2022TOJ コメントレポート 第3ステージ EF・NIPPOの岡が逃げ切り小集団スプリントを制す
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昨年に引き続き短縮日程で開催された三菱地所プレゼンツ ツアー・オブ・ジャパン2022。今年は信州飯田ステージが追加され、5月19日から全4ステージにて行われた。レースを振り返りつつ、コメントレポートをお届けしていこう。
決まらない逃げ
4日間のツアー・オブ・ジャパン(TOJ)ももう大詰めだ。前日の富士山ステージを終え、およそ80㎞先の神奈川県相模原市へと移動した一行。
5月21日、第3ステージは昨年新設され、2回目の開催となった相模原ステージ。相模原市にある橋本公園をスタートして、ニュートラル区間を含む11.1㎞を経て、鳥居原ふれあいの館前周回コースへと進む。13.8㎞の周回を7周する、総距離107.7㎞のコースで行われた。昨年の大会では逆回りだったがアップダウンが続くこのコースで、ホセ・ビセンテ(マトリックスパワータグ)が逃げ切り勝利を収めている。
スタート地点は曇り模様。しかし、宮ヶ瀬湖近くの周回コースでは朝から既に大きめの雨粒が降り注いでいた。
ニュートラル区間を終えて、アクチュアルスタートが切られると、まず最初に飛び出して行ったのはシマノレーシングの天野壮悠と京都産業大学の廣中聖。だが2人の逃げはすぐに潰された。
これまでの2ステージで勝利を挙げているのはまだチーム右京のみということで、今回のステージでは多くのチームがステージ勝利のために盛んに動きを見せる。新たなアタックが繰り出さては潰されが繰り返された。
山岳ジャージ争い
翌日の最終ステージで山岳ポイントは設定されておらず、このステージでジャージ着用者が決まる。
1周目終了時に設定された1回目の山岳ポイントへ向けて少し集団がバラけた。その中でも小林海(マトリックスパワータグ)は前日までの獲得ポイントを受け、昨晩のチームのミーティングにて山岳賞ジャージを狙いにいくことを決めていた。
「今(小林は)総合5位だと思うんですけど、結局僕たちが望んでいる結果ではないので、(ステージ)勝利かやっぱり何かジャージを持ち帰らなければならないので、自分たちから動いて積極的に取りに行こうと思ってました」と小林は話す。
小林は1回目の山岳ポイントを先頭通過するが、当日山岳賞ジャージを着用していたベンジャミン・ダイボール(チーム右京)が小林をマーク。二番手に入った。
「1回目取れば大丈夫だろうと思ってたんですけど、やっぱり1回目はダイボールがすぐについてきて2番手で通過したんで、これはもう1回取らなきゃ駄目だってなって」と、小林は振り返る。
そのまま2周目に入り、また新たな逃げが生まれるが集団もまだ近い。明日は完全フラットなスプリントステージであるため、総合でもタイム差をひっくり返すにはこのステージしかチャンスはない。そのために総合4位につける増田成幸(宇都宮ブリッツェン)も抜け出そうと自ら動くシーンも多く見られたが、マークの目は厳しかった。
小林自身も総合のジャンプアップのために抜け出しを図ろうとしたが、チームのステージ勝利のために断念。
「増田さんともタイム差が少ないんで、(逃げに)行けたら僕は行きたかったんですけど、もちろん他の総合上位の選手たちからしたら(自分を逃がすことに)何のメリットもないんで、当然付き位置されて難しいなと思って。僕が何かいろいろやっちゃうという結局チームの勝ちを足引っ張っちゃうので」
1周目と3周目のスプリントポイントでは、前日でもポイントを積み重ねてきている渡邉歩(愛三工業レーシングチーム)が先頭通過。スプリントポイント通過のまま石上優大(EFエデュケーション・NIPPO デヴェロップメントチーム)とレオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ)とともに3人の逃げを形成するが、それもまだまだ逃げたいメンバーたちに吸収された。そのうち、集団はネイサン・アールがリーダージャージを着るチーム右京がコントロールし始める。
3周目完了時の2回目の山岳ポイントでは、少しキンテロが先行しているのをいいことに小林はキンテロにポイントを潰させた。
「ちょうど良くあそこで1人でレオが行ってたんで、レオを抜くときにレオに踏め!って言ったんです。2番手で通過したら僕が山岳取れるからって言って。レオはそのまま踏んでくれたので」
小林、キンテロ、ダイボールの順で通過したことで、ダイボールのポイントを1ポイント小林が上回った。これにより小林は山岳賞ジャージを手中に収めた。
逃げ切りへ
レースも終盤を迎える頃、宮ヶ瀬湖付近では雨がさらに強まってきた。
山岳ポイントを終え、4周目の下りに入ると、5人が集団から抜け出した。逃げ切りを予想していた岡篤志(EFエデュケーション・NIPPO デヴェロップメントチーム)も全開で差を広げにかかる。
ワールドチーム、EFエデュケーション・イージーポストの下部組織であるEFエデュケーション・NIPPO デヴェロップメントチームの出走者は全員日本人だったが、わざわざヨーロッパから戻ってきたということもあり、結果を必要としていた。
「今日は絶対逃げ切りで勝負が決まるって思っていました。総合でもかなりタイム差も開いてたんで、総合に関係ない選手であれば、逃がしてくれるだろうし、リーダーチームが強かったんですけど、総合関係ないメンバーだったらむしろ逃げ切ってもらった方が都合がいいだろうなっていうのがあったんで、利害の一致するメンバーで揃えば絶対に逃げ切れると思いました。そこに絶対乗っていくっていうプランでスタートしたんですけど、他のチームメイトもみんな序盤から動いてくれてて、自分も山岳ポイントの後で、すごくペースが上がったので、そのカウンターでいけば決まるんじゃないかなと思って、全開で自分からアタックして。そこでうまく決めることができました」
岡はこう振り返る。
抜け出した5人は、レース序盤から積極的な動きを見せる天野、岡、鈴木譲(愛三工業レーシングチーム)、山本元喜(キナンレーシングチーム)、山本哲央(チームブリヂストンサイクリング)。
チームブリヂストンサイクリングとしては、全員を逃げに送り込む気でいたと山本は話す。
「総合にかすりもしてないので、とにかく逃げに人数を送り込んで前で勝負というプランでした」
集団からさらに、香山飛龍(弱虫ペダルサイクリングチーム)、新人賞ジャージを着る宮崎泰史(宇都宮ブリッツェン)、ライアン・カバナ(ヴィクトワール広島)がブリッジを成功させるが、タイム差をつける前の段階で宮崎はチェーンを落としてしまい、ストップ。
宮崎は脚を残していただけに悔しさを見せた。
「(ペダルを)回して直そうと思ったんですけど、もう直らなくて一回バイクを降りて直すしかなくて。ちょっと悔しいです。(逃げられていたら)おいしかったですね。(逃げ切りで新人賞の)タイム差を稼いで余裕を持つことができたので。総合も3分あれば、結構ジャンプアップの可能性もあったので……」
宇都宮ブリッツェンとしては、このステージでの勝利を狙っていたと宮崎は話す。
「本当に今日は勝ちたいチームが多いので、(アタックの)打ち合いになるだろうなとは思っていて。誰までをチーム右京が許してくれるかみたいな感じになっていて、増田さんもちょいちょい動いてました。
(チームとしては)普通に今日は勝ちが欲しくて、その動きを意識していたんですけど、(逃げが)決まったタイミングでドロップしちゃったので……。まあ運というか、焦りはあったと思いますし。チェーントラブルって言っても今の機材はめちゃくちゃいいものなので、運のせいだけじゃなくて、サングラスがちょっと曇ってて段差が見えなかったとかもあるんですけど、何かしら自分の非がないと、最初の機材では(チェーンは)落ちないと思うので、ちょっとやっちゃったなという感じですね」
逃げのメンバーは総合には関係のない8人となり、集団に対してやっとタイム差をつけ始める。集団はチーム右京が総出でコントロールを再び始めた。
しかし、5周目に入る頃、集団からさらにナショナルチームの3人、留目夕陽、寺田吉騎、大河内将泰に加えて愛三工業レーシングチームの中川拳が抜け出す。それに触発されるように、マトリックスパワータグのフランシスコ・マンセボやキンテロを含む合計11人の追走グループができあがると、集団とのタイム差を徐々に稼いでいく。その時点での逃げグループと集団とのタイム差は2分半ほど、追走と集団とのタイム差は20秒ほどに広がった。
6周目後半には追走から逃げグループが見える範囲まであっという間にやってきた。
追走と合体した逃げグループは19人の大所帯となる。集団とのタイム差は2分20秒ほどと、逃げ切りはほぼ青信号と言える状態に持ち込まれた。
追いついたばかりのマンセボが逃げグループを早速コントロールし始めると、逃げグループから溢れるメンバーもあらわれ始める。
最終周回、コントロールラインを逃げグループが通過すると下りでキンテロが飛び出した。下りきった先で、カバナ、山本哲央の2人が合流したが、ラスト6km地点で3人も吸収された。
脚にかなりの余裕を持った山本哲央が「脚を削りあってからスプリントした方が勝ち目があるかなと考えていました」と再び仕掛けるが、今度はビセンテが対応しつつ、自らもアタックを仕掛ける。しかしそれも吸収されると、逃げグループも10人ほどにまで絞られた。
最後の上り区間に入ると、マンセボが一本引きでペースアップを開始。キンテロを後ろにつけ、最後の上りスプリントに向けて態勢を整える。
しかし、最終コーナー前のラスト200mで加速した岡が先着してコーナーを曲がる。キンテロと山本哲央が追うが、上りスプリントをぐいぐいと踏み込んだ岡は誰も横に並ばせることなくフィニッシュラインを切った。
プレッシャーから解き放つ勝利
逃げグループにチームとしては単騎で入り、しっかりとスプリントを勝ち切った岡だったが、これまでのステージでは調子が上がらず、勝てるかどうかの自信は薄かったと話す。
「ラスト1周に入る前に、結構な人数が後ろから追いついてきて、これは難しいなというふうに思ってたんですけど、そこからはチームメイトがいなかったんで、他のチームの力を使いながら、冷静にうまく走れたのが良かったのかなと。自分が強い走りができたかっていうとそうではないんですけど、一番脚を残せていたのかなとは思います。
最終周にキンテロ選手がアタックしたり、ホセ選手がアタックしたりとかちょっと荒れたんですが、最終的にマンセボ選手がコントロールして、まとめる形にしてくれたので、自分としては、落ち着いてスプリントできたので良かったです。
正直なところ、結構コンディションに自信がなかったので、ヨーロッパから戻って、ちょっとコンディションを落としてしまっていて、飯田ステージもかなり走れなかったんで、ちょっと自信を持てていなかったです。(だから)最後まで一応ハンドルも投げて。
このTOJ、あまりいい状態で臨めてなかったんで、やっと勝ててほっとしてます」
久しぶりに日本のレースを走る岡だったが、チームとしても個人としても”ヨーロッパに挑戦する選手”としてのプレッシャーを感じていたようだ。
「(ヨーロッパとは)レーススピードとかが違うんですけど、でもやっぱきついのは同じで、自分から動かないといけないし。ただやっぱり、ヨーロッパに挑戦してる身としては、日本のレースは勝って当たり前みたいなふうに見られると思うんで、逆に日本の国内チームの選手に負けてるようだったらだめだって自分自身も思ってたんですけど。その中で最初の2日間、あまり良い走りできてなかったんで、すごい自分自身プレッシャーを感じてたんですけど、少しほっとしてます」
リーダージャージはこのステージを終えて、ほぼ確定の状態。
アールは、「今日は短いレースでしたが、難しいステージでした。とてもスピードが速くて、特に下りは速かったです。そしてダウンヒルはものすごく寒かったです。今日はどのチームもステージ勝利を狙ってきたと思うんですが、チームとしてこのグリーンジャージをキープすることにフォーカスしてそれが成功しました」と話した。
翌日のステージについては、「最終ステージまでこのグリーンジャージを着て走れることにとてもワクワクしているし、誇らしいです。特別なことですが、あまり興奮しすぎないように、まだ1ステージ残っているから、東京ステージの最後まで気をつけていきたいです。
明日はチームメイトのレイモンド(・クレダー)がいるので、彼にプレッシャーをかけるわけではないですが、明日は彼の日になるんではないでしょうか」と、最後の勝ち星にも狙いを定める。
山岳賞ジャージもまた最終日のステージを走り切れば確定だが、ポイント賞ジャージに関してはまだまだ多くの選手にチャンスがある状態だ。
どフラットなコースでどのようなスプリント対決が見られるだろうか。
最終、東京ステージは11時よりスタートする。
中継はこちらから。
ツアー・オブ・ジャパン2022 第3ステージ リザルト
ツアー・オブ・ジャパン2022 第3ステージ リザルト
1位 岡篤志(EFエデュケーション・NIPPO デヴェロップメントチーム)2時間33分37秒
2位 レオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ)+1秒
3位 山本哲央(チームブリヂストンサイクリング)+1秒
個人総合
1位 ネイサン・アール(チーム右京) 8時間14分19秒
2位 ベンジャミン・ダイボール(チーム右京) +7秒
3位 トマ・ルバ(キナンレーシングチーム) +1分36秒
ポイント賞
レオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ) 26pts
山岳賞
小林海(マトリックスパワータグ) 23pts
新人賞
宮崎泰史(宇都宮ブリッツェン) 8時間19分16秒
三菱地所 presents ツアー・オブ・ジャパン2022 第3ステージ 相模原
⽇時:2022年5⽉21⽇(土曜⽇)
コース:パレード4.6km+11.1km+13.8km×7周=107.7km