Jプロツアー前半戦終了 石川ロードは今村駿介が制す

目次

Jプロツアーも早いもので前半戦が終了した。7月11日には前半戦最後となるJプロツアー石川サイクルロードレースが行われた。その様子をレポート。

JPT石川ロード

 

逃げの形成

JPT石川ロードがスタート

曇天の中、スタートを切るJプロツアー

福島県石川町にて7月10日にJBCF石川クリテリウム、11日にはJBCF石川サイクルロードレースが開催された。クリテリウムでは、群馬での小林海、広島での小森亮平というチームメイトたちの勝利に続いて、スプリンターの吉田隼人(マトリックスパワータグ)が今シーズン自身初勝利を挙げた。

ロードレースは、1周13.6kmのアップダウンのある公道コースを8周する総距離108.8kmのレース。
まだ雨が降り出す前、11時10分に一斉にスタートを切ると、逃げに乗せようと各チームが動きを見せた。
各チームが絶対に逃げにメンバーを乗せたがるのには、最近のレースの傾向として、有力チームのメンバーを乗せた逃げグループの逃げ切り勝ちというのがパターン化していることが、それぞれのチームに共通認識としてあったためだ。

6名の逃げ

2周目では6名の逃げが飛び出した

縦一列棒状の集団

まだ逃げを決めたくないと集団は縦一列棒状

2周目には6名が飛び出す形となったが、数十秒ほど後方のメイン集団は、縦一列の棒状でまだまだ逃げたいメンバーが仕掛ける機会を伺っていた。
その逃げが吸収されると、3周回目に入るコントロールラインに設けられたスプリントポイントに向けてスピードが上がり、ホセ・ビセンテ(マトリックスパワータグ)がスプリント賞を獲得。
そのまま3周目に入った後すぐの上りで、木村圭佑(シマノレーシング)が単騎で仕掛けた。
「ポイント周回で上がり切って、もうみんながきついところの上りで行って。そしたら(付いてきたのは)いいメンバーで。脚のあるメンバーでした」と木村は話す。

逃げる木村

3周目の上り区間で木村が逃げのきっかけを作る

安原、草場、入部、そして後ろから沢田が追走をかける

安原、草場、入部、そして後ろから沢田が追走をかける

集団は愛三工業が前に

集団は愛三工業が前に

後ろからは、木村を目掛けて飛び出た安原大貴(マトリックスパワータグ)、前日のクリテリウムで刺激が入り、脚はフレッシュだったという草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)、自チームが集団を牽引しなければならないという状況を避けたがった入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)が続き、さらに後方から「これは絶対に決まる」と感じ取った沢田時(チームブリヂストンサイクリング)が追いついて、5名の脚の揃った逃げグループが形成された。
有力チームのメンバーが一通り入ったため、逃げと集団とのタイム差は、3分ほどまで一気に開いた。

逃げグループでは、それぞれが逃げ切りを思い描いた。
今年の前半戦、スペイン人選手たちだけでなく日本人選手たちも勝利をつかみ始めたマトリックスパワータグでは、一人一勝以上が目標となった。まだ今シーズン勝利を挙げていない安原はこう話す。
「僕らのチーム、各選手が優勝してるじゃないですか。前日に、明日は僕かアイラン(・フェルナンデス)で行けということになって、出し惜しみなく行けって言われたんで、思い切って逃げに乗って、逃げ切って優勝するつもりで行きました」

一番最初の逃げのきっかけを作った木村もまた、逃げ切り勝利に向かった。
「僕が思い描いていた逃げの通りのチームのメンバーが入っていたので、どこも追うとこないんじゃないかなと思って、逃げ切り意識して走ってましたね」

過去のこのコースでのレース傾向から入部は、少人数の逃げを不利だと考えながら、逃げメンバーの良さに期待を抱いた。
「僕の経験上、ここ(石川ロードレースのコース)での少人数の逃げってすごく難しくて。やっぱり集団では、下りとか先頭は踏まないと駄目なんですけど、後ろついてるだけだったら脚を止められる区間がいっぱいあるんですよ。でも5人の逃げだと結構みんなが踏まないと駄目なんで、踏みっぱなしでなかなか逃げ切るのが難しいってのがあったんで、あぁ5人か、ちょっと難しいな、でもメンバーいいしな、どうなるかなという感じで」

均等にローテーションを回す逃げグループ

均等にローテーションを回す逃げグループ

愛三が集団の前を固める

愛三が集団の前を固める

逃げのメンバーはできる限りのいいペースを刻みながら均等にローテーションを行い、しっかりと協調。集団とは2分前後のタイム差をキープし続けた。
一方で集団では早々に愛三工業レーシングチームが先頭となってコントロールを始め、周回数を消化していく。逃げには草場が入っていたが、最終的には岡本隼のスプリントで勝負をする目論みだった。

 

降り出した雨、崩れる均衡

スプリントポイントを取りに行く安原

スプリントポイントを取りに行く安原

ラスト2周を残した6周目完了時のスプリントポイントを安原が取りに行くと、沢田が反応したが、そのまま安原が先頭通過。逃げの中でも安原と沢田が少し抜け出る形となったが、後ろの3人を待った。
「案外後ろが離れたんで、そのまま行っても良かったんですけど、得策ではないかなと。メンバーも良かったんで、しっかり下りも(ローテーション)回して行った方が得策かなと思って戻りました」と、安原は話す。さらに、逃げ切った場合の状況を想定していた。
「だいたい回ってる感じを見てると、入部さんか、僕か、草場あたりが来るかなと思っていて」
5人の中でのスプリント力に自信を持った草場もそれは共通の認識だったが、集団がその展開を許すことはなかった。

ラストスパートで逃げグループは加速

ラストスパートで逃げグループは加速

チームブリヂストンサイクリングを筆頭に集団も加速

チームブリヂストンサイクリングを筆頭に集団も加速

均衡が崩れたのは、ラスト2周に入ってから。降り出した雨脚も強くなってきた。
愛三メインの引きに徳田優などチームブリヂストンサイクリングの選手も加わり、一気に集団がスピードアップ。タイム差は最終周回にかけて如実に縮まった。
逃げグループにいた沢田はこう振り返る。
「スプリントになったら多分入部さんをはじめ、勝てないんで。逃げ切れるかなと思っていたので、隙を見て、残り2周ぐらいで抜け出そうと思ったんですけど、最後いきなり(集団との)タイム差が詰まってきて。逃げメンバーの中でもこれはもう協調していこうって上りでみんなで声かけて行ってたんですけど、それでもどんどん差が詰まってきたので、最後は思い切り勝負するというよりはもう、みんなでできる限りまとまって逃げるというような展開でしたね」

残り1周のところで集団中盤に位置する今村

残り1周のところで集団中盤に位置する今村

集団では、残り1周の前半の上りでアタックがかかる。その中でもブリヂストンやシマノが多く人数を残していた。集団にいた今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)は、「その時、4人ぐらいチームが残ってたんで、これ、最後(集団スプリントに向けて)まとめてくれるなと思いました」と振り返る。

ラスト1周後半、逃げの中で余力を残していたのは木村だった。前週の広島大会がチームとしても久しぶりのレースとなった木村は、そこでの調子は絶好調とは感じられず、今回のレースも少しの不安を持ちながら走った。しかし、それゆえに最後のアタックをする脚を残せていた。
コース中、最後の上り区間で一番下から木村が全開で仕掛ける。それについたのは元チームメイトの入部だった。
「木村は嗅覚がすごくてセンスがあるんで、いいタイミングで行くんですよね。あとはお互い脚質を熟知してるんで、それで2人で最後抜け出す形になって、頑張ろうと思ったんですけど」
そう入部は言ったが、後ろを振り返るとブリヂストンの山本哲夫が捨て身の猛追。それにより集団が縦一列になっている様子が視界に飛び込んだ。入部はお互いを知り尽くした元チームメイトとの一騎打ちを切望したが、集団の勢いに飲み込まれ、チームメイトの井上文成にあとを託すこととなった。

他方、逃げの中で力を残していたのは草場も同じだった。スピードが上がった集団に吸収されてから、千切れずにすぐチームメイトの渡邉歩とともに岡本のスプリントに向けての発射台役に切り替えた。

両手を大きく広げてフィニッシュした今村

両手を大きく広げてフィニッシュした今村

全ての逃げを飲みこんだ集団は、フィニッシュに向けて高いスピードを維持。集団はどんどんと人数を減らした。
他チームの全てのアタックに対応しながら、アタックできないようなペースで前を引く山本のおかげで今村は休むことに徹した。山本を使い切った後、残り1kmからは今度は兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)が踏みすぎないペースでフィニッシュ前最後の上りまで今村を連れて行く。ブリヂストンの完璧なお膳立てだった。
そうしてラスト200mのカーブしながらの上りに一番最初に姿を見せたのは今村。そして岡本、ビセンテと続いた。その差は縮まらないまま、今村が両手を大きく広げた。
「これで差されたらやばいなと思いながら、一心不乱に踏みましたけど、勝てて良かったです」

フィニッシュした沢田が今村と抱き合う

フィニッシュした沢田が今村と抱き合う

追走で力を使った山本もフィニッシュで笑顔を見せた

追走で力を使った山本もフィニッシュで笑顔を見せた

 

各チームが見せる展開での証明

今村は喜びをこう語った。
「うれしいけど、今日は本当にチームの勝ちっていう感じなんで。アシストの勝ちですね。もうこれだけ踏めたら、相当チーム力としては、強さ見せられたんじゃないかなと思います」
ほとんどのメンバーがトラックレースを走るメンバーであるチームブリヂストンサイクリングは、スピードに関して群を抜く。
「スピードに関してはもうピカイチなんで、あとはやっぱり上りとか、スピードコースでも勝てるところをやっぱり証明しないといけなかったんで」
やるべきことを全員が果たし、しっかりと勝てることを証明した形だ。

沢田

前週の富士見パノラマでのMTBの国内シリーズ戦、クップ・デュ・ジャポン第3戦を勝利した沢田は、コンディションの良さをキープしたまま今回の大会に参戦。自身の勝利とまではいかなかったが、チームメイトの勝利で終えられたため、「100点」と評した。
「今日はコンディションがいいと思ってたんで、結構狙っていて。いい展開かなと思ったんですけど、ちょっとまだ厳しいかなと思いました。ああやって思いっきりチャレンジして、つかまっても、後ろ絶対うちは(チームメイトが)いるので、そう思うと、思い切って行けるんです。また挑戦したいなと思います」
今年からJプロツアーに参戦している沢田だが、ロードレースでも勝負所にいられる強さと勝負勘が光り、適応能力の高さを見せている。ほとんどのアタックに反応し、出し惜しみなく食らいつき、ある意味ロード選手“らしくない”姿は、パターン化しつつある国内レースでの展開に良いスパイスとなり得る。

草場

序盤の逃げから岡本の発射台まで仕事を果たした草場は、「今のJプロの雰囲気が、最初めちゃくちゃ速いドンパチして、各チームが行っちゃった、じゃあ引くところないです、終わり、っていうのがパターン化していたので、今回、自分のチームで潰す形になって、(逃げ勝負でも集団勝負でも)どっちでもいけるよっていう示しにもなったと思うんですけど、僕としてはやっぱり悔しいですね。
8月の終わりからもう9月10月と(レーススケジュールが)立て込むので、1回ちょっと休んで、また仕切り直して、もう圧倒的に勝つように頑張らないとだめですね」とうなだれた。

木村

逃げのきっかけを作りながら今回は勝利をつかむことができなかった木村は後半戦に向けて意気込みを語る。
「勝ちたいですね。みんな表彰台には乗れてるので、次(優勝まで)、壁があるんですけど、そこで勝って、はじめていいチームかなと思うので、優勝目指して」

今シーズン弱虫ペダルサイクリングチームという新天地で順応しつつ、チーム全体を率いる入部もまた、後半戦に向けて意欲的だ。
「井上くんと僕中心で今日は戦えればということで話してたんですけど、僕は逃げに乗ったんで、あとは井上くんに託すって形で。(井上は)4位で十分頑張ってくれましたし、もうすぐきっかけあれば勝てる選手だと思うんで、引き続きチームとしても底上げをちゃんと頑張って、みんなで強くなって、もっと戦えるようになりたいなと。
チームランキングもここ最近はちょっと上位チームに詰めることができてたんで。でも、昨日今日でまたちょっと開いてしまったんで、何とか目標3位までいったら、すごくうれしいなと思ってるんですけど。まだ後半戦あるんで、何とかチーム総合でも上げられるように、そしてチームとして一勝、最低でも持って帰れるように頑張ろうと思います」

JBCFのレースは、7月末には西日本トラック、8月末には東日本トラックがある。ロードレースは9月19日~20日、南魚沼のクリテリウム&ロードレースまで期間が空く。
後半戦にもパターン化するだけでない新たなスパイスが加わる展開にも期待したい。

 

石川サイクルロードレース リザルト

1位 今村駿介(チームブリヂストンサイクリング) 2時間47分34秒
2位 岡本 隼(愛三工業レーシングチーム) +0秒
3位 ホセ・ビセンテ(マトリックスパワータグ) +1秒

JPT石川ロード表彰台

リーダージャージ
ホセ・ビセンテ(マトリックスパワータグ)

U23ジャージ
山本哲夫(チームブリヂストンサイクリング)