2023全日本トラック1日目 チーム競技 男子チームパシュートでの日本記録更新
目次
2023年5月12日~15日の日程で開催される第92回全日本自転車競技選手権大会トラック・レース。静岡県伊豆市・伊豆ベロドロームにてその初日が行われ、男子チームパシュート、女子チームスプリントにて日本記録が更新された。
5月12日(金)より第92回全日本自転車競技選手権大会トラック・レースが開幕。ここから4日間、日替わりでトラック競技の種目が行われていく。
この日の種目は中距離種目である男子チームパシュート、女子チームパシュート、エリミネイションを男女それぞれ、短距離種目は、男子チームスプリント、女子チームスプリントが行われた。
男子チームパシュート
4人で交代しながら4㎞を走る男子チームパシュートには、8チームが出場。多くのメンバーを擁するチームブリヂストンサイクリングからは、ナショナルチームで世界大会などに出場する選手たちである強化指定Aの組(チームブリヂストンサイクリングA)と、強化指定Bとその他の選手の組(チームブリヂストンサイクリングB)に別れての出場となった。
予選から4分を切ってきたのはチームブリヂストンサイクリングAのメンバー(松田祥位、窪木一茂、兒島直樹、今村駿介)。だが、一つの通過点に過ぎない。
今シーズン、チームブリヂストンサイクリングAのメンバーは既にネイションズカップを走ってきており、この全日本の後にはアジア選手権、そして世界選手権が予定されている。
そもそもトラック競技において、全日本選手権の位置付けは、ロードレースとは少し違うように思う。特にナショナルチームのメンバーにとっては。
全日本は、”喉から手が出るほど欲しいタイトル”ではなく、”取らなければならないタイトル”。言ってしまえば、”勝って当たり前”のレース。だからこそ、挑戦できる場でもある。
東京オリンピックに向けてHPCJCが立ち上がり、トラック競技に集中できる環境ができてから、明らかに選手たちが変わった。近年のリザルトを見ても、これまででは考えられなかったような場所に到達してきている。
2020年ドイツ・ベルリンでの世界選手権で出した3分52秒956というチームパシュートの日本記録は、チームメンバーの発言からも、関係者からの言葉からも、近く突破できるように感じさせられていたが、なかなか破ることができないまま月日は過ぎ、パリオリンピックへの選考期間である2023年のシーズンもスタートした。
この全日本に向けて、チームパシュートの練習は一回もしていないという。中距離ヘッドコーチが変わってからまだ日も浅い。今回は、初めてコーチが介入せず、自分たちで考えて走る場であったそうだ。
今回の予選では、3分58秒259というタイム。記録には遠かった。だがそれは本人たち的には「失敗」であり、それが決勝に活きた。
決勝では、3走を兒島直樹から橋本英也にメンバーチェンジ。僅かに上回る3分52秒532というタイムで、”ようやく”日本記録の壁を打ち壊した。
「(予選では)アップ不足もあったし、やっぱどこか世界選手権とかと違って気持ちの部分も抜けていたと思うし、予選でも攻めたんで。その結果が決勝で出たって感じじゃない?」と窪木が問いかけると、メンバー全員が頷いた。
「団抜き(チームパシュート)って、遠征行くときとかもそうなんですけど、回数重ねていったらどんどん洗練されていくというか、そういう感じなので、決勝でそれが噛み合った」
兒島はそう語る。
決勝では、予選よりもギヤを大きくしたそうだ。今村は、それもこの機会だからこそできたことだと話す。
「こういう機会でしかそういったチャレンジができないので、逆にこういうところを利用させてもらって、普段の成長具合の確認だったり、チャレンジできることをする。もう今は(ネイションズカップなどは)オリンピック予選なので、大きい舞台でそういうことはできないので。
たぶんコーチ陣とか、連盟のスタッフとかは、そんなに驚くようなことでもないし、ここ3年ぐらいずっと日本記録を更新すると言い続けてできなかった。もともと持っていた力が、ここで噛み合ったっていうのもあるかなとは思いますけど、もっとちゃんとピークにパフォーマンス持っていければ、タイムを上げれるんじゃないかなと思います。
やったことしかできないんで、そのやったことの結果をずっと積み上げていければ」
橋本は、タイム更新の要因についてこう語る。
「これまでの積み重ねもありますし、やはりまだチームパシュートでオリンピック出たいっていうモチベーションがあるから更新することができたんじゃないかなと思います」
だがしかし、この記録もまだ決して安全圏ではない。
「52秒ではやっぱりまともに戦うことはできないので、まず50秒を切っていくところを狙って。そうするとトップ8っていうのが見えてくるので。今のところギリギリの争いをしているので、52秒を切って、もう一つの段階で勝負できるようにこれからまた強化を続けていきたい」と今村は言う。
チームパシュートでパリオリンピックへの切符を掴むためには、次のアジア選手権も優勝が不可欠だ。
「絶対ですね。優勝は」と窪木。今村は「どっちかというと世界選手権ですよね」とも付け加える。
兒島は、「世界選の予選でやっぱりこのぐらいのタイムが必要かなと思います」と話すが、世界選手権はレベルがさらに上がる。
「(世界選手権では)ネイションズカップとは違って。強いイタリアが入ってくる。順位も(全体的に)一個下がるような、そういう感じはする。(順位を)下げられないように、自分たちが上がれるように」と松田は話した。
アジア選手権、そして世界選手権にて今回の記録がさらに更新されることを期待したい。
男子チームパシュート リザルト
1位 チームブリヂストンサイクリングA(窪木一茂、橋本英也、今村駿介、松田祥位) 3分52秒532*日本新記録&大会新記録
2位 チームブリヂストンサイクリングB(山本哲央、河野翔輝、岡本勝哉、山下虎ノ亮) 追い抜き
3位 シエルブルー鹿屋(原田裕成、冨尾大地、古谷田貴斗、津留崚) 4分5秒715
女子チームパシュート
女子チームパシュートは、チーム楽天Kドリームスの出場のみ。ジュニアカテゴリーから上がってきたばかりの垣田真穂、池田瑞紀とともに内野艶和、古山稀絵も奮闘を見せ、狙っていたという大会記録の更新を果たした。
内野はこう語る。
「結構ギリギリまで練習してきた中で、このメンバーでのチームパシュートの練習ができていなかったけど、みんなで協力して、自分たち一人一人がやることを意識した結果がこれだと思うので。課題もたくさんあると思うんですけど、まずは目標としていた大会記録を更新することができたので、そこは良かったと思います」
古山は、新たなチームに希望を持つ。
「2人がジュニアから上がってきて、エリートとしてチームを形成してからまだ日が浅いので、まだまだコミュニケーションであったりとか、ミスをしたときの修正方法であったりとか、改善していかなくてはいけない点はたくさんあるんですけれども、本当に心強いメンバーなので、高い意識を持って、高い目標に向かってやっていけば、必ずオリンピックの枠も取れると思うので、私も世界に向けて、少しずつ差を縮めていきたいなと思います」
女子チームパシュート リザルト
1位 チーム楽天Kドリームス(古山稀絵、垣田真穂、池田瑞紀、内野艶和) 4分28秒547*大会新記録
女子チームスプリント
ナショナル選手権では、ナショナルチームとしての出場ができないため、順位付けの対象とはならなかったが、ナショナルチーム所属の女子選手によるチームスプリントのエキシビジョンが2回に分けて行われた。
今回は、BMXレーシングで活躍する酒井亜樹が、同じくBMX出身の長迫吉拓とのつながりを発端として参戦。1回目は、酒井、梅川風子、佐藤水菜の3人で48秒197という記録。2回目は酒井、太田りゆ、佐藤の3人で走り、47秒932というタイムで日本記録を上回った。
通常のナショナル選手権では、鹿屋体育大学がBICICLETTA DI MARUに対して僅か0.01秒差で優勝を決めた。
女子チームスプリント リザルト
1位 鹿屋体育大学(年見穂風、川本莉子、中西美央) 55秒785
2位 BICICLETTA DI MARU(清水知美、鈴木章代、五味田奈穂) 55秒788
3位 鳥取県自転車競技連盟(濱口夕海、相見涼花、田中輝) 56秒824
女子チームスプリント エキシビジョン
酒井亜樹、佐藤水菜、太田りゆ 47秒932*日本新記録
男子チームスプリント
13チームが出場した男子チームスプリント。予選から、チーム楽天Kドリームスが別次元のタイムを出す。決勝では、チーム楽天Kドリームスvs.日本大学、3位決定戦は脇本雄太らのチームブリヂストンサイクリングvs.中央大学となった。
決勝では、チーム楽天Kドリームスのメンバーを山崎賢人から寺崎浩平にスイッチし、勝利を挙げた。
決勝で1走を走った小原佑太は、今後についてこう話す。
「今回自分がいつもやっている番手じゃなかったんですけれども、しっかり1走の目標のタイムがあって、それに近いタイムが出た。だけど、自分の中で目標にしていたタイムではなかったので、その自分の目標タイムを更新しなきゃいけないというのはすごく実感しましたし、レベルの高いところをずっと目標にしていかないと、オリンピックでメダルっていうのは取れないと思います。また次、どういうメンバー編成なるかわからないんですけれども、違う編成の中でもしっかり自分の目標、レベルの高い目標をしっかり更新することが必要だなと思いました」
男子チームスプリント リザルト
1位 チーム楽天Kドリームス(寺崎浩平、小原佑太、太田海也 *予選のみ山崎賢人) 43秒727
2位 日本大学(三神遼矢、邉見竜馬、伊藤京介) 45秒051
3位 チームブリヂストンサイクリング(脇本雄太、新山響平、長迫吉拓) 45秒218
エリミネイション
男子は20人で行われた。
序盤から河野翔耀らが先頭を引く中、中盤にかけて橋本英也は集団後方でエリミネイション周回でほぼ毎度スプリント。
「BS(ブリヂストン)のメンバーが前に行って引き合うんで、大体これは後ろが狙い目」と話す。それでも、「8割で差すことができた」と橋本は余裕を見せる。
ラスト5人に残ったのは、やはりチームブリヂストンサイクリングのメンバー。窪木が最初にエリミネイトされ、その後、松田がアタックしたが、残りの3人がとらえ、松田がエリミネイト。
今度は今村がアタックをかけ、「体力的には余裕はあったけど、差せないかも!」と橋本は思ったそうだが、ラインギリギリで追いつき、今村がエリミネイトされ、最後の2人となったところで兒島が落車。一時混乱もあったものの、その時点でのニュートラルは使えず、残った橋本がジャカルタでのネイションズカップ以来、この種目での優勝を飾った。
女子は、ネイションズカップのレースでの落車のけがが続いていた梶原悠未が復活。6人で行われた女子エリミネイションでは、最後に垣田真穂との一騎打ちとなった梶原だが、早めに先行したまま、フィニッシュラインを一番に切った。
「1月に初めて肋骨を骨折してしまって、靭帯損傷、肉離れのけがを負って、リハビリとトレーニングしてレースに向けて仕上げていっても、成果を発揮できずに落車してしまって、最後まで走れないという状況が続いていて。リハビリとトレーニングを繰り返してきて、心身ともにくじけそうになることもあったんですが、周りの方に支えていただいて、この大会に向けてしっかり準備することができました。やっと優勝することができてすごくうれしいです」
梶原は、今大会で出場全種目優勝を目指す。
男子エリミネイション リザルト
1位 橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)
2位 兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)
3位 今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)
女子エリミネイション リザルト
1位 梶原悠未(TEAM Yumi)
2位 垣田真穂(チーム楽天Kドリームス/早稲田大学)
3位 内野艶和(チーム楽天Kドリームス)
第92回全日本自転車競技選手権大会トラックレース
開催日時:2023年5月12日(金)〜15日(月)
開催場所:伊豆ベロドローム(静岡県伊豆市)
出場選手:日本代表メンバー、パラサイクリング日本代表メンバーなど
実施種目:オリンピック採用全種目(6種)を含むトラック競技の全種目
有観客:有料チケット制
当日券:1200円
18歳までは無料(高校生は無料)
ライブ配信:
楽天Kドリームス公式 にじいろ競輪TV