トラック世界選手権で見た、ぜひお伝えしたい事柄いくつか(銀メダル・窪木インタビューも!)
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2023年のUCI世界選手権は、ほぼすべての自転車種目の世界選手権が同時期に、イギリス/スコットランドのグラスゴー近郊で行われる。
史上初の試みとなる、この『スーパー自転車世界選』。日本選手が最も多く参加するトラック競技に絞って取材に来たサイスポ記者が、ここで見つけた、ぜひお伝えしたい事柄を紹介していく。今回はそのパート1。
同時開催のパラサイクリング、杉浦佳子がアルカンシエル獲得
今年グラスゴー周辺では、これら13のUCI世界選種目が開催されている。
・ロード ・パラサイクリングロード ・トラック ・パラサイクリングトラック ・マウンテンバイク クロスカントリー ・マウンテンバイク ダウンヒル ・マウンテンバイク マラソン ・BMXフリースタイル フラットランド ・BMXフリースタイル パーク ・BMXレーシング ・グランフォンド ・トライアル ・インドアサイクリング
と、上記開催種目をご覧いただければわかるように、トラックとロードは、パラサイクリングトラックとの同時開催となっている。
さらにロードレースでは、来年のスイス・チューリッヒ開催の2024ロード世界選手権でもパラサイクリングロードとの同時開催が決定している。多様性の尊重されるこの時代、これは時代が求めた流れだ。
もともとトラックは種目数が多く、その数多い種目数を数日かけて開催してきている。そのエリートカテゴリーと共に、パラサイクリングの種目が開催される。バンク中央のインフィールド・エリアでは、エリート選手とパラ選手たちが同じ空間にいる。
パラ選手たちの、それぞれの身体に合わせてカスタムした機材で、競技を行う巧みさも素晴らしい。そしてそのほとんどを健常者と同じ競技ルールで行うところに、自転車というものの包括性の広さを感じる。
パラサイクリング日本代表である杉浦佳子は8月3日、この世界選手権女子C3個人パシュートで勝利し、アルカンシエルを獲得。また男子C2個人パシュートでも川本翔大が3位銅メダルで表彰台に登っている。日本パラサイクリング選手の活躍は目覚ましいものだ。
しかし、ただでさえ種目数の多いトラックで、パラ種目との同時開催は単純に開催種目が増える。そのため今年のトラック世界選手権は、7日間という長い開催となった。これは運営、参加の負担も大きいはず。
ただ、今回の世界選手権は、こういったDEI(多様性、構成性、包括性)の方向に向かうひとつのスタートになるはずだ。
男子スクラッチ/窪木一茂が昨年に続き銀メダル獲得
8月3日に行われた男子スクラッチで、窪木一茂が2位、銀メダルを獲得した。
スクラッチはトラックで行うロードレースとよく言われる。同時にスタートで先着順に順位がつくレースだ。
窪木はこの種目で昨年の世界選手権でも2位を獲得しているため、2年連続の世界選手権種目の銀メダルとなる。
速い展開で進んだレース、窪木は積極的に先頭に出て、機会を伺う。全60周回の残り周回数が段々と少なくなる中で、窪木はフィニッシュスプリントに向けた位置取りを外さない。
残り5周、最後にアタックを狙った選手を集団が捉え、その勢いでフィニッシュスプリントが始まる。最終コーナーまでたくみな位置どりで備えてきた窪木は、外側からまくっていくが、先頭にはわずかに届かず2位となった。
レース後、少し長めに話を聞いた。
「レース直前に、ダニエル(・ギジゲル、中距離コーチ)にギヤを上げろって言われたんです。
それまでも充分重かったんですよ。
でも『わかった、それで行こう』って。それで2位になったのかな、とも思いますね。余裕は本当にありました。
ただ集中力が足りてなかったような気がしますね。
でも走ってるときは冷静でした。どんなポジションで走ってるのかな、とか、後で見たらいいポジション取れてるかな、とか思っていました。
空気抵抗を受けないように、小さく小さくなって走っていって。
そのぐらい余裕はありました。
大きい選手の後ろについて休もう、というイメージで。
で、休もうとした時に、何回か集団の前の方に降りたんですよ。
去年までは、はじかれてたんですよね、『弱い選手は入ってくんな』って。
だけど、今年は強い選手が、何回もそこで入れてくれた。
そこで自分は認められてると感じて、余裕がまた生まれて。
周りが僕を見て、攻撃してくる。自分がレースを作ってた側だったなと思いました。
だから僕は脚を溜められたし、後手にならなかったっていう空気感もあって。
ただ、やっぱり金メダルを獲りたいなら、自分から獲りに行かなきゃいけなかった。
結局、後ろからの追い上げでスプリントしたのが、金を獲れなかった理由でした。
もうちょっと周回をちゃんと見るべきだったなと。
誰よりも僕は、多分、最後に脚があった。
ラスト4周でいい感じだったから、独走して逃げようかなとも思ったんですよ。
ラスト1kmの練習をこれまでたくさんしてきたし、かなり速いスピードで走る自信もあった。独走で逃げ切ってフィニッシュできるかも、と。
だけど自分で決め切れなかった。絶対にその脚は溜まってた。
ただ、あそこで裸になって逃げられなかった。
たぶん、自分の裸を見せたくなかったんでしょうね。裸で走って、みんなに笑われるのが嫌だったんでしょうね。
だけど、あそこはやっぱりアホになって、裸になって。
何を思われたっていい、ラスト出し切るんだ、っていう気持ちでいけば、おのずと結果はついてきていたんでしょうね。」
すでに世界強豪の一翼、男子チームスプリントで日本は6位
トラックでは、オリンピック種目にチーム種目が2つある。短距離競技であるチームスプリントと、中距離競技であるチームパシュートだ。このうち、男子チームスプリントは、すでに世界での強豪国。この世界選手権では8月3日の予選を42秒961で4位、8月4日の決勝を42秒948で6位という成績を残した。
チームスプリントは、3人で250mトラックを3周する競技。現在の日本チームを構成する主たる3選手は、BMXで五輪に2度出場している長迫吉拓、ボート競技から競輪選手に、そして一躍世界トップ短距離選手となった太田海也(インタビューはこちら)、そして小原佑太の3人だ。
この3人のチームで今年はネイションズカップでも表彰台を獲得。オリンピックでのメダルを十分に狙えるまでに、レベルはここ数年で上がっている。今回の世界選の結果も、現在の日本チーム、世界選手権での最高順位だ。
トラックにおいては来年のパリ2024オリンピックの前哨戦とも言えるこの世界選。チームスプリントでは、アテネ2004オリンピックで銀メダルを獲得したことのある日本。20年間の時を超え、再びオリンピックメダルへの獲得に期待がかかる。
トラックフレームの最新トレンド『広く!広く!』
空気抵抗を軽減することは、ロードレーサー・テクノロジーのトレンド最前線であるのは皆さんご承知のとおり。
トラック世界選手権では、それが極端な形で実現されたバイクが実際にレースを走っている。フォーク、そして後部のチェーンステーの幅が大きく開いているのだ。
タイヤとフォーク、またはタイヤとチェーンステーとの間を広げて、空流をスムーズに流す、というのが空力工学における現在の最速解とされているようだ。
このコンセプトのフレームが、初めて一般の目に触れたのが、東京2020オリンピック。イギリスチームが使ったホープのフレームだ。
スポーツカーの開発で知られるロータスも関わっているこの車体は、『hbt』として、ホープの最新モデルはすでにこちらで発売されている、ことになっている(https://www.hopetechhb.com/hbt)。なお価格は25,000ポンド、日本円にすると約500万円というところ。
フランスナショナルチームが使うルックも、この世界選手権で、このトレンドに即したフレームをデビューさせている。
特筆すべきは、シートポストないことだ。左右のチェーンステーから2本のマストが上に突き出して、そのままサドルへつながり支えているところだ。『P24』という名称ではあるようだが、詳細は不明。
また日本ナショナルチームもこのコンセプトである新型フレームを、短距離種目と中距離種目それぞれこの世界選に投入している。
このような形状のバイクに、短距離では佐藤水菜がチームスプリントで乗り、中距離では内野艶和がスクラッチで乗っていた。詳細を問い合わせたが、執筆時点での回答は得られなかった。
2023UCI自転車世界選手権大会
開催期間:2023年8月3日〜13日
開催地:イギリス・グラスゴー
https://www.cyclingworldchamps.com/