猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第24回

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猪野学 第24回

エイドにて…なかなか貯金がたまらずこの表情。制限時間が迫る。

悪魔が来たりて狼狽える

悪魔の囁きにより制限時間ギリギリを走っている事を知った我々は、改めて佐渡ロングライドの厳しさを知る。
しかしまだ可能性はある……と信じる。

一体どうやったら完走できるのか?
思考を巡らす。相変わらずの猛烈な向かい風だ。まるで不気味なフルートの音色のように……。
先頭を引くのは悪魔。私は「変わりますよ!」と声をかけ前へ出る。

あくまでもフッシーが付いて来れるペースで、少しキツめの時速30km。
痺れを切らし何人か集団から飛び出して行くが、すぐに帰ってくる。
向かい風での独走は無謀だ。

結局、中間地点の一番大きなエイドまで前を引かせていただいた。
ここでしっかりめの昼食。ガッツリ炭水化物のお弁当と汁物が出るのが有難い。

制限時間は……

早々にすませて再出発!あと半分だ!!
ロングライドの特徴として半分過ぎればメンタルが少しラクになる。
距離を消化していく感じを得られるからだ。
ゴールまでのカウントダウンが始まった。

210kmの後半は小さな漁村を巡る。
道は細くなり荒れている所か多い。
後ろに合図を出さずにラインを変える人もいるので危険だ。

疲れてくるし、注意力散漫になる魔の時間だ…魔の時間!?そういや悪魔はどこに行った!? お弁当休憩の間に先にスタートし前にいるのか、それとも後ろか……。
後ろにいると信じて粛々と走る。

それにしてもフッシーはいっこうにタレない。素晴らしいスタミナだ。
よくぺーシングは生かさず殺さずと言う。苦しくないがラクでもない、千切れないギリギリを狙う。

私は新城選手のタイ合宿で気温40℃の中、250W90分千切れないギリギリのペーシングをやられ、三途の川を渡りかけた。今思えばあの時が一番強かった。
新城選手に引いてもらえば、余裕で乗鞍の自己ベストが出せるだろう。

だから後ろを走るフッシーのキツさはわかる。
もう少し緩めてもいいかも知れないが、ロングライドは何が起こるかわからないし最後に210km名物の3つの激坂が待っている。
フッシーのスタミナのお陰で我々は結局1時間の貯金を得て、いよいよ一つ目の激坂へと突入する!

実はZ坂よりも苦しい坂

激坂と聞いていたが距離も勾配も大した事はない。しかし180km走ってきた参加者には激坂と化す。脚がなくなり踏めなくなると、坂は全く進まず苦痛でしかない。踏めるから坂は楽しいのだ……。私は後にそれを痛感する事になる。

坂は時間をロスする。ひとつ目の坂を終えた時点で貯金は40分と減った。休まず次の坂へ向かう。

2つ目の坂は最後のエイドの後だ。エイドで美味い蓬餅を食し、休まずスタート!
2つ目の坂も似た様な勾配と距離。これなら大幅にタイムロスする事はない。

ここで初めて私の脳裏に「完走」の二文字がよぎる。さすがのフッシーも疲労の色が見え始めた……。そしていよいよ最後の坂へ。
海岸線にZ坂のような坂が現れる。後ろでフッシーの「ふざけんなぁ〜」みたいな叫びが聞こえた。心の声という奴だ。人は限界を迎えると悪態をつく。

しかし最後の坂もZ坂ほど長くはない。
難なく上り終えて、いよいよ市街地へと戻ってきた。
急に大型車が増えてきて注意が必要だ。

猪野学 第24回

市街地に戻って来て完走を確実にした瞬間…何度味わっても良いものだ。

 

そして遂に16時51分。我々は悪魔を振り切り完走を果たした。
フッシーの自転車を始めて数カ月で210km完走は大したものた。登山で鍛えたスタミナだろうか?
130km組も見事に完走し、ロングライド女子部は未だ失敗知らずの好成績をおさめた。

帰りのフェリーは疲れて爆睡かと思いきや、自転車の話が止まらない。
このチームは本当に熱量が高くそれを楽しんでいる。
そしてチームのバランスもとても良い。

ヒルクライムと違い、ロングライドは結束力のようなものが生まれる。
辛いのは皆同じ…苦しみの共有がそうさせるのだろうか。
ここまで良い結果ばかり残して来たロングライド女子部。
しかし彼女達の前に「番組史上最も過酷な挑戦」が襲いかかる。

もちろんその挑戦は私にとっても今までで最も過酷な…エベレスティングを遥かに超える……つらく壮絶なライドとなるのであった。

猪野学 第24回

フェリー乗り場で海藻蕎麦。ご褒美をあげるまでがロングライドなのだ。

 

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