女子Qリーグ、中学生Nリーグ2022-2023第10戦ツールドはなわ・レポート
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サイクルロードレースの女子リーグ「クイーン・リーグ(Qリーグ)」、中学生リーグ「ニュー・エイジ・リーグ(Nリーグ)」2022-2023シーズン第10戦「第5回ツール・ド・はなわ 2022」が10月22日(土)、福島県東白川郡塙町の公道をダイナミックにレイアウトした風光明媚なコースで開催された。
8月28日に予定されていた今大会は、福島県内で新型コロナウイルス感染急拡大のため延期となった経緯がある。そこで主催の地元・塙町では優勝選手に地元産の新米を用意するなど、準備万全の体制で参加選手たちを迎えてくれた。
Qリーグと Nリーグ中学生女子 NWが「Wクラス」、Nリーグ中学生男子 Nは「Eクラス」のどちらも朝一番スタートとなる第 1レース。雨の心配もなく風も穏やかなコンディションのなか、それぞれの対象レースでリーグポイント獲得のため熱いレース展開が繰り広げられた。
コースはメイン会場となった温泉施設「湯遊ランドはなわ」をスタートし、約2kmほど走行してから7.5km周回となるを設定。周回に入ると前半が上りとなり、後半は一気に下っていくダイナミックなレイアウト。今シーズンのリーグシリーズ戦では、久しぶりの公道ロードレース。しかもクリテリウムのような平坦中心で登坂も短めが多かったレイアウトから一転、長い上りを得意とする選手たちはスタート前から気合の入った様子だった。
Nリーグは工藤健太が初優勝
朝8時の開会式後、8時30分オンタイムでリーグ対象クラスが含まれる2周回を走る3つのクラスがスタート。
まずEクラスがスタートした 1分後に、MクラスをはさんでWクラスが時差スタート。
周回コースに入る手前までローリングで選手たちをコントロールし、リアルスタートが切られてすぐに数名の逃げが出たのはNリーグ中学生男子Nが対象のEクラス。
「最初に軽い逃げが出て(逃げ集団のメンバーが)決まった。その後の下りや 2周回目に入ってから、人数が絞られていってNリーグの稲葉(恵人)選手と 2人になって最後のゴールに向かう下りで潰しあいになった。そのまま2人でのゴールスプリントになった」とコメントしてくれたのは、Eクラスで見事優勝を決めた工藤健太(ブラウ・ブリッツェン U15)。
「決め手はコーナーの番手だったと思います。落ち着いてコーナーのインをつけたのが良かったです」と冷静にレース展開を読み切った。
ポイントリーダー授与式でプレゼンターとして登壇した開催地元・塙町の宮田秀利町長は、レース初優勝を今大会でつかんだだけでなく、リーグ第7戦「第3回わたらせクリテリウム」以来のバトルマリンジャージ奪還に成功した工藤選手が中学2年生の13歳だと聞いた途端に「すごいね!そんな若くで優勝とは素晴らしい!この後の活躍が楽しみだねえ」と感激しきり。
そんな宮田町長に応えるように工藤は「初優勝を決めた、この塙のコースは最高でした!この調子で、今後のリーグ戦でも優勝を決めてリーダージャージを守りたい」と力強く宣言した。
なお、このEクラスでは上位3位がNリーグ登録選手が独占し、そのポイントランキング争いも現在リーダーの工藤 136Pなのを筆頭に、ランキング 2位の宮嵜(BMレーシング)が 128P、3位の宇田川瀬那(ラバネロ)が 125P、4位の稲葉が今大会で 2位となり 116P、5位の井上湧心が今大会 3位で84P、と益々熾烈になっている。
Qリーグは岡本彩那がポイントリーダーの座を奪還
Qリーグ対象レースとなったWクラスでは、スタート直後から地元・福島県在住の大関奏音(会津工業高等学校)が先行し、そのままゴールまで逃げ切って優勝となった。
その後を追いかけたのがQリーグ登録の岡本彩那(ブラウ・ブリッツェン)と山田菜月(Team一匹狼)、そして地元・福島県在住の佐久間優衣(学法石川)の3人。
「3人で集団を回しながらゴールスプリントに入った。以前、山田選手にはゴールスプリントで負けてしまったことがあったので、勝たないと!という強い意識があって狙いました」とコメントした岡本が、狙ったとおりゴールに先着。Wクラス2位に入り、リーグ第8戦「秋のしもふさクリテリウム」でアメジストジャージを獲得した後、一時リーダーの座を明け渡していたポイントリーダーの座とジャージを再び取り戻した。
岡本は「初めてこの大会に出場しましたが、走っていて楽しいコースでした。来月の大磯クリテリウムで勝ってQリーグリーダーを守りたいです」と意気込みを語った。
Qリーグ(高校生以上女子)リーダー:岡本 彩那(ブラウ・ブリッツェン)・127p
Nリーグ・N(中学生男子)リーダー:工藤 健太(ブラウ・ブリッツェンU15)・136p
Nリーグ・NW(中学生女子)リーダー:大矢 彩雲(ブラウ・ブリッツェンU15)・104p
※同点の場合、最終戦を除き最新レース上位を優位とします。
今大会のポイントリーダー授与式においても、QNリーグ・各ポイントリーダー賞として「アメジストジャージ」「バトルマリンジャージ」の各リーダージャージ提供はビオレーサー、副賞提供は武田レッグウェアー株式会社、株式会社隼、アイリス株式会社、そしてリーグ登録選手全員に株式会社アミックグループから試供品が提供された。
次戦のQNリーグシリーズ第11戦は11月20日(日)に神奈川県大磯プリンスホテル敷地内で「大磯クリテリウム第2戦」を開催する。
https://walkride-cycling.info/oiso-c2022-23/
その後のQNリーグシリーズ戦レース日程も決定している。
第12戦・2023年2月19日(日):大磯クリテリウム 2022-23#5(ウォークライド主催)
シリーズ最終戦・2023年3月5日(日):しもふさクリテリウム(チャレンジリーグ主催)
http://www.jbrain.or.jp/q-n-league/race-profile.html
ジュニアギヤとコース選定について
Qリーグ岡本は高校 1年、Nリーグ工藤は中学 2年とジュニア年齢の選手が現在、ポイントリーダーとなっていることもあり、ジュニアギヤとコース選定について併せて書いてみたい。
というのも、世界の自転車競技を統括するUCIより今年の6月に「男女ジュニアのギヤ比規制を 2023年1月1日より撤廃する」という発表があり話題となった。今までは、男女ジュニアが大会で使用できるギヤは、最も重いギヤでペダル 1回転あたりの走行距離が7.93mになるようにしなければならない、となっていた。その規制が来年からなくなるのだが、この予兆は以前からあった。
先ずは、元プロ選手で現在は山梨県を中心に自転車レース普及活動をおこなうトム・ボシス氏のブログに以下のような記載があった。
https://www.sisbos.fr/about-limited-gears/
<以下抜粋>
フランス自転車競技連盟(FFC)が昨日、2022年1月から、U17カテゴリーのギヤ規制を取り下げることを発表しました。U19の規制はすでに、2019年をもって解放していたので、U15を卒業すると、ギヤ規制が一切なくなるということになります。
※抜粋終わり
すでにフランスでは一足先に若手選手のギヤ規制が無くなっていたのだ。
しかし、そもそもなぜギヤ規制が設けられていたのか?というと、多くの方々がご存じのように「成長期に重い負荷をかけることが、若手選手の成長に影響をもたらすことが懸念されているから」というのがある。だが、これについてもブログには非常に判りやすく解説がなされている。
<以下抜粋>
ロードレース種目とトラック種目では100年以上の歴史のある措置であることに対して、マウンテンバイク、シクロクロスやBMXという、比較的に発展の新しい種目では規制が存在していませんが、特定の影響が観察されたことはなく、科学的な根拠が存在しないということで、近年はUCIをはじめ、ヨーロッパ各国はギヤ規制に対する考えを再検討しはじめています。
連盟専任の医者の依頼のもと、「ギヤを規制するより、ディレーラーの正しい使い方を教わった方がいい」という仮説をもとに、フランス自転車競技連盟が2019年にU19の選手6名に対する実験調査を実施したところ、規制されているレース(U19のみの場合)より、規制がされていないレース(大人と混走する場合)の方が、観察された最高ケイデンスが高い、という結果が明かされました。ようするに、ギヤ規制を設けることはそもそも、高ケイデンスでの運動を促しているわけではない、ということです。
その背景には、フランスは近年、トルク力が重視とされているタイムトライアル種目で世界レベルでの成績が悪かったことがあり、その原因の一つとして、ギヤ規制が挙げられていたこともあります。また、サッカーをはじめとする他のスポーツに見習い、自転車競技でも近年、ネオプロがプロ契約を結ぶ時期がどんどん若年化していることも注目されています。
※抜粋終わり
さらにブログでも紹介しているように、東京オリンピックフランス代表 GMとして来日したエマニュエル・ブルネ氏は「トルク力の向上を目的とする運動は、健康に影響をもたらすどころか、選手の成長の一環として必要不可欠な要素であり、自転車だけではトルク力の強化が不十分であることまで科学的に証明されています」というコメントもある。一方で、コロナ禍で機材を手配するハードルが莫大的に上がったこともあり、UCIにおいても、この度の決定に繋がったのだと推測できる。
QNリーグでは3年前の初年度においてギヤ比制限を設け、対象とするシリーズ戦でギヤ比チェックをおこなってきた。しかし、そのなかで上記のような考えや流れを鑑みながら、一番気になったのは、普段から指定ギヤ比を使っていない状況を散見していたことだった。
自転車に乗る若手選手と、その管理をする指導者や保護者がギヤ比の仕組みや利点を理解し普段からジュニアのギヤ比で練習からレース出場まで、通年走らせているのであれば問題がないのだが、ギヤ比規制のあるレースの車検直前になるとギヤやホイールを交換するのを何度も見てきた。
ひどいケースだと、車検の前にホイールを検査員の目の前で交換し「大丈夫かどうか測ってほしい」と言われたときには、あきれて何も言えなかった。これでは規制をしても意味がないと察し、翌年度からリーグでのジュニアギヤ比制限を撤廃することにした。
ただし、リーグに登録している選手たちの多くは自転車競技への関心が高く、普段から理解したうえでジュニアギヤ比を基にして軽いギヤ走り、きれいに回転を上がられる選手がほとんどのため、そんな選手が他のギヤ比制限の対象外となっている選手と混ざって走っても大きな差にならないようなコース選定を考慮するようにしている。ポイントとしては、激坂や長すぎる登坂区間、踏まないと進まない下り区間ができるだけ無いようにと考えている。この条件を踏まえると、回転でスピードをコントロールする術を自然に身に着けてもらいながら、ギヤのチェンジを小まめにコントロールしながらレースを運ぶことを覚えてもらいたいと思う。
もちろんトルク力の向上を狙うような、しっかりとした軸を作る筋力増加トレーニングも非常に重要だ。しかし自転車を始めたばかりの選手や、トルクだけに頼りやすい走り方をする選手にも自転車ならではのギヤをコントロールする走り方を覚えるチャンスになると考えている。
一方の極端にならないバランスの良い強化方法として、このギヤ比撤廃を期に今後もジュニアを含めた育成の方法を模索していきたい。
<レポート概要>
写真撮影:QNリーグ事務局
テキスト:須藤むつみ(QNリーグ事務局)
協力:Link TOHOKU・ツール・ド・ふくしま・塙町サイクルツーリズム推進協議会