台湾一周サイクリング「フォルモサ900 2023」帯同記 第2章:日本騎士團、4年越しの再結成
目次
台湾一周約900kmを9日間のグループサイクリングで走破するツアーイベント「フォルモサ900」。その国家級のイベントへの参加窓口となるジャイアントジャパン公式ツアーが4年ぶりに開催された。筆者は参加者をサポートするサイクリングガイドとしてツアーに帯同し、台湾の先進的なサイクリング環境に触れることとなった。第2章はツアー参加に向けた事前準備と、渡航からサイクリング初日までをお届けする。
出国前の事前準備その1:海外ツアーに必須の5項目
前回のレポートではフォルモサ900の概要について紹介した。第2章となる本稿は、前半に将来のツアー参加希望者に向けたノウハウを紹介し、後半はツアー初日の風景をお届けする。
早速だが、海外でのサイクリングに際して所定の手続きや備えが必要だ。筆者は旅慣れているタイプではあるが、諸々の準備はジャイアントジャパン公式HPのツアースケジュールを参照しつつ、オンライン説明会やメールでの配布資料を活用した。以下、おさらいも兼ねて箇条書きで列挙する。
・パスポート:当然ながら台湾渡航にパスポートは必須だ。すでにお持ちの方は有効期限が切れていないか再チェックすること。筆者のパスポートは2024年8月まで有効であったので、更新なしで渡航できた。新規発券は受け取りまで1週間ほどかかるため、早めに旅券センターへ行くことをお勧めする。
・ビザ申請:ビザは事前にオンライン申請を利用すれば、入国審査をスムーズに通過できる。今回は短期旅行につきビジタービザで申請した。
・現金:1万円を準備し、松山空港の両替所で台湾ドルと交換した。とはいえ、台湾は多くの場所でクレジットカードが使えるため現金の必要性はそこまで高くない。レートは1台湾ドル=4.6円前後だった。
・スマートフォン通信:ドコモの格安通信サービス「ahamo」の回線を台湾でそのまま利用した。ポケットWi-Fiやe-SIM、空港で手に入るプリペイドシムなど、選択肢は豊富にある。なお、今回宿泊した全てのホテルで無料Wi-Fiが利用できた。
・旅行保険:もしもの時はクレジットカードに付帯する海外旅行保険を利用するつもりであったが、幸いノートラブルで終えられた。
上記5項目は、海外旅行の経験がある方にとっては大きなハードルではないだろう。海外初経験の方は、早め早めに準備を進めることをお勧めする。
出国前の事前準備その2:バイクの選択と飛行機輪行
次にバイクだが、筆者は6年ほど乗り込んだリムブレーキのジャイアント・TCRを使用した。アルミハンドル、クリンチャータイヤ、機械式シマノコンポで組まれたオーソドックスな構成で、メカトラブルへの対処しやすさを優先した。海外ツアーではバイクにストレスがかかる場面(飛行機での輪行や雨天走行など)も多少ある。もし乗り古したセカンドバイクなどがあれば気楽だが、ほとんどの方はお気に入りの1台を使用するだろうから、まずは愛車にダメージを与えずに日本と台湾を往復する手段が重要となる。
国際線での飛行機輪行では、一般的なソフトケースではなくハードケースがおすすめであり、今回のツアーでは専用のバイクケースか自転車用の段ボールでの輸送が指定されていた。専用ケースは高額のため参加者の多くが懇意のサイクルショップで自転車納品用の大型段ボール箱(7分組箱と呼ばれる)を入手して梱包してきた。また、希望者はジャイアントジャパンからプラスチックダンボール製のケースを借りることもできたので、筆者はこちらをお借りした。折り畳まれたケースを箱状に組み立てると、硬質な作りで安心感があった。前後輪とペダルを外すだけで箱に収まり、隙間に緩衝材代わりの段ボールやウェアを詰め込んでいく。ケース内でバイクが揺れたり、遊ばないように隙間を埋めるのがコツだ。
出国前の事前準備その3:サイクルウェアの選定
サイクルウェアは2日分の夏用ジャージ上下、春秋用のウォーマー類、レインウェア上下を中心に用意し、最小限の分量となるよう厳選した。台湾は温暖なイメージがあるが、11月は早朝に気温10度前半まで冷える日もあるため、防寒防風ウェアは必須。ホテルに洗濯機があるため、ライド前後の普段着は2セットあれば十分だろう。常備薬やアメニティなど、日用品は使い慣れたものを11日分用意すればOKだが、もし忘れ物があっても日本と同じものが買える可能性が高く心配は無用だ。両開きの中型スーツケースの半分にウェアと日用品を詰め込み、もう半分はお土産用に空けておいた。
愛車とサイクリング用品はバイクケースに、その他のアイテムはスーツケースに、貴重品は小型バックパックに入れ、荷造り完了。なお、この3点セットがツアー指定の組み合わせだ。
いよいよ出入国日:フォルモサ前日は台北観光とバイクの準備
上記の準備を経て、あっという間にツアー初日の朝を迎えた。まずはサイクリング一切なしの移動日だが、個人としては4年ぶり6度目の台湾旅行となり、胸が躍った。
地元駅から始発電車に乗り、6時に羽田空港へ到着。前泊していた参加者グループと合流した。エアは7:55発のチャイナエアライン(羽田 – 松山便)だが、バイクを預けるため約2時間前の集合が指定されていた。定刻通りのフライトは3時間少々で台北市内へ着陸。時差がマイナス1時間なので現地時間では10時過ぎとなる。入国審査を通過すると、到着ロビーで現地スタッフのメイさんと初めましての挨拶を交わした。
空港の外に出ると、強い日差しの下でサポートカー2台が出迎えてくれた。ドライバーは現地スタッフのノビタさん、そしてツアー責任者のチョウさんだ。彼らにバイクとスーツケースをホテルまで運搬してもらい、参加者ご一行はバックパックひとつでプチ台北観光へと繰り出す。地下鉄で移動し、行列の絶えない絶品ルーローハンを味わった後、中正紀念堂の衛兵交代式を見学。11月の訪台は初めてだったが、日中は半袖でちょうど良い気候だった。
プチ観光を終え初日のホテル「兄弟大飯店」にチェックインすると、まずは出走前の全体ブリーフィング。チョウさんから大会公式グッズ一式を受け取り、翌日から始まるフォルモサへの情報を共有した。ここで広島空港発で台北入りした13名と合流し、日本騎士團のフルメンバーが勢揃い。参加者27名に、ガイドが日本人3名と現地3名、現地サポートカースタッフ2名を加えた、まさに大旅団が結成された。
ブリーフィングを終え、次はホテルの地下駐車場へと移動。夕飯は絶品の小籠包と聞いていたが、翌朝に備えてバイク組み立てを先に完了させる算段だ。現場には工具やポンプが一式そろっており、ノビタさんも付き添ってくれるのでメカに自信のない方でも心配ないだろう。また、空のバイクケースはホテルで預かってもらい、無事環島を終えた後でこの地下駐車場にて再梱包する流れとなる。
お待ちかねの夕飯では、決起集会的な賑わいとともに絶品の点心を楽しんだ。参加者のほとんどが初対面同士で自己紹介の応酬となったが、それぞれが想いを胸に台湾入りしていることが伝わり、大いに刺激を受けた。4年ぶりのジャイアント公式ツアーであり、この機会を心待ちにしていた方が多い様子だった。サイクリングにまつわる話は尽きる事がないが、翌朝が早いこともあり早々にお開きとなり、ホテルへ戻った。
翌朝着用するジャージ一式をテーブルに用意して、早めに寝床につく。自転車に一切乗らない日ながら、チョウさん達のサポートのおかげで移動疲れを感じることもなく、翌日から始まるツアーに向けて力を温存できた。数年ぶりに味わう活気ある台北市街は刺激的で、ツアー参加者との熱い交流も交わし、盛りだくさんな1日となった。
霧雨煙るツアー初日:台北市街の喧騒へと走り出す
待ち焦がれたツアー1日目。朝6:30にホテルを出発し、まずはスタート地点の台北市政府広場へ向けて4kmほど走行する。いきなりの右側通行に少々混乱したが、交通量が少ない早朝の街路を流していく。空を見上げると台北101の高層階にうっすらと雨雲がかかり、前日から一転して肌寒い朝だった。幸い雨足は弱く、新調したレインジャケットが早速役に立った。
スタート会場にはおよそ100名近いサイクリストと、多種多様な自転車が出走を待っていた。それは日本騎士團と同規模のグループが3つ集結したような状態で、これほど大人数のサイクリングツアーは過去に見たことがなかった。お祭りのように賑やかな雰囲気、そして台湾人チームの朗らかな立ち振る舞いに、小雨をものともしないエネルギーを感じる。スタート前からフォルモサ900の桁違いのスケール、そして人気ぶりに心底圧倒された。
開会式を終え、9日間の大冒険がいよいよ始まる。4年越しの期待感が参加者全員から感じ取れ、筆者も全く同じ気持ちだった。初めて環島を走るチャレンジャーとして、そして安全走行に寄与するサイクリングガイドとして気を引き締めつつ、小雨に濡れた台北の街へと走り出した。そしてその旅路は、初日から驚きと発見の連続であった。
次章では、ツアー前半の5日間をダイジェストで振り返りつつ、台湾のサイクリング天国ぶり、そして優れたツアー体験の様子をレポートする。
筆者プロフ:中谷亮太
富山在住の自転車ライター。JCGA公認サイクリングガイドとして本ツアーに帯同した。
富山県民として、この度の令和6年能登半島地震により亡くなられた方々のご冥福をお祈りし、お悔やみを申し上げます。また、被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。