まだ知らない魅力が盛り沢山! 北陸新幹線延伸で福井サイクリング
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中島康晴さん
3月16日、北陸新幹線の金沢~敦賀間が開業した。今回は、終点の敦賀駅を起点としたルートを2つ紹介していこう。まだ知られていない魅力が詰まった福井サイクリングをぜひあなたも体験して欲しい。
今回のモデルは、元プロロードレーサーの中島康晴さん。福井県出身で、福井県自転車アンバサダーを務めており、現役を引退後もJスポーツでの実況解説などを行い、自転車の魅力を発信し続ける。鉄道好きで、新幹線が開通するまで金沢~敦賀を結んでいた北陸本線の最終便に乗り、北陸新幹線開通の1便目にもしっかり乗車してきたそう。
サイクリングで歴史とロマンを拾う福井旅
福井県といえば何を思い浮かべるだろうか?
恐竜、日本海、カニ、東尋坊、メガネ……、特に首都圏在住者にとっては、もしかするとあまり馴染みのない地域かもしれない。しかしこの福井県、様々な面で歴史を持ち、自転車で走るのにこそ非常に魅力的な地域なのだ。
小学生の頃から地元の新幹線開通を待ち望んでいたという中島さんは、福井県の魅力についてこう語る。
「福井県は短い小さい県なんですけど、L字に曲がっていて北と南で全く文化の異なる、楽しいものが2つ味わえるエリアだと思っています。
ド定番のカニ、永平寺、東尋坊や恐竜など、北側にはそれらがあって、南側はまだあまりフィーチャーされていないんですが、京都や欧州などとの歴史が昔からあって、文化が育まれたエリアがあります。北側も南側も両方とも食が美味しくて、その2つのエリアを150㎞ぐらいの範囲で全部楽しめます。自転車だとより楽しめるエリアは広がりますので、ぜひ来ていただきたいなと思います。
レンタサイクルももちろんありますし、山がち過ぎないし、平坦な道も選べるので、初心者から上級者まで楽しめるような道もあります。サイクリングに気軽に来ていただけるエリアかなと思います」
今回拠点とする敦賀駅はかつて北陸を代表する交通の要衝となっており、宿場町や港町として栄えた場所。1899年には外国貿易港として指定を受け、ロシアを横断するシベリア鉄道開通をきっかけに敦賀港からウラジオストクの定期航路が開かれ、日本からヨーロッパへの最短ルートとなっていた。
そんな歴史ある町である敦賀駅に今年、北陸新幹線が開通。駅舎は、12階建てのビルに相当する高さを持ち、「敦賀要塞」とも呼ばれ、整備新幹線駅の中で最大規模だそうだ。
東京から敦賀に向かう始発は6時16分。9時34分に敦賀駅到着だ。輪行バッグを抱え、降車した中島さんは最新の駅舎に大興奮の様子。
「敦賀駅の新幹線のホームの床は、船の甲板をイメージしている木目調が特徴なんです!」と、中島さんは教えてくれた。
今回は敦賀駅を起点として2つのルートを紹介していく。
1つ目のルートは、敦賀駅~今庄駅の鉄道遺産巡りをした後、日本海沿いを走りながら海の幸に舌鼓を打ちつつ、巨大な柱状の岩が約1㎞連なる東尋坊を目指す。最後はあわら温泉で癒される128㎞のルート。
2つ目は、グラベルロードを満喫できるルートだ。同じく敦賀駅をスタートし、美浜駅直結の若狭美浜観光協会でグラベルバイクをレンタルしてから、三方五湖を少し走り、22㎞のグラベル区間が続く若狭幹線林道を走って小浜駅にゴールする約62㎞の走りごたえ抜群のルート。
鉄道遺産をたどり、日本海を望む 敦賀駅〜芦原温泉駅ルート
鉄道好きはもちろん、歴史を感じたい人におすすめしたいのが敦賀駅から芦原温泉駅を目指すルート。
敦賀駅スタート後、敦賀港近くにある敦賀鉄道資料館に寄って、歴史などを学んでから走るとさらに奥深く楽しめるはずだ。
敦賀鉄道資料館
福井県敦賀市港町1-25
☎︎0770-21-0056
営業時間/9時~17時
休館日/毎週水曜、年末年始
敦賀駅周辺を抜けたら、かつて鉄道が通っていた敦賀駅から今庄駅のルートをたどる。トンネルや駅舎の跡など、鉄道遺産が非常に多く残るこの道は車だと見逃してしまいがちだが、自転車であれば当時の蒸気機関車のスケール感に思いを馳せながら存分に堪能できる。
特に急勾配の路線を乗り越えるために信号所が置かれ、スイッチバックが設けられた山中トンネルはぜひ通ってみて欲しいポイント。
この道は、鉄道にとっての急勾配が続く難所として鉄道建設当時から知られていた道ではあるが、当時の鉄道が登れる勾配の限界が2.5%と言われており、実は自転車が走るには緩やかで優しい道でもある。山中トンネル辺りまで越えれば、今庄駅までは下り区間だ。
今庄駅周辺は、鉄道で栄えたかつての宿場町の名残が見える。この周辺で山越えの一休みをしても良いだろう。
今庄駅構内にある今庄まちなみ情報館では、今庄の歴史や見どころなどをジオラマやパネル、映像などにて紹介している。改めて通ってきた道とこの地域の歴史をここで学ぼう。
今庄まちなみ情報館
福井県南条郡南越前町今庄74-3-1
☎︎0778-45-0074
営業時間/9時~16時
一つ山を超えて、日本海沿いに出れば、あとはほぼ平坦路の海岸線沿いを進んでいく。敦賀周辺の穏やかな海岸線と、日本海の荒波を象徴するような海岸線、全く違う海を実感できるはずだ。
「北の荒々しい日本海と南の穏やかな若狭湾、風の感じ方や潮の違い、同じ浜辺でも北と南で全然違います。あとはカニを茹でている匂いとか、ソースカツ丼の匂いとか、いろいろ地域ごとに特産も違って。いろんな歴史があってそこに美味しい食事があるので、自転車で走ると車よりももっと楽しめるのかなと思います」と中島さん。
また、海沿いをずっと走っていると、風や海の侵食によってできた奇岩断崖が多く現れる。これはリアス式海岸の若狭湾と異なり、直線的な隆起海岸がそれらを作り出している。長い年月をかけて自然にくりぬかれたトンネル「呼鳥門」や日本海の侵食によってできた「弁慶の洗濯岩」で波が岩に砕け散る景観なども自転車であれば間近に楽しめる。
途中、「道の駅越前」にて休憩がてら、その前にある「越前がにミュージアム」にもぜひ寄ってみて欲しい。この地域の冬の名産である越前がにや近海の魚のことなどを学べる子供にも楽しい展示が盛り沢山だ。
越前がにミュージアム
福井県丹生郡越前町厨71-324-1
☎︎0778-37-2626
営業時間/9時~17時
休館日/毎週火曜
お腹が空いてきた頃、越前漁港目の前の「海の幸食処 えちぜん」にて食事タイム。この付近は中島さんが選手時代の練習コースだったそうで、「いつも満足そうな人がここからたくさん出てきていたので、羨ましく見ていました(笑)」というほどの人気の店なので、お昼の時間をずらして行くのが狙い目だ。
海の幸食処 えちぜん
福井県丹生郡越前町小樟3-81
☎︎0778-37-1020
営業時間/10時30分~17時
定休日/火曜日
日本海の絶景の最後は、東尋坊と雄島の夕焼けで締めよう。
日本の夕陽百選にも選ばれている東尋坊は、越前加賀海岸国定公園にある国の天然記念物であり、約1㎞にわたって巨大な柱状の岩(柱状節理)が海岸線に広がる。これだけ大規模な柱状節理は世界的にも珍しく、地質学的にも貴重な場所とされる。
遊歩道から歩いて行くと、囲いなく断崖絶壁から海を見下ろすことができる。ただし、足がすくむほどの光景なのでビンディングシューズで歩いて行くのはおすすめしない……。
最後に、えちぜん鉄道三国芦原線のあわら湯のまち駅近くの「芦湯(あしゆ)」の足湯で、疲れた脚をしっかりほぐそう。完全に室内になっており、2種類の泉質の異なる源泉を使用し、源泉かけ流しで5つの浴槽を楽しめる。
「目の前のえちぜん鉄道で輪行するときに、電車の待ち時間にこの足湯を利用したこともありました」と中島さん。
ここからゴールの北陸新幹線・芦原温泉駅には約5㎞。輪行で帰るも良し、あわら温泉で温泉宿に宿泊するも良し、体力があればさらに北上して加賀温泉や小松、金沢を目指すのも良いだろう。
若狭幹線林道でグラベル堪能ライド 敦賀~小浜グラベルライド
敦賀駅をロードバイクでスタートし、今回は、道の駅若狭美浜はまびよりの奥にある美浜駅直結の「若狭美浜観光協会」でグラベルバイクをレンタル。交通量の多い市街地をスキップするために美浜駅まで電車で行くのも良いだろう。
若狭美浜観光協会では、ロードバイクやミニベロ、クロスバイクなどのレンタルもあり、三方五湖周辺のサイクリングにも最適だ。
若狭美浜観光協会
福井県三方郡美浜町松原35-7
☎︎0770-32-0222
営業時間/8時30分~17時
「三方五湖は個々の湖で湖の色が違って、それも自転車ならではで楽しめる場所」と中島さんが話す三方五湖をグラベルバイクの慣らし運転がてら少しサイクリングしてから、小浜市阿納尻から若狭町塩坂越までのおよそ22㎞のロングダートである若狭幹線林道へと向かう。(なお、若狭幹線林道は冬季は通行止め)
正式なルートとしては小浜市側がスタートだが、今回は三方湖近くの世久見(せくみ)から脇道を入っていき、若狭幹線林道を目指す。海抜10mほどのところから一気に300mほど上るため、序盤のペースは要注意。
上り切ったら、アップダウンのある舗装路+グラベル区間が続く。途中にはいくつか展望所もあり、三方五湖や若狭湾を望めるスポットも。新緑や紅葉の時季に訪れれば、より一層素晴らしい景観の中を走れるはずだ。
雨などの影響で道が荒れていたり、倒木や落石などもあったりするので、落車やパンクなどにも気をつけながら楽しもう。途中には一般道に出られる道もいくつかあるので、状況を判断しながら進むのがおすすめ。
今回初めてグラベルバイクに乗った中島さんは、ロードバイクとの違いを感じながら、自然との対峙を楽しんでいた。
最後は舗装路に入って、食祭海道とぶつかり、若狭幹線林道は終了。そのまま食祭海道を少し先へと進んで、ご褒美に小浜の名産である焼き鯖を堪能してから小浜駅へとゴール。
レンタルバイクを返却するのであれば、舗装路を戻るも良いし、輪行袋を持っていけば、レンタルした美浜駅まで輪行もできる。
今回は2つのルートを紹介したが、それだけではない。敦賀以西の若狭湾を満喫できる若狭湾サイクリングルート(わかさいくる)や、福井駅発着であれば九頭竜川サイクリングルートを通って永平寺や恐竜博物館を目指したり、福井駅発で東尋坊を目指してさらに北を目指したりと様々なルートが取れる。
「福井って大きな道から1本入ったところが結構楽しいんですよ。それは自転車ならではの楽しみ方かなと思います。街も近くにあって、田舎も近くにある。ちゃんと利便性はあるけど、全く非日常を味わえる。新幹線の終点となって来やすくなったと思うので、ぜひ新しい発見をしに何度も来て欲しいです」中島さんは笑顔でそう語った。
北陸新幹線で観光名所として名高い金沢から一歩足を伸ばして、まだ多くの人が知らない魅力の詰まった福井県を目的地としたサイクリングに出掛けてみてほしい。