パールイズミの全てのテクノロジーを搭載したジャージ「ビジョン」の真髄

目次

パールイズミのハイエンドモデルであるビジョンシリーズ。2019年の春夏モデルから導入されたビジョンは、さらなる進化を続けている。今回は、ビジョンの開発担当であり、パールイズミというブランドの中核を担うデザイナー佐藤充さんと、パールイズミブランドをアンバサダーとして愛用してきたコミュニティーマネージャーの大西勇輝さんに普段着からサイクルウェアの選び方などについて対談をしてもらった。

 

普段着や愛用品など、自分を構成するためのこだわりやお気に入りのアイテムとは?

佐藤:明るいカラーやプリント柄が好きで、よく着ています。インパクトを持つアイテムのコーディネートを存分に楽しめるのが気に入っています。
 
大西:僕はシンプルなものが好きで、形やシルエットが自分の身体や使うシーンにフィットしているということを重要視しています。
 
個性的なアイテムを用いてコーディネートを楽しむというオシャレさと、シンプルという洗練されたものを自分らしく着こなすというオシャレさ。二人の方向性は対極だ。
 
ビジョン対談

デザイナー佐藤さん(右)とコミュニティーマネージャーの大西さん(左)、好みが対局な二人がこだわりについて話す

 

二人のお気に入りのアイテムとウェアの選び方

普段着からこだわりを持っている二人は、実際にどんなものを愛用しているのか。それぞれのお気に入りのアイテムを紹介してもらった。

佐藤:パールイズミのバックパックなんですが、うちの社員が自転車通勤する際に必要最低限のものが収納できるということを軸に、テストを重ね試行錯誤して作ったものです。たとえば、キーリングの紐が長くバッグを下さなくても手が届いて取り外せるようになっていたり、身体にバッグを固定する際に片手で止められるようにしたり。小物の収納に便利な小さなポケットも数多く搭載させています。これはとても実用的で気に入っていますね。

ビジョン対談

佐藤さんのお気に入りは、社内で自転車通勤をしているメンバーが本当に欲しい機能性を兼ね備えたバックパック

大西:僕はデザインに主張がなく、モノトーンなものが好みなのですが、Onのシューズは履くとすっきりしたシルエットで機能性にも優れていて、客観的に見ても自分で履いていてもしっくりくるアイテム。乗っているバイクもブラック1色使いのシンプルなもので、ウエアを着用したときにコーディネートしやすいものを選んでいる傾向にありますね。

ビジョン対談

ランニングでも普段でもさまざまなシーンで使えるOnシューズが大西さんのお気に入り

物には実用性と日常を豊かにするといった両面を持ち合わせている。毎日使う物、長く愛用している物には理由があり、背景のストーリーにも個性があり、それは数多くの経験によって形成されるものなのだろう。自分なりのこだわりを持つ二人のサイクルウェアの選び方とは?

大西:僕はプロではないので、基本楽しく走ることが大前提です。目的地を決めてランチをとったりコーヒーを飲んだりするのが好きなので、いかにもユニフォームといったような出で立ちよりも、普段着と変わらない感覚で違和感のないものを選ぶように意識しています。

佐藤:20年くらい前までは海外チームのレプリカジャージが多く出回っていて、ユニフォーム感が出ていましたよね。最近はデザインがシンプルで落ち着いた色のものが増えてきたので、選ぶ幅が広くなったように思います。

大西:あと外せないのは機能面ですよね。ライドの時間が長くなれば動きの快適性や温度調節が重要になり、安全面にも直結してくる。当たり前ですが、そのベースがあってこそのサイクルウェアなんじゃないかと。

佐藤:機能面は快適性にも大きな影響を及ぼすので、そこは重要ですよね。わかりやすいのが峠のシーン。上りは暑くて汗ばむが、下りは寒くてブレーキが握れないなんてこともありますから。

大西:ライドを楽しく継続するという意味でも、いいウエアに投資をするのは大切だと思います。

自転車の場合、機能性を担保するのは他の競技と比較すると難しい点が多く存在するという。レース以外の多くのライドシーンでは、その日1日をサイクルウェアで過ごすことが多く”着替える”という行動が含まれない。そのため、ライド前後とライド中の身体の温度や汗の量や、時間と共に変化する気温に対応できる包括的な機能性が必要であり、素材選びから素材の配置や縫製に至るまでの細やかな計算が求められる。それらを実現するために、サイクリストが過ごすであろうひとつひとつのシーンを想像しながらシュミレーションを重ねていく。

 

ウエアにおけるフィット感の重要性とビジョンの魅力

今季の新作、ビジョンウィンタージャケットについて語る二人

今季の新作、ビジョンウィンタージャケットについて語る二人

 

縫い目を内側に作らないことで着心地も良くしている

縫い目を内側に作らないことで着心地も良くしている

フィット感=着心地の良さであるとすれば、その良し悪しは個人の感じ方に委ねられる。タイトなものが好きな方もいれば、個々の乗り方や楽しみ方によってはフィットしていることが正しいとも限らない。

佐藤:競技として取り組んでいる人には、空気抵抗の削減という意味でもタイトなものが好まれると思います。逆に、スピードを重視していなかったりゆったり走ることを好むひとは、そのタイトさがストレスになる場合もあると思うんですよね。肩肘を張ってしまって疲労にも繋がる場合も。そういう方には、風でバタつかない程度のフィット感が良いと思います。

大西:伸縮性のある生地とはいっても、フィット感と動きやすさの関係性は着心地にダイレクトに響くと思うので、よく動かす関節やリラックスしたい部分への配慮があるといいですね。

今季発売された新作のビジョンは、薄手でスッキリしたシルエットながらも保温性を兼ね備えており、見た目の良さも機能性の良さも際立っている。

ビジョン ウインター ジャケット

ビジョン ウインター ジャケット 2万7000円(税抜)

大西:僕にとってはストライクなプロダクトなんです。いたってシンプルなデザインのように見えますが、生地の切り返しやテープの使い方などこだわりが随所に見られるのが好きですね。機能面は作り手である佐藤さんにぜひ語ってほしい!

佐藤:いわゆる冬用のサイクルジャケットは、表がフィルムで中が起毛になっていて、素材が固めな場合が多いんです。うちのウィンドブレークジャケットも同じような作りなので、暖かいものの固さは否めず、どうにか改善したいと何年も考えていたんですよ。ある日、ダウンジャケットの暖かさについて話していて、表裏が縫い合わされておらず、その間に入っている中綿による空気層が着心地の良さと暖かさを実現しているんだな、と。それならばビジョンも貼り合わせずに作ってみたらどうなるか?というのが発想の根源でした。

パタンナーに試作を依頼したところ、実現できそうだったので着心地と暖かさ、見た目の良さという3つの軸で開発に踏み切ったんです。見てもらうとわかると思いますが、表と裏の生地が分かれていて、そこに糊が存在しないのでとても柔らかく仕上がっています。ちょっと冬物のウエアとは思えない肌触りで。さらにスッキリ感を出すために切り返しの縫い目を極力減らしたく、そこも計算しました。袖を通すとタイトさはあるものの、ごわついた感じがしないように素材は伸縮性のあるものを起用しているので動きやすさもありますよ。

寒さを感じる箇所は三重構造。それでもしなやかさは保ったまま

寒さを感じる箇所は三重構造。それでもしなやかさは保ったまま

ダウンジャケットから着想を得た生地構造

ダウンジャケットから着想を得た生地構造。糊を使わないために柔らかく仕上がっている

裏側は起毛の素材を入れているのですが、特に風が当たる部分には吸汗発熱素材を使っていて、それぞれを独立させた状態で三重構造にしています。素材同士の間に空気がたまることで暖かさを逃さないという工夫をおわかりいただけますでしょうか。

大西さんも取材陣も、佐藤さんのこだわりが搭載されたビジョンの素晴らしさに感嘆の声しか出ない。さらに佐藤さんの熱弁は続く。

メッシュ素材

背骨のラインには汗が溜まりやすいために、メッシュ素材を使用。また縦に伸びにくい素材のためにポケットに物を詰めても下がりにくい

耳の下側

耳の下側は暖かく、頭の後ろは干渉しないように襟の形が形成されている

佐藤:ビジョンの良さは、僕のこだわりだけではないんですよ。たとえば、縫い目の部分は身体に当たるとストレスになるので、縫い目の角度を変えたりひっくり返して中に入れたりと、パタンナーが日夜考えている発想が生きています。汗をかく部分、特に背中部分はメッシュを搭載しているのですが、実は立体的なポケットの形状に影響を及ぼす部分でもあるので、裏に縦に伸びない素材を縫い付けていたりもしています。身体にフィットさせようとすると、全体的に縦にも横にも伸びる伸縮性のある素材を使用してしまいがちですが、意図的に伸びを出さない部分、伸びを残す部分によって細かく設計しているというのも小さいながらもこだわっているポイントですね。

この表面部分の素材は、パールイズミの歴代のサイクルウェアにはない、初めて採用した素材。海外の業者とのリレーションがプロダクトに生かされているのも強みであり、今回のビジョンはイタリアで開発された素材を使用している。素材メーカーからの提案もあるが、佐藤さんは作りたいものから逆算して新しい素材探しを依頼したり、素材開発者とディスカッションしながら納得のいく素材に仕上げていくという探究心の強さで理想の商品開発へ導いている。

袖口のチューリップ形状

袖口のチューリップ形状も当たりの柔らかさを重視して、試行錯誤を繰り返した結果生まれたもの

背中の裾部分とポケットの真ん中部分

背中の裾部分とポケットの真ん中部分は泥はねをしても浸透しない生地を用いる。真ん中のファスナーポケットは簡易防水仕様

佐藤:サイクルウエアはポケットの数やワッペンが付いていることが価値ではないため、引き算形式で作られていくもの。そのため、襟や袖口ひとつにおいてもこだわり抜いています。袖に関してはふわっと柔らかくフィットさせるためにサンプルと製品では形状が変わっていたりと、パタンナーがサンプルを着たおして微調整を繰り返しているんです。冬になると霜が降りるので泥はねすることを想定して、裏側のお尻の部分もすぐに汚れが落ちるような素材にしていたり、ポケット部分のみを簡易防水の素材を用いていたり。襟もハリの少ない素材を使用して、首元が窮屈にならないように、でも長さは出して熱が逃げないようにと工夫しています。

元々の開発コンセプトの中に”スッキリしたシルエットであること”というのを掲げていたため、全て二重構造での仕様で開発を進めていたが、いざサンプルを試着してみると意外にも寒さを感じるところがあり、三重構造に変更した部分も。その最終調整がなされたのが脇部分だ。

通常のウィンタージャケットとの裾の違い

通常のウィンタージャケットとの裾の違い。スッキリ見せることにこだわり、ビジョンでは裾の絞りを廃した

佐藤:三重構造にしたかったものの、どうしても縫い目をいれたくなかった。そこで、生地を足して挟むことで縫い目をつくらずに暖かさを出すという方法を取りました。この部分は発熱しなくてもいいので、あえて前みごろとは違った発熱しない素材を使っています。

細かいところまでとことんこだわりたいが、足し算で作ってしまうとコンセプトからズレてしまう。そういう問題は企画チームとパタンナーが連携してアイディアを出し合い、解決している。

ビジョン ウインター ビブタイツ

ビジョン ウインター ビブタイツ 2万7000円(税抜)

ジャケット同様、ペダリングを妨げるような縫い目が当たらないように設計されている

ジャケット同様、ペダリングを妨げるような縫い目が当たらないように設計されている

しなやかさを持つビブ部分は、着用感を感じさせない

しなやかさを持つビブ部分は、着用感を感じさせない

タイツに関しては、ジャケットと同じく全体的に二重構造になっており、厚みが必要のない部分は一重に、特に寒さを感じやす腿と膝下までは三重構造になっている。見た目をスッキリさせるために縫い目を極力減らしたつくり。裏側を確認すると、可動が激しい膝周りは三重になりつつも縫い目が肌に当たらない配慮がされている。防風系のタイツにありがちなお腹周りの冷えを考慮して、そこには発熱素材を使用するなど、ジャケット同様タイツにも細かいこだわりが散りばめられていた。

佐藤:股の部分は寒さをあまり感じないこと、ペダリングによってよく動く部分なので、一重にしてあります。背中のビブ部分はジャケットを着ることも加味して、上半身に重さを感じないためにも軽量化しています。

長くウェアを開発し、試行錯誤を続けてきたからこそ蓄積された技術と知識が詰め込まれているのがよくわかる。最も気温が下がる真冬であっても、アクティブに快適に乗りたいサイクリストにとって最高のセットアップではないだろうか。”進化させ続ける”ためのたゆまぬ努力の結晶がビジョンであり、これさえも通過点にしてしまうであろうパールイズミのものづくりから目が離せない。

ビジョン ウインター アンダー 1万円(税抜)

ビジョン ウインター アンダー 1万円(税抜)。ポリプロピレンのアンダーは、肌から汗を素早く遠ざける。軽量にもかかわらず暖かさが持続する。無縫製で着心地もいい

 

ビジョン ウインター グローブ 1万2000円(税抜)

ビジョン ウインター グローブ 1万2000円(税抜)
ハンドルを握りやすい超立体構造のハンドルは、しなやかでスリムな形状が特徴。手のひら部分は天然皮革で手の形にフィットしやすい

 

冷えやすい指先部分は中綿二重構造になっており、暖かさを損なわない

冷えやすい指先部分は中綿二重構造になっており、暖かさを損なわない