三菱地所JCLプロロードレースツアー 2022JCLアワーズ 決意の始まり
目次
今年2年目となったジャパンサイクルリーグ。その年間総合の授賞式などが行われた。
来年発足する新チーム、JCLチーム右京の立ち位置、2022年の年間総合王者に輝いた小野寺玲の変化と決意、また引退する中島康晴の大事にしてきたことを聞いた。
JCLとしての決意表明
12月11日、丸の内ビルディングにて三菱地所JCLプロロードレースツアー 2022JCLアワーズが行われた。
最初に、今年の活動報告とともにチェアマンの片山右京と代表取締役社長の加藤康則が今シーズンを振り返った。
今年は、JBCF(日本実業団自転車競技連盟)に加盟しているマトリックスパワータグの一部レース出場や、新たな地域でのレース開催もありつつ、JCLのポイント加算対象となったUCIレース以外では、年間12レースのロードレースを開催。そのほかにも、全国の競輪場を使用してのバンクリーグも例年同様に開催された。
片山チェアマンは、「オリンピック以降、レガシーとして自転車の文化を創造しようとスタートしました。日本では正直、円安だったり自転車が売れなかったりと不安なことばっかり耳に入ってきますが、世界ではパリ五輪に向けての話だったり、代替モビリティとして自転車の話題が主軸になってきています。JCLが3年目、4年目と進んでいくときに、選手一人一人には死にものぐるいで強くなってもらいます。一人一人がプロ意識を持ってもらって、支えてもらうファンの人たちには自転車がいかに素晴らしいかを声を発してもらいたいです。
Jリーグでは、チームができてW杯に行くまで7年かかった。僕たちは世界に行くまでを5年でやりたいと思います。JCLは強くなって進化していきたいと思います」と将来に向けて決意を語った。
各章授賞式
2022年の各賞受賞者は以下のようになった。今回は、一般から公募されたプレゼンターがそれぞれ表彰対象者にトロフィーを授与した。
個人総合 イエロージャージ
スプリント賞 ブルージャージ
山岳賞 レッドジャージ
U23新人賞 ホワイトジャージ
チーム総合
絶対的エースが抜けた穴
これまではクリテリウムなどでのスプリントでの勝利が多かった小野寺だが、今年はロードレースで勝てる選手になることを目標にチームメイトの増田成幸の元、上りの能力も向上させることに注力した。今シーズンを小野寺はこう振り返る。
「今シーズンは本当に序盤から終盤まですごく自分の精神面も体の面も安定して過ごせたシーズンでした。ただ、シーズン後半になってきて、総合が重要になってくるタイミングで増田さんがいなくなってしまったというところでは、一番ジャージを守らなきゃいけない、チームとして結果を残さなきゃいけないエースの立場を担うようになって、少し責任感やプレッシャーを感じるようになったシーズンでしたね」
今シーズンは初戦で勝利を挙げ、個人総合ジャージを最初に袖を通した小野寺だったが、その後ジャージは増田へと渡っていた。しかし、10月22日のしおやクリテリウムにて増田が落車で骨盤を骨折。戦線を離脱した。それによりリーダージャージはプレッシャーとともに小野寺の元へと戻ってきたが、シーズン最後まで持ち堪え、年間総合トップの座を守り切った。
2023年には、チームの精神的支柱でもあり長らくエースを張ってきた増田がJCLチーム右京へと移籍する。小野寺は長く宇都宮ブリッツェンに在籍する選手として求められることも増えるはずだ。
「おそらく今までみんなが増田さんがいれば大丈夫だろうと思ってたような存在に、代わりを務められるとは限らないですけど、そういう立ち位置になってくると思うので。今年以上に、いわゆる今年後半戦のプレッシャーが通年とおしてあると考えるとちょっと怖いんですけど……すごいプレッシャーなんですが、でも実際の自分が走れるレベルも上がってきているのが分かってるので、自信を持って挑んでいきたいなと思ってますし、これからはチームを引っ張る側の人間としても意識を変えていきたいと思ってるので。そのところはもう何とか頑張ります」
国内リーグでの結果は目に見えるようになってきた。小野寺はさらに上に目標を定める。
「僕自身も常に上がり続けて、自分自身の頂点で選手を辞めたいという目標があるんです。落ちて辞めることは絶対したくないので。そういった意味でも今のところはずっと上がり続けられてはいると思ってます。自分自身が常に満足できる、強くなったなって実感できるシーズンをこの先も積み上げていければと思います。
国内リーグのロードレースでは勝てた、じゃあ次はやっぱり勝つレベルを上げて、UCIレースで勝ちたいという目標を新たに立てようと思ってます。来シーズンは世界の選手がさらにコロナ禍も緩和して集まってくると思うので、よりレベルが高いUCIのロードレースで勝ちにいきたいなと思ってます」
自転車の楽しさを伝えるため
今回のアワードでは、各賞の授賞式のほかにも2022年限りで引退を表明していた中島康晴(キナンレーシングチーム)の引退セレモニーも行われた。
引退をするかどうかについても悩んだと中島は言うが、決意した理由についてこう話す。
「若手が出てきて、若手のために頑張りたいと思ったときぐらいから徐々に心境が変わり始めて、若者が育ってきたので、自分は退いて次の若手の道というか、枠をあげたいなと思って引退を決意しました」
また、選手としては珍しく1年前から引退することを宣言していた。
「今年1年間で皆さんとお会いするたびに『頑張ってね』と声をかけてもらえて、1年先に発表して良かったなと思いました。幸せな1年間を送ることができました」とセレモニーで話した。
鹿屋体育大学を卒業してから、梅丹本舗・GDRやチームNIPPOに所属してヨーロッパで活動を行った。2011年からは愛三工業レーシングチームに6年間所属。ツアー・オブ・タイランドの総合優勝などアジアツアーで多く結果を残した。
その後、「競技生活の最後に海外でと思っていた」と、海外チームへの移籍を考えた。その希望は叶わなかったが、2017年、キナンレーシングチームに移籍することとなった。
「やっぱりなかなか厳しくて。(当時キナンのGMだった現JCL社長の)加藤さんに、まだまだ第一線でも頑張ってほしいし、今後アジアを含めて若手を育てていくので来てほしいというふうにおっしゃっていただけて、救っていただけたという経緯があります」
キナンに移籍をしてからもアジアツアーを中心に回り、スリランカT-CUPの総合優勝やツール・ド・台湾のポイント賞獲得などを果たした。
コロナ禍に入ってからは国内レースが主軸とはなったが、中島への声援は大きかった。中島はこう振り返る。
「自分はヨーロッパ、アジアと走ってきて、選手としていろんな人に自転車の楽しさをいかに伝えていくかということをずっとやってきたんですよね。それに関連して言うとファンサービスだったり、主軸にあるのが恩返しと、自転車の楽しさを伝えるということでした。国内を走るとなれば、もちろん国内の方に、貴重な機会に応援しくださる方に全力を注ぎたいと思いました」
今年はJスポーツの解説などでも大いに活躍した中島。選手生活を終えてもそのスタンスは変わらない。
「自分からは競技成績で人を魅了するってことはもう徐々にできなくなってきていたので、この今まで培った力や頑張ってきた部分を別のソースに移行して、今後も自転車の魅力を発信していけたらなと思っています」
壇上ではファンに向けて最後にこうコメントした。
「16年という長い選手生活、本当にありがとうございました。皆さんの”人を思う力”に支えられて私は16年続けてくることができました。
ファンの方が一言、『中島選手、頑張って』っていう声を発してくださった。それによって、その声を聞いた周りの人が、あの選手を応援していいんだとか、この競技ってそういう楽しい競技なんだとか、そういうふうにたくさんの方が感じてくださったと思うんです。
皆さんがかけてくださった一言、そして拍手の一つは自分たち選手にとって大きな力になりました。これは16年間戦ってきて、非常に実感していることの一つでもあります。ぜひ今後とも応援していただければうれしいですし、あとは皆さんがリーグの中継をYouTubeなどで見て、『この街は楽しそう』とか、『その街に応援しに行ったんだ』っていう発信をしてくださること、これらの”街を思う力”というのも我々がレースを行うにあたって非常に必要になってきます。
ですので、ぜひ今後とも街を思って、人を思う力を存分に私達にぶつけていただけたらなと思います。三菱地所なので、私はこの”次に行こう”と思います。今後とも応援よろしくお願いいたします。本当にありがとうございました!」
国内リーグからの道筋を
アワードの最後に、加藤社長は「JCLチーム右京を基軸にやっていきたい」と話した。ジャパンカップのときに来年の発足が発表されたJCLチーム右京の立ち位置について、改めて加藤社長に聞いた。
「代表の位置づけ、今回のワールドカップでっていうところのサムライブルーみたいな立ち位置ですかね。日本国内で頑張ってきた選手たちをそこに吸い上げていって、その選手たちがさらに海外に挑戦していくっていう流れを作っていくためのシンボル的な存在です。
新たな若い世代の子たちが、ここがない状態でただ日本でレースがあるというよりも、ステップアップしていける場所がちゃんと明確に見えている状態が絶対大事だと思っていて。
JCLチーム右京っていう、今一旦は仮の名前のような形でついていますが、例えば一緒にタッグを組んで世界に打って出てくんだというような企業さんから大きなスポンサードいただけるようになれば、もちろんその企業さんのお名前が付いたチームにしていきたいです。
その種となるチームなので、そういうチームをまず作って、キラキラと光ったところを若い子たちに見てもらって、自分もあそこに行きたい、プロ選手になりたいって思ってもらって、よりそれが日本国内を盛り上げていくというふうに、ちゃんと階段が見えてるような形を作るのは重要だと我々は話しています」
現状ヨーロッパでは、ワールドチーム存続のためにUCIポイントを稼がなければならないUCIのシステムや、ワールドチームのデベロップメントチームも増える中で、ヨーロッパツアーの出場権を獲得することすら非常に難しい。そんな中で、1月末~2月頭に開催されるビッグレースに出場する可能性もあるとのことだ。
「レベルの高い大会だとか挑戦できるものにはどんどんと、それを求めてる選手たちが集まってきてくれているので。彼らがどこまでやれるかが来年1年、楽しみに見ていていただきたいなと思いますね」と加藤社長は話した。
さまざまな人がこれまで世界への道筋を開いていっているようにJCLもその一つの道となっていくだろうか。
個人的に言うならば、あらゆる全てのコネクションとスポンサーやお金が一つに集約されて方向性を絞っていくことができればとは思わずにはいられないが、なかなかそうもうまくはいかない。
JCLそしてJCLチーム右京の活動がどういった形で広がっていくか、来年、まずは見守っていきたい。
参考サイト:ジャパンサイクルリーグ(JCL)