猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第26回

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猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第26回

前回のお話

その名をヒルクライムレースのリザルトに見たこともあるだろう「変態クライマー」に翻弄されっぱなしの我々は、2本目の坂へと移動した。2本目のヒルクライムはスキー場の上り。ここをアウター縛りで忍さんと同じギヤ比で上る。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第26回

ゲレンデ最後の激坂。アウターギヤ縛りでスプリントをしたらオナラが出た。

正解であり不正解でもある

のしのしと牛歩のようなペダリング。
忍さんのペダリングをよく見ると、サンダルの土踏まずのところでペダルを前に押し出すように踏んでいる。

いわゆるスワンボートペダリングだ。
私も真似てみると、確かに土踏まずで押し出すと空手の前蹴りのように力が入る。
余談だが私は空手の黒帯だ。

しかし空手は身を守るのには効果的だが、自転車に適用できるとは思えない。
それにこのペダリングだと踵が下がるペダリングになってしまい、効率的なペダリングとは思えない。

レース時のビンディングシューズではどうしているのだろうか?
クリートは土踏まずには付けられない。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第25回

規格外な男 佐藤忍さん。暴飲暴食を続けているが何故か体は絞れている。

忍さんにビンディングシューズのクリートの位置を聞くと、一番爪先だと言う……聞けばフィッティングしてもらった位置が爪先だったそうだ。

大金を出したフィッティングだからクリート位置は変えられないそうだ。
この男……律儀なのか?破天荒なのか?

とても興味深いので、忍さんが過去に出た佐渡金山ヒルクライムの映像を確認してみた。
するとそこには爪先のクリート位置で器用に土踏まずで踏んでいる忍さんの姿があった。

長年自転車情報番組をやっているといろいろなノウハウに出会う。
しかし、それはどれも正解であって不正解でもあるように思う。
もし正解であってもそれは数%の正解であって、自転車競技はその数%の積み重ねなのではなかろうかと。

ある大学教授から、ペダリング時における効率の論文が送られてきた事がある。
なぜ私に送られてきたのか?未だに誤送信だと思っているが。
そこには長い文章の後に数%効率が上がったと記してあった。

しかしこの数%に夢があるではないか!
パーセンデージを幾重にも重ねれば夢が叶うかも知れない。

変態クライマーのようなフィジカルお化けは、積み重ねというより持って産まれた才能が有るのだろう。

 

 

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第26回

山頂から見た南魚沼。なんとも美しい所だが、冬は練習できないのがツラいそうだ。

規格外男と食べる人気ラーメン

アウター縛りで上り続け、ようやくゲレンデの山頂へと着いた。
さすがに足腰が悲鳴をあげだす。
しかし何だか妙に楽しいから不思議だ。

忍さん曰くこの「楽しさ」が一番大事だと言う。
もちろん勝ちたいが、楽しくない事をやってまでは勝ちたいとは思わないし。
楽しい事をやっていれば自ずと結果は付いてくると……。

シンプルだがとても深い言葉だと妙に心に響いた。
競技と楽しさのバランスに誰もが一度はぶつかると思うが、忍さんはとっくにそこは凌駕したのだろう。

「腹が減ったので給油しましょう!」と忍さんが言うので、向かったのは麓にあるラーメン屋だった。

油たっぷりの麺2倍増しのラーメンを給油する。
これがまた信じられないくらい美味い!
東北のラーメンは全国御当地ラーメン第一位になるくらい人気なのだ。
冷めないように油で熱を閉じ込めてあり、味もしっかりしている。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第26回

ラーメン つり吉のチャーシュー麺。因みに御当地ラーメン1位は山形の酒田ラーメン満月。東京では三鷹で食す事ができる。

 

私は普段ラーメンはあまり食べないが、うまそうにラーメンを食べる忍さんを見ていると何だかいろいろと負けた気がしてくる。
好きな事をモリモリやって人生を謳歌する。
人生も50を過ぎると信長の領域に入ってくる。人生悔い無し!というヤツだ。

私も坂バカ俳優として好きな事をやって来た感はあるが、仕事と自転車と全力で命を燃やす忍さんは迷いが無く、見ていて気持ちいい。
一緒に居て楽しい。
なんとも天晴れな男だ。こういう人が表彰台の高い所に上るんだと妙に納得したロケとなった。

語弊の無いように記しておくが、忍さんはレース前2週間はストイックに禁酒し減量するとの事だ。
その体重は46kgまで落ちる。
そして落ちなければ2時間のサウナで水抜きするしい。

脱水は有酸素運動の能力を下げる。
やっていいのはボクサーぐらいだ。
やはり変態クライマーは、変態と言うくらいだから……規格外な男なのだ。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第26回

ロケ後は新潟の山菜をつまみに魚沼の日本酒を御馳走になり、互いの恋人の話で
盛り上がった。恋人とはもちろん、マイ坂のことである。

 

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