Jプロツアー第6戦&7戦@修禅寺 無敵の小林海、そして全日本ロードへ向けて
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6月18日~19日の日程で静岡県・日本サイクルスポーツセンターにて行われたJBCF東日本ロードクラシック修善寺大会。Jプロツアーの第6&7戦の今大会で勝利を攫ったのはまたしても小林海(マトリックスパワータグ)だった。コメントでレースを振り返りつつ、今週末に迫った全日本への展望を見据える。
第6戦:ショートコースでも磐石
日本サイクルスポーツセンターのロード用サーキットコースの内側部分にMTBコースが作られ、そこで東京オリンピックのMTB競技が行われたことにより、しばらくの間はコース全体が立ち入り禁止となり、ロードレースは開催されていなかったが、日本実業団競技連盟(JBCF)のレースが久しぶりにこのコースにて行われた。
6月18日、小雨が残る中、13時15分には東日本ロードクラシック修善寺大会 Jプロツアーカテゴリーがスタートを切った。初日は、5㎞サーキットコースを10周回の50㎞という短い距離でのレース。
1周目から早速逃げを作ろうと多くのメンバーが飛び出す。
3周目にはマトリックスパワータグのホセ・ビセンテ、弱虫ペダルサイクリングチームの入部正太朗、シマノレーシングの中井唯晶と横山航太、愛三工業レーシングチームの渡邊翔太郎という5人が抜け出した。
中井は逃げに入ったことについてこう考えていた。
「最初からマトリックスの選手や外国人選手に真っ向勝負したらこのコースで勝てないと分かっていたので、前待ちで逃げて、一定で踏んで、強い人が追いついてきたのに対して合わせていくという展開を考えていました。自分自身、全日本前でコンディションもすごく上がっていて、ちゃんとに逃げを作れて、タイムギャップ見ながら、余裕を持ちながら走っていました」
一方、ここまで6戦中5勝、さらには全てで表彰台に乗ってきているマトリックスパワータグの小林海や、普段はジャパンサイクルリーグを走り、国内リーグが分化してから初めてJBCFのレースに参加することとなったキナンレーシングチームのトマ・ルバは、集団の先頭で睨み合う様子が見られた。
逃げとのタイム差は25秒ほどに広がる。
半分の5周目に入るところではリーダージャージを着る小林自らが先頭に立ち、タイム差の調整を行いつつ、レースを止めないよう集団を動かそうと意図していた。
「ああいうときに強い選手が動かないとレースが止まっちゃうんですよね。それが僕は嫌なので。別にそんなに踏んでないんですけど、前にいることによってレースが動き続けて、まだ集団が生きている状態になる。そもそもの危機回避の意味もあります。あとこのコース、後ろにいるから回復できるってわけじゃないんで。前にいて、どんな様子か見て、自分でやりたいよう集団を動かしたいのでタイムがあまり広がりすぎないというのは大事でした」
小林はこう語った。
5周目途中では逃げの5人がバラけ始め、横山がドロップ。集団とのタイム差はスタート/フィニッシュラインのあるホームストレートで目視できるほどに縮まった。しかし6周目にタイム差は再び開き、30秒ほどに。
7周目に入る頃、集団から小林、ルバ、レオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ)らがペースアップ。一気に逃げグループに追いつき、マトリックスは先頭に3人と磐石の態勢。
逃げグループにいた中井は、「正直、僕と入部さんと渡邉さんとマトリックスのホセの4人でいいペースで走ったのに、それで追いついてきたので、多分相当なパワーできたのではと思っていました」と話す。
また、そのペースアップによって集団は崩壊。先頭は12人に絞られた。これは小林の目論見通りでもあった。
「20秒に1つ、30秒に1つと中継地点ができちゃうと、いつかそれが繋がっちゃってもう1回振り出しに戻っちゃうんです。残り2周とかでそうなっちゃうと、1~2周のペースアップには耐えてくる人たちがいるんで。そうすると僕たちはもうしんどくなってしまう。それだったらもう僕が踏んで、ついてこれる人だけで前にブリッジした方が、レオ(キンテロ)もついてくるでしょうし、そうしたら前がホセ、レオ、僕の3人になるんで勝率はすごく上がると思って踏んでいました」
ラスト2周に入ったところの上りでルバがアタックすると、小林、キンテロ、入部がすかさずつく。
序盤の上りが終わると、一旦後続とまとまり先頭は10人となった。その中で最多人数を残したマトリックスからはビセンテが積極的にアタックをかける。さらに、1人かつスプリントにはしたくないルバはビセンテのアタックに反応しつつ、自らペースアップやアタックを仕掛けていく。
先頭グループに残っていた入部は、「もう各チームの枚数揃えてるところが攻撃してお互い見合ってというのの繰り返しで。みんな脚を残してるんですけど、探り探りのアタックみたいな感じで、それでもやっぱりマトリックスのホセが積極的に動いていて、(小林)マリノとキンテロは控えてる状態で、それを対処してるのがほとんどトマ・ルバ。
最初から逃げているとそこそこ脚使ってるんで、うまく立ち回る方に切り替えて、そこがやりあってるところを、後ろからちょっと一歩引いたところで見ていてという感じでした」と、振り返る。
ラスト一周、先頭は7人まで絞られた。その中にももちろんマトリックスは3人全員を残した。
最後の上り区間でまたしてもビセンテがアタック。残り1.5kmほど、ビセンテに追いつこうとした選手が止まったタイミングで小林が一人飛び出した。その後をすぐにルバ、そしてキンテロがマークする。
それでも他チームで反応してくるのはルバだけだろうと見越していた小林は、下りに入って間が空けば勝つだろうと確信した。
そのままフィニッシュラインに一人現れた小林。自身の今シーズン8つの目標の内の一つが今シーズンで5勝することだったようで、手を開くように5本の指を立ててフィニッシュラインを切った。
第7戦:予想通りの一騎打ち
6月19日、東日本ロードクラシック修善寺大会の二日目。前日の天気から一転、雲はかかっているものの雨は上がり、気温は26度まで上がって蒸し暑い気候となった。Jプロツアーは前日と同じく5㎞のコースを前日のほぼ倍、22周する110㎞のレースが行われた。
1周目の白川幸希(シエルブルー鹿屋)のアタックに対して、松原颯祐(備後しまなみeNShare)がつく。さらに次の周には小森亮平(マトリックスパワータグ)、花田聖誠(キナンレーシングチーム)、天野壮悠(シマノレーシング)らが追いついた。
3周目に入る頃には、前日にも逃げていたホセ・ビセンテ(マトリックスパワータグ)らを含んだ11人の逃げとなった。ここで最多数を入れたのは、シエルブルー鹿屋で白川、伊藤雅和、冨尾大地の3人。
チームの選手兼監督である伊藤は、「このコースは上って下ってみたいなコースだから、集団にいてもちろんメリットもあるんだけど、そこまで休めないし、前に行っても後ろにいてもあんまり変わらない。もう行けるんだったらみんななるべく先手先手で前に行こうと前日に決めていました」と話した。
5周目にはタイム差は50秒ほどまで広がった。集団からは、前日に「明日も最初から行った方がいいんですかね」と話していた入部が逃げに乗ろうと一人飛び出す。それが逃げグループへの最終便となった。
次の周には入部が逃げに追いつくと、12人の逃げとのタイム差は1分24秒に広がり、集団は弱虫ペダルサイクリングチームやシマノレーシングが先頭に出た。
途中、集団にいたトマ・ルバ(キナンレーシングチーム)ら数名が落車。ルバは、8周目のスタートラインで代車に乗り換えた。
集団はマトリックスが一度先頭に立ち、タイム差を縮めていくが、リオモベルマーレレーシングチームなどが集団コントロールを代わる。これは今回のエースとして参戦した若手の寺田吉騎がチームでの動きを望んだためだった。
「今回、吉騎がフランスから帰ってきてたので、吉騎もこのコースそんなに得意じゃないけど、全日本に向けていいレースができたらいいなと思ってたので。そんななかで、吉騎がチームで動きたいという話になって、才田(直人)と米谷(隆志)で引き始めたんだけど、米谷はちょっとあんまり調子良くなくて、才田の1人引きになっちゃったけど」
リオモベルマーレの宮澤崇史監督はこう振り返る。
気温もだいぶ上がってきた。選手たちは毎周回のようにスタートラインで補給を受け取り、氷を背中に入れたり、水を頭からかけたりして暑さをしのいでいた。
13周目、補給をとりながら逃げの中から渡邉歩(愛三工業レーシングチーム)と伊藤が少し離れる。
「集団のペースも上がらなそうだったし、もうとりあえず脚を使い切って終わりたいっていうのもあったし、とりあえず様子見で1回、歩と抜けたら、あんまりみんなついてくる感じがなかったから」と伊藤は話した。
追走とは十数秒の差をつけたが、次の周にはもうほぼ後続とは差がない状態に。さらにはリオモが引く集団と逃げとのタイム差も20秒台までに縮まってきていた。
15周目の最初の上りでは、少し先行していた伊藤と渡邉の2人が追走に吸収された。
16周目、逃げと集団は20秒差ほど。逃げの先頭ではビセンテがペースを上げるが、上り区間ではもう逃げメンバーの姿を捉えられるほど近づいていた。集団ではこの16周目が最もペースが上がっていた。
17周目を前にレオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ)集団から一気にジャンプしてきた。
逃げにいた伊藤は、「最初キンテロが来て、あれ?(逃げグループにいた)ホセじゃないわ!となりました。追いつかれたときがきつくて。あれはかなりもう精神的にも肉体的にも追い込まれました。強い人だけ前に行っちゃって、その他のメンバーがちょうどみんな同じように疲れてたから、ちょっと回復できました。さすがに(小林)マリノとかキンテロとかトマとかにはもうついていける気がしなくて」と話した。
逃げが吸収される直前、17周目に入ったすぐの上りで花田が飛び出す。それに集団から追いついてきた草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)が追走をかける。後ろからは小林やルバ、天野、キンテロのみが追いついた。
草場は、「マリノさん、トマさんが行ったところに自分もいて、キナンの選手が1人飛び抜けてたので、それを目がけてみたいな感じで自分が上りの下から行って。もうあの2人(小林とルバ)のドンパチに付き合ったら絶対無理だと思って。先手を打とうと思って、前待ちしようと思ったら、まさかのもうその上りで追い付かれるという」と話し、苦笑いを浮かべた。
先頭集団から花田がこぼれ、小林、ルバ、キンテロ、天野、草場の5人に絞り込まれる。だが、18周目の上りでやはりルバと小林の実力者二人がさらに飛び出した。キンテロ、天野、草場が一人ずつで追う形に。
一時、キンテロに天野が追いついたが、20周目に入る際にキンテロは天野を突き放し、単独で前2人を追った。
先頭は2人のまま、小林を引き離したいルバが多く先頭に立ちつつ、最後の周回へと入っていく。
「トマの方が多めに(先頭を)やってましたけど、当然引き離さなきゃいけないんで。僕も別に交代は入って。一騎打ちになっても僕はそれでいいんで。まあこうなると思ってたんですけどね。やっぱりこの人か、強いんだよな、いなきゃもっと楽に勝てたのにみたいな(笑)。
でも途中、強い人と戦うと楽しくなっちゃうんでもっと違うとこでアタックしそうになるんですよ。行ってしまおうかと試してみたくなっちゃうんですけど、確実に勝たなきゃだからやめておこうと思って。でも一瞬も油断できないんです。めちゃくちゃ強いんで。僕はもうトマが(ギヤを)インナーに落とすまで、僕は落とさなかったです。ずっとトマのギヤを後ろにいるときは見ていて、前の時はもう音聞こえるまで僕はアウターのまま行ってて。いつアタックかけられるかわかんないし、あの展開だと一瞬遅れたら本当にしんどいんで。お互い相当様子見てましたね。だからめちゃめちゃピリピリした時間でしたね」
小林は振り返った。
そして前日と同じようにやはりラスト1.5㎞ほどのところで小林がアタック。ルバは前日のように無理につくことなく小林を追い続ける。
「今日の方が一発は強かったけど、その分最後僕もしんどかった。(ルバは)ペースで来ていて、結構近くなってたんで、うわマジか!と思いました。僕が垂れたんだと思いますよ。でも昨日は結構ついてきて、耐えきれなくて最後下がってたんですけど、今日は最初からあんまついてこなかったんで。トマもアタックされたらもう自分のペースで行こうと思ってたと思うんですよ。もうお互いそこに懸けてたんでしょうね。もうトマは来ないかと思ったけど、この人がそんな諦め方をするはずないと思って。トマはめちゃめちゃ踏んできましたからね。最後マジできつかったです」と、小林。
ルバは目視できる範囲には小林を捉えていたものの、並ぶまでは叶わず。
両手を広げた小林が前日に続き、今季6勝目を飾った。Jプロツアーのレースで初めて「楽しかった」と話した小林はこう語った。
「やっぱトマがめちゃくちゃ強かったので、だから今年一番うれしかったですね。あんな強敵はいないんで。国内では僕以外で本当に一番強いんじゃないですかね。そのトマに勝てたのは良かったです」
独壇場の小林、全日本の展望
この週は、全日本選手権ロードレースのちょうど1週前ということで、多くのチームや選手が全日本に向けて調整や合宿を行ってきており、調子が上がっている選手やきついトレーニングをこなしてから今回のレースを調整に据えた選手が多く見られた。
そんななか、結果として7戦を終えてもなおマトリックスの、というよりも小林の牙城を崩す機会は訪れなかった。ツアー・オブ・ジャパン3位のトマ・ルバが今回のレースに参戦したのは幸いだったが、小林海の個人の力を見せつけ、マトリックスのメンバーはただただ冷静に勝ちへの確率を上げていくのみだった。
小林がNIPPOに所属時代、チームメイトとして走った伊藤雅和は小林の今の強さについてこう話していた。
「トレーニングに関しては自分で考えて、コーチの人の言うこともしっかり聞いて、考えてコンディショニングしてるからじゃないですかね。NIPPOの時はちょっと病気とかにかかってたりしてたけど、元々ポテンシャルはすごいものを持ってたし、普通に積み上げでやってるから(強い)。小石(祐馬/チーム右京)とかもそうだけど。妥協しないし、元々のポテンシャルに加えてしっかり考えて練習してるところかなと思います」
また、育成チームとして活動するリオモベルマーレレーシングチームの宮澤崇史監督は、現状のJプロツアー、現状の小林について、「選手によってコンディションも違う中で、こうやってマリノが無敵で勝っているんだけど、例えばツアー・オブ・ジャパンに行ったら1勝もできなかった。JBCFのシリーズ戦を彼がどう次のステップに繋げるかを僕はどっちかというと見たいのが正直なところ。
(小林は)来年ヨーロッパ行きたいという話をしてるけど、JBCFのレースってすごく打ちやすいホームランを打ってる感じですよね。それでいいのかなとはちょっと思う。来年につながるレースを彼らが何か考えてやり始めるのかなと思うけども、今のところやってないですね。もっときつい展開にすればいいのになと思いますけどね。それは彼ら次第ですけど」と語った。
そして小林自身も同じようなことを感じているようだ。
「これからはやっぱり勝つレースの質を上げていきたいですね。もうたぶんJプロツアーで勝ちを重ねても、あんまり僕のキャリアにとってあんまり意味がないと思うので。当然、経済産業大臣旗とかそういうポイントが高いやつはちゃんと押さえていきたいですけど。
あとは全日本はもちろん、後半のUCIレースとかにしっかり合わせて行きたいなと思いますね。全日本は来週なので、フィジカル的な不安はないですし、僕が一番今年勝ってきてるんで、他の選手にもいろんなパターンで勝ったんで勝ち方もわかってますけど、やっぱり全日本は、JプロツアーとUCIレースが全然違うように、全日本は全日本という別の競技みたいな感じで、全日本の”正解の走り方”があるんで。僕が変な駆け引きに乗らなければいいなと思って。僕の勝ち方は、自分のいつも通りの走りをするしかない。不安もそんなないですね。その都度、臨機応変に自分の走り方してけばいいかなと。
僕はあくまで駆け引きをされる側じゃなくて、僕がやる側なんで。絶対僕は受身になる気はないです。マークされますけど、それはもう当然。もう毎日マークされてるんで」
今シーズン無敵に走りを見せてきたが、全日本というレースでそれを発揮することができるだろうか。
昨年の10月に取った日本チャンピオンジャージの着用が今回のレースで最後となる草場は、今シーズン、アジア選手権ロード出場の後から調子を落としていたが、ここにきて復調の兆しを見せていた。
「選手権はやっぱり特別なレースですし、みんな優勝目指してくると思うんで。でも僕だけが2連覇のチャンスを、権利を持っているので誰よりも貪欲にそこを目指していきたいですね。
やっぱり攻めた走りっていうのをしていかないと、勝負に絡めるようなリザルトは残せないなと思いました。今シーズンずっと成績出ていなかったのも、ずっと守りというか、多分アタックすらしたことなかったんすよ。
今回は結果を気にせずに、レース展開を自分で動かしたっていうのは、選手権前にすごい自信になったので、あとは来週、時を待つのみです。去年と同じようなレースにはならないと思うんで、なるようにしかならないですし、楽しみたいですね」
全日本ロードの女子のレースが4日前に開催見送りという発表が日本自転車競技連盟からされているが、現在、さらに開催見送りに関してスポーツ仲裁に申し立てが行われている。いずれにせよ、努力を重ねてきた選手たちが自身の力を発揮できる機会が平等に得られることを願うばかりだ。
JBCF東日本ロードクラシック修善寺大会 Jプロツアー第6戦 リザルト
1位 小林海(マトリックスパワータグ) 1時間20分57秒
2位 レオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ) +8秒
3位 トマ・ルバ’(キナンレーシングチーム) +9秒
JBCF東日本ロードクラシック修善寺大会 Jプロツアー第7戦 リザルト
1位 小林海(マトリックスパワータグ) 3時間2分41秒
2位 トマ・ルバ’(キナンレーシングチーム) +4秒
3位 レオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ) +2分51秒
小林海のリーダージャージも山本哲央のU23ジャージも変わらず
全日本実業団自転車競技連盟
https://jbcfroad.jp/