マウンテンバイク サスペンションセッティングの基本【MTBはじめよう! Vol.20】
目次
MTB(マウンテンバイク)トレイルライド&下り系ライドの基本が学べるシリーズの20回目。今回はMTBの性能を十分に発揮させるために必須となる、サスペンションのセッティング法の基本について特集する。
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まずは“ベースセッティング”を出そう
今回も教えてもらうのは、プロMTBライダー/インストラクターの板垣奏男さんだ。
「現在、MTBはエアサスペンションが主流となっています。MTBの性能を100%発揮させるためには、このサスペンションのセッティングが非常に重要であり、特に基準点となるセッティングである“ベースセッティング”を出すことが大切です。
このベースセッティングが分かっていないと、ズバリ基準点が分からないままに乗ることになるので、快適に走れないばかりか“セッティング迷子”となってしまいます。
サスペンションのセッティングの基本ができていると、MTBの楽しさがさらに一段階上がります。ぜひしっかりと取り組んでほしいと思います。
なお、前側のサスペンションのことは“フロントサスペンション”または“フロントフォーク”と呼びます。後ろ側のサスペンション(リヤサスペンション)のことは“リヤショック”と呼ぶことが多く、特に実際に空気を入れて調整する本体の部分を“リヤショックユニット”と言うことが多いです(リヤサスペンションの場合はリヤショックユニット以外に“リンク”と呼ばれるフレームの稼働する部分も関係する)。サスペンションという言葉は、こうしたものを総称するものとして捉えると良いでしょう」。
詳しく教えてもらう。
用意するもの
ショックポンプ
「サスペンションに空気を入れるために必要なポンプです。これは必ず購入しましょう。相場は1万円〜となりますが、できればデジタル式を購入してほしいです。微調整がやりやすいためです。
なお、製品によって誤差があります。大きくずれることはないですが、細かく煮詰める場合はこの誤差が影響してきます。なので、これと決めた一つのショックポンプを使うことで、毎回同じ空気圧にセットすることが可能になります。そういう意味でも、人から借りたりせず、自分用のショックポンプを必ず買ってほしいのです」。
正確で細かな計測ができる定規類
「セッティングのためにOリングという部品が動いた量を実測するのですが、そのためにノギスや小さめの金属製の定規を用意してください。特にリヤショックの場合は計測する部分が小さいので、大きめではなく小さめの計測器具が有効になります」。
STEP1 下準備
「はじめに、“リバウンド”と“コンプレッション”という、“ダンピング”(後に詳しく説明)を司るダイヤルを全て開放しておきます」。
「フロントフォークの場合、コンプレッションはフォークの上側にダイヤル(レバー)があります。リバウンドはフォークの下側にダイヤルがあります。ブランドや製品によってはカバーが装着されているので、それは外しましょう。
ここを全開放にするには、水道の蛇口を開ける方向と同じで、反時計回りに回してください」。
「リヤショックの場合は、これもブランドや製品によって異なるのですが、基本的に青いダイヤル(レバー)がコンプレッション、赤いダイヤルがリバウンドです。これを同じように全て開放する方向にクリックしてください」。
バルブキャップを外す
「次に、フロントフォークとリヤショックユニットのバルブキャップを外し、なくさないように保管します。リバウンドダイヤルのキャップがあるタイプの人は、そのキャップもなくさないようにしっかりと保管してください。
続いて、自転車に乗る自分自身の下準備をします。
ヘルメット、シューズ、ウェア、プロテクタ類など、実際にライドするときとまったく同じ装備をしてください。つまり、自分の体重+装備類の重量=総重量が自転車にかかるようにする必要があるということです」。
STEP2 リヤショックのサグを出す
「サグとは、自転車に乗ったときにどの程度サスペンションが沈み込むかの量のことを言います。サグはサスペンションに入れる空気の量によって調節します。
サグがまったくない状態、つまりサスペンションが全然沈み込まない状態だと(空気を極限まで入れている)、段差を越えて降りるときにサスペンションが地面まで伸びる余地がないので、一気にタイヤが地面に落ちてしまいます。なので、サグを適切に出しあらかじめサスペンションを縮ませた状態にすることで、段差などを降りるときにタイヤが伸びてくれる余地を作っておくわけです。
逆にまったくサスペンションに空気を入れていない、つまりサグを出し切っている状態ですと、サスペンションが完全に縮みきってしまい破損の原因になりますし、路面からの衝撃をもろに受けてしまいます。
適切なサグを出すことでタイヤがうまく路面にグリップしてくれ、衝撃をいなしてくれるわけです。
最初のおすすめのサグ値はズバリ
フロント15%
リヤ25%
です。
自転車によってはサグの推奨値がある場合があり、例えばリヤだと30%を推奨している場合があります。
しかし、そのくらいだとボトムアウトと言って、強い衝撃が加わったときにサスペンションの稼働量を使い切ってしまい、壊してしまう可能性があるので、最初は上で挙げたやや固めの数値にするのがおすすめです。
それで試してみてやっぱり固いなと思ったら、5%ずつ上げてみてください。
なお、フロントはリヤより10%少ない数値にすることをおすすめします。というのも、MTBは下りに主眼を置いて乗るのでどうしてもハンドル荷重になりがちで、フロント側が大きく沈み込む傾向にあるからです。フロントを少なめにしておくことで、過度にハンドルが沈み込んでしまうのを防ぎます。また、フォックスなど主要ブランドもフロント側を少なめにすることを推奨しており、それが近年のトレンドにもなっています。
フルサスの場合は、リヤショックからサグをとっていきます。もちろん、ハードテールの場合は最初からフロントですが。
今回は一人でできる方法を紹介します」。
Oリングをリヤショックユニットのシーリング側へ上げる
「サグの値は、Oリングと呼ばれるゴム製のリング状のパーツを使って計測します。フロントもそうですが、ほとんどのサスペンションで最初から装着されています。まず、これをあらかじめリヤショックユニットの一番上まで、シーリングと呼ばれる部分まで引き上げておきます」。
そっとサドルにまたがり両足が浮いた状態を作る
「まずドロッパーでサドルを目一杯下げた状態にし、片足をつきながら優しくそっとサドルにまたがります。地面についていない方の足はまだ浮かせておいてください。
そのあと、足をついている方から反対側へこれまた優しく自転車を倒します。途中、両足が浮いた状態になります。そのあと、そっと反対側の足をつきます。
そのあと同様に、また元の方向へ自転車を倒し、また片足をつきます。
こうすると、自重でリヤショックユニットが沈み込み、その分だけOリングが動きます。この動いた量を計測します」。
サグ値を計算する
「次に、サグ値を計算します。
リヤショックの場合は、まずリヤショックユニットのトラベル量(稼働量)をスペック表から確認します。
例:210×55
などと記載されているはずで、この短い方の“55”の数値が、実際にリヤショックユニットが稼働する量です。この場合は、55mmとなります。ちなみに大きい方の数字は、リヤショックユニットの全長を表しています。さて、サグ値の計算式は以下のとおりです」。
【サグ値の計算式】
Oリングが動いた距離÷サスペンション稼働量×100
「リヤショックは25%がおすすめと説明しましたが、25%ならこの計算をして25になればOKです。
調整方法ですが……
数値が小さい場合
→空気を入れすぎなので抜く
数値が大きい場合
→空気が少なすぎるので入れる
という作業を行います。そしてまた先ほど説明した方法でサドルにまたがり、また計測をする→その繰り返しで目標数値を出していきます。
空気圧を調整するときは、0.3気圧くらいずつ増減させていくと良いです。最後にどうしても調整しきれなくなってきたら、さらに小さい数値で増減させて煮詰めましょう」。
最後に一度リヤショックユニットを縮める【重要】
「さて、これで目標数値が出せたら、仕上げ作業として重要なことがあります。
まず、ショックポンプを取り付けたままで、優しくぶら下げた状態にします。そして、リヤショックの場合は優しく・ゆっくりとサドルを地面に向かって押し、リヤショックユニットを20%分ほど縮ませます。これを2回ほど行います。くれぐれも優しく、ゆっくりと行ってください。勢いよくやるとショックポンプが壊れかねません。
するとほとんどの場合、空気圧の数値が変化します。難しい話になるので詳しいことは省きますが、サスペンションの中にはネガティブチャンバーとポジティブチャンバーという2つの空気の部屋があり、それを空気弁を介してやりとりしています。一度サスペンションを沈ませることでこの空気の流れのやりとりが発生し、両方の部屋に空気が均等に行きわたります。これを最後にやらないと、正確にサグを出せません。
空気を入れたあとにこれを行うと、多くの場合数値が減ります。逆に空気を抜いたあとに行うと、数値が上がります。そうなったら再び空気圧を調整し、乗車してOリングが動いた距離が目標値になっているかを確認します。そうなっていればこれで終了です。なっていなければもう一度リヤショックユニットをゆっくりと2回ほど縮ませて、同様に目標値になるまで調整作業を繰り返していきます。
目標のサグ値が出たら、そのときの空気圧をしっかりとメモしておきましょう。次回以降はその数値にすればOKというわけです。
なお、ショックポンプを外すときに、プシュッと音がしますが、それは決してリヤショックユニットから空気が漏れているわけではなく、ポンプ内部の空気が出てきているだけなので、安心してください。慌てて外そうとして部品を壊さないように気をつけてください」。
STEP3 フロントフォークのサグを出す
「次にフロントフォークのサグを出します。こちらについては誰かに手伝ってもらう必要があります。家族やパートナー、友人にお願いするのも良いですし、購入したショップへ依頼するのは一番確実な方法です」。
「まず、サドルにまたがります。両足をついていて良いです。続いて、協力者に前タイヤの上に座ってもらい、左右の脚でフロントフォークを挟み込むようにして押さえてもらいます。この状態で、ニュートラルポジションを取ってください。押さえてもらっているので、そう簡単にはぐらつきません。もしこれが怖い場合はドロッパーを半分くらい上げ、サドルに座った状態でも構いません。
次に、協力者にはケーブル類の下から腕を通し、ハンドルを逆手でつかんでもらいます」。
「続いて、協力者にハンドルを下に引くようにして、サスペンションをゆっくりと何度かストロークしてもらいます。グッ、グッという感じです」。
「それが完了したら、協力者にもう一度グッとハンドルを下に引いてもらい、その状態から手をパッと離してもらいます。すると、サスペンションが少し伸びた状態になります」。
「この状態で、サスペンションについているOリングを、一番下側(シーリング部分)までぴったりとつくように下げます」。
「続いて、協力者に上の写真のようにしてフォークの両側をつかんでもらい、上に引き上げた状態で止めてもらいます。こうすると、Oリングの位置が動かないまま固定できます。これで、ニュートラルポジションで自転車にまたがったとき、フロント側のサスペンションがどのくらい沈み込んでいるかを計測できるわけです」。
「この状態でOリングが動いてしまわないように注意しつつ、優しくゆっくりとサドルに腰を下ろし、足を地面について、自転車を降りてください」。
「あとは、リヤショックのときと同様に、Oリングからシーリング部分までの距離を計測し、計算式に当てはめて目標のサグ値になるまで調整していきます。
フロントフォークの場合は、スペックに書いてあるトラベル量がそのままサスペンション部分の稼働量を表しています。また、実際にサスペンションが動く部分の長さを測ると、それがその数値そのままになっています。
このとき、やはりリヤショックと同様に、ハンドルを地面に向かって押し付けるようにし優しく2回ほどフロントフォークをストロークさせ、空気圧の変化がないかも都度チェックすることを忘れないようにしましょう」。
STEP4 リヤショックのダンピングを調整する
「サグが調整できたら、次はダンピングの調整です。
ダンピングとは、難しい話になるので簡潔に説明しますが、“リバウンド”と“コンプレッション”を総称した言い方です。
リバウンドとは、サスペンションが縮んだあとに伸びて戻るときの速さの設定のことを言います。
コンプレッションとは、サスペンションが縮むときの速さの設定のことを言います。
ひとまず、大雑把にこれだけを覚えておけば良いです」。
リヤショックのリバウンドを調整する
「まずはリバウンドから調整します。リヤショック側からやると良いです。
はじめに、リバウンドのダイヤルを完全を閉めます。蛇口を閉める方向(時計方向)に回しきりましょう」。
「次に、上の写真のようにしてサドルを地面に向かっとグッと押し込んでサスペンションを縮ませ、パッと手を離します。離したあとは自転車が倒れないようにすぐつかんでくださいね。
リバウンドを閉めきった状態を、最もリバウンドが“効いた”状態と言います。この状態だと、手を離したあとにものすごくゆっくりとサスペンションが戻ってくるのが分かるはずです。
そこから、リバウンドのダイヤルを2クリックあけ、同様にリヤショックを沈み込ませて戻す動作を行います。これを、手を離した瞬間に後輪のタイヤがほんの少しだけポンと地面から跳ねるようになるまで、2クリックずつ開けて行っていきます。
なお、慣れていないとこれは判断がすごく難しいと思います。ですので、大まかな判断で構いません。
ポンと後輪のタイヤが地面から跳ねるポイントまできたなと思ったら、1クリックダイヤルを閉めます。これで、戻りが遅すぎず、かつタイヤが地面からポンポンと跳ねすぎないギリギリの戻りの速さまでもってこれていたら完了です。
繰り返しますが、大まかな判断で構いません。目的はリバウンドが速すぎてタイヤが地面からポンポンと跳ねすぎず、かつ戻りが遅すぎない(でも戻りはタイヤが跳ねるポイントの直前まで速い)状態を作り出すことです。これが乗りやすいセッティングです」。
STEP5 フロントフォークのリバウンドを調整する
「次にフロント側です。手順はリヤ側と同じです。フロントの場合は、ハンドルを地面に向かって押し付けるようにしてサスペンションをストロークさせ、そこからパッと手を離してリバウンドの度合いを確認します。
これは身長が低い人にとっては難しい作業となります。その場合に試してみてほしいのは、前ブレーキを握りながらハンドルをなるだけ地面に向かって押し付けるようにして、パッと手を離す瞬間に前ブレーキを離す方法です。これだとしっかりとサスペンションをストロークさせられます。ややコツがいりますが、うまくいかないときは試してみてください
リヤ側と同様にちょうど良いリバウンドのクリックまで調整できたら完了です」。
STEP6 コンプレッションの調整……は?
「あれ? コンプレッションの調整はどうしたらいいの? と思ったことでしょう。ひとまずここまでの調整ができていれば、コンプレッションはそのまま、つまり全開放の状態で乗ってみてください。
しっかりとリバウンドの調整までが完了していれば、コンプレッションが全開放状態で乗っていて特に問題はありません。コンプレッションの調整はかなり難しいです。ここを詰めていく場合、別途かなり難しい説明をする必要があります。コンプレッションの調整については、また別の機会に紹介したいと思います」。
STEP7 キャップ類を閉める(忘れがち)
「さて、やった、完了!と忘れてしまいがちなのが、バルブのキャップを閉めることです。必ず最後に閉めてください。また、作業に熱中するあまり紛失してしまわないようにも注意してください。
サスペンションのバルブ口を守ってくる大事なパーツなので、しっかりと装着してください。また、閉めすぎてしまうのにも注意が必要です」。
これでベースセッティングは完了だ。何も調整していない状態に比べ、格段に自転車の走りが良くなっているはずだ。まずはこれを基準にして乗り込んでいってみよう。