オルベアのロードバイク「オルカ」&「オルカエアロ」試乗インプレッション
目次
スペイン北部バスク地方に本拠を構える「オルベア」は、本国はもとより欧州、北米でもトップ5の売り上げを誇る世界的なブランド。2024年モデルでは、ロードバイクの最高峰の一つであるクライミングバイクの「オルカ」を刷新してきた。今回は先に発売されているエアロロードの「オルカエアロ」も合わせてインプレッションし、オルベアの魅力に迫る。
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ORCA/オルカの特徴
車重の軽量化だけに留まらず 総合的に走りの軽さを追求
オルベアのロードバイクの歴史においてその名を世界的なものにした1台といえば、2007年に発表された第2世代の「ORCA(オルカ)」である。そんな同社の金看板は、2024年モデルで第7世代へと進化を遂げた。
昨今のロードバイクは軽量性と空力性を統合した、いわゆる軽量万能機を展開するブランドも少なくないが、オルベアではこの2つのベストの両立は不可能だと判断。それぞれの性能を特化させたモデルをそろえるに至った。そして新作オルカは、軽さを極めたクライミングモデルとして刷新されている。
フレーム単体重量は730g(53サイズ)。この軽量性はカーボンシートの使用量を従来から90ピース削減するとともに、チューブ同士の接合部に溜まりやすい余分なレジンを徹底的に除去できる製法とフレーム形状によってもたらされたものだ。
走りの軽さは、単に軽量化に頼るだけでなく、ジオメトリー設計でも追求している。チェーンステーとホイールベースを短めにすることで、シャープなバイクの動きとヒルクライムでの軽快な走りを獲得しているという。
こうして軽量性と走りの軽さを手にしたオルカだが、得意とする上りの領域ではエアロロードを上回る空力も実現しており、具体的な数値は勾配5%で3w、10%では6w少ない出力で走行できるというのだ。
さらにはトータルインテグレーションも強化されている。自社開発のパーツ「OCコンポーネンツ」のステムとハンドルを搭載して、オイルラインは露出しない仕様とし、「オクオ」のエアロホイールセットを履くことで、総合的な走行性能に磨きがかけられている。
こうして進化を遂げた第7世代のオルカは、今回試乗を行う上位グレードの「OMX」と、セカンドグレードとなる「OMR」の2種類が用意されており、フレーム形状は同一だが重量に差があるという。
スペック
ORBEA ORCA M20i LTD
●価格:107万5800円
●フレーム&フォーク:カーボン
●メインコンポーネント:シマノ・アルテグラDi2
●ホイール:オクオ・ロードパフォーマンスRP45LTD
●タイヤ:ヴィットリア・コルサプロ 700×28C
●ハンドル:OC・ロードパフォーマンスRP11
●ステム:OC・ロードパフォーマンスRP10
●シートポスト:OC・パフォーマンスXP10S
●サドル:フィジーク・ヴェント アンタレス R3 キウム
●サイズ/47、49、51、53、55、57、60
●カラー/オレンジクラウド×ストーンブルー、タンザナイト×カーボンロウ、ワインレッド×チタニウム
※写真の試乗車はMyOカスタムプログラムにてカラー製作したものです。
ORCA AERO/オルカエアロの特徴
トータルインテグレーションで高次元のエアロ性能を獲得
2022年モデルとして投入された「ORCA AERO(オルカエアロ)」は、オルベアのエアロロードとしては2作目となる。本作は同社のトライアスロンモデル「オルドゥ」で磨き上げた空力設計を礎としながら、オルカエアロにふさわしい形へと落とし込み開発が進められた。
スローピングが主流となる中において、オルカエアロのホリゾンタル仕様のフレームは印象的だ。そしてこのトップチューブだけでなく、ドロップドシートステーの上端、チェーンステーも地面と平行に配置することで効率的に空気を後方へと流し、さらにカットアウトされた形状のシート&ダウンチューブの組み合わせにより空気の乱流を抑え、空力を高めている。
空力は単にフレームだけでなくパーツも含めて総合的にプロデュースされており、足まわりはオクオ「RP57LTD」ホイールと25~28mm幅のタイヤを装備した状態で適正化。さらにコックピットまわりは、「OC2 ICRロードステム」とエアロ形状の「OC3 エアロロードハンドルバー」によって、オイルラインはフレームとハンドルに内蔵され、空力を高めている。
そして極めつけは、専用設計のボトルシステム「エアロボトル」と、ダウンチューブ下側にエアロ形状のストレージ「カーゴフォイル」を装備して、ダウンチューブ付近の空力を最大化している。こうして空力を徹底的に磨き上げたオルカエアロは、前作に対し時速40㎞では15w出力が抑えられ、時速50kmでは最大28wにもなる、高次元の空力性能を獲得するに至ったのだ。
もちろん空力面以外の性能追求も抜かりない。刷新されたフレーム形状とカーボンレイアップの見直しにより軽量化は進み、その重量比剛性、登坂性能はエアロロードにおいて最前列にあるという。また、ホイールベースとチェーンステーを短く設計することで反応性と加速性も高められている。優れた空力性能はさることながら、全方位でベストを追い求めたエアロロード、それがオルカエアロである。
スペック
ORBEA ORCA AERO M10i LTD
●価格:161万2600円
●フレーム&フォーク:カーボン
●メインコンポーネント:シマノ・デュラエースDi2
●ホイール:オクオ・ロードパフォーマンスRP57LTD
●タイヤ:ヴィットリア・コルサプロ 700×28C
●ハンドル:OC・ロードエアロRA11
●ステム:OC・ロードパフォーマンスRP10
●シートポスト:OC・ロードエアロRA10
●サドル:プロロゴ・スクラッチM5パス T2.0
●サイズ/47、49、51、53、55、57、60
●カラー/オリーブグリーン×カーボンロウ、タンザナイト×ライラック
※写真の試乗車はMyOカスタムプログラムにてカラー製作したものです。
オルカ&オルカエアロ試乗インプレッション
軽快感に満ちあふれたクライミングパフォーマンス
ロードサイクリストを魅了した2代目を筆頭に、オルカといえばその美しい立ち姿と走りの軽さを世に示してきた。第7世代目のオルカにもその意志は受け継がれている。ドロップドシートステーを配して画一化した最新モデルのフォルムとは一線を画し、ダイヤモンド形状の美しさを強調したミニマルな姿に特別な感情を覚えるのは、筆者だけではないだろう。
ピュアクライマーとして再構築されたという性能は、ペダリングの軽快感に満ちあふれていて心が躍らされる。筆者はスペシャライズド・エートスを普段の足にするが、それを前にしてもオルカの軽やかな走りは色あせない。
とかく出足の鋭い軽量車ではパワーをかけて速度を上げると、ペダリングトルクが抜けて推進力に繋がらないモデルもあるが、オルカはそうした素振りを見せない。ペダリングは踏みしろや粘りが色濃く、パワーを振り絞れる感覚に長けている。ケイデンス重視でペダリングをすれば、その軽さと相まって舞い上がるように進み、パワーをかけるとトルク感の高さから弾かれるように加速する。その走りは、ヒルクライマーであればタイム短縮の強力な相棒になってくれるに違いない。
トータルバランスに優れ活躍のフィールドは幅広い
平地にフィールドを移しても流れるように進む感覚は強く、なおかつ粘りのあるペダリングフィールによって、加速のパンチ力も車体のコンセプトからすると高次元だ。スプリントなどの高速・高負荷の性能はオルカエアロに譲るものの、それでもロングライドやロードレースの逃げ集団ではむだ脚を使わされることも少ないだろう。
こうした高性能はフレームもさることながら、オリジナルのオクオホイールを含めた総合的な性能も効いている。また、細身のフロントフォークとバックステーはしっかりと仕事をこなし、路面追従性や振動吸収性も高いレベルにあるので安心感にも優れている。
新型オルカはクライミングバイクというコンセプトではあるが、カバーできるライドフィールドとスタイルは広く、その性格は軽量万能機と言いたくなるほどだ。そろそろエートスからの乗り換えを考えている筆者だが、新型オルカはその候補の最右翼となりそうな1台である。
エアロロードの快感に満ちた、中・高速域のライドフィール
設計の意図が明確に性能へ反映されていると感じたオルカだが、オルカエアロもまた、エアロロードのコンセプトを力強く伝えてくる1台である。
いかにもエアロロードという力強いフォルムから想像されるとおり、フレームは構造体としての強さを感じる。しかし剛性自体は脚を刺すようなものではない。もちろんオルカのように低速から加速が際立つ振る舞いではないが、平地や緩斜面での実用速度域、高負荷をかけ続けるような場面では、オルカエアロのキャラクターが一気に輝きを放つ。
フレームからホイールまで自転車全体の一体感が抜群に優れている。そこに上死点から下死点へと自然に脚が落ちてゆくかのようなペダリングフィールが相まって、力強く速度がぐんぐん上がってゆくのだ。もちろんその維持にも無駄な力を使わないし、スプリントでのスピードも頭打ちする感覚は少ない。
こうした走りは優れたペダリングフィールや駆動伝達性能もあるが、空力の良さも大きな要因だろう。オルカエアロはある程度のスピード域(時速35km以上)になると、バイクにカウルを装備するかのごとく、風がきれいに流れてゆくのだ。これぞまさにエアロロードという走りで、それは昨今の軽量万能機では及ばないエアロフィールであり、オルベアがオルカエアロをそろえる理由もうなずけるものだ。
また平地だけでなくパワーで越えてゆけるような緩斜面の上り(勾配5%・距離1km未満)であれば、オルカよりもオルカエアロの方がアドバンテージを得られるだろう。乗り心地もエアロロードとして眉をひそめるような印象はなく、装着可能な30mm幅のタイヤを履けば、高速域のレースやグループライドだけでなく、ロングライドや一定ペースで走るキャノンボール的なライドでも、その空力の高さが走りのクオリティを押し上げてくれるはずだ。
走りだけでなく、所有欲も満たしてくれる
オルカエアロは、その優れた高速域の性能から平坦基調のコースで自然とスピードを求めたくなり、オルカは卓越したペダリングフィールと走りの軽によってライダーを山岳ライドへと向かわせる。この2つのモデルは走りのコンセプトが明確で、シンプルにそして直感的に走りを楽しめるのが大きな魅力である。
そんな性能面もさることながら、オルカシリーズの価値をさらに高めるのは、かねてからオルベアが展開するカラーとパーツの仕様を変更できるカスタマイズプログラムの「MyO」(マイオー)だ。類似のプログラムを展開するブランドもあるが、カラーパターンによってはアップチャージが必要となる場合もある。しかしMyOは、表示される価格以外はコストがかからないのが特徴。今回試乗したオルカエアロの複雑なペイントパターンもアップチャージなしで選べるのだ。
我々一般サイクリストがロードバイクを選ぶ基準は、決して性能だけではない。バイクのフォルムやカラーリングは所有欲を満たす大きなファクターであり、ルックスはロードバイクを楽しむための“性能”でもある。走行性能だけでなく所有欲というエモーショナルな部分でもライダーを刺激するオルカシリーズは、大きな価値をロードサイクリストに与えてくれる存在と言えよう。
2024シーズンはツール・ド・フランスで投入も! 與那嶺恵理選手も使用
今シーズンからオルベアは、ベルギーの古豪ロット・デステニーとバイクサプライアーの契約を結んだ。同チームはUCIのプロチームディビジョンだが、ツール・ド・フランスをはじめとするグランツール、クラシックなどUCIの主要レースの出場権を持っており、オルベアは6年ぶりに世界最高峰のレースカテゴリーを中心に戦う。
ベルギー期待の若手にしてエース格であるスプリンターのA・ドゥリー、ベテランのT・デヘント、V・カンペナールツといった選手が、チームカラーのレッドとグリーンに塗られた、オルカとオルカエアロを駆ってレースで暴れてくれることだろう。
一方、女子レースでは日本のエースである與那嶺恵理選手が、バスク地方「ラボラル・クチャ・フンダシオン・エウスカディ」(エウスカルテル・エウスカディの女子チーム)に所属して、オルベアのバイクを駆り世界の強豪に挑む(與那嶺選手からのビデオメッセージは下の動画をチェックしよう)。
ロードサイクリストにとって、今年はプロレースにおけるオルベアの活躍が大いに気になるところだ。そして世界屈指のレース環境でオルベアはその性能に磨きをかけ、いずれ我々に魅力的なニューモデルを届けてくれることだろう。