2023全日本トラック 太田海也インタビュー「自転車競技は楽しくないところがない」
目次
今回の全日本トラック出場種目全てで優勝した太田海也。
6月のアジア選手権、8月の世界選手権と続き、そして来年のパリオリンピックに向けて、これまでと現状、そして目指すところを聞いた。
力のスプリント、運のケイリン
今回の全日本トラック、チームスプリント、スプリント、ケイリンと出場種目全てで表彰台の真ん中に立ったのは太田海也(チーム楽天Kドリームス)だった。
「スプリントに関しては自分の実力を絶対に出したいし、絶対優勝したいという思いで。ケイリンに関しては運の要素が高いので、その運の要素をつかむための動きをしたいなと思っていて、それが6人いる中でうまく噛み合ったのかなと思います。
スプリントは自分の力で取ったと思いますけど、ケイリンは、運の力もあって取れたと思います」
出場種目を全て走り終えた太田はこう語った。
太田は、今年の1月にニュージーランドでのクラス1の大会に太田りゆと共に出場した。その後、パリオリンピックの選考対象となるネイションズカップ第1戦、第2戦に立て続けに出場。そこでの結果は、第1戦、スプリントでの銀メダル、第2戦ではスプリント、ケイリン、チームスプリントでの銅メダル、合計4枚のメダルを持ち帰った。
「自分としては、ネイションズカップでメダルを取るために、去年から1年間ずっとやっていたので、実際自分が取れるかどうかはやっぱり自分でもわからないし、これからもわからないんですけど、結果として取れたのはすごく自分の自信にも繋がりましたし、今日(全日本トラックのケイリン)のレースにも役立つような、マインドとか戦術みたいなところが手に入った、みたいな感じかなと思います」
ネイションズカップでの結果はもちろんだが、内容も驚異的だった。
東京オリンピックの過程でも、世界トップに君臨し続けるハリー・ラブレイセン(オランダ)とジェフリー・ホーフランド(オランダ)に対しては、常に日本人選手、いや、全ての選手が辛酸を舐めてきた。
第1戦のジャカルタでのスプリント、準々決勝では、1㎞タイムトライアルの現世界王者であるホーフランドと当たった太田は、なんと2本先取し、勝ち進んだ。だが、決勝では、4年間スプリントの世界王者に君臨し続けるハリー・ラブレイセン(オランダ)に2本先取され、敗れた。
しかし第2戦のエジプト、スプリント準決勝で再びラブレイセンとの対戦となった太田は、僅差で1本目を勝った。2本目、3本目とラブレイセンに敗れてしまうが、それでも、1本でも勝つことができたことは、これまでではなかった快挙だった。
「僕の中でもやっぱり、ラブレイセンとかホーフランドはずっと見てきたというか、画面の中でしか見てきたことない存在だったんですけど、本当に僕の力というよりも、僕の能力にチームの力が重なって、ジェイソン(・ニブレット短距離ヘッドコーチ)らコーチ陣が今まで培ってきた戦法が、うまく噛み合っただけで。僕が結果として勝ったと言われるんですけど、ジェイソンとかの力だと思う。思うというか、本当にチームで取ったメダルだと思います」
ここまでくるのに、ジェイソンには数㎝単位の動きまで矯正されたと話す太田。「言い方悪いですけど従っただけ」とも言うが、「それを自分の力に今だんだん変えてこられてると思うし、しっかりジェイソンから吸収していければいいなと思います」と語った。(ちなみに実践できないとめちゃくちゃ怒られるそうだ)。
パリ“だけ”を目指して
そもそも太田は、ボート競技から自転車競技に転向してきてまだ1年半が経過していない。見ている側からしたら”急ピッチ”での成長だが、本人からしたら「全然」そうではなかった。
「本当に長いというか、僕としてはもう毎日毎日が濃すぎて、パッと振り返ってみたら、これまで1年5か月しか経ってない。長いなと思っています。自分としては、3~4年やってる気分です」
それだけ密度の濃い日々が続いているのだ。
昨年7月のジャパントラックカップ時点で言った太田の言葉は、「いろんな人に怒られるかもしれないですけど、パリ目指して頑張ります。ちょっと厳しいって言われるかもしれないんですけど、確実にもうパリの後は考えてないので。今だけに集中して、自分の中ではもう時間がないのは、入ったときからわかってるので。1本1本集中して、頑張ります」と、恐縮したような内容だった。
今となっては、コーチ陣も認める日本を代表する一人だ。
しかし、最初から気持ちは変わらないと太田は言う。
「元々パリしか目指してないという気持ちはずっと一緒で、あのときから本当に気持ちはずっと変わらないというか。毎日毎日、死ぬ気でやるというのが自分の目標なので。ずっと変わらないのを続けた360日ぐらいが重なって、気づいたら、自分が行きたかった場所に来られていて。
だから今、行きたかったとこに来られたからこそ、もっともっと上の世界が見えるようになってきているので。競技を始めたあの日から何も変わらないというか、ただただ、振り返れば、それに伴って結果がついてるのかなと思います」
存在しなかった「恐怖感」
同じくジャパントラックカップのときに、他の選手が言う「怖さ」が、まだ自転車競技を始めたばかりだから知らない状態で臨めているというような話もしていたが、今、その恐怖感はあるのかを聞くと、「なかったですね、僕には」と笑った。
「良くも悪くも、こんなこと言っていいのかわかんないですけど、みんなが怖いって思うところで楽しいって言ったら嘘になりますけど、怖いよりもワクワクするというのが勝つような人間なので、それがうまく繋がって今成長できてるのかなと思います。恐怖心は全くないです!」
全力を出した後の痛みはもちろんあるそうだが、「毎回忘れちゃうというか。ワーッて練習した後、脚が痛くなって、そうだった!やらんかったら良かった、みたいな。この痛みは、もう練習したくないってそのときは思うんですけど、また練習になったらもっとスピード出したい!とか、もっと力出したい!というが勝っちゃうので。
力出してまた、あぁこれか!もうやらない!一生やらん!というのの繰り返しですね。でも1日~2日寝たら、ちょっとあのときもっと力出せたな……みたいな。痛みがなくなると忘れちゃうんですよね、人って(笑)」
「自転車がこの世にあって良かった」
そんな太田だが、自転車競技に楽しさはあるか聞くと、こう返ってきた。
「楽しさしかないというか、楽しくないところがないという方が。見る方は僕見たことあんまりないんでわからないですけど。ボート競技って楽しいと思う日の方が少なかったというか、勝てば楽しかったし、練習した成果が出れば楽しかったんですけど、自転車競技は練習から楽しいですよ。不思議なことに。
常に新しい限界を超えてとか、いろんな場所に連れて行ってくれたりするのが自転車なので、楽しいですね。自転車ができて、ありがとうございますっていう感じですね。自転車がこの世にあって良かったです」
また、全日本トラックでも披露していたドラミングポーズの理由も聞いた。
「恥ずかしいんですけど、ネイションズカップでホーフランドに勝ったときに、なんかすごい、勝った瞬間にもう気持ちが抑えられなくなっちゃって、人ってこうなって(胸を張って手を添えて)こうなる(叩く)んだなっていうので、結論がドラミングだったというか。
そのときは本当にもう心の底から、ブワーーってやっちゃったんですけど、全日本に関しては、あれ?求められてるのかな?やっとこう!みたいな感じで、ちょっと恥ずかしさがあるんで、ちょっとあんまり本当のドラミングじゃないです(笑)。ちょっと遠慮しがちな感じで。
うわーって叫んでるけどそれじゃもう足りなくて、もう僕の中で自転車の上で感情の出し方がわからないのがドラミングだったっていうだけです」
迫るアジア選手権だが、勝つことが目標だと語る太田。さらに世界選手権で目指すものはメダル。
「今回世界選が、オリンピック前の世界選になるので、どの国もすごい力を入れてくるというのはもう目に見えてわかっているので、そこでメダルを取れるように頑張りたいし、その気持ちがあるので、そのために日々の練習をもっともっと、今までの1.5倍頑張って練習したいなと思います」
「本当のやつ(ドラミング)が出るように頑張ります」
世界大会でまた、ドラミングが見られるときはさらなる快挙を達成してくれるはずだ。
第92回全日本自転車競技選手権大会トラックレース
開催日時:2023年5月12日(金)〜15日(月)
開催場所:伊豆ベロドローム(静岡県伊豆市)
出場選手:日本代表メンバー、パラサイクリング日本代表メンバーなど
実施種目:オリンピック採用全種目(6種)を含むトラック競技の全種目
有観客:有料チケット制
ライブ配信:
楽天Kドリームス公式 にじいろ競輪TV