「ツール・ド・おきなわ」で結果を出すためのペダリング改善講座〜その1
目次
シマノの最新パワーメーターを使っているサイクリストを応援する、ユーザー参加型連載企画のモニター第二期生が決定! 目標レースの「ツール・ド・おきなわ 市民レース140km」へ向けて、ハムスタースピン代表の福田昌弘コーチによる指導を開始した。その様子をお届けするとともに、読者の皆さんも参考になる、シマノのパワーメーターを活用したペダリング改善術を紹介しよう。
モニター第二期生の3人を紹介
厳正なる抽選の結果、モニター第二期生になったのは下の3人だ。今回はロードレース愛好者で最も層が厚いと言われる、40代がそろった。
松本 達哉さん
松本さんは京都府在住の42歳。身長は178cmで体重は60kgと、スレンダーな体型。FTPは260Wだ。2022年はツール・ド・おきなわ 市民レース140km(マスターズ)に初参加して完走を目標にしていたが、達成できなかった。今回の大会では完走はもちろんのこと、トップ集団に残るという高い目標を掲げている。多くのサイクリストにとって参考になるモデルと言えるだろう。
久保田 直幸さん
久保田さんは埼玉県在住の42歳。身長165cmで体重は53kg、FTPは241Wだ。2022年にはツール・ド・おきなわ 市民レース100km(マスターズ)に参加し、15位に入っている。2023年大会では同140km(マスターズ)で20位以内を目指すことを目標にしている。彼もまた、非常に参考になるモデルだ。
左迫間 昭一さん
左迫間(さこま)さんは熊本県在住の42歳。身長は168cmで体重は63kg、FTPは270Wだ。何と2022年のツール・ド・おきなわ 市民レース100km(マスターズ)の優勝者である。今回の目標は、もちろん同140km(マスターズ)での優勝だ。実力者の事例は、誰しも気になるところだ。
指導に当たるハムスタースピン代表・福田昌弘さん
日本唯一と言っていい“ペダリング研究家”で、自転車コーチとして活躍。自らのコーチングサービス「ハムスタースピン」を主宰している。シマノのパワーメーターへの見識も深い。
POINT① 最後まで同じ動きをし続けられるか
まずは各自の現状と課題を把握した。診断方法は、インドアトレーナーで10分間のFTP走を行い、その様子を動画で撮影し、データをシマノ・コネクトラボで確認してみるというものだ。3人のそれぞれの動画は以下のとおり。
松本さんのペダリング動画
久保田さんのペダリング動画
左迫間さんのペダリング動画
「まず、ツール・ド・おきなわ 市民レース140km(以下おきなわ)で一番重要になるのは、“最後まで同じ動きをし続けられる”ということです。これは、最後まで効率の良い動きのペダリングを続けられないと無駄な力を使い続けてしまい、140kmという長丁場では体力が持たないということです。短距離のレースなら気合と根性でがむしゃらに走っていてもどうにかなりますが、おきなわではそうはいきません」と福田さん。
「まず3人に共通して見られるのは、動画で見ると後半になるにしたがって上半身のブレが大きくなったり、動きにムラが出てきていることです。10分間の計測ですら、それが出てしまうんですよねぇ。
シマノ・コネクトラボのデータで見ても明らかです」。
「特に松本さん。【時系列グラフ】を見てみると、後半でパワーとペダリング効率が乱高下しているのが分かります。また、出したパワーに対してどのくらいのペダリング効率だったかの推移を確認できる【相関図】を見ると、約200W以上からペダリング効率が上がらなくなっています。それ以上のパワーになると無理な動きになってしまっていることが分かります(“動きのスレッショルド”)」。
「そして久保田さん。やはり10分間という決められた短時間の中で、ペダリング効率が大きく変化してしまっています。ペダリングが安定していない証拠です」。
「左迫間さんですが、【時系列グラフ】を見るとパワーは一定で出せていますが、ペダリング効率が徐々に下がっていっています。後半になると効率の悪い動きになっていることが分かります」。
POINT② 踏み遅れの少ない効率の良いペダリング
「モニター一期生にも同じことを指導しましたが、できるだけクランクが高い位置からトルクを発生させ、下死点ではなるべく無駄なトルクを発生させない、効率の良いペダリングができるようになることが重要です」。
「特に久保田さんですが、多くのサイクリストに見られる典型的な症状が出ています。まず、ペダルを踏むときにかかとが最初から大きく下がっていて、踏み遅れの原因になっています。【ペダリンググラフ】を見ると、右足は90°にピークがきているのは良いのですが60°よりも120°の方が大きくトルクが出ていて、左足の方は120°にピークがきていて完全に踏み遅れています。
次に、上半身、特に頭がペダリングのたびに大きく左右に揺れ動いていますね。無駄な力を使ってしまい余計に疲れてしまいますし、実走の場合は自転車が左右に揺れ動いてまっすぐ走れていない可能性もあります。これもロスですね。また、後半ではだんだんと顎(あご)が上がってきています。原因の一つに、腹筋側の体幹部をうまく発動できていないことが考えられます」。
「【相関図】を見ると、出しているパワーの割にペダリング効率が低く、また上がっていかないこともよく分かります」。
「左迫間さんですが、動画を見ると後半の方でチェーンがたるむようになってきていて、踏み遅れが出ていることが分かります。きちんとチェーンを引っ張り続けられていないということです。かかとも結構下がってきていますよね。POINT①でも指摘しましたが、後半でペダリング効率が下がってきて、データにも表れています。最後まで踏み遅れが出ないように同じ動きを続けられるようにしていきたいところです」。
POINT③ 体重もうまくペダルに載せていく
「松本さんにも多くのサイクリストに見られる典型症状が出ています。腕を突っ張るようにして“上半身がロック”したような状態になっています。またそれと関連してかサドルが高すぎで、サドルに大きく荷重がかかっています。これではペダルに体重を含めた力をうまく伝えられません。言ってみれば、“サドルに座って脚だけ動かしている状態”です」。
「さらに、動画を見ると後半になるにつれて腕を突っ張ったままハンドル荷重になっていることが分かります。【ペダリンググラフ】を見るとピークがきれいに90°にきているのですが、これは前荷重になったことよって結果的に力のかかり始めるポイントが早くなっているためです。しかし、ペダルにうまく荷重できていない状態なので、それを改善したうえで同じグラフを描けるようにしたいところです」。
【改善ドリル】フルスクワット
3人の走りを改善すべく与えられたドリルは、やはり「フルスクワット」だ。詳しい内容については下の動画を確認してみよう。
早速、3人にフルスクワットをやってもらった。
松本さんのフルスクワット
「松本さんは、割といいところまでできていますが、最後に立ち上がる際、腰を反ってしまっています。股関節の伸展が十分にできていないためです」。
久保田さんのフルスクワット
「久保田さんは、動きとしてはフルスクワットになってはいます。しかし、立ち上がるときに膝関節を伸ばしてしまっていて、股関節が伸びていないんです。太もも側に力が入ってしまっています」。
左迫間さんのフルスクワット
「左迫間さんは、フルスクワットとして下までしゃがんでいけること自体は良いのですが、内容が少し違うんですよね。柔軟性と足の動きでごまかしていると言いましょうか。症状としては松本さんと同じです」。
うまくできない人は「デッドリフト」から
「3人ともうまくできておらず、特に“股関節を伸ばす”ことが皆さんよくできていませんでした。これは、ほとんどのサイクリストに共通すると思います。よって、まず上で紹介したフルスクワットがうまくできない場合は、デッドリフトという、股関節を伸ばす動作を鍛えるドリルに取り組んでみてください(下の動画を参考に)」。
指導をスタートしたモニター2期生。今後どう改善していくのか。この記事を参考に、読者の皆さんもペダリング改善に取り組んでみてほしい。次回は彼らが大会直前でどれほど成長できたのかをお届けする。