安井行生の「ホイール全ラインナップ一気乗り」 シマノ編2 WH-RS330&WH-RS500
目次
ホイールメーカーごとに全ラインナップを片っ端から借りて試乗し、各モデルの性能差やメーカーの個性についてあーでもないこーでもないとモノを言ってみるという新連載。
第1弾はシマノ。前後セットで税込み1万5000円のWH-RS010からハイエンドモデルのWH-R9100-C60まで、計9本のリムブレーキ用ロードホイールを同条件で一気に乗り比べる。シマノとは、一体どんなホイールメーカーなのか。第2回はWH-RS010の上位機種、WH-RS330とWH-RS500。
セミエアロのお手頃ホイール、WH-RS330
一回目から褒めてるんだかけなしてるんだかよく分からない原稿を書いてしまったが、第二回はWH-RS010の上位機種、WH-RS330とWH-RS500に乗る。
RS330は、アルミリムとしてはディープの部類に入る30mmハイトのお手頃完組ホイールである。2013年頃からラインナップされていたWH-RS31の後継モデルで、リム幅20.8mm/リムハイト30mmというリム形状に変更はないが、リヤホイールのスポークパターンに大きな違いがある。
RS31が両側クロスで20本(フリー側、反フリー側ともに10本)だったのに対し、RS330はオプトバルスポークパターンを採用したのである。このフリー側と反フリー側のスポーク本数を2:1とする設計はカンパやフルクラムなども採用しており(G3と2to1)、それらがおしなべてよく走ることを考えると、片側にスプロケが付くことで左右のスポーク角に差ができてしまうロードホイールにとっては、2:1が一つの正解なのだろう。
RS010がごく普通の形をしたハブを用いるのに対し、RS330は一気に専用設計色が強くなる。もちろん仕上げや素材は異なるのだろうが、基本形状は上位モデルと共通だ。当然ハブはエクストラワイドフランジとなる。
RS010で採用されていたシマノのホイールテクノロジーは③のみだったが、このRS330では①、②、③と一気に増える。さらにスポークはエアロ形状になり、ニップルはアルミになり、作りを見ると「ここからが完組ホイールの仲間入り」という感じだ。
2kgオーバーだが、それなりによく走る
走りの性格はRS010と似ている。「速くはないが、走るのが嫌ではない」という例のアレ。上りでもベタッとした重さは少なく、がっしりとした剛性感が頼もしい。重いは重いが、素直に回ってくれるので、遅くても腹が立たない。ただ、速度の上げ下げははっきりと苦手と言っていい。低速域での加速性能や上りではRS010のほうが軽快だと感じる。それもそのはず、このRS330は前後で2051gもある。2kgオーバーになればスペック上は立派な「鉄下駄」だ。
そのかわり、高速域や大トルク下ではRS330の勝ちだ。リムハイトが高いことによるリム剛性アップの恩恵だろうか、高速維持性能はかなり優秀な部類に入る。こいつはいざというときには頼りになる鉄下駄なのである。とにかく剛性が欲しい人、高速域でゴンゴン踏みつけるという人に向くはずだ。
価格は約2万7000円。RS010の約1万5000円からすると一気に高くなるが、完全専用ハブにオプトバルにオフセットリムであることを考えると、やはりこれも大特価と言った方がいいだろう。
スペック表記が異なるがWH-6800とモノは同じ
お次はWH-RS500。念のため書き添えておくが、1万円ほどで買えた究極の鉄下駄ホイール、かつてのR500とは別物である。このRS500はアルテグラグレードのホイールとして人気を博したWH-6800の後継である。
WH-6800とWH-RS500のスペックを比較すると、リム幅は20.8mmで同じ。リムハイトは6800が23mm、RS500は24mmと、1mm高くなっている。重量は6800が1640g、RS500が1649gと微増。
普通なら「あぁリムハイトが1mm高くなってそのぶん重くなったのか」と思うところだが、評論を生業とする人間ならここで疑問を持たねばならない。たった1mmのためにわざわざリムの設計を変更するだろうか?たった1mmのためにわざわざ新たに製造ラインを起こすだろうか?もちろんリム形状をガラリと変えた結果としてハイトが1mm変わったのなら話は分かる。しかしWH-6800もWH-RS500も、リムの基本形状は同じなのだ。
問い合わせてみると、やはりリムハイトは「変わっていない」のだそうだ。というかリム自体は6800もRS500も同じものらしい。6800=RS500のリムはニップルホール周辺のみリムが分厚くなっている。「24mm」というのはニップルホール部のリムの高さであり、「23mm」はニップルホール部以外のリムの高さである。要するにどこでリムハイトを測ったかの違いなのだ。
リムハイトの表記が変わっているため、6800とRS500は違うリムだと勘違いしている人が大量発生しているらしいが、なぜいきなり表記を変えたのかというと、UCIへの届け出など書類上の都合だという噂だ(リムハイトが24mm以上になると破壊試験をクリアしなければUCIの認証が取れない)。ちょっと(というかかなり)まぎらわしい。「リムハイトはこの部分で測った数値を表記すべし」というような規定はないのだろうか?
個性はないがレースも視野に入る性能
リムだけでなくハブやフロント16本、リヤ20本というスポークパターンにも変更はなく、6800とRS500はほぼ同じものだそうだ。要するに意匠・名称変更である。ちなみに下位モデルのRS330がオプトバルを採用しているのに対し、RS500のリヤホイールはなぜかオプトバルではなく、両側クロス(左右とも10本)である。
よって採用されている技術は③と⑥となるが、RS500はリムがチューブレス対応になる。リムテープとシーラントが必要なチューブレスレディではなく、リムベッドにニップルホールが空いておらず、専用バルブだけで運用可能なチューブレスリムである。
6800~RS500の特徴は、リムの作りにある。前述したがニップルホール周辺のみリムを肉厚にしてスポーク張力に対する強度を確保する設計だ。キシリウム系やシャマル/レーシングゼロ勢と同じ設計思想だが、それらがリムを切削することで肉厚を変化させているのに対し、RS500はおそらく切削ではない。段差部分の表面形状が機械加工のそれではないのだ。加工方法は企業秘密とのこと。その加工法に性能的・コスト的なメリットがあるのか、パテント回避のためかは分からないが、凝ったリムであることは間違いない。ハイエンドばかりが脚光を浴びがちだが、ミドルグレードにも独自のストーリーがあって面白い。
さて、WH-6800、じゃなかったRS500の走りである。実物はハブもリムもクイックもグレーの梨地加工で高級感があってなかなかいい。RS010とRS330はどちらかと言えば安価に設えた手組ホイールとさほど違わない性能だったが、このRS500からは性能が完全に完組ホイールの世界に入る。RS330から乗り換えると一気に軽快になるのだ。
分厚いコートを脱いだような、重い革靴からスニーカーに履き替えたような、そんな印象。RS010とRS330の体さばきをしながらしゃなりしゃなりと歩を進めるような独得の乗り味はないが、動的性能は大幅に向上しているので、これならレースも視野に入るだろう。ただし個性には乏しく、黒子に徹するタイプである。クセがない、万能に使える、どんな状況でも扱いやすい、とも言える。5万円以下でこの性能と扱いやすさが手に入るなら悪くはない。