ツアー・オブ・ジャパン2023 第5ステージ信州飯田 岡篤志が逃げ切り勝利&総合リーダーに
目次
時間を要した逃げ形成
5月25日、ツアー・オブ・ジャパン(TOJ)第5ステージは、長野県信州飯田にて行われた120.9㎞。下久堅小学校グラウンド前をスタートし、1周12.2㎞の下久堅周回コースを9周して、同じく下久堅小学校グラウンド前にフィニッシュする。獲得標高は、8日間で最も高い2580mだ。
スプリントポイントは2周目、4周目、6周目に、山岳ポイントは、3周目、5周目、7周目に設定された。
朝から空には薄い雲がかかり、隙間からは青空がのぞく。朝9時の時点で15℃前後とこれまででもっとも涼しい気温となったが、日差しも強くなりそうな気配があった。
周回コースを少し外れた下久堅小学校前から周回コース0周目へと入り、リアルスタートからファーストアタックを仕掛けたのはリーダージャージを持つトリニティ・レーシングのメンバーだった。
山岳ジャージを着る兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)も逃げグループにくらいついたが、その逃げは吸収。
1周目に入り、次に先頭にあらわれたのはリーダージャージ自ら。今日もステージ優勝を目論み、逃げにチャレンジしたというルーク・ランパーティ(トリニティ・レーシング)とEFの選手が集団から飛び出した。
さすがにそれは集団が許さず、すぐに一つにつながった。
上り区間に入ると、キナンレーシングチームの山本元喜を先頭にペースを上げていき、早速集団は徐々に数を減らしていく。
上りの途中でメトケル・イヨブ(トレンガヌ・ポリゴン・レーシングチーム)がアタックし、レオネル・キンテロ・アルテアガ(ヴィクトワール広島)がつく形でさらにイヨブの前へと1人出たが、それも吸収。
今度は、フェリックス・スティリ(EFエデュケーション・NIPPO・デヴェロップメントチーム)と山本元喜の2人が飛び出して、15秒のタイム差を獲得。
しかし、後ろからは7人の追走が逃げに乗ろうと集団から飛び出し、途中で先頭2人に合流。9人の逃げとなったが、まだまだ集団も目視できる範囲。
キンテロが2周目の山岳ポイント地点までの途中で、車間を開けながら1人さらにアタックしていくが、山頂を越えてから後ろのグループを待つ形となった。
3周目に入る頃、逃げのメンバーはまたしてもシャッフルされ集団は一つに。
1回目の山岳賞に向けて上りに入ると、キンテロが再びアタックを仕掛ける。山岳ポイントを独走でトップ通過し、そこから少し離れてイヨブ、山本、兒島の順で通過し、ポイントを獲得した。
バラバラと少人数で入ってきた山岳ポイントを終えると、下りでまとまり、8人の逃げグループが新たに形成された。
メンバーは、いなべステージを勝ったカーター・ベトルス(ヴィクトワール広島)、同チームのキンテロ、岡篤志(JCLチーム右京)、ディーン・ハーヴィー(トリニティ・レーシング)、兒島、ジェス・イワート(トレンガヌ・ポリゴン・サイクリングチーム)、山本元喜とライアン・カバナのキナンレーシングチームの2人。
8人の後ろから25秒ほどで今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)とスティリが先頭グループを追い、下り区間で追いつくと、逃げは10人となった。
チームから2人を入れたキナンレーシングチームの目的は、前待ちだったと山本は話す。
「チームとしては、逃げに選手を入れながら前待ちして、終盤のメイン集団の追い上げに合流して勝負するという感じだったんですけど、思った以上に逃げが強力で、少し総合系の選手もいたので、展開を見ながら動いた感じでした」
5周目に入る頃、集団とのタイム差は既に4分を過ぎた。
逃げに入るまで、岡は集団先頭を引いていた。過去の富士山ステージでの優勝経験者や有力なクライマーが揃うJCLチーム右京内で、岡の今回のTOJの役割はアシスト。京都ステージで2位になったときもそれを強調していた。
「最初はこれ行かしていいよって言われて、僕が先頭でずっと引いてたんですけど、そこにさらに何人も何人もとなったので、小石さんに『篤志行け!』と言われて。追っていったら後ろ止まってしまったんで、あれ、これ引くチームいなくなっちゃったかなと思いながら。
(逃げに)乗れてないチームもあったんですけど、そこまで牽引力のあるチームじゃなくて。序盤もペース速かったので、多くの選手がちぎれてたんじゃないかなと思います。チームのアシスト選手がもういなくなってるチームもいたと思いますし、あんなにタイム差が開くとは思わなかったんですけど、うちのチームも積極的に集団を追うという状況でもなかったと思いますし、一応自分がバーチャルリーダーになったので、ちょっと複雑な展開ではありましたけど」
2回目の山岳ポイント、逃げグループではこの日から山岳賞を狙うキンテロと兒島が横並びでスプリント。キンテロがわずかに上回り一位通過で2回目の7ポイント、兒島は2位通過で5ポイントを加えた。
集団はトレンガヌが牽引。タイム差は3分40秒ほどに縮まった。
7周目、最後の山岳ポイントに向けてヴィクトワール広島の2人がペースを上げると、逃げグループから今村とスティリがドロップ。兒島もじわじわと遅れ始め、ついには逃げグループから離れた。
山岳ポイントをキンテロ、カーターの順で通過。キンテロは今日だけで21ポイントを獲得した。これまでのステージでの貯金がある兒島は29ポイントで山岳賞首位のままでジャージをキープした。
終始厳しい表情を見せた兒島。トラック選手ゆえに筋肉量も多く、上りが続くこのステージでの山岳ポイント収集には苦戦を強いられた。
「やっぱクライマーじゃないのできつかったですね、ここの上りは。今までのはちょっと耐えてスピードでパンといけるコースだったんですけど、今日はもうガチの上りだったので。きつかった。辛かったです、本当に」
チームブリヂストンサイクリングの宮崎景涼監督が言うに富士山ステージでの山岳ポイントは無視。
「もう相模原で行くしかないですね」と兒島は話した。
またしても逃げ切り
スティリは下りで先頭へと追いつき、一方、先頭のハーヴィーがメカトラで一時止まったが、再び合流。
8周目の上り区間では、ベトルスがペースを上げる。カバナ、スティリが遅れ、さらに山本、キンテロも遅れる。
先頭にはカーターと岡、ハーヴィー、イワートが残る。山本は少し後ろで粘り、下りに入ると、山本、カバナ、スティリ、キンテロが先頭へと戻った。
集団は、追えるチームがおらず、一度縮めたタイム差はまた4分半まで広がっていた。最終周に入る頃、タイム差は3分半ほどに再び縮めたものの、もはや逃げ切りは濃厚となった。
ラスト1周、上り区間に入るとやはりカーターがペースを上げる。しかし、岡がピッタリと後ろに付き、その後ろにハーヴィーもつく。
「僕は、岡がとても速いスプリンターであることを知っていたから、上りで彼を落とそうとしたんだ。でも、今日の彼はとても強かった。彼は上りの頂上まで僕の後輪から離れることがなかった」とカーターは話す。
一方で岡は、いなべステージで一人逃げ切り勝利を収めたカーターに対し、序盤から警戒心を強めていた。
「いなべの独走を見て、本当に脚があるだろうと思っていたので、かなり警戒していて。自分もあまり積極的に回らないようにしていました」
カーターは、山岳ポイントを越えた後の区間でもアタックを繰り返した。
「最後の1周は、自分1人でラインを通過しなければならないと思っていたので、たくさんアタックした。でも残念ながら、今日はまだ調子が悪かったんだ」
独走に持ち込みたいカーターと「スプリントだったら勝てる自信があった」と落ち着いて差を詰める岡。
先頭3人は牽制状態となった。岡はその時の状況を振り返る。
「アップダウン(の区間)ですごい牽制状態になって、後ろから一気に行かれると面倒くさいなと思っていました。あと、最初の(山岳ポイントへの)上りでは3人になったんですけど、後ろから、去年チームメイトだったフェリックス(スティリ)がダウンヒルスペシャリストなので、彼は毎周(上りで)遅れるたびに、下りでみんな引き連れて戻ってきちゃう。それはちょっとややこしかったですね」
最終周でもやはり、遅れたスティリ、カバナ、イワートが下り区間で先頭との差を縮め、ラスト3㎞の地点では先頭に合流。
6人は牽制状態となり、後ろから行かれてしまうことを警戒した岡は最後尾に陣取る。
ラスト1㎞、最後の緩やかな上りの部分でカーターが先頭で仕掛けた。
ハーヴィーが差を詰めようとするが、詰めきれずに失速。後方から、岡の前を走っていたイワートがその差を詰め、詰め切ったところで、後ろから岡がスプリントを開始。
周回コースから外れ、ラスト300mを切って、フィニッシュラインへと入るストレートへと単独であらわれたのは岡だった。
「逃げグループにスプリンターがいなかったので、みんな自分の脚を使いながらっていう走りをしていて。まだ200m以上あったんですけど、もうもがけそうな選手があまりいなかったので、もう一気に踏んだら全員離れてくれました」
ラスト50mで勝利を確信した岡はガッツポーズで帰ってくる。
フィニッシュラインを切る間際、高々と両手を掲げ天を指差してから大きなガッツポーズでレースを締め括った。
祖父に捧げる勝利、そして総合リーダーへ
岡がTOJで勝つのは3回目。今回の勝利をこう振り返る。
「今回のTOJ、すごく調子良く来られていて、京都ステージもアシストをしながらの最後2位だったので、これはもしかしたらすごく調子いいんじゃないかなと思っていたんです。
ただ、やっぱりチームとしての役割として、毎日集団牽引なども任せられていて、今日も差を詰めたりとかして、脚も1回きついときがあったんですけど、逃げも人数が多くて、後ろが止まってしまったんで、前でもうこれ以上踏まないようにしようと余裕を持って周回をこなせました。
今日はきついコースではあったんですが、展開も味方してくれました。真っ向勝負をしたら後ろの総合勢で自分より強い選手はたくさんいると思うんですけど、逃げの中では自分が一番脚を残していた。本当に良かったです」
今回、堺ステージのタイムトライアルでは3位、京都ステージでは2位ときて、今日の信州飯田ステージでついに1位を勝ち取った。しかし、今日という日に勝ったことに多少の複雑さを示したのには理由があった。
「やっと勝てました。でも、昨日おじいちゃんが亡くなって、ちょっと帰るにも帰れないし、元々おじいちゃんも具合が悪くて、出発前日にも一応会ったんですけど……、運命のいたずらを受けましたね。いやぁ、でも……、生きてる内に勝ちたかったなと思います」
今回のレースを終えて、総合はシャッフル。前日まででトップから23秒遅れの8位につけていた岡が、集団とのタイム差、そしてボーナスタイムを加算して、総合リーダーとなった。
集団でフィニッシュしたメンバーとは2分半ほどのタイム差を持った状態ゆえに、最終的な総合順位を左右する明日の富士山ステージでの防衛にも期待がかかる。
「総合リーダーっていうのも(集団から)ギリギリ逃げ切ってとか、もしくは集団のスプリントで勝って、リーダージャージ獲得する可能性は(タイム差的に)あったと思うんですけども、2分半っていうタイム差がついたというのが自分としては、きわどい大差というか。すごく頑張らないといけないなっていうのがありまして。同タイムで総合リーダーであれば、明日、他の上れるチームメイトに頑張ってもらいましょうって話になるんですけど。
富士山ステージどれぐらいで上れば守れるのかちょっとわからないですけど、今までこのTOJで富士山ステージをちゃんと全開で上ったためしがなくて。結構、飯田で2~3分遅れることが多くて、増田(成幸)選手とか、総合リーダーを狙う選手がチーム内にいたから、自分は富士山ステージはゆっくり回復日みたいな形で思ってました。
最後まで勝負して、どこまでいけるかはわからないんですけど、でも直前に試走して、結構いいタイム出てたので、自信は……、自信はないですけど、頑張りたいなと。ちょっとは自信になったので」
岡がアシストとしての役割を終えるかどうかは明日にかかる。
TOJも残すところ、3ステージだ。
明日の富士山ステージは、11時よりスタート。
中継はこちらから。
ツアー・オブ・ジャパン 第5ステージ 信州飯田 リザルト
1位 岡篤志(JCLチーム右京)3時間6分11秒
2位 ライアン・カバナ(キナンレーシングチーム)+5秒
3位 ジェス・イワート(トレンガヌ・ポリゴン・サイクリングチーム)+7秒
総合順位
1位 岡篤志(JCLチーム右京)12時間16分7秒
2位 フェリックス・スティリ(EFエデュケーション・NIPPO・ディヴェロップメントチーム)+34秒
3位 カーター・ベトルス(ヴィクトワール広島)+1分48秒
スプリント賞
ルーク・ランパーティ(トリニティ・レーシング)72pts
山岳賞
兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)29pts
新人賞
ルーク・ランパーティ(トリニティ・レーシング)
TOJ2023ステージ詳細
8日間の総走行距離は、722.3㎞。総獲得標高1万232mとなる。
第1ステージ【堺】
5/21(日)13:35
大仙公園周回コース
2.6㎞(個人タイムトライアル)
獲得標高 = 10m
第2ステージ【京都】
5/22(月)9:45
普賢寺ふれいあいの駅→けいはんなプラザ周回コース
<パレード6.6㎞> + <2.8㎞ + 16.8㎞ × 6周 =103.6㎞>
獲得標高 = 1,836m
第3ステージ【いなべ】
5/23(火)9:30
阿下喜駅前→下野尻交差点→いなべ市梅林公園周回コース
<パレード3.1㎞> + <8.6㎞ + 14.8㎞ × 8周 =127.0㎞>
獲得標高 = 1,650m
第4ステージ【美濃】
5/24(水)9:15
旧今井家住宅前→横越→美濃和紙の里会館前周回コース
<パレード4.0㎞> + <11.3㎞ + 21.0㎞ × 6周 =137.3㎞>
獲得標高 = 1,218m
第5ステージ【信州飯田】
5/25(木)10:00
下久堅小学校グラウンド前→下久堅周回コース→下久堅小学校グラウンド前
<パレード1.7㎞> + <10.8㎞ + 12.2㎞ × 9周 + 0.3㎞=120.9㎞>
獲得標高 = 2,580m
第6ステージ【富士山】
5/26(金)11:00
道の駅すばしり→ふじあざみライン→富士山須走口5合目
11.4㎞(一斉スタートヒルクライム)
獲得標高 = 1,160m
第7ステージ【相模原】
5/27(土)8:50
橋本公園→旧小倉橋→串川橋→鳥居原ふれあいの館前周回コース
<パレード4.8㎞> + <10.9㎞ + 13.8㎞ × 7周 =107.5㎞>
獲得標高 = 1,728m
第8ステージ【東京】
5/28(日)11:00
大井埠頭周回コース
<パレード3.8㎞> + <7.0㎞ × 16周 =112.0㎞>
獲得標高 = 50m
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