猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第23回
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photo:山内潤也
私が初めてファンライドに出場したのはグランフォンド・八ヶ岳というイベントだ。
距離は120kmと短いがその半分は上り。
レースでもないのに誰よりも速く坂を上り、全身攣りながら2位でゴールし「どこがファンライドだ!」と皆の失笑をかった。
坂に於ける私の馬鹿さ加減はあの頃からすでに始まっていたのだ。
他にも日本最長距離310kmを走る下北半島ロングライドや初心者向けのツール・ド・しものせきなどファンライドには、それぞれの個性があるから面白い。
最多参加者という個性があるのが佐渡ロングライドではなかろうか。コロナ禍の前には4000人の参加者を記録したという。
佐渡ロングライドの完走を目指して
チャリダー★のロングライド女子部の第2戦は、佐渡ロングライドに挑戦する事になった。
大野楓氏と志田ねね氏は130km。
私は210kmに挑戦するフッシーこと伏見綾子氏をアシストする事になった。
佐渡の特徴はズバリ「制限時間が厳しい」という事。
平坦基調とはいえ210km、12時間と厳しい時間設定だ。
正直言ってフッシーの完走は厳しいと思われた。
というのも4月にロングライド女子部での初ライドでは時速25kmで千切れてしまっていたから。
佐渡ロングライドを完走するためには、少なくとも時速30kmはキープできないと完走は厳しい。
無謀な挑戦と思われたが、エイドでの休暇を減らせば何とか可能性はあるかもしれない。
不安を思わせるような、どんより曇り空のもと午前6時にスタートした!
スタートしてすぐは時速25kmで入り、様子を見る。
まず思ったのはやはり参加者の多さだ。
まるでロードレースを走っているかのような集団となる。
賑やかでいいが、集団走行に慣れていないライダーも多く神経を使う。
何度も訪れるアップダウンをこなすうちに私は「それ」に気付いた。
フッシー走れるようになってる!!
時速30km超えても付いて来るではないか!?
聞くとこの2か月、埼玉県の山伏峠を何本も上ってきたらしい。坂は人を強くする。
伸び代しかないロードバイク青春期だ!
努力が報われる輝かしい日々。
私のように10年を越えると努力はそうそう報われない。
そう!暗黒ダークマター期だ!
フッシーの努力のおかげで今日は行ける!!
勢いに乗る我々は一つ目のエイドに到着。
見るとトイレに大行列ができている。
これでは時間をロスしてしまう。
フッシーの判断でエイドをスルーした。
佐渡ロングライドの素晴らしいところはエイド以外にもトイレがたくさんあることだ。
エイドをスルーしてしばらく走ると小さなトイレを見つける。待ち時間はゼロだ。
さっそくトイレ休憩。
するとこのコラムでお世話になっているサイクルスポーツの記者さんが話し掛けてくれた。
「大変お世話になっております!」と深々と頭を下げて、ちゃっかり写真も撮っていただく。
完走も大事だが処世はもっと大事だ!
トイレを済ますと追い風になる。
時速40kmまで上げても大丈夫そうだ!
ここで距離を稼ぐ!なぜなら島の反対側は向かい風になるからだ。
かなりのハイペースで走れている。
これはかなり時間の貯金ができているに違いない!
ロングライドでの時間貯金は老後の貯金と同じで、あるに越した事はない。
Z坂で脚の調子を見る
そして現れるのが佐渡名物「Z坂」だ。
見事な「Z」を描いているが、坂バカの私にとっては勾配は大した事なく距離も短い。
今年は坂バカ部を休部しているが乗鞍には出るので踏んでみる。
300Wを楽に越える。なかなかの仕上がりではないか!?
今年はロングライドをして来たので脚にいつもより踏める感覚がある。
これは乗鞍ヒルクライムも行けちゃうのではないか!?と期待するが、見事に乗鞍には通用しなかった……。乗鞍に淡い期待は禁物だ。
乗鞍についてはまた後日書かせていただく。
短くZ坂制覇の記念撮影を済ませ、先を急ぐ。
Z坂から先は民家が無くなり景色が一変する。島の最北端、佐渡秘境地帯だ!!
標高167mの一枚岩の大野亀とカンゾウの黄色い花が咲き誇る絶景が現れる。
まるで黄泉の国のようだ。
絶景ゾーンを終えて折り返すとやはり向かい風となる。
ペースが落ちるかと思いきや時速20km後半を維持できている。
悪魔のデッドライン
行ける!今日は行ける!と完走が脳裏をよぎった時、前方に全身真っ赤のオジさんが現れた。
皆様ご存じの悪魔おじさんだ!!
私は悪魔とは長い付き合いだ。
チャリダーが始まってすぐ参加したドSイベント・ピークスで知り合い、毎年乗鞍でもお会いする。
「悪魔おじさん」、「坂バカ俳優」キャラ者同士の妙な親近感が生まれるから不思議なものだ。
悪魔おじさんに聞くと、どうやら悪魔は佐渡の常連らしい。
話を進めると信じられない言葉が返ってくる。
「私が完走ラインですよ!私より後ろにいたら完走は無理です」
青ざめるフッシー。
我々はかなり時間の貯金をかなりしていると思われたが、制限時間ギリギリを走っていたのだ。
悪魔の囁きが我々を窮地に追い込むのであった。
次回!「悪魔が来たりて狼狽える」編へと続く。