JCFチームがかき回すJプロツアー第5戦 国内レースの向かう先は
目次
4月24日に群馬サイクルスポーツセンターにて行われたJプロツアー第5戦。緩みどころがないレースで、脚の残ったメンツから最終盤に飛び出した窪木一茂が競輪選手になってからロードレースで初めての勝利を掴んだ。レース展開の内側に目を向ける。
止まない”ドンパチ”
逃げができては捕まえる。久しぶりに前に前に行こうとするレース展開を見た気がする。
当たり前だが、何かよっぽど目的がない限り人は楽な方を選びたがるものだ。
ロードレースにおいては、逃げをいかせて、集団を一旦落ち着かせ、最後にスピードを上げるといったような緩急の波を作った方が休むことができる。テレビでよく見るヨーロッパでのステージレースや長距離レースのやり方といっていいだろう。
ロードレースにおいては、逃げをいかせて、集団を一旦落ち着かせ、最後にスピードを上げるといったような緩急の波を作った方が休むことができる。テレビでよく見るヨーロッパでのステージレースや長距離レースのやり方といっていいだろう。
昨年までのJプロツアーのレースでは、そういった緩急をつけたレースをしたがる傾向にあったように思う。しかし日本のレースはほとんどがワンデーレースな上に、距離も短い。
こういったレースをするには一長一短があるように思う。
それを実行するにはチーム力が必要となる。最後の追い上げの場面で、逃げ集団を捕まえられなければ、何の意味もなくなってしまう。そのため、集団をコントロールする技術は身に付くかもしれない。ただし、それはあくまで国内レースにおいての話だ。海外のレース、選手と戦おうとするのであれば、ましてやヨーロッパを目指すのであれば、おそらく全くと言っていいほど足りない。
だが一方で、JBCFのレースを走る選手のレベルや目標はさまざまだ。みんながみんなヨーロッパで走ることを目指すわけではない。要は何を目的にするかによって形態はそれぞれあっていいし、強要すべきところではないと思うのだ。
個人的には、中途半端にヨーロッパの真似事をするくらいなら、ひたすらに全力を出し切る戦いの方がよっぽど見たい。
単純に日本の競技力向上を考えるのであれば、日本のレースも常に厳しいレースをしないと意味がない。ただでさえレース数が少ないのだ。レースを厳しくするためにフランシスコ・マンセボもマトリックスパワータグに引き入れられている。
ヨーロッパを目指す選手たちが集ったJCF強化指定選抜チームが今回のレースで見せたような激しい展開は、ヨーロッパに行くことが難しい今、彼らが日本のレースでできることを最大限やった結果だったように思う。
レースをかき回す若手選手たち
アップダウンが続く6kmのコースを25周する150kmで争われたJプロツアー第5戦は、休まる暇のないレースだった。
スタートしてから抜け出そうと常に前で攻撃を仕掛けていたのはJCF強化指定選抜チーム(以下、JCFチーム)の若手選手たち。自チームの選手が抜け出そうとお構いなしに追走へ向かった。
その理由についてJCFチームの西本健三郎はこう話す。
「結局は自分が勝ちたいから(笑)。誰かが逃げているから抑えようとか、協力しようというより、自分が勝ちたいっていうのが一番ですね」
序盤に入ると、マトリックスパワータグや愛三工業レーシングチーム、JCFチームやシマノレーシングなどのメンバーを含めた10人いかない程度の逃げができた。
これまでであれば、このまま集団に蓋をして減速し、終盤にかけてつかまえに行くような展開が定番だった。
実際に、集団スプリントで最後の勝負をしたいと考えた愛三工業は、集団に蓋をし、コントロールに回った。愛三工業としては、最後の展開での脚が残った選手たちによる逃げ切りを許してしまういつもの展開には持っていきたくなかった。
「いつものJプロだったら、逃げが決まって、追走、追走でグルペットは終わるみたいな展開だったんで、逃げをなるべく最後まで行かせないようにうまくコントロールして、最後スプリントに持っていけたらなっていう作戦で」と、愛三工業で岡本隼とともにスプリント要員として託された草場啓吾は話す。
中盤までは、愛三工業の目論みどおり、各チームから一人ずつ集団牽引のためのメンバーを出しつつ、コントロールを行った。しかし、その均衡もJCFチームによって崩される。
集団前方にJCFチームが固まり、一気に逃げとのタイム差を詰めた。逃げを吸収しつつ、新たな逃げを作ろうとJCFチームだけでなく、シエルブルー鹿屋やチームブリヂストンサイクリングなどのメンバーも動き始め、再び活性化した。
さまざまな”誤算”
第4戦まででもっとも勝利数を稼いでいるのは、マトリックスパワータグだ。だが、今戦でのマトリックスは、ひたすらに機材トラブルに悩まされた。序盤には安原大貴のバイク交換、さらにはチームを率いるマンセボも機材トラブルに見舞われ、一度は合流したが、二度目にはサドルが取れ、レースを途中で降りた。マンセボがフィニッシュしなかったレースは、実に十数年ぶりだったそうだ。(安原昌弘監督のSNSより)
中盤から逃げがいくつか行った後、ペースが緩んだ集団の隙をついて、今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)が単独で抜け出した。作戦の上でチームのエースとして選ばれていたのはその今村だった。
「逃げるつもりはなかったんですけど、途中で気持ちが入っちゃって、もう行こうかなって」
今村が単独トップに躍り出ると、集団と1分半ほどのタイム差をつけた。集団前方は愛三工業が固め、石橋学(シエルブルー鹿屋)、入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)、アイラン・フェルナンデス(マトリックスパワータグ)の追走も出たが、今村には追いつかず。
今村は逃げ切るつもりで走ったが、数周後、JCFチームの引きによってまたしてもタイム差は一気になくなった。
「増田(成幸)さんとかホセ(・ビセンテ)とかがよく独走で逃げ切っちゃうから、その気持ちで行ってたんですけど。ぱっと見たときの周回数が思ってたのと違くて、全然長くて…..」
集団が今村を捕らえると、残り周回は6周ほど。
コントロールラインから残り2kmのところにある心臓破りの坂で様子を見ていたJCFチームの浅田顕監督が「やはり増田と留目(夕陽)が調子がいいですね。そろそろ行くと思いますよ」と話した次の周、増田が集団の先頭を率いていた。
挑戦と驚き
ひとかたまりの集団から、序盤から抜け出そうと動き続ける石橋が単独で飛び出し、それに追いつく形でJCFチームの西本が合流し、2人の逃げができた。
西本にとっては、チャレンジの一貫だった。
「チームの昨日のミーティングで言われたのが、その逃げのグループにできるだけ多くの強化指定の選手を入れるというのが目標だったんです。あと、海外のレースを想定して、長いレースが多いと思うんですけど、最初から1時間と最後の時間が一番ペースが上がるので、最初の1時間と最後の時間両方で力を出せる選手が必要という話があって、最初で上げる重要さと最後に上げられることも意識して、最後でも逃げられるのかなっていうの試してみたくて」
次の周回の上り切りで2人の逃げに横山航太(シマノレーシング)が合流すると、バラバラになりつつも集団はすぐ後ろに迫っていた。
残り1周に入るコントロールライン付近で再び一つになった集団は最終盤に向けてさらにスピードアップ。残された20人ほどの集団には、JCFチームの増田や愛三工業のスプリンター勢、シマノレーシング、そして4人を残したチームブリヂストンサイクリングのセカンドエースとして窪木一茂も入っていた。
増田は、オープン参加のため、このレースで順位は付かない上に、ポイントも加算されるわけではない。それゆえに異なる目的を持って走っていた。
「優勝を単純に狙うんじゃなくて、いかに自分を苦しめるか」
その言葉どおり、時には集団を牽引し、時にはアタックし、とひたすらに動きを見せていた。そして最後の展開も自ら動かした。
増田がアタックを仕掛けると、それについたのは競輪選手というステータスを得たばかりの窪木だけだった。
増田の後ろについていた窪木が発射する形で上りで全開のアタックするとそのまま独走状態に持ち込み、追走を振り切って一番にフィニッシュラインへと飛び込んだ。
何度も勝ったことがある群馬サイクルスポーツセンターのコースだが、競輪養成所を卒業してからのロードレース優勝は初めてだった。チームメイトの層の厚さに感謝を述べつつ、こう話した。
「余裕はなかったです。久しぶりのレースだし、自分がどれだけ力があるか分からなかった。油断せずにずっとついていました。そもそも僕、競輪選手になったんで、今日勝てると思ってなかったから、ビッグニュースというか。自分でも驚いているし、みんなも驚いてくれてるので。またこれから、まだまだあるんで頑張っていきたいです」
増田が受けた刺激
増田成幸は今回、宇都宮ブリッツェンとしてではなくJCF強化指定選抜チームとして、JBCFのレースに今年初めて参加した。これまで過去第4戦分を振り返っても、JCLを走るチームの選手がJプロツアーを走るのは初めてのこと。コロナでレースが少なくなるなか、オリンピックの前に少しでもレースを走れるようにとナショナルチームの浅田顕監督から提案を受けて、出場を決めたそうだ。
10代の選手たちの中、一人だけ歳の離れた増田がチームを率いたというわけではなかったそうだ。
「率いられてました、むしろ。すごかったです、みんな。もう序盤いきなりもうガンガン行くんで。でもそれがいい刺激になって、俺もちょっと頑張ろう、負けてらんないなみたいな。でも本当にレースを作ってたのはナショナルチーム(JCFチーム)ですね。やっぱり途中で2、3人の逃げとかできると、みんなマトリックスとか愛三とかも集団止めたがるんですよね。一回止めて緩い展開にして、最後おいしいとこ持ってくぜみたいな感じになっちゃうんですけど、違うもんな、俺ら!」と、JCFチームのメンバーに問いかけた。
それに対して、近くにいた天野壮悠が「でも増田さんめちゃくちゃ強いです。笑ってました、僕。増田さんがアタックした時、嘘やろと思って(笑)。衝撃を受けました。誰が引いてるときが一番きついって、増田さん」と答える。
さらに増田は、「全開だよ、もう必死。みんなのおかげだよ。みんなすごいアグレッシブで頑張ってるからさ、最初全然エンジン掛からなかったけど2~3周。俺もこんなことやってる場合じゃねぇなと思って」と返していた。
「若いエキスすごい吸わせてもらいました。ちょっと初心を思い出したというか、そういう気持ちになりましたね」
増田はそう言って笑う。
増田にとって今回一番の刺激となったのは若きチームメイトたち。それは逆も然りだった。
5月下旬には、3日間短縮開催となるツアー・オブ・ジャパンも控えており、現時点では国内チームのみが参戦予定だ。その中にはナショナルチームの出場も決まっている。守りに入らず、レースをかき回してくれることを大いに期待したい。
第55回 JBCF 東日本ロードクラシック 群馬大会 Day1
開催日:2021年4月24日(土)
会場:群馬サイクルスポーツセンター 6kmサーキットコース 25周回(150km)
P1 リザルト
1. 窪木 一茂(TEAM BRIDGESTONE Cycling)3:40:19
2. 岡本 隼(愛三工業レーシングチーム)+0:05
3. 中井 唯晶(シマノレーシング)+0:05
開催日:2021年4月24日(土)
会場:群馬サイクルスポーツセンター 6kmサーキットコース 25周回(150km)
P1 リザルト
1. 窪木 一茂(TEAM BRIDGESTONE Cycling)3:40:19
2. 岡本 隼(愛三工業レーシングチーム)+0:05
3. 中井 唯晶(シマノレーシング)+0:05