JCL2022シーズン開幕 初戦&第2戦コメントレポート
目次
4月16日、いよいよジャパンサイクルリーグ(JCL)の2シーズン目が開幕。初日は真岡芳賀ロードレース、二日目は宇都宮清原クリテリウムが行われた。
真岡芳賀ロードレースでは小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)がロードレース初勝利を掴んだ。
宇都宮清原クリテリウムではスプリンターチームであるスパークル大分レーシングチームの沢田桂太郎が集団スプリントで勝利を攫った。それぞれのレースでのコメントを拾いながら、レースを振り返る。
真岡芳賀ロードレース
4月16日、栃木県真岡市にてジャパンサイクルリーグ(JCL)の今シーズン初戦、真岡芳賀ロードレースが行われた。翌日には宇都宮市に場所を移し、清原工業団地にて宇都宮清原クリテリウムの二連戦となった。
ロードレースは、真岡井頭公園周辺に特設された1周7.2㎞を18周する総距離129.6㎞のコースで行われた。リアルスタートが切られると、レバンテフジ静岡に新加入したモンゴル人選手、バトムン・マラルエルデンが積極的にアタック。4周目には、マラルエルデン、小石祐馬(チーム右京相模原)、谷順成(那須ブラーゼン)が集団から抜け出す。集団からはまだ逃げに乗ろうと、阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)、新城雄大(キナンサイクリングチーム)、ライアン・カバナ(ヴィクトワール広島)、宇賀隆貴(チーム右京相模原)らが追走をかけた。
結局、先頭の逃げグループはマラルエルデン、小石、谷、阿部の4人の逃げが決まった形となったが、阿部は4番手で徹底的に付き位置。まだ調子の上がりきっていない阿部だけで勝負させるわけにはいかなかった宇都宮ブリッツェンは振り出しに戻そうと集団を牽引し始めた。
集団からはトマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)や宇賀、カバナら8人が飛び出す。8人は徐々に先頭の逃げ4人とのタイム差を縮めていき、8周目には追走集団から4人が先頭へと合流。逃げは計8人となった。集団とのタイム差は2分ほどで推移する。
14周目、補給地点がある少しの上り区間で宇賀が逃げグループから単独で抜け出した。しかし、どうやら逃げグループにいたチームメイトの小石と話した上での飛び出しではなかったようだ。
「結果的にあれで少し温存できて、それが最後に繋がったと思えればいいのかもしれないけども」と小石は話していた。
16周目には数十秒後方まで近づいてきた集団に吸収されることを嫌い、逃げグループからさらに谷、小石、カバナ、阿部が抜け出したが、最終周回に入ると、ルバや増田成幸(宇都宮ブリッツェン)が引く集団が一気に逃げグループに迫り、吸収。集団の方も人数を減らし、先頭は11人に絞られた。その中には宇都宮ブリッツェンが最多の3人を残す。宇都宮ブリッツェンとしても終盤に宮崎泰史、増田、小野寺玲の3人を残すことは作戦通りの展開。増田と宮崎は集団牽引で既に脚を使っていたが、最後のスプリント勝負のために小野寺は温存させた。
「最後はスプリントで勝負してほしいと言われたので。僕はそれに向けて2人に任せて、後ろで温存して次の展開を伺うような形でした」小野寺は振り返る。
先頭グループから今度は小石が単独でアタックに出ると、増田が追う。2人が少し抜け出す形となったが、キナンサイクリングチームのエースを任された畑中勇介が追走する。その後ろには小野寺がピッタリとつけ、さらには単独でジャンプしてきた渡邊諒馬(VC福岡)が合流。先頭は5人での争いとなった。
この展開の前までも散々集団を引く仕事をしていた増田だったが、上り坂でアタックをかけると、独走状態に持ち込んだ。タイミングは異なれど、終盤での単騎での抜け出しは昨年の勝利パターンと同じだった。
後ろに小野寺が張り付いた状態で増田を追うかどうか1~2秒悩んだ畑中だったが、増田はこのまま行ってしまうと考え、追った。畑中はこう語る。
「展開的には完全に(チームメイトを)全員使わなきゃ駄目になっちゃったので、畑中以外全員を使いました。ブリッツェンも小野寺以外全員使って、最後勝負に絡んだ増田さんはもう自力ですね。地脚。あの人はもう鬼です(笑)。増田さんはずっとアシストをしていて、キナンもブリッツェンももう消耗しきっていて、僕の中ではその消耗している人の中に増田さんは入ってたので、僕の敵は小野寺でした。
でも1、2秒悩んだら、これ増田さん行くなって思って。僕が下向くと小野寺の車輪が見えていました。僕はラスト500mからは1回も人のスリップに付かずにスプリントしてるんで、それは小野寺が強いですね。でもその形を作ったのはブリッツェンなので」
フィニッシュライン間際で増田を捕らえたのは、畑中の後ろから飛び出した小野寺だった。小野寺には若干の躊躇もあった。
「最後バックストレートが終わって、上りに入ったところで増田さんが上手く飛び出してくれて。そうすると他の選手が追うので、それに僕は反応して、スプリント態勢をうまく作り出すことができました。最後、増田さんに迫る畑中さんの後ろに僕がいるという感じだったんですけど、大丈夫だろうと思ったんですが、ちょっと不安要素もあったので、もがいておこうと。悩んで(優勝を)取られるよりかは、もがき切っちゃった方がいいと思ってもがいたら、増田さんを差すような形でゴールしてしまったという……。ちょっと躊躇もあったんですけど、これで僕が足を緩めて、他の選手に差されるよりかは、誰かが1位になった方がいいと思って、ごめんなさい!って心の中で思いながらゴールしました」
しっかりとフィニッシュでポーズを決めて、一番にフィニッシュした小野寺の前日のブログには「なるようになる精神で」と書かれていた。
「僕としても、気持ちの比率的には明日(クリテリウムに向けて)の方が強かったというのもあるので、でも今日も勝てるチャンスがあるとチームメイトも言ってくれました。なので展開で上手くいって最後、勝負できるようになったら自信を持っていこうと挑んでました」
小野寺自身としてはクリテリウムでの活躍が多かったが、ロードレースで勝ちたいという思いを数年間持ち続けていた。オフシーズンには、増田がトレーニングに誘い、小野寺も同じようなメニューをこなしてきた。
「ひたすら増田さんと同じようなメニューをこなしていくということが、僕の中ではかなりレベルが高いトレーニングなので、それをなんとかこなしていて、今、総合的な力というか、地脚系の力が少し養われてきたかなと、それが今日出たのかなと思います」
そう自身の変化を喜ぶとともに、やはり増田の力ありきでの勝利だと主張した。
「今回、本当に増田さんがいたおかげで僕が勝てたようなものなんですよね。あそこで単騎で仮に一対一のチームバトルだったとしたら、僕が勝てた確率はもっと落ちたのかなと思うので、そういったところの勝負勘はやっぱり増田さんの経験に助けられてるところがあるので。そこは今後また場数を踏んで、自分自身も養っていかなければいけないなと思います」
ツアー・オブ・タイランドで総合2位になり、調子が良いままJCLに乗り込んだ小石は、自らも積極的に動いたものの、4位に沈んだが、「面白いレースだったんじゃないですか」と話しながら、さらにレベルの高いレースを望んだ。
「何か目標を持って、ただ走るだけじゃなくて今日は何しようとかがあればいいんじゃないかなと。別にうちのチームに限った話じゃないすけどね。リタイヤしてる人が勝ちたいって言うのも違うし、何か現実的な目標を持って走らないと。別に逃げに乗りたいとかでもいいと思うんですよ。
どんなレベルでもやっぱり成長していかないと、そこはちょっと余計に思いましたね。あと、コロナになって、みんなレースがないっていうけど、ちゃんとトレーニングできている選手できていない選手の差がすごい顕著になった気がします。今はトレーニングも進化しているし、パワートレーニングでコーチつけてとか、僕も結構ずっとコーチをつけてますけど、自分で考えたトレーニングでもいいし、何かしら毎年成長していかないと厳しいのかなと思います」
レベルの高いレースにしていかなければ、観客の目も肥えていかない。コースや環境のせいにするのは簡単だ。その中で今、最大限できることを先頭で戦う選手は考え始めている。
宇都宮清原クリテリウム
4月17日にはクリテリウムが行われた。清原工業地帯内に設置された会場近くには2023年3月の開業が予定されている宇都宮駅東口からトラム「LRT」の線路が伸びていた。
クリテリウムのコースは前年大会と同じ、ヘアピンコーナーが3つ、90度コーナーが2つある1周2.2㎞を23周する総距離50.6㎞で争われた。
スタートからレバンテフジ静岡、さいたまディレーブ、マトリックスパワータグなどによるアタック合戦はあったものの、なかなか差が広がらず。その後もヴィクトワール広島やチーム右京相模原の選手がそれぞれ単騎で抜け出しを図ろうとしたが、逃げは決まらなかった。集団は那須ブラーゼンらが前方を陣取り続ける。
前日の優勝者であり、この宇都宮清原クリテリウムで5連覇(Jプロツアーでの開催時含む)がかかった小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)は、レースを厳しい展開にしたがっていた。
「チームとしても僕のスプリント一本勝負というプランを組んで、今までやっていたみたいにチーム全員でコントロールをしてレースを支配しようという動きよりかは、どちらかといえば最終盤にチームでまとまって、もしコントロールするチームがいれば、その不意を突くような形で勝負をするという作戦で挑みました。
今日のレースは前半ちょっと判断が難しくて、逃げに行くより、(スプリントに向けて)まとめたい人の方が多かったかなっていう印象でした。まとめたいチーム、ブラーゼンとかは結構積極的に前に出てましたし。
そういった意味で、予想していた厳しい展開というよりかは、どちらかといえばペースがいつもよりも遅いような感覚で走ってましたね」
そのままレース中盤まで逃げのできない展開が続いた。
14周目で小石祐馬(チーム右京相模原)が飛び出し、向川尚樹(VC福岡)がその後ろにつく。集団とのタイム差は十数秒に広がり、ようやく逃げが決まった。しかし、勝負に向けて最終盤に差し掛かる19周目には向川が落ち、小石が単独で逃げることに。
集団では20周目に入ったヘアピンコーナーで、キナンサイクリングチームの選手が落車。その上に乗り上げるように宇都宮ブリッツェンのエース小野寺も落車してしまう。もうニュートラルを使っての復帰が不可能な残り周回だった。
「ここはもう、脚を止めたらレースは終わるし、復帰する手段は自力で戻るしかないことが分かってたんで、これはやるしかないってことで全力で復帰しました」
小野寺はこう振り返ったが、周りを俯瞰できるような余裕はそこで失ってしまっていた。
宇都宮ブリッツェンのチームメイトは小野寺を待ち、集団に復帰させた。
21周目からは小野寺を集団に戻した宇都宮ブリッツェン、キナンサイクリングチームが先頭を引いてペースアップを始め、後ろにはスプリンターチームのスパークル大分レーシングチームや那須ブラーゼンなどが控える。
もっと前の段階で集団前方にいたかったと話すスパークル大分レーシングチームのエース、沢田桂太郎だったが、アシスト役となった孫崎大樹もまた落車でストップしてしまっていたため、ゴールスプリントに向けてギリギリで立て直すしかなかった。宇都宮ブリッツェンがスピードを上げる中、沢田は集団で影を潜めた。
「その時は一旦ブリッツェンさんに任せて。(孫崎)大樹さんとスタート前からチームで話していたので。最後の本当に一発に懸けて、そこまで脚を溜めて、1回落ち着こうという感じで。最後に向けて刃を研ぐようにステイって感じでしたね」
最終周回に入ると、キナンサイクリングチーム、宇都宮ブリッツェンが先頭に並び、集団をふるい落としにかかる。前日に続き、キナンサイクリングチームのエースを任された畑中はこう振り返る。
「ブリッツェンとキナンが無言で連携したというか、トマ(・ルバ)が引いて(新城)雄大が引いて、その時に増田(成幸)さんも入れて。(その後ろに)小野寺いて、畑中が並んで、その後中島さんで。でもこれはお互いのチームもメリットがあるということでお互いを入れて、トマが(スピードを上げて集団を)1列にしてくれました。
小野寺対畑中のレースにするために2チームで、もちろん声を掛け合ってないんですけど、そういう形が出来上がっていました。那須ブラーゼンもスプリンターがいますから、連れてきたんですけど、それを増田さんとうちのチームとで跳ね除けて、それでゴールスプリントになったんですけど、そこで跳ね除けられなかった(スパークル)大分がさすが。後から自力というか、スプリントの勘というか、勝負強いですね」
残り500mのバックストレートでは小野寺を後ろにつけた増田がスピードを上げる。しかし、最後のヘアピンコーナーでアウト側にふくらんだ増田と小野寺をイン側から一気に抜き去ったのはスパークル大分レーシングチームの孫崎だった。
コーナーまで先頭を引き切った増田とエース小野寺との考えには相違があったと小野寺は話す。
「増田さんがバックストレートで引き上げてくれたんですが、その後コーナーの処理が、増田さんと僕の思惑でちょっと違うところがあって。増田さんはコーナーでもう完全に切り離して、僕を先頭でクリアさせる形だったんですが、僕は今までの勝ちパターンでいくと、コーナーを立ち上がるとこまでチームメートにお願いしていたんですね。そういうパターンがほとんどだったので、その形をイメージしてしまって。2人で一緒にアウトに膨らんでしまって、その隙に他の選手に入られてしまったところがあって。その結果ポジションを落としてしまって、いい形でスプリント態勢には挑めなかったです。
僕自身も落車した後にすぐ復帰で、そのまま最終周みたいな感じだったので、余裕がなくて、周りをよく見られなくて、増田さんのブレーキングポイントに対する判断もすごい遅れてしまって。僕自身もすごい落ち度があったかなと思いました」
孫崎が最後のストレートで先頭に立つと、その後ろでスリップストリームに入っていた沢田が発射する。もがき始めた沢田は、後ろについていた畑中を寄せ付けることなく、フィニッシュライン直前で後ろを少し確認し、勝利を確信。両手を大きく広げてのフィニッシュとなった。
「玲さんも落車があったんで、多分ブリッツェンも作戦通りにはいってないと思うんですけど、僕らの想定では、ブリッツェンが最後の3周ぐらいをコントロールして、昨年と同じようにバック(ストレート)で主導権を握ってという感じかなと思ってたんですけど、今年は玲さんも落車があって、結構どのチームへ行くかごちゃごちゃしたシーンもあって、その時もどこにつこうかと大樹さんと僕はなってしまったんすけど、そこでもしっかり落ち着いて、(集団の)真ん中の方の楽な位置で脚を溜めることができて、最後にインから掻っ攫っていった感じですかね」
スパークル大分レーシングチームとして今季初勝利。クリテリウムだけでなくロードレースも含め、5勝を狙うと沢田は話す。
「スプリンターチームですけど、しっかりロードでも勝てるように。その際、僕はいつも大樹さんにアシストしてもらっているから、大樹さんを勝たせるような走りがしたいなと今シーズン思ってるので、頑張りたいと思います」
地元でのレースでの5連覇を期待された小野寺だったが、記録は4連勝でストップ。プレッシャーと戦いながらも、レースを終えて、解放感ではなく悔しさが残った。
「昨日(ロードレースで)勝つことがいい意味で想定外だったところがあるんですけど、それで今日も勝ちを狙いに行かせてもらえるということで、2日連続(勝利)だったら強いなって自分自身も思ったんですよね。
かつ5連覇っていう、同じレースで5回も勝つのはなかなかやってる人もいないので。そういった意味で、地元のヒーローになるような意識で僕自身もあんまり意識せずにはいたんですけど、でもどうしてもやっぱり自分自身も期待をしてしまっていました。
このレースに来るまでにプレッシャーから早く解放されたいっていう気持ちがたくさんあったりもしたんです。それは僕以外のチームメイトが勝って欲しいなっていう意味で解放されたかったんですが、僕しかもがく人がいないんで仕方ないことあるんですけども。でもいざこうやって、こういう負け方をしてみると、解放感というよりか悔しさの方が大きいですね。勝ちたかったなと思います。
今日の悔しさは今日までなので。また、ロードレースで勝てるっていう自信も一つ付いたので、もっとこれを機にロードレースでもクリテリムでも勝てるように、増田選手に指導いただきながら、自分を強化したいと思います」
JCLの次戦は、5月27日からのツール・ド・熊野。UCIコンチネンタルチームの次戦は5月19日から4ステージで争われるツアー・オブ・ジャパンとなる。
JBCFのJプロツアーではマトリックスパワータグがこれまで4戦全てで勝利を攫っている。
日本で数少ない規模の大きいロードレースで、JCLとJプロツアーのメンツがどういった化学反応を見せてくれるか楽しみにしたい。
リザルト
三菱地所JCL2022 カンセキ真岡芳賀ロードレース リザルト
1位 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン) 2時間59分52秒
2位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) +0秒
3位 畑中勇介(キナンサイクリングチーム) +0秒
三菱地所JCL2022 カンセキ宇都宮清原クリテリウム リザルト
1位 沢田桂太郎(スパークル大分レーシングチーム) 1時間10分19秒
2位 畑中勇介(キナンサイクリングチーム) +0秒
3位 孫崎大樹(スパークル大分レーシングチーム) +0秒
2戦を終えて、リーダージャージは初日を勝った小野寺が着用