安井行生のロードバイク徹底評論第8回 Cannondale SUPERSIX EVO Hi-MOD vol.2
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近年稀に見る名作と称されたキャノンデール・スーパーシックスエボハイモッドが、4年ぶりにフルモデルチェンジ。その進化の方向性とは。さらなる軽量化か、空力性能向上か、それとも―
ザルツブルグにて開催されたワールドローンチに参加して技術者にたっぷりと話を聞いた安井が、旧モデルとの比較もふまえて新型エボの全てをお伝えするvol.2。
バランスを重視しつつ剛性アップ
ローンチイベントのベースとなるホテルの前、試乗車がズラリと並ぶテントの下で対峙した新型エボは、ほとんど変わっていなかった。一瞥しただけでは旧作との違いが判らないほどだ。斬新な構造も目新しい規格も採用していない。嬉しくなった。技術大量投入型のメーカーが過剰なエアロ化に邁進し、市場がそれを煽り、結果として人の受容感覚や嗜好との乖離が見られ始めた中での、これだ。やっぱ分かってるな。乗る前から思わずそんな言葉が口をついて出る。
まずは新型のコンセプトから。プレゼンテーションで強調されたキーワードは「バランス」。自慢げに掲げられたキャッチコピーは“真の実力はバランスの中に存在する”というものだった。要は宣伝の一環に過ぎないプレゼンの内容を真に受けてもしょうがないのだが、キャノンデール技術陣は、軽さ・剛性・空力・快適性をピンポイントで追求する他メーカーの設計思想を「視野が狭い」と切って捨て、それら全方位の進化を目指したのだという。「最高・最上・トップ」の称号より「バランス」を選んだのだ。
先代もバランス型だったが、軽さに重点を置いたフレーム作りをしていた。設計思想は“軽さ重視のバランス型”から“真のバランス型”へと変化したのだ。しかしその方向性の差はわずか。微変と言っていい範疇だろう。
では、具体的に設計はどこがどのように変わったのか。一言でいえば、新作の方向性は高剛性化である。メーカーの公表値にはなるが、BB30の幅を5mm広げたBB30A(シナプスで採用された新規格)を採用し、チェーンステーの設計自由度が広がったことでBB部の剛性が11%向上。ヘッドチューブの形状も一新され、剛性が12%アップしている。しかし、ヘッドだけ硬くなりすぎないように細心の注意を払い、洗練されたハンドリングを目指したという(キャノンデールは過去にヘッドをカチンコチンに固めたロードフレームを作って失敗したことがある)。
ほんのりエアロ化
キャノンデールお得意のセーブマイクロサスペンションシステムも健在。フロントフォーク、リヤトライアングル、シートチューブ&シートポストを積極的にしならせて快適性を確保した。各部をただ柔らかくするのではなく、「前後に薄く、左右に広い」形状とすることで、快適性と横剛性の両立を狙っている。これにより、リヤトライアングルの快適性は前作比で15%アップしたという。また、シートポストを25.4mm径の専用品とし、27.2mm径の従来品に比べて快適性を36%向上させたとのこと。
近年の流行にのっとり、タイヤは28Cまで許容する。なおジオメトリーは25Cタイヤを前提に仕立てられている(23C前提のジオメトリーよりBBハイトがやや下げられている)。
もちろんフォークも新設計。前作はブレードとエンドが別体だったが(接着)、新作ではエンドからコラムまで完全なワンピースとなった。クラウンも下玉押し一体成型となり、下側ヘッドベアリングの受け部分でカーボン繊維が大きく曲げられることもなくなった。ヘッドチューブ内に隠れて地味な場所だが、大きな進化である。
フォークのエンドに大穴が空いていたので、この理由を尋ねたところ、成型時にエンド部まできっちり加圧するためだという。端が閉じているとエンド部の端まで加圧することが難しいらしい。そこを開口端とすることで、加圧用の芯材をブレード内に貫通させて端まできっちり加圧することができるようになった。そんなこんなで、フロントフォークは剛性を21%向上させつつ30gの軽量化。ヘッド規格は前作同様、上側1-1/8インチ、下側1-1/4インチである。
※部分カットはいずれも上が新型、下が旧型