2022Mt.富士ヒルクライム 主催者選抜レースレポート
目次
6月12日(日)、富士スバルラインを使用したヒルクライムイベント、「富士の国やまなし」第18回Mt.富士ヒルクライムが行われた。
今回はJBCFやJCLを走る国内プロチームの選手も主催者選抜クラスと一緒にエキシビジョンとして参戦。主催者選抜クラスでは男女とも初優勝者が誕生した。大会の様子や主催者選抜レースを振り返る。
富士山でのお祭り大会
日本最大級のヒルクライムイベントである第17回Mt.富士ヒルクライムが6月12日に開催された。日本一の山である富士山を上る通称『富士ヒル』は、富士北麓公園をスタートし、富士スバルラインを通って富士山五合目にゴールする総距離25㎞、獲得標高1270m、平均勾配5.2%のコースだ。
富士ヒルは初心者から本格レーサーまで集まる人気の大会であり、特に日本有数のアマチュアトップクライマーたちが顔を揃える主催者選抜クラスは毎年話題を呼んでいる。
今年は主催者選抜クラスと一般クラスを含めて、8211人のエントリーがあり、出走者に対して完走率はなんと99%だった。
コロナ禍に入ってから一般カテゴリーでは、密を避けるために自身のタイミングで自由にスタートし、計測開始地点通過からフィニッシュ地点までを計測するネットタイムが採用されている。
主催者選抜クラスのみ、先頭の選手が計測開始地点を通過した時間を各選手のスタートとし、フィニッシュまでを競うグロスタイムが採用された。
なお、今大会は初めてジャパンサイクルリーグと日本実業団競技連盟のJプロツアーを走る国内プロ選手たちがエキシビジョンカテゴリーとして主催者選抜男子クラスと一緒にスタートした。
また、前日には富士北麓公園にて受付と多数の企業が出展するエキスポ2022も行われ、試乗や買い物など多くの来場者で賑わった。
激戦必至の男子選抜+エキシビジョン
前日の午後から夜中に降り続いた雨はスタート前には止み、富士山五合目でも雨は止んでいるという情報が入った。
朝6時半に主催者選抜クラス男子と初のエキシビジョンクラス合わせて102人の選手たちがスタートを切った。
計測開始地点から一気にスピードが上がる。スタート前から前方を確保していた豊田勝徳(トレックミニバスレーシング)や過去に優勝経験がある中村龍太郎(チームコバリン)がスタートアタックを仕掛けた。
序盤から早速、前年大会2位の加藤大貴や前年優勝者の池田隆人(TEAM ZWC)などが集団先頭で動く姿が見える。その中に国内プロチームに所属するトマ・ルバ(キナンレーシングチーム)や米谷隆志(リオモベルマーレレーシングチーム)、佐藤光(稲城フィッツ クラスアクト)らが入っている状態だ。しかし、国内プロのメンバーも最多でも1チーム2人という構成であったため、コントロールなどを行う様子はなかった。
その中で特にペースを上げるような動きを見せていたのは加藤だった。
「僕は大体、レースでは前に行ってレース展開を作ってるんですけど、今日はプロも出ていたのでどういう展開になるのかなと思いつつ。実際はプロがそんなに積極的にガンガン引いてるわけでもなかったんで、じゃあいつも通りの走りをしようかなと思って」
距離を重ねるごとに人数が絞られていく。中盤に入る前の時点で、15人ほどの小集団となった。エキシビジョンのメンバーで残ったのは佐藤と米谷のみだった。
池田もまた序盤から仕掛けて人数を減らしたいと考えていた。また、前年チャンピオンというプレッシャーも少しはあったと話す。池田は、今年からリオモベルマーレレーシングチームに所属し、ロードレースも走る。
「ロードレースのために高強度とか、やっぱり外を走る頻度をちょっと増やしたりっていうのはしました」と話したが、そこまでトレーニング内容自体は変えていないと話していた。
もう一人、積極的にペースアップを図っていたのは、昨年は一般クラスの男子19~29歳カテゴリーで4位に入った真鍋晃(EMU SPEED CLUB)。
10kmほど進んだところで真鍋が先頭に出ると、その後輪につけたのは加藤、池田、板子佑士、久保田翔太郎(EMU SPEED CLUB)の人名だったが、久保田が途中でドロップ。真鍋は「来るかなと思ってた人が全員来てた感じでした」と話す。
ちょうどラスト15km地点では、去年の1位の池田、2位の加藤、3位の板子に真鍋晃(EMU SPEED CLUB)という4人まで絞られた。
エキシビジョンで唯一集団に残った佐藤だったが、先頭グループには入ることはできなかった。
「普通のレースと違って、上りオンリーなのでロードレースと全然違くて。みんなえげつないトレーニングを積んできているんだろうなと思いつつついて行ったんですけど、10km地点で千切れちゃいましたね。そこからは自分との戦いでした」と佐藤は振り返っていた。
4合目の手前のあたりで真鍋が先頭に出るとペースアップ。池田と板子はつくことができず。加藤のみが真鍋の後ろにつき、後続との差を開いていった。
「ちょうど4合目のちょっと手前の辺りで、真鍋さんが先頭に出たときにペースアップをされて。それにちょっとついていくのが厳しいかなと思って見送ったら、もうそのまま行かれちゃって」
池田は振り返る。離されてしまった後は、板子と二人で回しながらフィニッシュへと向かった。
真鍋と加藤は先頭交代をしながらフィニッシュまでの距離を縮めたが、お互い引き離すチャンスを伺っていた。しかし加藤の本領は激坂だった。加藤にとってこの富士スバルラインのような緩斜面は「苦手」な分類だった。
「僕は激坂が結構好きで、緩斜面めちゃめちゃ苦手なんですよね。激坂があってもすぐ終わっちゃうじゃないですか。(勾配が)8%でも多分300mとか400mぐらいで終わっちゃうので。だから結構苦手なんですよ」
ラスト7kmほどを残したところで、先頭に出た真鍋がアタックに出た。
「最後はもう引き離そうと思ってアタックしました。一番きついところだと思うので、もうここしかないと思って。そこの後、追い風になって、最後の向かい風頑張って耐えようかなと。
最後まで2人で行ってしまうと、最後スプリントとかになったらあまり自信がなかったんで、何とか1人になりたいなと思っていて」
真鍋にはそこまでの展開で気持ち的にも余裕があったと話す。一人になってから、フィニッシュまで残りおよそ10分は強い向かい風と戦うこととなり、後ろを振り返りつつ踏んだ。
一方、加藤は真鍋を視界に捉えてはいたものの失速を恐れ、ペースを保った。
「若干終盤にかけてはパワーも落ちてしまったというのはあるんですけど、前がそんなに離れたわけじゃなくて、ずっと見えてたんで。この範囲でいけば、追いつこうと思えば脚を使って追いついたかもしれなかったんですけど、その後失速する恐れがあったので、今のペースを維持しつつ2位をキープして、後ろが追い付けないようにという走りをしましたね」
真鍋が一人、最後のトンネルを抜けてフィニッシュへと向かう。そしてピースサインでフィニッシュラインを切った。
香川に住んでいるという真鍋は、「全国の速い人と走れるいい機会かなと思って」と今大会に出場。本格的にトレーニングを始めたのは2020年の冬だったそうだ。去年ヒルクライムの大会に出始めたばかりで、ノーマークとされていた存在である真鍋が富士ヒル男子選抜で初優勝を飾った。
57分7秒というタイムで走り切ったことについて、「今日は最後の方で向かい風がきつくて、そんなに速度が出ていなかったので、それを含めても大体予想通りかなと」と真鍋は話した。
「今回は全然無名だったと思うので、そこまでマークとかもされていなくて動きやすいことも多かったんですけど、優勝したので次からはマークもされるかなと思います。今年この先、乗鞍とかも出るので。来年の富士ヒルも出たいと思っています」
同じ富士山でも別ルートで激坂のふじあざみラインを41分台で上りきった日本人記録を持つ加藤は、去年に続く2位、57分39秒で走り終えた。
「いつも優勝まで一歩届かないんですけどでも、このメンバーの中でこの順位なんで全然。本当は優勝したかったですけど、悔しいですけど、まあ誇れる順位なのかなって思ってます。
富士ヒルクライムは、もう4~5年前ぐらいまでは59分とか1時間とかが優勝タイムだったのに、ここ2~3年で57分とか56分が出てきて、ちょっとタイムがインフレしてて(笑)。僕も4~5年ぐらい前に出たときは1時間ぐらいで(優勝争いに)残っていたときもあったんで、まさかそのときに57分で上るとは思ってなかったですけど。僕もちょっとは成長してるのかなと」
そう言って笑い、加藤は次戦に予定しているツール・ド・美ヶ原やマウンテンサイクリングin乗鞍に向けて鋭気を蓄える。
今回大会は、北海道で行われたUCIグランフォンド、ニセコクラシックと日程が被ってしまっていたため、そちらに出場した選手も多いはずだ。
次のヒルクライマーたちの大舞台は、8月28日に予定されているマウンテンサイクリングin乗鞍となるだろう。
今回の1位~3位の選手たちは乗鞍にも意欲を示していた。今回は3位となった池田もまた、「ぜひ乗鞍で今日強かった2人と、ニセコに行ってる方もいますし、いろんな強豪の方にリベンジしたいなと思います。今年も上位を目指して頑張ります」と話した。
女子だけの戦い
男子の主催者選抜+エキシビジョンがスタートした2分後から女子の主催者選抜の8人がスタートを切った。
ローテーションをしながら走っていると、佐野歩(Infinity Style)、テイヨウフウ、望月美和子(TEAM ORCA)、宮下朋子(TWOCYCLE)の4人に絞られた。
「ずっとペースは一定な感じで回していて、気づいたらその4人になっていて。もう4合目ぐらいまでずっと回していました。別に誰かがアタックするわけでもなく。アタックはしないけど、多少のペースはちょっと上下するみたいな状況で」と佐野は振り返る。
選抜女子はスタート時間の都合上、一般カテゴリーで追いついてきた選手たちと混走状態になるため、男子のグループに乗ってフィニッシュまでたどり着けた選手が優勝というパターンも多くあったそうだ。しかし、今回はその絞られた4人で女子だけでレースをしようという話をしたという。
「男子には付いて行かないようにして、女子でレースをしようっていうのを、一緒に走っている4人、篠さん(ヨウフウ)と望月さんと宮下さんと話をして。その方がレースをしていて楽しいし、やっぱついていける人が勝っちゃうのは楽しくないなと思って」
佐野はこう話した。
そして、勝負が動いたのは終盤も終盤だった。前年優勝者の望月が最初にアタックを仕掛けると、「望月さんには勝たせたくなかった」と佐野がつく。佐野は、そのまま望月を抜いていくと後ろにつかれてしまうと考え、隣を走っていた男子の集団の間を通りつつ、別の位置から仕掛けた。それについたのはヨウフウのみだった。
最後のトンネルを抜け、少しヨウフウが先行する形となったが、ヨウフウの右側から佐野がスプリント。ほんの僅かの差で佐野がヨウフウを差し、優勝を決めた。
「残り10mぐらいのときは2位の方とちょっと距離が空いたので、自分の脚も結構限界きてるなと思ったんですけど、最後ゴールを直前にはこれは差せるなって思って差しました」
富士ヒル6回目の出場で初優勝を飾った佐野は、下りや平坦があるコースよりも勾配がきついコースの方が自分に合っていると話したが、平日の仕事前後や土日には対策として、マトリックスパワータグの安原大貴とアップダウンのコースを走るトレーニングを行ってきたという。
「それをやってなかったらもう本当に今日は無理だったと思います」と佐野は振り返る。
富士ヒルチャンピオンという称号について、「まだ全然実感なかったんですけど、うれしいですね。夢じゃないことを祈ってます」と笑った。
「富士の国やまなし」第18回 Mt.富士ヒルクライム リザルト
主催者選抜クラス男子
1位 真鍋晃(EMU SPEED CLUB) 57分7秒70
2位 加藤大貴 57分39秒23
3位 池田隆人(TEAM ZWC) 58分7秒21
エキシビジョンレース
1位 佐藤光(稲城フィッツ クラスアクト) 59分58秒40
2位 吳 之皓 (ブライトンレーシングチーム) 1時間0分42秒07
3位 米谷隆志(リオモベルマーレレーシングチーム) 1時間0分43秒55
主催者選抜クラス女子
1位 佐野歩(Infinity Style) 1時間15分3秒32
2位 テイ ヨウフウ 1時間15分3秒39
3位 望月美和子(TEAM ORCA) 1時間15分14秒40