JCLとJBCF、一本化への第一歩 国内レースの展望

目次

JCLプレゼン

JCLに出場する全チームから一選手ずつ、プレゼンテーションに顔を揃えた

 
 
3月4日(金)、東京都千代田区の丸ビルホールにて三菱地所JCLプロロードレースツアー2022 シーズンプレゼンテーションが行われた。JCL代表の加藤康則氏や片山右京チェアマンによってリーグの紹介が行われた後、今年度のツアー概要や参加チームの紹介がされた。
 
2021年との違いは、JBCFに所属するマトリックスパワータグの合流だ。日本のロードレース界が二分して1年。状況はどのように変わり、どんな方向を目指すのか。JCL代表の加藤氏とJBCFの代表でありマトリックスパワータグ監督の安原昌弘氏に話を聞いた。
 
 
 

新設年の振り返り

JCLプレゼン

加藤氏と片山氏が昨年のレースを振り返る

 
 
2021年に発足したジャパンサイクルリーグ(JCL)。全日本実業団自転車競技連盟(JBCF)から分化する形で約半数の地域密着型チームを携え、新たなロードレースリーグを立ち上げた。
コロナ禍での幕開けとなり、全てが予定通りにいったわけではもちろんない。しかし、競輪場を使用したバンクリーグも合わせて初年度で15レースを無事に消化しきった。

キナンサイクリングチームのGMから一転、リーグの運営側にまわり、JCL代表取締役となった加藤康則氏は、まずは安堵した。

「なんとか1年走り切れて良かったなというほっとした気持ちの方が強いですかね」

レースを開催してウイルスのクラスターを発生させたなど、何か問題があってからでは遅い。レース開催にあたってJCLと組む地方自治体側もご時世的に消極的にならざるを得ない場面が多くあっただろうことは想像に難くない。

その中でもやらせていただけた会場があったっていうだけで、我々としてはもう本当に奇跡だったんじゃないかなと思うので、感謝でしかないですね
 
また、昨年1年間を受けて、レースを誘致したいと手を挙げる地方自治体がかなり増えたそうだ。
僕自身、チーム(のGM)としてやっていたときに、いろんな自治体さんにレースをやらせてくれないかと話を持っていったりしていたんですけど、なかなか…..(難しいこともあった)。でも今は、”やって欲しい”になってきているから、その流れができたということ自体がまず大きいなと思っています
加藤氏はそう振り返る。
 

クリテリウムの”有効性”

JCLプレゼン

昨年の宇都宮清原クリテリウム

 
 
JCLのレースでは、クリテリウムが多いのは紛れもない事実だろう。昨年のJCL15戦のうち、バンクリーグが5戦、クリテリウムが5戦、ロードレースは5戦だった。
ちなみにJBCFが主催するJプロツアーは2021年で全19戦を開催。トラックが3戦(大会)、クリテリウムが3戦、ロードレースが12戦、TTが1戦だった。
なお、どちらもロードレースはラインレースではなくクローズドなコースでの周回レースだ。
 
JCLの運営側としてももちろんロードレースを開催したいのは山々だ。しかしそれには段階を経る必要があると加藤氏は考える。そもそも日本国内での自転車競技の認知度が低い状態で、開催地の地域住民の理解を得て公道を封鎖し、ロードレースを知らない関係各所と協議を重ねていかなければならない。レース開催にこぎつけるまでがどれだけ難しいかを加藤氏は改めて思い知ったという。
 
僕ら(JCL)が立ち上がったことで、日本国内で新たなロードレースが生まれる流れが、これからどんどん加速してくというのも分かっていて、たくさんの自治体さんから、うちでも誘致したいっていうような声をいただける状況にようやくなってきました。
 
初会場となると、自転車ロードレースを見たことない方々との一発目のお付き合いになります。そういった方々がレースってこういうものなんだ、自転車ってこういうものなんだというのをまずつかんでからじゃないと、なかなか距離の長い公道でのロードレースというのは一番ハードル高いものなので。
 
だからクリテリウムをまずやったりとか、そこに行き着くための前段の大会開催を一旦足がかりにして、来年、再来年、いいロードレースを作っていきましょうみたいな話をいろんなエリアでできているかと思います。
なので、その年、その状況だけを切り取って批判しないでいただけるとうれしいなと。その先を見越した布石として段階を追っていかないと、日本国内でまだまだ認知度が高いとは言えないこのロードレースを普及していくことを考えたときに、まずお付き合いしていただけるところがあるということ(が大きい)。僕らが立ち上がったことがきっかけでいろんな動きができるようになってきているので、長い目でぜひ応援していただきたいなというというころですかね

僕らとしては、まずやっぱりこの競技を知ってもらうことを考えても、街中、人が集まりやすい場所でのクリテリウムというのはやっていかないと、この先はないなと思うんですよね。ここはヨーロッパではないので

ロードレースはヨーロッパが本場のスポーツとはいえ、全てをヨーロッパの真似をするだけだとどうしても齟齬が生じる。レース環境も認知度も何もかもが違うのだ。その齟齬をレースを開催することで局所的ではあるが少しずつ解消しつつ、ロードレース、そして自転車の認知を日本国内で広げることが使命であると加藤氏は掲げた。

 

一本化への第一歩

JCLプレゼン

JCL名誉顧問に就任した川淵三郎氏(右)と片山右京チェアマン(左)。自転車界の常識にとらわれず、”スポーツ界の常識”が取り入れられることを期待したい

 
 
JBCFでプロリーグ構想があった頃から結局分化することとなり、分かれた理由について関係者はそれぞれの事情を口にする。分断の話が出てから聞く限りで、1年1年が重要な選手のことを危惧していたのはJBCFの会長であり、JCF(日本自転車競技連盟)の理事でもある安原昌弘氏であった。
 
分断したっていうのは、いろんな事情もあるし、お互い言いたいことあんねん。せやけど、誰が犠牲になってるかって選手が犠牲になってんねん。それがやっぱり大きい。例えば会社の方針とか、予算のこととかいろいろあるからそれは別として、自由に走りたいとこ、行きたいとこで走ったらいいっていう選択肢もないとあかんし。今までこっちは(独立の)リーグだから、こっちしか駄目ですとか、まずそういうのはなしにして、これから一緒にやっていこうとしてるし、仮にすぐに一緒にできへんかっても、どっちも走れるように。
 
それを分かってもらいたいなと思って、まず自分ところが非難覚悟で(JCLにも参戦することを決めた)。俺らだってなかなかの覚悟で行くんやから、(JBCFではキナンサイクリングチームが走って)お互いそうしましょうっていうことで話をして。俺らがこうやることによって、また一緒に走れる風に持っていきたいなという方向できたんよな
 
しかし、安原氏はJBCFに、あるいはJCLへの一本化という言葉は避けた。

JBCFとかJCLっていうんではなく、名前はわからんけど、いわゆるトップリーグをやっていこうっていう(方向にしたい)。そこにJPT(Jプロツアー)もJCLもないねんな。それをやっていこうという中での一歩目の交流だから、まずそこでトップのリーグを作っていくっていうことが先。作れば、他のチームもJCLにいく、JPTに登録するっていうんじゃなくて、そこでトップチームが集まるようにしていく構想の第一歩やからな

2022年のレースからはJBCF、JCL両大会に安原氏が監督を務めるマトリックスパワータグとキナンサイクリングチームが参戦することとなる。
また、地方自治体やその地域の車連と組むことでレースを開催しているのが実状だったJCLだが、2022年シーズンからはJBCFが主管する公認大会としてJCLの大会を行うこととなった。
 

レースクオリティの底上げ

JCLプレゼン

フランシスコ・マンセボ擁するマトリックスパワータグが先頭を固めるシーンも多い

 
 
加藤氏が言うように、国内で認知度を上げていくことは間違いなく必要なことだろう。しかしレース開催にあたって、気になるのはレース内容やそのクオリティだ。
 
コロナ禍でモチベーションを保ち、強さを発揮する選手ももちろんいた。走っている側からしたらJCLになってから強度が落ちたということもないのかもしれない。しかし、先頭を争うのはいつも同じ選手であったり、展開を作るのは同じチームであったりと、脚をどれだけ”使わないか”の勝負になっているような面が見える(おそらくそれはリーグに関係なく国内レースによくある展開だが)。
 
世界の頂点であるワールドツアー、あるいはそれに準ずるヨーロッパツアーでは、走行距離も長く時間も長い。それゆえにレース中の緩急の差が激しく、最近では純粋に脚の削り合いで勝負が決まるシーンもよく見る。
ヨーロッパで走った経験のある選手が国内レースを走って、口を揃えて発する言葉は、「全く違う走り方。全く違うレース」。厳しい目で見たならば、国内での走り方が世界では通用しないことはこれまでのジャパンカップなどを見ても明らかだ(これに関しては”走り方”の話ではなく、単純に実力差の問題がある)。
それもあってか世界で活躍したいと願う選手たちは、海外に行くしかないのが現状だろう。
 
コロナ禍によって国内チームが海外遠征に行けていない期間は丸2年。2021年に開催された国内のUCIレースでも国内チームのみの参戦となったため、アジア間での差すら明確にする機会はなかった。
 
安原氏は将来的には、国内から世界にというキャリアパスをどうにかつなげたいと考える。
日本の高校、大学が終わった選手が走れる、走ってトップを目指す場所として、ゆくゆくは例えばこのトップリーグで優勝した選手はもうそのままプロツアーに行けるっていう風な、それぐらい日本のレースがレベル高いんですよっていう状態に持っていきたい。それはもうJPT走ってる頃からずっと思ってたし、言うてたから。あえて外国人入れたりして、ちょっとでも全体のレベルを上げたいなっていうのをやってきたからさ。引き続き日本全体のレベルを上げたいというのと、とにかく早く一緒に走れる状況を作りたい
 
また、マトリックスパワータグがJCLのレースに参加することで勝ちに行くだけではなく、やっていきたいことがあると話す。

JCLのチームだって、1回も前に出てこないけど、最後だけちょっと出てくるチームいっぱいあるから、そういう選手らが勝つかもしれない。JCLはばっちり動画を撮ってるから、そういうことしていると、あのチームは何もしなかったねっていうのが映像で分かるから。そういう意味では、ロードレースっていうのは、こういう風にやるんやっちゅうところを見せつけられるし、もちろんチームの存在感を示せるから」

JCLのレースの最大のメリットである中継映像を使って、レースのやり方を見せる。そうやって”レースの教材”を作ろうというのだ。さらに、安原氏は現状に喝を入れる。

それとともにうちの連中は走れる脚もあるから、レースを一緒に走る選手らも強化していかないと。元々強い選手はおるけど、弱い選手と走ってたら下がっていくんやから、やっぱりそこは喝入れていかないと。コロナ禍で海外のレースもそんな行かれへんやん。国内のレースをきっちりレベル高いものにしていかなあかん
 

アプローチの違い

JCLプレゼン

JBCFの代表として安原氏(右)、JCLの代表として加藤氏(左)を中心に話が進められたようだ

 
 
日本の自転車界をより良くしたいという思いは、動きを見せている誰もが持っているはずだ。でなければ何の変化も求めはしない。
 
加藤氏がまず掲げるのは日本国内での認知向上。安原氏が掲げるのは選手の強化とレース内容の改善。
ないものづくしの日本ではどちらも必要なことだ。こんなところでたった少しのアプローチの違いにより分裂するのは、第三者から見れば正直、資金的にも労力的にもあまりに無駄なことに思える。
 
また、国内プロの環境を充実させるのもいいが、世界に挑戦したいと思える環境を作っていくことも重要だ。
そもそも世界で活躍することを目標とする選手が現状で国内にどれだけいるだろうか。国内で活躍できればいいと考える選手も多いように思う。
大門宏監督がEFのデベロップメントチームであるEFエデュケーション・NIPPOに日本人選手を多く送り込んだように、高校や大学、国内リーグからのキャリアパスの明確な道筋が見えなければ、夢を見たとしても実行に移す選手は多くないだろう。夢を語り続ける大人たちと、現実的な若者たち。その乖離はどんどん大きくなってしまう。
とはいえ、言葉で言うほどとても簡単なことではないのも現実だ。
 
2009年に世界最高の舞台に日本人二人が出場してから、夢を見続けてもう十数年。出場した選手個人としては海外トップチームの信頼を獲得してきたかもしれない。一方でその間に日本の自転車界はさほど大きく変わってはいないはずだ。
もうそろそろ日本でヒーローの誕生を待ち続けるだけは終わりにしたいところだ。例えタデイ・ポガチャルのようなモンスター級の選手が日本に現れたとしても、国内では一時期の話題にしかならない可能性だって考えられる。
 
国内に強化の道筋を、認知の土壌を耕さねば。いつまで待ったところで枯れた土地に芽が生えることはない。
どんなアプローチからだって一歩でも二歩でも前に進めなければ、このままいくとおそらく衰退の一途を辿ることとなる。
あらゆる人があらゆる土地でコネクションやノウハウを築いてきた現在、個別の組織としてではなく、全てを結集させて未来につなげていく必要があるように思う。
 
 

【参考サイト】
ジャパンサイクルリーグ(JCL)
https://www.jcleague.jp/

全日本実業団自転車競技連盟(JBCF)
https://jbcfroad.jp/