安井行生のロードバイク徹底評論第7回 LOOK 795LIGHT vol.3

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安井ルック・795ライト3

675は予兆にすぎなかったのか。「これがルックの新型フラッグシップ?」 コンセプトモデルのスケッチがそのまま現実世界に飛び出てきたようなその姿に誰もが驚いた。695のオーナーである安井は、そんな795に何を感じ、何を見たのか。泣く子も黙る2016モデルの目玉、ルック・795の美点欠点を好き勝手に書き散らかす徹底評論第7回vol.3。

 

「機能の必然」と「商品力」

安井ルック・795ライト3

おそらく、トップチューブ前端の隆起が空気抵抗削減に寄与する割合はワイヤー内蔵化と同様、微々たるものだろう。このカタチは、わずかな空気抵抗削減という「機能の必然」に、スタイリングの演出による「商品力向上」が重なった結果なのだろう。要するにルックは、795の開発において商品力を意識したノ作りを行ったのだ。技術や性能だけでなくビジュアルもすごいとお客に思わせる必要があると判断したのである。それは数年前まで無骨な585や595を作っていたとは思えない路線変更である。
 
現在、それぞれ方向性はやや異なるものの、各社のハイエンドモデルは一定以上の完成度を備えている。微差はあれど、どれもこれも軽くて快適でそれなりによく走る。だからこそ、これからはスタイリングが重要になる、とルックのヘッドクオーターは考えたのだろう。上下のヘッドベアリング間の距離をとるには専用ステムと専用のヘッドシステムを作らねばならない。それならステムをトップチューブと一直線にして空力性能とスタイリングを両立させよう。ステムの後ろにスペースができたのでジャンクションを入れてしまえ。おそらくそんな流れだろう。
 
ここで、675~795の一角獣スタイルについて改めて考察してみよう。今までのロードフレームは、ホリゾンタル、スローピングを問わず、主な応力担体はお互い密接に関係し融合している ―シートチューブの上端にシートポストとサドルが付き、チェーンステーとシートステーの末端にリヤホイールが付き、トップチューブとダウンチューブの末端にヘッドチューブが付き、そこに刺さったフォークの下端にフロントホイールが付く― のだが、ただステムだけはポツンとそこから飛び出て独立していた。
 
しかしルックが675で提唱し、795で完成度を上げたトップチューブ~ステム一体型デザインでは、一人離れた場所で寂しそうにしていたステムがフレームセットに(外見上は)取り込まれた。これにより、ビジュアル上の一体感が飛躍的に高まったことは確かだ。かつてのロードバイクは、フレーム、ヘッドパーツ、フォーク、BB、シートポストの境目にいちいち段差がついているのが当たり前だった。しかし今では、ヘッドパーツはヘッドチューブ内に隠れ、フレームとフォークは同一曲面を成している。インテグレーテッドBBやISPの台頭、シートポストの専用設計化などによって、フレームにくっつくパーツはどんどんとフレームに取り込まれ、バイクから醜い凹凸は姿を消しつつある。ビジュアル上のシームレス化=フラッシュサーフェス化(これは空気抵抗削減という機能に直結するものでもある)は、これかもスポーツバイクデザインの大きなテーマとなり続けるだろう。

 

飛翔のカタチ

安井ルック・795ライト3
そのテーマにおいて一頭地抜きん出たのが795なのである。単にディティールが特徴的だとか造形がちょっと凝っているなどというみみっちい話ではない。795はカタチの根本からして特徴的なのだ。
スローピングフレームのトップチューブは、どれも天を目指して伸びている。ロードバイクの中で、唯一そこだけ“飛翔するカタチ”なのである。しかし従来のロードフレームは、トップチューブがヘッドチューブに到達したところで勢いがブツンと途切れ、その視覚的エネルギーはステムでフタをされてしまっていた。しかし795のトップチューブは、その飛翔の勢いを途切れさせることなく空中に向かったままフッと消える。これが、795の「他に類を見ない視覚的ダイナミズム」の理由である。
 
見る者に一目でそれとわかるようなアイコンを作り出したという点においても、ルックはハイエンドロードのスタイリングに新境地を開いたといえる。影響をうけているのはユーザーだけではない。すでにこのステム~トップチューブを一直線にするというデザインをあからさまにコピーするメーカーも現れ始めた。影響力の大きいカタチである。しかし、あまりに個性的でアクが強くシンボリックにすぎるため、これから市場を飽きさせることなくこのスタイリングをどう進化させるのか、が難しいところだろう。デザイナーの手腕が問われるスタイリングである。
 
しかし忘れてはならないのが、ハンドルポジションの自由度が低いという大きなデメリット、そして「戦う機械のあらゆる形状には技術的必然が宿るべき」というストイシズムこそがこれまでのロードバイクの美しさを醸成していた、という事実である。これからロードバイクはどちらの方向に進むのだろうか―。

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