Jプロツアー広島2連戦~Day2~ 高速レースからの新たな勝者
目次
およそ1か月ぶりのJプロツアーは、
とにかく速度の上がったレース
二日目は初日の半分の距離。レース後、誰に聞いても「とにかく速かった」と話していたのが印象的だった。
アタック合戦が続いた1ラップ目は、16分49秒と、コースレコードではないかと騒がれるほどのラップタイムを刻んだが、最終周回はさらに16分37秒(単純換算すると時速44.5kmほど)まで速度が上がった。
前日のレースでは距離が長いこともあり、1周当たり17分半~19分半を推移した。また、優勝者のレース全体の平均時速は39.67km。それに対して二日目の平均時速は、42.41kmだった。(なお、1か月前の同コース5周回でのレースのラップタイムはおよそ18分前後で推移し、優勝者の平均時速は40.64kmだった。)
スピードよりは展開次第というところもあるが、数字だけ見ても今までよりもかなり速いレースだったことがうかがえる。
アシストとしての逃げ
アタック合戦が続くこと2周目に椿大志(キナンサイクリグチーム)と、前月の同コースで逃げ切り優勝を果たした阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)の二人の逃げが決まった。
「年間のランキングを狙って、(山本)元喜、(山本)大喜、(新城)雄大、それぞれで点数が取れるような展開にして僕がフォローできたらなという感じでした。(その3人は入れなかったが)とりあえずこれで後手を踏むよりはいいだろうということで(逃げに)行ってました」と椿は振り返る。
1周目のアタック合戦でも常に前方に顔をのぞかせていた阿部も、先月から引き続き調子の良さを見せていた。
「椿選手とお互い脚質が似ているので、引く時間も大体同じくらいだし、上りはちょっと僕のほうが余裕ありそうだったので、ペースを早くしたい時は僕が引っ張って、みたいな感じでした。でも本当にいいパートナーで(逃げに)いけたので、ちょっとは後ろの集団にはダメージを与えられたのかなと思います」
だが、距離が短いゆえに、逃げにメンバーを入れていない有力チームが先頭を引くメイン集団は多くのタイム差を許してはくれなかった。集団が緩んだ時間はごくわずか。終盤にかけてどんどんとペースを上げていく。
「タイム差を聞いて、かなり泳がされているなという感じだったので、多分マトリックスが追い上げてくるだろうと思って、その次の展開に向けて備えていました」
こう話す椿と同様に、阿部もまた次の展開に向けて考えを巡らせていた。
「最低限中間のポイントは取って、そのあと何かひと仕事できればと思ってたんですけど、やはりスピードの上がった集団では何かできることはなかったので、あとはできるだけ練習するようなつもりで最後の最後までは走りました」
ペースが上がってきた集団は、4周目に2人を飲み込むと、前日と同様にマトリックスパワータグが先頭を固めてさらにペースを上げ、人数を減らしにかかった。言うなれば、ワールドツアーでよく見る強い総合チームが終盤にかけて振るい落としをかけるそれと同じことのはずだ。マトリックスは、“やるべきこと”をしっかりとやって勝負がかかるシーンまでチームメイトを運べば勝率が上がることは前日のレースで織り込み済みだった。
国内レースでは個人間でのやり合いによって結果、後続がふるい落とされるといったシーンを多く見かける。レース終盤でこのような組織立った動きができるチームはまだ少ないように思う。
そのままのペースで最終周回に入り、三段坂の手前で織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)が飛び出した。
「最後は三段坂で(スピードが)上がるのが分かっていたので前待ちしようかなと思って行ったんですけど、もうちょっと泳がしてくれるかなと思ったんですが、結構すぐに反応されてしまって。きっちり追われて、きっちりそのままペースで行っちゃったので、そこで千切れちゃいました」
前月の広島での落車の怪我が後を引いており、この1か月はサイクリングレベルでしか走れていなかった。「悪いなりには走れたんで、大分、経産旗とまた頑張っていきたいです」と自身を納得させつつも、U23のリーダージャージはキープした。
その後も、山本元喜やトマ・ルバなどキナンサイクリングチーム勢や宇都宮ブリッツェンの増田成幸らが抜け出そうと試みるが、マトリックスのフランシスコ・マンセボが抜かりなくチェックに入っていた。
その隙を縫って、レオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ)が飛び出し、ルバがそれを追うが、その後ろにマンセボもつき、一時3人で抜け出す形となった。キンテロはそこからさらに飛び出したが、下り切ったところで集団が全てを吸収。誰も抜け出せないままメイン集団でのスプリント勝負となった。
集団に残っていた今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)は、最終コーナー前まではチームメイトの孫崎大樹と一緒にいたが、あまりに速い速度で進んだために十分にコミュニケーションも取れないまま、コーナーリング後にはぐれてしまった。どちらかがアシストということもなく、お互いがお互いのラインでもがくことになった。今村は振り返る。
「上りがそこまで得意じゃない中で、耐える周回がずっと続いて、少しでもチャンスあればもがきたいなと思っていましたけど、もがける脚が残ってなかったです」
最終右コーナーを先頭でクリアしたキンテロだったが、前日のようにはいかず、左側でロングスプリントをかけるが伸びきらなかった。中央からは、今村がキンテロをパスする。さらに一番右側から飛ぶようにやってきたのは宇都宮ブリッツェンの西村大輝だった。
これまでのレースでも、後続の集団スプリントで頭を取ることが多かった西村だったが、ついに先頭でその力を見せた。上りスプリントはまさに西村の得意とするところ。
「脚全然なかったんですけど、ラスト1本だけのもがきだったのでなんとか誤魔化しきって」と話したが、結果的に一番脚を残していたのは西村だった。一車身以上抜け出したところでゴールラインより手前で勝利を確信し、両手を掲げた。
メンバー全員が勝てるチーム
Jプロツアー初勝利を手にした西村は、笑顔でチームメイトの働きのおかげであることを強調する。
「マトリックスがすごい高速で牽引していて、ずっと速かったんですけど、細かいアタックとかもチームメイトが反応してくれて、スプリントになったら僕に可能性があったので、僕は最後もがくだけという感じでした」
終盤だけでない。序盤の阿部の逃げもしっかりとアシストになったと話す。
「アベタカさんの入った逃げができて、そこからもすごく速かったんですけど、すごいペースでアベタカさんも逃げてくださったので、他のチームを消耗させることができたんだと思います」
チームメイトが勝ったことを知った阿部も笑顔でゴールラインを切っていた。
「こういう形で貢献できると、気持ちがいいですよね。もともと逃げるのが好きなタイプですので。こうやって逃げてそれが役に立って、後輩が優勝してくれるっていうのは、本当に気持ちがいいです」
前回ここで勝ったときに阿部が言っていた「一人一勝以上」という目標に一歩近づいた。
「実際、西村選手は勝ちに近い選手だったので。今日それをなしえたというのは、僕が走りによったことだったとしたら本当にうれしいですし、宣言どおりだったので良かったですね」
本当に良かったと阿部は繰り返す。
着々と新たな勝者を生む宇都宮ブリッツェンというチームに対して、今年加入したばかりの西村は、こう語る。
「いい流れですよね。一人だけが勝っていてもその選手に依存してるチームになってしまいますけど、いろんな選手が優勝しているっていうのはいいチーム、強いチームのパターンなのかなと思います。ものすごくチームの雰囲気が良くて、本当に居心地がいいチームですね。入って良かったなと思います」
残るは大分と群馬の3戦。波乱の今シーズンを各チームがどう締めくくるのか注目したい。
リザルト
Jプロツアー 9/27 広島森林公園ロードレースday2(12.3km×6周回=73.8km)
1位 西村大輝(宇都宮ブリッツェン) 1時間44分24秒
2位 今村駿介(チームブリヂストンサイクリング) +0秒
3位 レオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ) +0秒
4位 孫崎大樹(チームブリヂストンサイクリング) +1秒
5位 フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ) +2秒