スペシャライズド・ルーベ エンデュランスロードというか、これが本当のオールラウンダー
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2023年9月に発表された、スペシャライズドのエンデュランスロード「ルーベ」の新作「SL8」。このニューモデルを、自転車ジャーナリストの吉本氏とサイクルスポーツ編集長中島が解説。特徴的な機構「フューチャーショック」の詳細や、試乗インプレッションで、新型ルーベの魅力を語り尽くす。
形は似ているけれど、乗り味は別物
吉本:全体的な印象としては僕はすごく前作に比べてあらゆる面でポジティブになったなあと思いました。
中島:進化している。
吉本:進化してると思います。形を見ると実は前作にめちゃめちゃ似てるんですよね。
中島:そうですよね。間違い探しじゃないですけど難しい。
吉本:同じプレスローンチで発表された、ターマックSL8も似てたじゃないですか。
中島:似てましたね。SL7とSL8。
吉本:ターマックが出てきて、さらにルーベが出てきて、あれ、ルーベも!? と思った。でも、見た目の印象が同じでも、乗った感じっていうのはすごくこうポジティブに、いい方向に僕は進化したなと思いました。
中島:僕はこのルーベの2世代のルーベのオーナーなんですけど、それと乗り比べたらもう全然違う。同じルーベっていう流れの中にあるのか? もちろん僕の持っているルーベもフューチャーショック(2世代前=初代フューチャーショック)が付いてたり、シートポストもしなり量が多く出せる設計です。シートポストは先端がコブラ型で、その部分でも快適性を上げる設計のものが付いてたモデルでした。
で、新作は快適性っていうよりも走行性能。つまりこのショック吸収機構より下のフレーム部分のスパルタンな感じが、エンデュラスロードっていうイメージよりも、すごくスパルタンでレーシーなバイクになっているんだなっていうのをすごい感じました。吉本さんはその辺いかがでしたか?
吉本:僕も歴代のルーベってほぼほぼ試乗しているんですよ。で、中島編集長が乗ってる2世代前のルーベって僕結構好きなんですよ。あのルーベ。
中島:オーナーとして嬉しいです。
吉本:あれ試乗したときにすげえいいバイクだなって思って、その次(紹介するモデルの1世代前)も試乗させてもらっているんですけれども、結構がらりと変わった。1世代前では運動性能といったレーシーなところを結構ガツンと上げてきたなっていう印象があったんです。
で、これは僕の印象なんですけれども、2世代前のルーベの印象からすると前作って僕にとっては、硬く感じたんですよ。運動性能はガンガンに立ってるんだけれども、僕みたいなホビーサイクリストからすると、ちょっと持て余すかなみたいな。もうちょっと硬さが抑えられてる方が僕は好き。ペテル・サガンがフルもがきをパリ〜ルーベでしたときは、前作の運動性能が絶対いいんだと思うけど。
中島:サガンには必要だと。
吉本:そう、そう。でも、ちょっと僕には荷が重いみたいな感じがあったんです。今作は僕なんかでも、ペダリングのフィーリングとか踏みやすさが出たなって感じ。ただそれは剛性感が落ちたとかそういうことではなくて、微妙な「足あたりの良さ」みたいなものが演出されていて、2世代前のルーベの踏みしろがありつつも、剛性感はしっかりあってガツンと踏んだときは反応性もいいし、それを持続しやすいみたいな、そこのチューニングをすごくうまくしてきたなって思ったんですよね。
太いタイヤを使っても、運動性能は高いまま
中島:使用できるタイヤの最大幅が太くなりました。吉本さんの前にあるバイクのタイヤサイズが完成車のスペックのタイヤ32mmで、僕の前にあるバイクには35mmのタイヤが付いています。両方のタイヤサイズで乗り比べてみると、太いタイヤが入ったときも運動性能の高さがキープされている感じっていうのは、この最新作のルーベならではなんじゃないかなって僕は思いました。
吉本:そうですよね。最大で38mm幅まで対応しています。太いタイヤって、低圧で乗るじゃないですか。そうするとタイヤのふかふか感もあって運動性能がスポイルされがちなんですけれども、そういうタイヤが入ったときでも、ハンドリングの違和感もないですし、もちろんタイヤの太さがあるから28mmとか30mmみたいなソリッド感とはまた違うけれども、踏んだときの「もたくささ」みたいなのは全く感じないですね。
中島:そう思います。
吉本:すっと踏んですっと進んでくれるので、全体的な快適性だったり足あたりと、運動性能をうまくつなげてきてるっていうのはすごく感心しました。
中島:どちらかの性能を諦めなくていいバイクになってるんじゃないかなって思いました。
フューチャーショックってどうなの?
中島:ルーベといえば、やっぱりフューチャーショックの話をしないわけにはいかないですね。ステムの下にサスペンションが入っている。初代フューチャーショックが登場したときは結構びっくりでした。
吉本:びっくりでしたよね。最初冗談かと思いました、って言ったら口が悪いですけれども、でも乗ってみたら、ハンドルが上下をするだけでも快適性ってかなり上がるんだって、びっくりさせられました。
中島:僕が一番いいなと思ったのは、ちょっと舗装が荒れた路面を走るときに、上半身が揺さぶられると視線が散らかるというか安定しない。でもフューチャーショックがあると安定して路面状況が見られるので、安心感が高まったことですね。
吉本:うんうん、そうですね。
中島:フューチャーショックも第3世代になりました。構造の進化を見てみると、初代はスプリングだけ。
吉本:コイルスプリングだけでしたよね。
中島:はい。で、2世代目はダンパーが入った。
吉本:減衰が効くように。
中島:そして3世代目はスプリングとダンパーに加えて、サグ調整ができるようになった。サグ調整っていうのは吉本さん、何ができるんですか?
吉本:この機能がないと、体重が軽い人より、重い人のほうがサスペンション=フューチャーショックが多く沈み込んでしまいます。するとサスペンション全体の長さは決まっていますから、動かせる量が重い人の方が少なくなっちゃうわけですよね。
中島:なるほどフューチャーショックは本来20mm動くわけです。
吉本:はい。体重が重い人のほうが20mm生かしきれなくなっちゃう。
中島:ああ。例えば僕が18mm動かせたのに吉本さんだと。
吉本:僕だったら15mmとかになっちゃうかもしれない。それを体重によってトラベル量が変わらないように中の調整ができるようになりました。誰もが同じトラベル量を味わうことができる。同じ性能を味わうことができるということです。
カーボンフレームで言うならフレームサイズが違っても同じ剛性になっていますよというのと近いですね。みんなが同じサスペンション性能を体験できるようになりましたっていうとこです。
まとめると第1世代はスプリングだけで減衰が効いてなかった、第2世代は減衰が効くようになった、で、第3世代はサグを取れるようになった、確実にユニットは進化しているということですよね。
中島:正統派な進化。
吉本:そうですね。サスペンションとしては本当に正統派な進化を遂げているということですよね。
シートポストでも快適性を出している
中島:そしてシートポストのしなりによって振動を吸収する機構が付いているわけです。こちらはどうですか? 機能的には。
吉本:シートポストがしなる感じがすごく分かるとかそういうレベルの話ではないですね。乗っていると確実に振動を緩和していることを感じます。
例えば舗装が結構荒れていて、舗装が盛り上がっているようなところが連続している旧街道とかを、そこそこのスピードでバンと踏んで腰を据えて踏んでいったとき、そうしたときにシートポストが振動を緩和してくれているので、腰の落ち着きが良くなりますよね。
それによってパワーも出しやすいですし、機能の動作が分かりやすいかって言われるとそうじゃないんですけれども、確実に効いているシチュエーションは体感できます。
中島:パワーが出しやすいっていうフレーズが出ましたけど、僕もそれはすごく感じるところです。僕はスペシャライズドのディバージュっていうグラベルバイクを持っているんですけど、ディバージュはシート回りにフューチャーショックが横向きになってレイアウトされていて、シートポストがめちゃめちゃしなるんです。
吉本:しなりますよね!すごくね。
中島:でもルーベはディバージュが想定しているほどの悪路を走らない。ディバージュは良くも悪くも動く、動きすぎてしまう時があるんです(そのために可動範囲の調整機構が付いている)けど、ルーベぐらいの動きに収められている方が、先ほど吉本さんがおっしゃったようにパワーが出しやすいっていうのは、このルーベに乗ってみて感じましたね。ちゃんと作り分けられているんだなっていう。
吉本:やっぱりある程度高負荷、高速域でペダリングパワーを失わないための作りが大元にあって、そのうえで、ペダリングパワーを有効に発揮するために振動をうまくいなすっていう考え方、そこがやっぱりディバージュとは違うかなという気はしますよね。
中島:フューチャーショックの内部機構の話は先ほど申し上げた通りなのですが、この動作量を手元で調整できるダイヤルがトップキャップのとこに付いています。吉本さん、これ積極的に使っていきたいですよね。
吉本:これ結構変わるんですよね。乗っていて思ったのは、例えば舗装路で割と高強度で走るようなレーシーな走りをするときはあまり動かないようにしておく。で、ちょっと悪路に行ったときに動く方向にセッティングを変える。
あとはロングライドに行ったときに、最初は動作量が少ないセッティングで走って、肩とか手が疲れてきたら、ちょっと動く方向にしてあげる、それだけでだいぶ変わってくるので、うまく使いこなすことによって、すごく走りの幅が広がります。うまく使いこなせると楽しいですよね。
中島:そうですね。ロードバイクにだけ乗っている人には、ライドの途中にバイクのセッティングを変えるという作業は馴染みがないですけれども、本当にこのルーベを100%使いこなす、乗りこなすためには、このダイヤルを積極的に使っていきたいですね。
真のオールラウンダー
中島:ずばりどんな人にお勧めしますか?このバイク。
吉本:前作に比べて、タイヤサイズのキャパシティが増えて、グラベル、ライトグラベルぐらいの領域まで攻め入れるようになって、カバーできるフィールドが非常に大きくなった。しかも前作とオンロードの運動性能は本当に変わらないレベル、もしくは上がっているレベルだと思うんです。そうなってくると相当にカバー率は広いわけで。
中島:フィールドのカバーですね。
吉本:自分がどういうライドをしているのか振り返ってみると、ロングライドをしたりだとか、道探しをしてちょっとした旧道に入ったりだとかグラベルに入ったりだとか。
中島:あの道はどこに通じているんだろうみたいな。
吉本:それって自転車遊びの根源的な楽しみ方ですよね。で、そういう楽しみ方に適したバイクってなんだろうと考えると、僕最近は本当にエンデュランスロードがすごく気になっていて、欲しいなって思っているんです。
なぜかって言うと、最新のエンデュランスロードはグラベル方向に少し立ち位置を広げたことによって、先に話したフィールドのカバー率が広くなっている。すると、自分の今の遊び方にすごくマッチしているバイクだなと。
反面、グループライドでちょっとみんなと競り合うときに、モタつかないバイクがいい。そうすると結構カバー範囲の広い自転車が欲しくなる。
この僕のニーズって、割と今のロードバイク乗りのニーズと近いと思うんですよね。等身大だと思うんですよ。だから一般のロードバイカーのニーズに一番マッチするのは実はルーベなんじゃないかなって思いますね。
中島:カバーしてる範囲が広い。それは道っていう意味のフィールドだけじゃなくて乗り方もってことですね。
吉本:ライドスタイルも含めて。
中島:もちろんターマックとかエートスみたいなガチガチに尖ったバイクがスペシャライズドにはある。それを必要としている人はいらっしゃるけど、一番バランスよく存在しているのがルーベだと。
冒頭でルーベはエンデュランスロードっていうカテゴリーだっていう話をしましたが、真の意味でのオールラウンダーっていうのはルーベじゃないかなと。
吉本:と言って間違いないと思いますね。
中島:僕も思うのは、タイヤのキャパシティが増えたことで、タイヤを交換するだけで結構バイクのキャラクターの幅の広さを出せるなって思います。1台持っておいてタイヤだけ交換すると、だいぶ荒れた路面のコースにも対応する。でも速いペースで走りたいっていうときはもうちょっと細いのに戻すとか。そういう遊び、遊びというか使い方ですよね。
だからまずルーベを1台持っておいて、自分の自転車遊びの方向性が色んな方向に向いている人、あれもしたいこれもしたいていう方はルーベ。
ホイールを交換してキャラクターを好みの用途に
吉本:すごい贅沢を言うならホイール、もう1セットホイール買っておく。それはロヴァールならラピーデみたいなリムハイトの高いエアロが効いたやつ。グループライドの競り合いのときはラピーデに28mm幅ぐらいのタイヤとかを付けたら結構面白いかなと思って。
で、サイクリング的に、もしかしたらグラベルも入っちゃうかもしれないっていうときはホイールをロヴァールのテラにしといてみたいな。そういう遊び方も結構面白いな。
中島:これにラピーデ入れたら。走りもそうですが、見た目の迫力も。
吉本:あるし、ラピーデのすごく強い高速域での転がり感とエアロが相まって、例えば1人で走るときでも平坦な道を高速クルージングしたいなっていうときがあるじゃないですか、海岸沿いの道とか、そういうときに結構面白いだろうなって思いましたね。
中島:それは走りもよりスパルタンな感じというか、レーシーよりの走りになってるかもしれないですね。
吉本:ルーベの持っているキャラクターのレーシーっていうところをさらに伸ばしてあげるセットアップ。
中島:バランスシートがあってこの部分欲しいなってなったら、それをタイヤなのかもっと言えば。
吉本:ホイールで伸ばしてあげるとかね。そういう実は立ち位置がいくつかあるところをセットアップによって変えられるっていう。
中島:オールラウンダーだからこそ。
吉本:そう。そこができるのがルーベの最大の使いこなし術。楽しめるバイクですよね。だから1粒で3度おいしいとかそういう世界が待ってると思うんですよね、ルーベっていうバイクを買うと。
中島:その遊び方はオーナー次第です。どっちに振るかどうか。それにルーベは対応してくれる。
吉本:はい。すごい懐が深いと思います。
中島:誰が買ったらいいか、という問いの答えが難しくなりましたね。
吉本:ある意味、今のロードバイカーのど真ん中。
中島:まず一度検討材料には入れた方がいい1台っていうことですね。ルーベとターマック乗ってみたりとか、ルーベとエートス乗ってみたりとかして、結果ターマックとかエートスを選ぶかもしれないけど、意外とルーベありかなみたいな。
吉本:ピュアレーサー以外は基本はまるんですよ。
中島:1度はチェックしとかないともったいないよっていうことですかね。
吉本:そうですね
新型ルーベの解説を動画で見たい人はこちらから
※全国にあるスペシャライズドコンセプトストアには、この新型ルーベの試乗車が用意されている。記事を読んで気になった人は、ぜひ試乗してその性能を実感してほしい。