Jプロツアー第4戦&5戦@群馬CSC マトリックスパワータグ全戦全勝の理由
目次
4月23日~24日、群馬県・群馬サイクルスポーツセンターにてJBCFのJプロツアー第4戦&5戦、群馬CSCロードレース4月大会が開催された。第4戦はレオネル・キンテロ、第5戦は小林海が勝利し、マトリックスパワータグが開幕戦からの勝利記録を伸ばした。
小林海を中心に現状では他のチームでは手のつけられない強さを見せている。レースを振り返りつつ、その理由を紐解く。
マトリックスの倒し方
今、Jプロツアーでのマトリックスパワータグの勢いが止まらない。
播磨中央公園での初戦、広島での2戦、そして群馬での2戦。全ての勝利をマトリックスパワータグがさらった。しかも、他チームが手も足も出ないほど圧勝で。
これまでも強さを発揮してきたマトリックスパワータグだが、今シーズンはまるでカテゴリー違いのレースを走っているかのように異様な勝ち方を続ける。なぜここまで大きく差が開いたのか。
欧州で活躍を見せ、さまざまな国のレースを経験してきたフランシスコ・マンセボの影響ももちろん大きいが、最も大きい要因は小林海(マリノ)の存在のように思う。
マンセボがマトリックスパワータグに加入したのは、2018年の途中から。2019年には、現在はカハルラル・セグロスRGAで活躍するオールイス・アウラールとともに勝ち星をあげていた。そこまではおそらく今までと同じ。チームとしての強さはもちろんあったが、チーム自体やレースのレベルが上がったというよりもその個人が強かったという点の方が印象に残っている。
2020年、コロナ禍に入ってから帰国することを選んだ小林がマトリックスに加入したことで、スペイン語話者の小林がチーム内で通訳の役割も果たした。それによってチームでしっかりと意思疎通が取れるようになり、2019年以前と比べて現在は、チーム全体で底上げされ、脚が揃ったという印象を受ける。
そして今、その小林が目指すのは再びヨーロッパで戦うことだと話す。
「僕はもう1回、本当にヨーロッパ行きたいんです。いろいろ目標とかがちゃんと定まってなかった時期もあったので、もう一度しっかりやりたいなと思って全部変えました。普段の生活からトレーニングへの姿勢から全部を変えました。
(国内の)UCIレースで狙っているレースもありますけど、僕が目指してるところは、もうどこにピーキングするとかのレベルじゃないなと思って。最初から最後まで勝負に絡み続けて、勝ち続けてない奴が、向こう(ヨーロッパ)行って何すんだよと僕は思ってます。なのでもうそんなに(シーズンでの)ピーキングとかは考えてないですね。
だから狙ってるレースで勝てない可能性もありますけど、もう最初から最後まで、いい状態で勝負し続けるっていうのが僕の今年の目標です。(Jプロツアー初戦を勝つこと以外に)あといくつか自分で定めている目標があるんすけど、まだ1個しか僕は達成してないんで。目標は8個あって、半分達成できなかった切腹しようと思って」と言いながら小林は笑う。
さらに、UCIレース一本に絞るということではなく、全てに勝ち続けることが必要だと小林は考える。
「1年でたくさん結果出す選手って今までもたくさんいたと思うんですけど、やっぱりこの結果出してるのを何年も続けていくっていうのが僕は大事だと思っていて。例えば今年いい1年を僕が送れたからって、いい話があって僕はどっかに移籍できるのかっていったら、その可能性は薄いと思ってます。2年、3年ってこの状態を続けて、もっとレベルが高くなって、こういうレースを勝ち続けて、UCIレースも勝ってというふうに、まだまだ自分を高めなきゃいけないと思ってるんで。僕は全然、貪欲にまだまだ勝利を重ねたいですね」
レースを見る限り、マトリックスはどこよりも”チームで”必ず勝利を狙うという目的意識が強い。小林は”チームで勝つこと”に対してこう話す。
「そこに関してはうちのチームが一番だろうなっていうのはありますね。外国人がいて日本人がいて、ここまでちゃんとまとまっているチームって、今までなかったんじゃないのかなと思っていて。
あと、うちのチームは勝利への執着心がすごいので。絶対に、僕たちの中で誰でもいいから、勝たなければっていう思いが強いんです。だから強いんじゃないすかね、僕たちは常に勝ちに執着してるので」
マトリックスパワータグの安原昌弘監督にあえて聞いた。今のマトリックスパワータグを倒すにはどうすべきか。
少しおどけた前置きをつけながらも、「今の状態を倒すのは無理だろうな」と表情を変える。
チームが発足してから、安原監督なりに自身のチームを勝たせるだけでなく、日本のレースレベルを引き上げるために外国人選手を入れ、さまざま画策してきた。自分たちも一朝一夕でこの状態になった訳ではない、ようやくこのレベルに到達したのだと強調する。それゆえに昨日今日の努力で倒せるものではないと話した。
「今強いのは自分らの努力と選手個々の努力で作り上げてきたものだから、それに対してはもう俺も彼らを称賛するだけ。だからそうすると、他のチームもしっかりするしかないから……」
現状の明らかな差に安原監督自身も少し困惑しつつ、他のチームにも上がってきて欲しいという思いを持つ。
「チームブリヂストンサイクリングもトラックの連中が帰ってきたらまた違うし、これぐらいの距離(100㎞前後)だったら、多分もっと違う形になると思うけど。でもね、修善寺とか広島みたいなコースだったら、たとえ彼らが帰ってきても俺たちはこういう走りができると思うんだけどね。やっぱりJCLの何チームか戻さなきゃだめなのか……」
シマノレーシングの野寺秀徳監督は、前週の広島森林公園でのレースで小林独走時のラップタイムの異常なほどの早さに驚いていた。
「あのラップタイムを見たら、うちの選手たちに、なんで追いつけないんだとか言えないですね」
手をつけられない相手に対して、「ブリヂストンや愛三工業などと協力して倒すしかない」と野寺監督は話す。
だが、逆に国内でここまでレベルの高い相手と戦えるのはいいことだとも話していた。
小林のようにヨーロッパのレースを知る選手と全く知らない選手とが世界の目指すのでは、やり方は異なってくるはずだ。コロナで状況も変わり、明快ではないのかもしれないが、小林は世界へのルートを自分なりに組み立てているように思う。
ヨーロッパに行って、「本物の選手になりたい」と話す小林。ヨーロッパでのレースを知る人間が再びヨーロッパを目指すにあたって、現状での仕上がりはおそらく”現実的”な発展途上なのだろう。
国内の選手全員が全員、世界を目指す必要は決してないと思う。しかし、そういった選手に引っ張られながら1勝を模索していった方が、国内レースを活性化させるにはよっぽど健全に思える。
群馬初日:常に後手を踏まないレース
Jプロツアーのお馴染みコースでもある群馬サイクルスポーツセンターの周回で行われた第4戦、第5戦。首都圏では随分と前に散ったように感じる桜も標高約900mの場所にある群馬サイクルスポーツセンター内ではまだ花びらを残していた。
初日は6㎞のコースを20周する総距離120㎞で争われた。
ここまで全3戦、マトリックスパワータグが勝利をつかんでおり、どこのチームも”対マトリックス”という点に対して手が付けられないような状態が続いている。
リーダージャージを着用する小林海を中心としてランキング上位のマトリックスパワータグの選手たちがラインに並ぶとスタートが切られた。
スタートアタックから何度か決まりそうな数名の逃げグループはできたが、マトリックスが集団をコントロールし切り、全て吸収した。
マトリックスパワータグの安原昌弘監督はこう話す。
「ミーティングでも去年からずっと言ってるけど、絶対後手踏むなよ、と。お前らがいくら強いって言ったって1分とか(タイム差が)空いたら詰めるのしんどいんだから。だから絶対に後手を踏むな、絶対に前に勝てるやつを入れろ、しかも複数で。1人だったら止まれって、ゼロに戻せっていうぐらいのことをやらせて、今実行してくれてるんだけど」
レオネル・キンテロなどマトリックスのメンバーが自ら飛び出そうとするシーンも見えたが、結局集団一つのまま6周をこなしていった。
7周目の上りでは小森亮平(マトリックスパワータグ)と井上文成(シマノレーシングチーム)が抜け出し、集団は変わらずマトリックスがコントロール。
小森は、「僕自身、今日そんな勝てるような調子じゃないなと思っていたので。やっぱり今まで勝ってたマリノとか、レオ、ホセ(・ビセンテ)、(フランシスコ・)マンセボが強かったので、彼らの助けになる動きは何かなって考えたときに、やっぱり前で逃げていた方がチームのためになるかなと思って、積極的に動いてたって感じですね。結果的に良い動きになったかなと」と振り返る。
途中、集団から冨尾大地(シエルブルー鹿屋)が飛び出して先頭に合流するが、8周目完了時にはまたしても集団に吸収された。
しかし、「集団が止まるタイミングだった」と、カウンターでまた小森のみが集団から抜け出し、単独での逃げに。集団はしばらくマトリックスがコントロールをしたが、小森が逃げていることもあり、愛三工業レーシングチームとシマノレーシングに集団の先頭を譲った。
9周目の下りでは、マトリックスのマンセボがガードレールに激突し落車してしまう。鎖骨骨折により、リタイヤとなった。
13周目の上り区間で集団は小森を吸収。再び振り出しに戻されたが、やはり集団前方にはマトリックスが人数を揃える。そして14周目、渡邉歩(愛三工業レーシングチーム)が単独で飛び出す。
「愛三が集団の中で一番人数がいて、先手先手で動いた方が後々残る展開になると思ったので、緩いうちに動きました。だいぶみんな補給モードみたいな感じで、落ち着いていたので。
でもちょっと早かったですね。あと2周ぐらい遅らせたら自分も表彰台を狙えたりとか、最後ギリギリまで展開狙えたのかなというのはありました」
渡邉は振り返る。抜け出した渡邉と集団とのタイム差は一気に30秒ほどまで広がった。
15周目に入るとキンテロが集団から抜け出して先頭の渡邉に合流した。渡邉は「逃げ始めて、なるべくペースでと思ってたんですが、あっという間にキンテロ選手が追いついてきて……」と驚いた様子だった。
その時点で集団とのタイム差は35秒。集団には24人が残っていた。
マトリックスとしてはタイミングがあればキンテロが飛び出して独走勝利、万が一逃げに追いつけば集団では吉田隼人でスプリントという算段だった。これまでの3戦で小林と2人で逃げ切るというシーンが多かったキンテロだったが、小林が引く時間も長く、勝利を譲るパターンが多かった。しかし、今回は別チームとの2人逃げ。キンテロは遠慮なく勝ちに行くことができた。
マトリックスはキンテロが勝てる状況に持ち込んだため、集団のペースを一気に緩めると、17周目完了時点で集団とのタイム差は2分にまで開いた。小林などは集団で談笑するレベルだった。
「他のチームはどうしたいんだろうと思って。僕は他のチームの走り方を信じられないんで。別に力で最後に負けちゃってもしょうがないじゃないですか。でも勝ちを諦めてるんだと思って。レオが行っちゃった時点でほぼ勝ち確定じゃないですか。何がしたいんだろうなって思いながら、タイム差開いたら僕はポイントも欲しいし、賞金もあるし、僕が賞金を取ることによって、チームみんなの働きに報いるじゃないですか。それはもうアシストしてもらってる側としては、義務だと思ってるんで、だからちゃんと取りに行ければなと思っていて」
かなり余裕があったと小林は付け加えつつ、最後の着までしっかりと狙いに行った。
18周目には力尽きた渡邉が千切れ、先頭はキンテロの独走状態。
一方の集団は、表彰台争いのために活性化し始めた。
「このコースめちゃくちゃ苦手で」と話した金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)だったが、絞られた集団内にしっかりと残っていた。昨年の広島での全日本選手権ロードレースでも各チームのエースメンバーが残る中、一人異色の存在として最終盤の小集団スプリントに参加したのも記憶に新しい。
金子は、2016~17年のシーズンにもJプロツアーを同チームで走っていたが、このコースで完走すらしたことがなかった。
「自分はヒルクライム1本なんで。だからもう、広島とか修善寺とか上りですら短く感じるんですよね。もっと長い上りじゃないと。短い上りに対応する練習は一切してなくて。ヒルクライムの練習だけしかしてないです」
そう語る金子は最終周の途中、集団から抜け出す。すかさずチェックに入った小林は、そのまま金子も突き放して単独2位の位置でフィニッシュへと向かう。金子もまた、集団から抜け出した状態で3位の座をキープし続けた。
「1人抜け出したところからは個人タイムトライアルみたいな感じになるので。そうなると自分は得意なので、最後まで3位で行けたんだと思います」
金子はそう話した。
キンテロは結局、1分以上余裕を持ったまま独走で今季初勝利を飾った。そして2位には抜け出した小林が入り、4戦連続でマトリックスがワンツーを決めた。
日本に来てから3年が経つキンテロは日本のレースにも順応してきたと話す。
「チームがいい仕事をしてくれたおかげで勝てました。今シーズン初めての勝利なので本当にうれしいです。とてもいい状態でチームが回っているので、このまま仕事を続けてもっと勝利をつかみたいと思います」
Jプロツアー 群馬CSCロードレース4月大会 DAY1 リザルト
1位 レオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ) 3時間0分5秒
2位 小林海(マトリックスパワータグ) +1分9秒
3位 金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム) +1分16秒
群馬二日目:警戒し続ける勝者
二日目は前日より2周少ない18周、108㎞で争われた。スタートからアタック合戦が勃発し、岡本隼(愛三工業レーシングチーム)やホセ・ビセンテ(マトリックスパワータグ)などが隙を見て飛び出そうと動く。
2周目、小林海(マトリックスパワータグ)を先頭に岡本や全日本チャンピオンジャージを着る草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)ら小集団が集団から少し離れる形で抜け出す。集団からこの逃げに乗ろうと追走をかけるメンバーの中にはレオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ)や松田祥位(チームブリヂストンサイクリング)、入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)の姿も。2周目完了時には13人の逃げと集団で15秒ほどのタイム差がついた。
逃げに入った入部は、「気付いたら(逃げに)乗れていて、メンツ見たらこれは地獄だと(笑)。行けたら地獄、千切れたら悔しい、もうどのみちカウントダウンでしたね」と話す。
逃げに井上文成を乗せたシマノレーシングだったが、他のチームのメンツ的にもさらに枚数を増やしたがった。中井唯晶はこう振り返る。
「数的に不利ですし、力的にも厳しいし、多分このまま逃げ切るメンバーだったんで。僕も乗らないといけないと思って3周目の心臓破りの坂でアタックして。ジョインしたは良かったんですけど、そっからまたペースが速くて。脚も使ってたので耐え切れず、ドロップしちゃいました。結局井上1人に任す形になってしまって。
マトリックスは脚が揃ってもいるし、強い2人がちゃんと前に行っちゃうんで、僕らとしても対応しきれなくなってしまう。本当はそこを外しちゃ駄目なんですけど、みんながきついところ行くんで……」
小集団の中で、小林の力がやはり圧倒的なようで、上りでは逃げグループの先頭に”出てしまう”ようなシーンが多く見られたが、明らかに一人踏んでいない様子がうかがえる。一方、後方では苦しい表情を見せる逃げメンバーも。5周目完了時点では逃げは7人に絞られた。
あまりに”勝ち逃げ”すぎるメンバーが乗った逃げグループに集団は、上位が続いている金子宗平などを逃げに入れられなかった群馬グリフィンレーシングチームやイナーメ信濃山形がすぐに牽引し始めた。しかし、無念にも逃げグループの方がラップタイムは早く、タイム差は広がってしまう。
逃げに乗せているとはいえ、9周目にはシマノレーシングが集団を牽引し始めた。タイム差は1分50秒ほどまで広がった。
「みんなで追いかけたんですけど、結局僕らの枚数も減ってって」と、中井は話す。
11周目完了時点でタイム差は2分以上広がった。
草場は、タジキスタンで行われたアジア選手権に出場以降、自身の調子を落としてしまったこともあり、マトリックスとの戦い方を探しあぐねていた。
「本当に後手を踏んだら終わるし、マリノさんが集団にいても崩壊させられるし、マリノさんと逃げてもつき切れするみたいな状況なんですけど。もうちょっと手に負えないというか、どうやって勝てばいいんだろうっていう。もうマトリックス対他のチームみたいに結託してでも、怪しい。それぐらい強いです」
シマノレーシングのコントロールが崩壊するだろうと見越し、12周目の上り区間で渡邊翔太郎(愛三工業レーシングチーム)を連れた草場、そして天野壮悠(シマノレーシング)が集団から抜け出した。
「アタックというよりは、集団もうちょっと小さくしたかったんすけど、実質アタックみたいなっちゃって、3人しか抜け出せなくて。結局集団ももう逃げは潰すけど、逃げて協調はしないみたいな感じでした。足の引っ張り合いじゃないですけど、そういう感じになっちゃったんで」
しかし、その抜け出しも上り終える頃には集団へと吸収された。
15周目、逃げグループから、小林、キンテロ、そして松田が抜けだした。小林のアタック、というよりは上りでのペースアップがきっかけとなり、小林のすぐ後ろにつけていた松田はそのまま付く形となった。
「どんな感じかな、誰が踏めるのかなと思ってちょっと踏んでみたら離れたんで。松田がどう見ても良かったんで、当然ついてくるだろうなと思ってました」と、小林は話す。
3人になってからは、キンテロは最後尾に付き位置。松田と小林で先頭交代を繰り返した。
「もう単純な力勝負がしたかったので、タイム差をキープなり、つけるなりして、手を抜くことはなかったんですけど」
松田は振り返る。
しかし、残り2周のやはり上り区間で松田は小林とキンテロに離された。
「全開で力を出してたのて、もう本当に力の差っていう感じで」と松田は話す。
ここからはもう、これまでと同じ光景だった。小林とキンテロがラスト1周に入り、上りきったところで小林が少し先行したが、フィニッシュライン前にキンテロの合流を待ち、並んでのフィニッシュとなった。
トラック中距離でナショナルチームに所属する松田は、チームパシュートのメンバーとしてトラックをメインに据えたトレーニングをすることが多いと話す。
「ロード寄りの練習はしてないわけで、これより長い上りがあると、もうちょっときついなって感じなんですけど。スピードコースっていう中で、今の実力の中では満足いく結果にはなりました。
今日自体、僕がエースで走らせてもらって、プレッシャーなりでいつもより力を出せたかなと思います。
展開については、これがヨーロッパで走った中で考えるとデフォルトというか、マリノさんが強すぎるっていう声もあって、強いのは確かなんですけど。でもこういう力のレースはすごい好きなんで、今日走れて、一緒に最後までというか、千切られてしまいましたけど、一緒に走れてよかったなと思います」
松田が目指すのは、パリオリンピックのチームパシュートでのメダルを取ること。チームブリヂストンサイクリングの主力メンバーがイギリスのネーションズカップで成果を見せるなか、松田もまたさらなる進化が求められるのだろう。
キンテロと並んでフィニッシュラインを切り、今シーズン4度目の勝利を挙げた小林。いくら勝ちパターンだろうと最後まで警戒を怠ることはなかった。
「松田が残ったときとかも最後の最後までやっぱり怖いですし、警戒してるし、僕、多分人一倍びびってるんで、どんなにいけるなっていうのがあっても最後の最後まで全く油断しないです。もう全く甘く見てないんで。やっぱりレースなので、強い選手たちがいて、いつ足元すくわれるかも分からないですから。
毎回勝ってほっとしてますね。やっぱりチームも全部やってくれて、勝つ責任があると思うんで」
Jプロツアー 群馬CSCロードレース4月大会 DAY2 リザルト
1位 小林海(マトリックスパワータグ) 2時間34分11秒
2位 レオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ) +0秒
3位 松田祥位(チームブリヂストンサイクリング) +24秒
求められるベースアップ、そして国内レースのレベルアップに向けて
二日目、108㎞のレースでの平均時速は42.02㎞/hだった。昨年、12周回・72㎞のさらに短いレースで時速41.59㎞であったり、一昨年のさらに短い60㎞のレースで時速42.52㎞という記録はあるものの、今までと比べてレース全体での平均速度が上がったことが分かる。
ロードレースの平均時速というものは本来であれば地形やその時の環境も大いに関係してくるため、一概に意味があるものとは言えないこともある。しかし、群馬サイクルスポーツセンターのようなクローズドなサーキットでは天候などのよほどの変化がない限り、その平均時速の差はレースの厳しさを表す指標となるように思える。
これは個人的な所感に過ぎないが、このような距離の短いサーキットレースが多い日本のロードレースは、ダイナミックな地形を活用し、スピードの緩急が激しいヨーロッパのロードレースと比べるよりも、トラック競技の中距離レースと比べた方がおよそ近いような気がしている。
東京オリンピック前後でトラック中距離のレースを見ていて気づいたことがある。
しごく当たり前のことではあるが、日本のレースに比べてそもそもの平均時速が速い。トップの選手が流していると感じる速度が他の選手たちにとってはものすごくきつい速度なのだ。いくら一瞬のパンチ力やスプリント力ががあったところで、ベースが速いと感じてしまえば、余裕はなくなり、その爆発力を披露する機会は失われる。
今回のレースではそのような状況が起こったように思える。小林やキンテロなどベースが高い選手が中心となってレースが展開すると、その他の選手たちは手も足も出せない状態となる。
小林は逃げに入ったとき、「ほぼ脚を使っていない状況で、みんなで走ってますけど、僕からしたら1人で練習してるときとあまり変わらない強度」と話していた。
また、本人的にはアタックとも言えないほどのペースアップでも周りがちぎれていった。
草場は小林のことを「僕らのVO2max(有酸素能力の最大容量)がFTP(1時間維持できる最大出力)みたいな、一段落全然違うみたいな感じ」と表現していた。
一緒に走っている選手たちはもちろん、見ている側にだってベースの違いは明らかだ。
現状では、”ここでこうすれば、もう少し我慢すれば、勝てたかもしれない”といったレベルではないように思う。先週、コロナ禍でのレベル差が広がったとJCLの方を走る小石祐馬が話していたが、Jプロツアーでもその差はより顕著に見える。
まずは小林らのペースに合わせられるようにベースアップを図る必要があるのだろう。しかし、それこそ一朝一夕に解決できるものではない。ただ、国内でのレースのレベルを上げるためにも、指標となる選手がいることは間違いなくいいことだ。
それでも、いつまでもマトリックスの独壇場を許していると、強い選手が抜けた途端にレースのレベルはまた落ちかねない。
同じ週末にイギリス・グラスゴーで行われていたトラックネーションズカップの男子マディソンでチームブリヂストンサイクリングの窪木一茂と今村駿介が銀メダルを獲得したことは、おそらくこのベースとなる部分の強化に成功してきている証となったはずだ。
彼らの目標はパリオリンピックでのトラック競技で成績を出すこと。世界のレースを経験した彼らが国内レースに戻ってきた時にその実力が明らかとなるだろう。
小手先をいくら鍛えたところで、高い目標を持って努力を続けた人間に勝てる可能性は低い。積み上げて積み上げて、ようやく結果はついてくる。逆に考えれば、明確な目標や指標があることで日本人だろうと、国内レースだろうといくらでも改善のしようがあるということも言える。
次戦は今シーズン国内で初めてのUCIレース、ツアー・オブ・ジャパン(TOJ)だ。小林はTOJでの総合優勝を目論む。
「僕はやっぱり何回も戦ってるんで、すごく難しいことだとも分かってますし、おそらくまだ足りないんで。このままじゃ総合優勝もできないと思ってるんで、まだこれからもう1段階、2段階上げていかなきゃなって思ってます」
富士山ステージという特殊なヒルクライム一本勝負のコースについては、「増田(成幸)さんとかキナンのマルコス・ガルシアとか、ああいう選手の方が富士山は強いと思うんです。だけど、僕は総合優勝を目指したいんで、マンセボにも『お前こんなんじゃやられんぞ、マルコス・ガルシアに』って言われてるんで(笑)。まだまだやっていかなきゃ、上げていかなきゃいけないと思うんで、機材の面もそうですし、しっかり富士山を狙えるような状態で挑みたいですね。とにかく僕はチャレンジしたいです、そこに」
今がピークでは全くないと言い切った小林にとってはまだまだ序章に過ぎない。小林が言う「本物」への道はもっと先にある。
全日本実業団自転車競技連盟
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