1周に入り、ブリッツェンの西村大輝が全開で引く

小野寺、孫崎大樹(チームブリヂストンサイクリング)が横並びでもがき、さらに孫崎の後ろから岡本隼(愛三工業レーシングチーム)が飛び出す。岡本は、孫崎を抜いたが小野寺には届かなかった。コーナー明けラスト300mと少し長いスプリントは、一瞬の出力よりも長時間もがく方を得意とする小野寺の脚と合致した。小野寺、岡本、孫崎の順でゴールラインを切った。岡本は、届かなかったあと一歩をこう語っていた。

「(ブリッツェンには)JBCFのレースを引っ張って行くぞっていう気概みたいなものもありますし、そういうところを越えていかないといけない思うので、どんどんチャレンジしていきたいですね」

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ラスト300mを踏み切る

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勝利を確信した小野寺がゴールラインを切った

驚異の復活劇

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二日目ロードレースはトップから4分9秒遅れでゴールした吉岡

去年の今時期に行われた大分でのレースを最後にちょうど1年間のブランクを空けて、チーム右京の吉岡直哉が久しぶりにレースに戻ってきた。

吉岡は昨年の8月下旬、単独でのトレーニング中に落車し、栃木県内の病院に運ばれた。レースはもとより日常生活にすら支障をきたすほどの大怪我を脚に負った。医師からは1年半は歩けないかもしれないとも言われた。

「でもやっぱり選手として戻りたいなという気持ちでリハビリとか治療を開始した感じでした」

いたく普通に会場を歩き回っていた吉岡のそんな言葉からはとても想像できないほどしっかりと、問題なくレースレベルで走っていたように見えた。復帰第1戦目のクリテリウムでも、厳しい振るい落としがかかったロードレースでも危なげなく集団での完走を果たしていた。復帰までのスピードには本人ですら驚いていた。

「自分でも早すぎるくらい(復帰までが)早くて。けがしたときは、これから何年かかってもとりあえず自転車乗れるようにはなりたいなっていうくらいの気持ちではいたんですけど。今年の2月からは一応自転車乗れていたので、そこからレースもやっと出られたので。お医者さんもびっくりしてるくらい早い感じですね。ちょっとできない動作とかがあったりするんですけど、基本的には日常生活は普通にできていますし、トレーニングも徐々にできているので」

クリテリウムのペースが上がった最終盤ではさすがに怖さが出たと話す。

「でも、ちぎれていく選手が多い中で最後の方まで走れていたので、自分の中でもちょっと自信にはなったかなと思います」

まだ再スタートを切ったばかり。それでも歩けもしなかった時間があったなんてとても思えないほどに十分なポテンシャルが垣間見える。またクライマーとして絶好調な吉岡の姿が見られる日を楽しみに待ちたい。

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復帰戦となった宇都宮ラウンドで久しぶりのジャージ姿が見られた

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クリテリウムでもしっかりと集団で走っていた

“前”で展開するレース

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スタートからすぐの鶴カントリーへの上りでアタックする選手たち

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15人の逃げは有力チームを満遍なくのせ、勝ち逃げとなった

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増田は今回のレース前、まったく練習もできず、食べることもできないほどの体調不良が続いた。ロードレースでは序盤でバイクを降りた

二日目のロードレースは、1周6.7kmのコースを11周する総距離73.7kmの短いレースで、序盤からとにかく速い展開だった。最初に逃げができたかと思えば、吸収され、新たに15名の逃げができ、それが勝ち逃げとなった。チーム右京とキナンサイクリングチームが3名、愛三工業レーシングチームとヒンカピー・リオモベルマーレレーシングチームが2名逃げに送り込み、その他は単騎だった。

終盤、8周目になると、トマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)と小石祐馬(チーム右京)がそこから飛び出し、少し距離が空いたものの「ここは行くしかないと思って」と、石原悠希(ヒンカピー・リオモベルマーレレーシングチーム)が追走し、3人が先行。複数名を逃げに乗せていたチームのメンバーが先行したため、後続はストップがかかった。

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小石、石原、ルバが逃げ集団からさらに先行した

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ペースが上がらなくなった後続集団

昨年このコースで優勝し、今回は単騎で逃げに乗っていた今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)は、「最後脚が溜まっていれば勝負できるかなと思っていたんですけど、自分が動いたあとのタイミングで逃げが決まっちゃったので、ちょっと躊躇しちゃって。そのとき集団の先頭にいたので、引き連れることにもなるなと思って。後ろに残った人はチームメイトが前に行った人たちばっかりだったのでもう明らかに差が開くことは分かってたんですけど。何回か飛び出して、一発全力で行って詰めたんですが、一人で詰められる限界の位置でした。最後4位狙いで行こうかなと思ったんですけど、それだったら、と思ってトレーニングモードに切り替えて。練習だと思って回ってたら最後脚なくなっちゃいました」と、後続集団からも遅れて一人ゴールした。

前日に好走を見せていた西村大輝(宇都宮ブリッツェン)も逃げグループの中でアタック合戦に応じたが、「自分が思っている以上にマークされていた」と話し、3人の飛び出しを追うことはできなかった。

逃げに2人を乗せたところまでは良かったと言う愛三の伊藤雅和は、「どっちで行くかをちゃんと決められてなかったから、そこでちょっと躊躇してタイム差開いちゃった感じですね。そのあとは協力して、上りでペース上げてとかやってたんですけど、どうしても後ろは流れが止まっちゃって追いきれなかった」と振り返る。

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とにかく湿気がひどく、選手たちは周回ごとに補給を取った

一方で前の3人は、小石とルバを中心に積極的に回し、ペースを作っていった。ラスト1周になり、最初の上りで小石が仕掛けるが、ルバは少し離れるものの千切れるほどではなかった。

「小石のことはよく知っていて、彼が強いことも知っていました。最初は彼のコンディションがどうかは分からなかったけど、強かった。だから小石のアタックには少し警戒していました。石原はスプリントがあることが分かっていたから、ゴール前にどうしても彼を落としておきたかった。自分のスプリントが良くないことも分かっていたから、自分が勝つためには独走しかなかったんです。だから、エネルギーをキープしながら、最後の上りにかけていました」

こう話すルバは、ラスト3kmでとっておきの(本人が言うにはオールオアナッシング)アタックを一発で決め、独走態勢に持ち込んだ。

前日のクリテリウムで調子の悪さを感じていた石原は、「守るものもないし、どうせダメだから」という思いで全てのアタックに反応し続け、先頭まで残ったがこれには耐えられなかった。「全身の筋肉の筋が一本一本分かるくらいキツくて」と石原。小石も「速度が違いまいしたね。追っかけたけどその差は詰まらなくて。力の差じゃないですかね」と話す。

そのまま一人でフィニッシュラインへと近づいたルバは、ゆっくりと両腕を開き、今シーズンチーム2つ目の勝利をもぎ取った。

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両腕を大きく広げて余裕を持ってゴールしたトマ・ルバ

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石原が最後に小石をかわし、2位に。地元栃木での初の表彰台を獲得した

今までと違うレース、考えられる理由

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繰り返されるアタックでふるいにかけられ、最終的に残ったのが3人だった

徹底的な力勝負となった今回の宇都宮ロードレース。小石は勝負には負けたものの、レース内容に対してプラスに捉えていた。

「今日のレースって、脚を使って前に行かないと残れない展開だったのでそれはすごく良かったと思います。日本のレースって、すごい待って最後だけという感じだったから、セコいことしても勝てないレースになったのはとても良いことだと思いますね。これが150kmのレースとかになったら難しいかもしれないですけど、今回は70km、ハードな展開でいいレースができたかなと思います」

そう言われてみれば昨年のレースは、序盤から終盤までひたすら待ちに徹し、最後だけかっさらうという展開もよく見られた。正直に言ったならば、最終盤以外、見ていてひどくつまらないと感じるレースすらあった(ごく一部だが)。しかし、今年のレースは大きく違う。群馬と宇都宮の2ラウンドが終了したが、どちらも終始厳しい展開で、確実に一人ひとりが脚を使わなければ勝つことはおろか、完走すらかなわない。

なぜそうなったのか。考えられる理由は二つある。どちらも新型コロナウイルスの影響にはなるが、一つ目はレース数が異常なほど少ないため、一つ一つのレースの価値が上がり、出場しているチームのほとんどが絶対的に勝利を狙いにきていること。宇都宮ブリッツェンの増田が群馬大会で言っていたように、「残された時間はもう少ない」と、チーム全体で危機感を共有しているところもある。チームの存続などさまざま理由はあるだろうが、それだけ1勝の価値が重い。

二つ目はアジア圏でのレースがなくなったことにより、走る場所を奪われた選手たちがこのJプロツアーに参戦していること。普段はアジアツアーを主戦場としているキナンサイクリングチームや愛三工業レーシングチーム、チーム右京の存在は大きい。ここ数年、彼らはJプロツアーに参戦したとしても国内UCIレースの調整として出走することが多かった。しかしレースがない今、Jプロツアーのみでしか自分たちの存在を示す手段もない。おまけに守りに入る理由も温存させる理由もないため、誰もが勝負に出られるのだ。

無観客レースなのが残念でならないが、走る側にとっても見る側にとっても、今シーズンのJプロツアーは価値が凝縮されたレースとなり得ているのかもしれない。残りのレースももう数えるほどしかない。でもそれだけに注目すべきレースであるということも知ってもらいたい。

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近年のレースではほぼ外国人選手たちだけでのふるい落とし合戦はあった。しかし、今回は終始、前へ前へと積極的な動きが見られるレースだった

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愛三がJプロツアーに参戦するのも久しぶりのことだ

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第7回JBCF宇都宮クリテリウム
1位 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン) 1:09:37
2位 岡本 隼(愛三工業レーシングチーム) +0秒
3位 孫崎大樹(チームブリヂストンサイクリング) +0秒

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第4回JBCF宇都宮ロードレース
1位 トマ・ルバ(キナンサイクリングチーム) 1:49:09
2位 石原悠希(ヒンカピー・リオモベルマーレレーシングチーム) +25秒
3位 小石祐馬(チーム右京) +26秒

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宇都宮ラウンドの2戦を終えて、プロリーダージャージは小野寺玲に、U23ジャージは引き続き織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)が着用