ツール・ド・フランス2020でスロベニアのポガチャルが総合初優勝
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な大流行)が続くなか、厳戒態勢で開催された第107回ツール・ド・フランス(UCIワールドツアー)は、9月20日にマン・ラ・ジョリーをスタートしてパリ・シャンゼリゼにゴールする122kmの最終ステージを競い、スロベニア出身のタデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)が総合初優勝を成し遂げた。彼は21歳でツール初参加だった。
ポガチャルは最終日前日にヴォージュ山脈のラ・プランシュ・デ・ベルフィーユがゴールの個人タイムトライアルで、同郷の先輩であり、今大会で11日間マイヨ・ジョーヌを守っていたプリモシュ・ログリッチ(チームユンボ・ヴィスマ)を打ち負かし、総合首位に立った。マイヨ・ジョーヌが最終日前日、もしくは最終日に逆転したのは、ツールの107回の歴史上、7回目だった。
総合2位はログリッチで、スロベニア勢が表彰台の2つを占めた。最後の1つを獲得したのは、ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユの個人タイムトライアルで区間3位の好成績を修めたオーストラリアのリッチー・ポート(トレック・セガフレード)だった。オーストラリア出身の選手がシャンゼリゼの表彰台に上がるのは、2011年に総合優勝したカデル・エヴァンス以来、2人目だった。
9月21日が22歳の誕生日となるポガチャルは、一日早いビッグなプレゼントをシャンゼリゼ大通りの表彰台で受け取った。彼はツール史上、2番目に若い総合優勝者になった(最年少の優勝者は1904年のアンリ・コルネで19歳11カ月20日)。ツール初参加の選手が初優勝したのは、1983年のローラン・フィニョン(フランス)以来だった。
ポガチャルはシャンゼリゼの表彰台で、総合優勝のマイヨ・ジョーヌだけでなく、山岳賞のマイヨ・アポワと新人賞のマイヨ・ブランも受賞した。ツールで3つのマイヨを獲得して総合優勝したのは、彼が初めてだった。ツールで5勝しているベルギーのエディ・メルクスは、1969年のツールで総合優勝した時に、ポイント賞と山岳賞も受賞したが、当時はまだマイヨ・アポワは導入されていなかった。山岳賞では、ポガチャルは最年少受賞者になった。
ツールで初優勝したUAEチーム・エミレーツ
アラブ首長国連邦(UAE)登録のUAEチーム・エミレーツは、中東初のツール優勝チームになった。このチームは元々イタリアのジュゼッペ・サロンニが所有し、ランプレ社がスポンサーで日本でもおなじみのチームだったが、2017年から現在のスポンサーに変わり、経営陣も大きく変わった。サロンニはアドバイザーとして身を引き、現在はスイスのマウロ・ジャネッティがパトロンだ。
新型コロナウイルス感染症がイタリアで猛威をふるい始めた今年2月に、アラブ首長国連邦で開催されたUCIワールドツアーのUAE・ツアーは、参加チーム(未公表)のイタリア人スタッフ2名が新型コロナウイルスに感染していたことが判明し、最後の2ステージをキャンセルして終了した。
開催国登録のチームだったUAEチーム・エミレーツは、参加選手とスタッフ全員が自主的に滞在を延長してアブダビで自主隔離を行い、後日フェルナンド・ガビリア(コロンビア)とマクシミリアーノ・リチェセ(アルゼンチン)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染していた事を公表した。このレースにはポガチャルも参加し、区間1勝して総合2位になっていた。
新型コロナウイルスのパンデミックで、最も影響を受けたチームだったUAEチーム・エミレーツに、再開シーズンがツール初優勝をもたらすとは、誰も予期していなかっただろう。
UAEチーム・エミレーツのバイク・サプライヤーであるコルナゴ社がツールで総合優勝したのは、1960年のガストネ・ネンチーニ(イタリア)以来だった。コルナゴ社は最終日にパリへと凱旋するポガチャルのために、黄色いバイクを用意していた。
■21歳でツール総合初優勝を果たしたポガチャルのコメント
「信じられない。ツール・ド・フランスの優勝者になる事は、本当にクレイジーだ。たとえ総合2位だったとしても、ここに居られたらそれでも素晴らしかった。言葉では言い表せない。今日はチームメートと一緒の特別な1日だった。自転車の上で、やっと彼らと話をした。ここまでは日々、ただ全力でレースをしていた。今日は集団のみんなから祝福されたと思う。このスポーツは素晴らしいよ」
シャンゼリゼ区間はマイヨ・ベールのベネットが優勝
最終ステージの区間優勝は、ポイント賞のマイヨ・ベールを着たアイルランドチャンピオンのサム・ベネット(ドゥクーニンク・クイックステップ)が集団ゴールスプリントを制し、第10ステージに続いて今大会2勝目を上げた。ベネットはツールのポイント賞を4回受賞(1982、1983、1985、1989)したショーン・ケリーの後で、アイルランドに5回目のマイヨ・ベールをもたらした。
ツールでポイント賞を7回受賞しているスロバキアチャンピオンのペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)は、2012年に初参加して初受賞して以来、失格処分を受けた2017年を除いて毎年ポイント賞を受賞してきたが、今年は初めてレースを完走したのに受賞できなかった。今年30歳になったサガンは、区間優勝もできなかった。
スーパー敢闘賞は第12ステージで区間優勝し、敢闘賞は3ステージで受賞したスイスのマルク・ヒルシ(チームサンウェブ)が受賞した。第20ステージのレース中にTwitter上で行われた一般投票では、エクアドルのリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアズ)が、ヒルシの3倍となる1万票を獲得して1位になったが、敢闘賞の審査員たちはヒルシを3週間のレースを通して最も敢闘した選手に選出した。
■ポイント賞を初受賞した29歳のサム・ベネットのコメント
「シャンゼリゼでマイヨ・ベールを着て、区間優勝者としてここに立っているのがどんな気持ちなのかは伝えられない。これはスプリンターの世界選手権だ。このステージで勝てるとは全く思っていなかった。だからマイヨ・ベールで勝ったのは素晴らしかった! ボクはドリームチームの一員だ。素晴らしい気分だ。山岳で苦しんだ甲斐があった」
■第21ステージ結果[9月20日/マン・ラ・ジョリー~パリ・シャンゼリゼ / 122km]
1. SAM BENNETT (DECEUNINCK – QUICK – STEP / IRL) 02h 53′ 32”
2. MADS PEDERSEN (TREK – SEGAFREDO / DEN)
3. PETER SAGAN (BORA – HANSGROHE / SVK)
4. ALEXANDER KRISTOFF (UAE TEAM EMIRATES / NOR)
5. ELIA VIVIANI (COFIDIS / ITA)
6. WOUT VAN AERT (TEAM JUMBO – VISMA / BEL)
7. CALEB EWAN (LOTTO SOUDAL / AUS)
8. HUGO HOFSTETTER (ISRAEL START-UP NATION / FRA)
9. BRYAN COQUARD (B&B HOTELS – VITAL CONCEPT P / B KTM / FRA)
10. MAXIMILIAN WALSCHEID (NTT PRO CYCLING TEAM / GER)
【第107回ツール・ド・フランス 個人総合最終成績(マイヨ・ジョーヌ)】
1. TADEJ POGACAR (UAE TEAM EMIRATES / SLO) 87h 20’ 05’’
2. RIMOŽ ROGLIC (TEAM JUMBO – VISMA / SLO) + 59’’
3. RICHIE PORTE (TREK – SEGAFREDO / AUS) + 03’ 30’’
4. MIKEL LANDA (BAHRAIN – MCLAREN / ESP) + 05’ 58’’
5. ENRIC MAS (MOVISTAR TEAM / ESP) + 06’ 07’’
6. MIGUEL ANGEL LOPEZ (ASTANA PRO TEAM / COL) + 06’ 47’’
7. TOM DUMOULIN (TEAM JUMBO – VISMA / NED) + 07’ 48’’
8. RIGOBERTO URAN (EF PRO CYCLING / COL) + 08’ 02’’
9. ADAM YATES (MITCHELTON – SCOTT / GBR) + 09’ 25’’
10. DAMIANO CARUSO (BAHRAIN – MCLAREN / ITA) + 14’ 03’’
[各賞]
■ポイント賞(マイヨ・ベール):SAM BENNETT (DECEUNINCK – QUICK – STEP / IRL)
■山岳賞(マイヨ・アポワ):TADEJ POGACAR (UAE TEAM EMIRATES / SLO)
■新人賞(マイヨ・ブラン):TADEJ POGACAR (UAE TEAM EMIRATES / SLO)
■チーム成績:MOVISTAR TEAM (ESP)
■スーパー敢闘賞:MARC HIRSCHI (TEAM SUNWEB / SUI)