盛り上がり見せる女子プロサイクリングに、大きな役割を果たしているブランドがある。世界最大のステージレースとワンデーレースに揃ってその名を冠するズイフトは、このスポーツをさらに先へと推し進めようとしている。

過去10年間のプロサイクリング界における最大のゲームチェンジャーがズイフト（Zwift）であることに異論はないだろう。サイクリングのオンラインプラットフォームはeスポーツ世界選手権の創設だけでなく、選手のトレーニングやファンコミュニティのあり方に大きな変化をもたらした。だが2023年現在、それだけではズイフトというプラットフォームの本質を促えているとは言えない。ズイフトはいま、女子プロサイクリングを推進するトップランナーの位置にある。

歴史の始まりに立ち会った

昨年初開催された女子版ツールの正式名称は、ツール・ド・フランス・ファム・アヴェク・ズイフト。その前年に初めて開催された女性版「北の地獄」も、パリ〜ルーベ・ファム・アヴェク・ズイフトだった。女子プロサイクリングに新たな歴史を刻んだ2つのレースを、ズイフトはスポンサードしたのだ。逆説的に言うなら、ズイフトがなければこれらのレースはまだ日の目を見ていないかもしれない。ズイフトがこれほどまでに女子プロトンに投資とサポートを行う理由はどこにあるのか？ 同社の女性戦略ディレクターを担うケイト・ヴェロノー氏に話を聞いた。そこには性別を超えて、ロードレースというスポーツのエンパワーメントを目指すズイフトの情熱と大志があった。

PROFILE
Kate VERONNEAU（ケイト・ヴェロノー）

ズイフト女性戦略ディレクター。アメリカ国内でプロ選手として走った経歴を生かし、サイクリングツアー会社を経て2016年より現職。ズイフトアカデミーやビッグレースのスポンサーシップなど女子レースを盛り上げるプロジェクトの仕掛け人。

―ズイフトがどう女子プロサイクリングと関わるようになったのか教えてください。

ケイト・ヴェロノー（KV）：ズイフトはゲームから生まれたフィットネス会社で、世界中の人たちにライドの機会を提供しています。私達はブランドを始めた時から、このプラットフォームを使っていろいろなことができると考え、世界レベルのタレントを発掘するオンラインコンペティションを思いついたのです。そして優勝者がプロチームと契約できる『ズイフトアカデミー』が生まれ、2016年にキャニオン・スラムという先進的なチームの協力を得て初開催しました。最初の年は1000人の女性サイクリストが参加しました。昨年は男女合わせて1万6000人という大規模なイベントに成長し、スター選手も輩出していますが、事の始まりは才能が世に出る機会の少ない女性サイクリストのためのプロジェクトだったのです。

―ズイフトが女性サイクリングを重視する理由は？

KV：女性に対して、レクリエーションからプロフェッショナルまで提供できるものが多くあると考えているからです。長い間、サイクリングは女性にとって敷居の高いスポーツでした。とりわけレースでは顕著で、世界規模のスポーツとしての立ち位置を得るのに、多くの女性が懸命に闘ってきた歴史があります。ここ10年で自転車に乗る女性が増え、多くのコミュニティが誕生しています。健康増進のためであったり、人とつながる手段として、女子サイクリングは今まさに発展中のスポーツです。女性たちがこのスポーツに自分自身を見いだし、居場所だと感じられるようにしたいのです。

―パリ〜ルーベとツール・ド・フランスの女子レース新設を、ズイフトがタイトルスポンサーとしてサポートしました。ASOとの協業はいかにしてなされたのでしょうか。

KV：最初はCOVID-19のパンデミックがきっかけでした。現実世界でレースができなくなり、2020年にズイフトでのエキシビションレースを企画しました。バーチャル・ツール・ド・フランスです。ズイフトはここで、男女の機会が平等になるよう運営を行いました。6日間のステージで、男女レースの順を入れ替えながら開催したのです。初日は男子レースが先、第2ステージでは女子レースが先、というように。世界100カ国以上で配信されたこの6レースは信じられないほどの視聴者数を記録しました。そして女子レースの方がよく観られました。慣れないバーチャルレースに戸惑いパフォーマンスを発揮しきれなかった男子と比べ、女子レースではみんなが全力を尽くしました。世界中のファンにレースを見てもらえる機会が、彼女たちにとって貴重だったからです。そして女子レーサーはもともとズイフトの利用率が高く、短時間のレースフォーマットも適切でした。これがエキサイティングなレースになったことをきっかけに、ASOとの話し合いが始まったのです。ファンが女子レースを求めていることは明らかであり、ステージレースとしての女子版ツール・ド・フランスが必要でした。

―数年前に開始されたウイメンズワールドツアーもあり、女子サイクリングシーンが盛り上がりつつある流れと一致したのですね。

KV：ASOはレースを開催する準備をしていたと思います。おそらく背後には多くの社会的な要請もあったはずです。他のほとんどのメジャースポーツイベントには女性版がありますから。そして女子サイクリング界は年々良くなってきていました。チームもライダーも知名度を上げており、まさに世界で最も象徴的なレースを行うタイミングだったのです。そして大口のスポンサーがまだ決まっていなかったため、私たちが決断することにしました。こうして世界最大のステージレースと、世界最大のワンデーレースをサポートすることになったのです。

私たちはツール・ファムに賭けたのです。そしてそれは正しい賭けでした。

―4年間と長期にわたるスポンサーシップですが、ズイフトがこの取組みで実現したいことは何でしょうか。

KV：私たちは、人々の変化のきっかけになりたいと考えています。人々に女子プロサイクリングを観てもらい、ファンになってもらい、スポーツ全体を盛り上げたい。もしあなたが男子レースを観るのが好きなら、女子レースも好きになるはずです。私たちはそこに賭けたのです。そして、それは正しい賭けでした。ツール・ファムの視聴者数は驚くべきものでしたから。こうした露出によって、多くの人に、自転車に乗りたいとか、健康でいたいという興味を持ってもらえるはずです。地元のレースに参加したい、と思うかもしれません。次の世代に何かしらの刺激を、言い換えれば夢を与えること、それが最も重要なことです。女子のプロトンには、素晴らしいロールモデルが大勢います。彼女たちの努力が報われる瞬間をレースを通じて目にすることで、たとえ違う分野に生きている人であってもインスピレーションを受けるはずです。

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―女子サイクリングにおけるズイフトの最終目標はどこにあるのでしょうか。

KV：より注目され、より投資されるスポーツへと盛り上げることです。女子サイクリングに携わる人たちを刺激し成長を促すことで、ズイフトもまた成長できます。これはビジネス上の目標ですが、同時に素晴らしい機会でもあると感じています。より多くの人が女子サイクリングに注目し、さまざまなレベルでこのスポーツに参加できる喜ばしい機会が増えることを願っています。