【東京オリンピック トラック競技5日目】英国、オランダのメダルラッシュが止まらない 女子マディソン&男子スプリント決勝
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昨日の結果でオランダとイギリスが1個ずつ金メダルを獲得し、自転車競技でのメダル獲得数をそれぞれ増やした。オランダとイギリスは自転車競技だけでそれぞれ8個メダルを獲得しており、トラック競技単体で見ると、オランダが金メダル2個、イギリスが金メダル1個、銀メダルを2個という状況だ。
8月6日、東京オリンピックトラック競技5日目。15時30分から、
・女子スプリント予選(200mフライングTT)、1/32決勝、1/32決勝敗者復活戦、1/16決勝、1/16決勝敗者復活戦
・女子マディソン決勝
・男子スプリント準決勝、決勝
の3種目が行われた。
女子スプリント
30人の選手が出走する女子スプリント。まずは200mフライングTTの予選で24人まで絞り込まれる。昨日ケイリンにて落車し、搬送されたローリーヌ・ヴァンリーセン(オランダ)以外の29人が出走した。日本からは小林優香も出場。
まず昨日ケイリンで銀メダルを獲得したエレッセ・アンドリューズ(ニュージーランド)が8番目に走ると、その時点でのトップタイムに。
16番目に出走した小林優香は10.711秒というタイムで、昨年の世界選手権で自らが出した日本記録を0.001秒上回った。しかし、オリンピックともなるとナショナルレコードを出してもなお上回る選手が多い。小林は後を走る選手たちの結果を待つこととなった。
ケイリン優勝者のシャネ・ブラスペニンクス(オランダ)などがアンドリューズのタイムを更新するが、その後、23番目出走のリーソフィー・フリードリッヒ(ドイツ)が10.310秒とオリンピックレコードを出し、これまでの選手を大きく上回った。
タイムが出やすい高地ボリビアのベロドロームでの世界記録(10.154秒)を持つケルシー・ミッチェル(カナダ)もフリードリッヒのタイムは抜けないものの、2位の位置に入った。世界王者のエマ・ヒンツェ(ドイツ)も10.381秒で3位の座をつかんだ。
昨日のケイリンでは精彩を欠いたドイツ勢だったが、スプリントで息を吹き返した形となった。
全員が走り終え、小林は17位と勝ち上がり、1/32決勝へと駒を進めた。
予選リザルト
1位 リーソフィー・フリードリッヒ(ドイツ) 10.310秒
2位 ケルシー・ミッチェル(カナダ) 10.346秒
3位 エマ・ヒンツェ(ドイツ) 10.381秒
4位 マチルダ・グロ(フランス) 10.400秒
5位 ローリーヌ・ジェネスト(カナダ) 10.460秒
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17位 小林優香(日本) 10.711秒
1/32決勝。ここからは1対1の戦い。予選タイムで上位の選手たちから順に下位の選手たちと当たる組み合わせとなり、予選タイム1位~11位の選手が全て勝利した。
第8ヒートに予選8位のケイティ・マーチャント(イギリス)と当たった小林は、前で後ろの様子を伺いながら周回をこなす。ラスト1周で踏み込むが、マーチャントがバック側で追い抜き、小林は追い抜き返すことができずに敗退。1/32決勝の敗者復活戦へと回ることになった。
1/32決勝敗者復活戦では、ラトビアの2人と当たった小林。小林は、前後にラトビアの選手がいる状態で、前のシモーナ・クルペツカイテ(ラトビア)をうまく使いながら、最終ラップのバック側から捲りに行き、その勢いのまま先頭に立ち、勝ち切った。小林は1/16決勝へと進んだ。
1/16決勝では、第8ヒートまでの対戦が行われたが、やはり予選1位~8位に位置する選手が勝利を収めた。
第4ヒートでは敗者復活戦から勝ち上がった小林がマチルダ・グロ(フランス)と当たったが、小林の先行から最終周回でグロに抜かれ、並ぶことができず、敗退。
さらに1/16決勝の敗者復活戦では、小林はアナスタシア・ボイノワ(ロシアオリンピック委員会)と当たるが、グロの時と同様にラスト1周のバック側でボイノワに抜かれると、抜き返すことができずに沈んだ。
ケイリン、スプリントと走った小林の東京オリンピックはこれで終わった。
小林は観客席に手を振り、お辞儀をしてバンクを降りた。
明日は、6ヒートで行われる準々決勝から始まり、準決勝、決勝と行われる。
予選のTTで実力を見せつけた選手たちが残る中で、さらにハイレベル展開が繰り広げられるはずだ。
女子マディソン
オリンピックで女子マディソンが行われるのは初めて。
30km、120ラップを1組二人で交代しながら走るマディソンは、10周ごとにポイント周回が設定され、1位通過は5ポイント、2位通過3ポイント、3位通過2ポイント、4位通過1ポイントが付与される。最終周回は、その倍のポイントが与えられる。
スタートから去年までとはまるで桁違いの速度でレースが展開された。号砲と同時にフランスが飛び出すと、男子のベンジャミン・トマが飛び出したのかと見紛うほどのスピードで早速仕掛ける。それを追うのは、オランダ、イタリア、そして視認性の高い蛍光黄色のヘルメットをかぶるイギリス。
イギリスのケイティ・アーチボルトが踏むと、単騎で逃げたフランスとの差は一瞬で縮まった。先頭はオランダ、イタリア、イギリスなどが中心となってさらにスピードを上げていく。
まず最初のポイント周回、アーチボルトがキルスティン・ウィルド(オランダ)を捲ってトップ通過した。
このレースでは落車も多数発生した。交代時に周りを見切れていない選手や交代でふらついてしまう選手などが混在していることで、何度も危ないシーンを見かけた。2回目のスプリント周回を前にイタリアのエリサ・バルサモも落車してしまった。
2回目のスプリント周回もオランダとイギリスが先頭を争う。ローラ・ケニー(イギリス)がまたしても先着した。
日本は、この時点で、”ポイントを取りに行く”という状態にはなく、高いスピード域をキープし続ける集団についていくことができなかった。集団はどんどんとスピードを上げていき、周回遅れにされていく。
3周回目のスプリントポイントは、抜群のタイミングで交代し、加速したイギリスが後続に大きく差を開いてまたしてもトップ通過した。2位通過はオランダ、3位通過はデンマークと続く。
この時点でイギリス、オランダの力が抜きん出ているのは明らかだった。
ベルギーやデンマーク、オーストラリア、ポーランドが少し前に出るがオランダやイギリスがスピードを上げるとすぐにその差が詰まった。
4回目のポイント周回を前に、オーストラリアが先に単独で出ると、そのまま1着通過。集団はオランダ、イギリスの順で通過し、常にポイントに絡む。
ポイント周回を終えるとほんの少しはスピードが落ちるが、落ちると言ってもほんのわずかだ。常に高いスピード域でアタックを繰り出さねばならず、相当の実力がなければ飛び出しても垂れて、すぐに集団につかまってしまう。
5回目のポイント周回を前に、コーナーでオランダが交代するタイミングで、オランダ人2人の間にオーストラリアの選手が間に入ってしまったことで、交代しようとしていたウィルドがバランスを崩し、落車。後ろにいたポーランド、ベルギーも巻き込まれた。
その間もイギリス、フランス、デンマークが着実にポイントを獲得する。
落車したオランダのウィルドは、復帰後すぐは反応できていたが、徐々に落車の影響が見え始める。
6回目のスプリント周回でもイギリスが圧倒的な差を持って1着通過。
7回目のスプリント周回を前にまたしてもアミー・ピーターズ(オランダ)とアーチボルトが先行し、アーチボルトが捲り切ってここも先頭通過した。
ラスト47周回を残し、またフランスが単独で飛び出した。これはポイント周回というよりもラップを狙った動きだった。しかし、集団からはイギリスがものすごい速さで単独で追走し、すぐにフランス選手に追いつく。
2人の逃げのまま8回目のスプリントポイントに入り、ここでもイギリスが先着した。
ポイントが取れたイギリスは、ラップしたいフランスの後ろに付き位置。うまく力を温存する形をとった。
集団からはさらにベルギーとロシアが飛び出し、前の2人に追いつく。さらにはデンマークも単独で追いつき、逃げは5人となった。
この時点では2位につけていたオランダだったが、やはりウィルドの落車の影響が大きいようで、この動きに乗ることができない。
9回目のポイント周回。デンマークが先行したが、またしてもアーチボルトがライン直前で捲った。先頭集団は、ベルギーとフランスが落ち、イギリス、ロシア、デンマークの3人となった。
10回目のポイント周回もイギリスのケニーがとると、そのまま集団最後尾に追いつき、先頭にいたイギリス、デンマーク、ロシアがラップ。ポイント周回で稼いだポイントだけでも圧倒的な差を持つイギリスがさらに優位に立つと同時に、デンマークが2位、ロシアが3位の位置へと一気に上がった。
11回目のスプリント周回はフランス、デンマーク、オランダ、イギリスの順で通過すると、フィニッシュに向けてさらに集団は加速する。
最後の5周回も圧倒的な差を持ちつつもイギリスは集団の頭の方に位置し、踏み止めることをしなかった。最終周回すら、圧倒的なスピードで差をつけ、イギリスがトップフィニッシュ。
結局、2位以下にダブルスコア以上の差をつけて、イギリスが完全優勝を決めた。
今回のレースで30kmを走った平均速度は驚きの54.847kmだった。世界トップ選手たちが集うオリンピックで男子選手のスピードが上がることは予想されたが、女子のレースでここまでスピードを上げられると誰が予想しただろうか。前日の男子オムニアム、ポイントレースの平均時速が55.108kmだったことを考えると、どれだけスピードの速いレースだったかが分かるはずだ。
ちなみに昨年の世界選手権女子オムニアムでの平均時速50.908km、最も直近で日本が優勝している香港でのネーションズカップの平均時速は46.884kmだった。平均時速が8km違うとなると、もはや別物のレースだ。
しかし、過去にないほど速いレースの中で、イギリスは集団に対してラップをしつつ、全てのポイント周回で着に絡むという驚異的なパフォーマンスを発揮した。ポイント周回でのトップ通過は最終周回も含め、実に10回。ほぼ完全試合といっていい強さを見せつけている。
最終日に行われる女子オムニアムには、今回のレースで圧巻の実力を見せつけたイギリスからローラ・ケニーが出場予定だ。女子オムニアムも今までとは格の違うスピード域でのレース展開が予想される。日本の梶原がどこまで対応できるかに期待したいところだ。
女子マディソン リザルト
金メダル イギリス(ケイティ・アーチボルト&ローラ・ケニー) 78pts
銀メダル デンマーク(アマリー・ディデリクセン&ジュリー・レト) 35pts
銅メダル ロシアオリンピック委員会(グルナズ・ハトゥンツェワ&マリヤ・ノボロスカヤ) 26pts
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13位 日本(梶原悠未&中村妃智) DNF
男子スプリント
準決勝からは2本先取の対決となるスプリント。
ヒート1は、2強の一角、ジェフリー・ホーフランド(オランダ)とベテランのデニス・ドミトリエフ(ロシア)が当たった。2本ともホームストレートではホーフランドが完全にドミトリエフの前に出切る形で2本先取し、決勝への切符を手にした。
ヒート2は、もう一人の最強選手、ハリー・ラブレイセン(オランダ)対ジャック・カーリン(イギリス)という24歳同士の対決に。カーリンは積極的に先行など仕掛けを行うが、冷静に対処するラブレイセンにしっかり合わされ、2本先取を許した。
これで昨年の世界選手権と同じ、決勝はオランダ人同士というカードが決まった。
決勝、3-4位決定戦では、オランダ2人に敗れたドミトリエフとカーリンが対戦。1本目はドミトリエフが先行し、カーリンが横に並ぶ力勝負となったが、カーリンが前に出切るとドミトリエフは抜き返すことができず、1本目をカーリンが取った。
2本目はカーリンが先行。スプリントらしいゆっくりの速度からの駆け引きの展開が続き、ドミトリエフはバンクの高い位置から様子を伺う。しかし、カーリンがラスト1周で踏み込むとドミトリエフを並ばせなかった。
ドミトリエフは、フィニッシュラインまで諦めずに踏んだが、カーリンをかわすことはできず。銅メダルを決めたカーリンは雄叫びを上げた。
そして金メダルをかけたオランダ人による頂上決戦。
このオリンピックでの戦いで、昨年まで最強とされていた選手たちが脆くも崩れ去る瞬間を何度も見かけた。しかし、延期の1年を経てもなお、この2人は最強のままで居続けた。
一度も負けずに予選を除く7本の対戦を行なってきたが、どのレースも堂々たる王者の風格で、完璧なレース運びだった。
現在最強とされるラブレイセンは24歳、ホーフランドは28歳だ。30代でも第一線を走る選手も多い短距離では、2人ともまだ将来がある年齢ではあるが、層が厚いオランダは代謝が激しい。いつ国内から新星が現れるかは分からない。こんなにも強いこの2人が、二度とオリンピックという舞台で勝つチャンスが巡ってこない可能性だってあり得るのだ。
世界選手権のスプリント決勝では、ホーフランドはトレーニングをともにしてきたラブレイセンに1本目も2本目も取られ、泣き崩れた。
今大会ではラブレイセンはケイリンが続くが、ホーフランドはこのスプリントで出番を終える。それだけにここでの戦いに全てを懸けてきていたはずだ。
ただならぬ雰囲気の中で発走した1本目は、ラブレイセンが先行し、後ろで構えたホーフランドは揺さぶりをかける。1周目から速い速度で展開していき、ラスト1周を前にコーナーのカントを使いつつホーフランドが出切ると、最終ストレートでラブレイセンが迫ったがわずかな差でホーフランドが勝ち切った。
2本目はホーフランドが先行。またしても序盤から速いスピードで、トラックの幅を目一杯に使った駆け引きが続く。ラスト2周の後半、高いところから一気に降りて加速したホーフランドが先行して1周を回るが、最後のフィニッシュ間際で抜き返したラブレイセンが2本目を取った。
3本目にもつれた頂上決戦。最初はラブレイセンが先行したが、ラスト2周を前にしたところでホーフランドが思い切り良く先行に転じた。お互いに様子を見つつ、ラスト1周で一気に加速。ホーフランドが前に出たが、バック側で外側からホーフランドに並び、一思いに抜かしたラブレイセンがそのまま先着。昨年に引き続き、オランダ最強、そして世界最強の座を手にしたのはラブレイセンだった。
レースを終え、ゲートへと戻る際、自転車に乗ったまま内側のガラス面にもたれかかるようにして止まったホーフランドは、そのまま自力で自転車から降りることもできずに倒れ込み、悔しさの全てを込めたかのようなベロドロームに響き渡る咆哮を放つとしばらく動かなかった。
片や再び世界最強の称号を手にした喜びの絶頂にいる選手、片や世界一の座に最も近いところに居続けながらも、1年をかけてもチームメイトに敵わなかった絶望の淵にいる選手。この2人が同居するオランダという国の苦労は、おそらく他の国とは違う次元にあるようだ。
表彰台前のクールダウン中は、まだ魂を抜かれたような表情をしていたホーフランドだったが、表彰台では2人、笑顔を見せて終えた。
男子スプリント 決勝リザルト
金メダル ハリー・ラブレイセン(オランダ)
銀メダル ジェフリー・ホーフランド(オランダ)
銅メダル ジャック・カーリン(イギリス)
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9位 脇本雄太(日本)