バーレーン ヴィクトリアス、マッサーの目線から
バーレーン ヴィクトリアスがグランツールを走るとき、選手の食事は厳格に管理されているのは今年のジロの記事でお伝えした通りだ。
国際線に乗って日本まで来て、ワンデーレースを走るためだけに5日間滞在した5人の選手。彼らは日本に来ても指定の食事を指定の量で食べるのだろうか? 答えは否、だった。
それはレストランカーやシェフを伴っていないせいでもあるが、長時間の移動や時差を乗り越えて走る選手たちに、細かく言わなくて大丈夫という信頼感のたまものだと感じる。滞在先のホテルで用意された食事を、適切な量だけ摂取してレースを走る、それができて当たり前なのがプロなのだ。
バーレーン ヴィクトリアスのサポートマッサーとしてエンネ・スポーツマッサージから派遣された穴田悠吾はこう話す。
「何を食べるか、自分でコントロールできている感じでした。こちらは何か足りないものはないか確認し、ヨーグルトやバナナなどを買ってきた程度ですね」。
レース中の補給も、当たり前のようにマッサーたちが用意し、それを摂取する。日曜日のジャパンカップを走るためのボトルの準備は、土曜日朝、選手たちがオープニングフリーランに向かったあと、マッサーが作業した。ボトルに粉を入れ、ジェルを輪ゴムで止めたのだ。
バーレーン ヴィクトリアスが使う補給のボトルに入っているのは、国内ではあまり見かけないNEVERSECONDのC30とC90などのスポーツドリンクだ。C30はカーボハイドレート(炭水化物)30gを摂取でき、C90はカーボハイドレート90gを摂取できる。他にマルトデキストリンを主成分とするものも使ったらしい。
さらに、3周に1回程度の割でジェルを摂れるように、輪ゴムでボトルに止めておいた。近年のワールドツアーでは補給を受け取った直後に、ジェルが不要だと判断した選手がボトルを振るって地面に落とすシーンを見たことがある人も多いだろう。
今年のジャパンカップは、当日の朝まで16周、164.8kmの予定だったため、選手もスタッフもその準備をしていた。穴田のスマホには10km刻みでの補給のリストが残されてきていた。コース1周が10.3kmなので、距離で表現した方が理解しやすいのだろう。
穴田はこうも話してくれた。
「レースの前日に監督からスケジュールが渡されて、そこにすべてが書かれている。選手たちは勝ちにきているから、言われた通りに準備し、スタートする。スタッフも含めてすべてがプロフェッショナルですよ」。
レースは選手(チーム)側からの要望で13周、133.9kmに減らされ、およそ3時間半程度で終了すると予想された。序盤にアタック合戦が続くと予想して、国内チームはローラー台を持ちだしてウォーミングアップし、スタートラインに並んだ。しかし、最初の数周で、すでに日本人選手のほとんどに勝利のチャンスがないことがわかってしまった。ワールドツアーチーム勢はアタック合戦を続けたのではなかったが、高い強度域で走り続ける能力が、そもそも違いすぎるのだ。
マッサーのニックは「こんな天気だから、用意したボトルは、3周に1回くらいしか取られなかった。でも、誰がいつ取るかはわからないから、毎周立っていなきゃならない。この距離なら彼らは数本のボトルで走りきってしまう」。
同じく補給エリアに立った穴田は「あまり取らないから、結局は全部、ジェルを止めたボトルを渡しました」と話してくれた。
ニックに、ホットドリンクを用意しなかった理由を聞いてみた。
「気温15度はスーパーコールドではない。コースは短く上って短く下る。すごく寒くなんかならない。選手は温かいはずだ。優勝したルイ・コスタはレインジャケットも脱いでいただろう? だから常温の水でノーアイスでいいんだ」。
本当に寒い季節のレース、あるいは山岳地を走るときのために、チームは拠点にはエリートの保温ボトルも持っているが、その必要はないという判断なのだ。
それでももし、10月の宇都宮が10度を下回るようなことがあったとしたら? と食い下がると「そうなったら僕らは何かを買いに行くことになるだろう」とうなずいた。
ヨーロッパでのレースなら、チームからはチームカーにチームバス、機材トラック、場合によってはレストランカーなどが来ていて、そこにはホットドリンクだけでなく、ほとんどすべての状況に対応する準備がなされている。サービスコース(チームの拠点)を出発する段階で、そんなことは解決しているのだ。「まず5Lのサーモスなどがあって、それでだいたい用が足りるんだ」と教えてくれた。
穴田は「僕は全日本選手権やアジア大会、ジャパンカップなどで年に数回、ユキヤとレースをして、そこでワールドツアーというものを見るわけですが、国内のチームがやっていることと、彼らがやっていることは全然違うんです。もう、差が開く一方です。
彼らが持ってきているジェルにしても、どんどん進化している。もう、スポーツドリンクとジャムパンじゃないんです。ボトルもそうです。彼らが80個くらい持ってきたボトルだって、日本のチームが使うやつとは全然違う。柔らかくて飲みやすい。冬でも硬くならない。どんどん離されていく、追いつかないという印象です」とため息をついた。
レースを終えたスタッフは選手たちとともにメリダジャパンの招きで高級寿司店の座敷についた。メカのデジャンは真剣な目で、「本物の寿司は本当に違うな。これは本当だ。イタリアで食べる寿司とか、あんなのとは全然違う、別物だ」と話してくれた。
ぜひまた彼らの来日を待ち、世界レベルのすごさを見せつけてほしいものだ。
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