2人のグラベルライダーが徹底解剖! シマノ・GRXの選択肢
目次
グラベルバイクに向けたコンポーネントである、シマノ「GRX」シリーズ。そのメカニカル12スピードモデルには、組み合わせの異なる3つのタイプが用意されている。ここではGRXをグラベルで使い倒している2人のサイクリストが試乗とともに徹底対談。選び方をレコメンドする。
上写真右の人:田渕君幸さん
スポーツバイクのメンテナンスを主体としたショップ「トライクル」の主宰。メッセンジャーや自転車メーカー勤務を経るとともに、ブルベの最高峰「パリ〜ブレスト〜パリ」、アメリカ自転車横断のほか、2023年にはイタリアで開催されたグラベル世界選にも参戦した。
SHOP:TRYCLE
東京都稲城市矢野口853-1 ハイブリッジ102
TEL/042-379-8041
SNS/@TRYCLE_ing
左の人:江里口恭平
日本で最も歴史あるスポーツ自転車専門メディア「サイクルスポーツ」の、月刊誌セクションを担当する編集者。国内外を訪れ、最先端のプロダクトやサイクルツーリズムを取材。グラベルバイクを様々なアウトドアと組み合わせ、温泉を探索するのに夢中。
SNS/@ergtick2019
右のバイク:UNBEATABLE×リドレー・カンゾーファスト
シマノ・RX820バイクラフト価格/57万9700円
問 ミズタニ自転車
中央のバイク:UNSTOPPABLE×スペシャライズド・ディヴァージュSTR
シマノ・RX820 ※試乗用スペックにつき、完成車ラインナップはなし
問 スペシャライズド・ジャパン
左のバイク:UNDROPPABLE×キャニオン・グレイルCF SL 7
シマノ・RX820完成車価格/35万9000円 ※配送料、梱包料、 関税等は含まれていません
問 キャニオンジャパン
コンポ選びの新世代
2019年、世界的なムーブメントに呼応するように誕生したのが、シマノによるグラベルロードに向けたコンポーネントシリーズ「GRX」だ。同社が培ってきたドロップハンドルのオンロード向けのレバー形状や操作感、そしてMTBライン由来のオフロードにおける確実な変速性能や制動力等、それらが混ざり合い昇華したことで生み出されたこのGRXは、発表以来多くのグラベルライダーたちに支持されてきた。そんな同モデルは2023年、最大12段変速となる第二世代へアップデート。オーソドックスなワイヤー引きの機械式変速システムモデルとして、フロント変速やリヤのレンジ違いによる、3つのタイプの「GRX RX820シリーズ」として登場した。
そのトピックの一つが、フロントシングルモデルでは新たにトップ側に10Tのギアが追加された点。これによって前42Tの場合に最大4.2のギア比、すなわちトップスピードの平地や下り坂でも脚を回し続けることができるように。またフロントダブルにおいては、トップ側のギアがクロスレシオになり扱いやすさも向上した。
今回のGRXでは、そんな3つの変速システムのそれぞれに、異なるコンセプトネームが定められている。ユーザーはその中からどのように選ぶべきなのだろうか?
「これまでロードバイクというカテゴリーでは、デュラエース、アルテグラ、105というタテ軸の中で『良いものを買っていたら間違いがない』という選び方でした。それが今回のGRXの登場によって、自身のライドの目的や好みによって『自分にとって一番良いものを選ぶ』という面白さが加わった。ある意味、自転車趣味の沼が深くなったかもしれません(田渕さん)」
レース、そしてアドベンチャーと、グラベル遊びを実践し続けている二人のグラベルライダーが、ここでは3つのシステムを乗り比べることで、GRXの選択肢を語り合う!
シマノ・GRX 3つの機械式12速モデル
no.1 【フロントシングル×10-45T】で加減速に対応
UNBEATABLE ︱アンビータブル︱
リヤ12速化することで、トップの10Tが採用されるとともに、45Tへのロー側に密度が詰まったクロスレシオ化。ハイテンポなグラベルライドでも脚力を残すギアを選択でき、それはライバルからもタフロードからも「打ち負かされない」。多くのグラベルバイク完成車に採用されるタイプだ。
PARTS SPEC
リヤディレーラー:RD-RX822-GS
価格/1万5008円
カセットスプロケット:CS-M8100-12(10-45T)
価格/2万962円
クランクとチェーンリング:FC-RX820-1(42T、40T)
価格/2万9410円
フルスペック参考価格/15万5000円
no.2 ワイドレンジな【フロントシングル×10-51T】
UNSTOPPABLE ︱アンストッパブル︱
フロントシングル時によりワイドなカセットを選ぶことができる、ロングケージタイプのリヤディレイラーを採用。リアの最大51Tではギア比を最低0.79(フロント40Tの場合)とすることができるのて、急登坂となる勾配やぬかるんだ路面状況でもバイクから下りず、「止まることなし」。
PARTS SPEC
リヤディレーラー:RD-RX822-SGS
価格/1万5008円
カセットスプロケット:CS-M8100-12(10-51T)
価格/2万962円
クランクとチェーンリング: FC-RX820-1(42T、40T)
価格/2万9410円
フルスペック参考価格/15万5000円
no.3 あらゆる道へ、【フロントダブル×12スピード】
UNDROPPABLE ︱アンドロッパブル︱
48-31T(FC-RX820)/46-30T(FC-RX610)の2段のフロントチェーンリングを選ぶことのできるフロント変速システムシリーズ。フロントディレーラーは、リヤにワイドなタイヤを履いても干渉することのないよう、クリアランスを設けている。チェーンスタビライザー付きのリア変速との組み合わせはチェーン落ちの不安も減少。
PARTS SPEC
フロントディレーラー:FD-RX820
価格/7327円
リヤディレーラー:RD-RX820
価格/1万5008円
カセットスプロケット: CS-R8101-12(11-34T)
価格/1万3420円、
CS-HG710-12(11-36T)
価格/ 7700円
クランクとチェーンリング:FC-RX820-2
価格/2万9410円
フルスペック参考価格/16万1000円
※参考価格は税込み、J-Kit仕様です。ケーブル類、ホイール関連、ブレーキローター除く
2人のアクティブグラベルライダーが対談!「いかにしてGRXを選ぶか?」
TRYCLEのタブチンと、サイクルスポーツのエリグチ。二人のGRXユーザーが新たなメカニカル12スピードモデルを実走チェック!
グラベルライドの最適解とは?
田渕(以下、タブ)「グラベルバイクって、現在の日本だと多種多様な使われ方をしていて、単にオフロードを走るだけでなくオンロードメインの旅の相棒であったり、CX(シクロクロス)競技にも使えると、そんな幅の広さが受け入れられていると感じています」
エリグチ(以下、エリ)「タブチンさんはここ最近、特にレースとしてのグラベルライドを楽しまれていますよね。僕自身はこのところ、未舗装林道やトレイルへのルートファインディングが面白くって。今回は改めて、自身がこれまで楽しんできたグラベルという目線のうえでの、GRXの選び方やバイクとの組み合わせを考えてみたいです。それでは早速乗っていきましょう。まずはリヤが10-45Tのカセットを採用する【アンビータブル】について。今回はグラベルレーサー的モデルの、リドレー・カンゾーファストに装着して走りました」
タブ「まさにこんなバイクかつ、ハイスピードなライドを想定する、レース志向の人には良さそうですね。トップの10Tがあればフロントのチェーンリングを大きくして、ギア比を重くできますし。この10Tが、前世代の11Tからたった1つ減っただけなのに大きく違うんですよね。それによってフロント変速機がなく、シンプルかつ軽量化という利点を活かすことができます。第一世代よりは確実に、レースでの採用率が上がっていくんじゃないでしょうか」
エリ「グラベルをハイスピードで走っている時って、操作がシンプルになることがすごく大きいように思います。未舗装峠のピークハントを終えてから、そのまま下りに進入したときにレバー一本の動作だけで完結できるのって、けっこう気楽かも」
タブ「そう、フロントシングルは余計なコトを考えなくていい。レース中なんかは特に、常に目の前の路面やライダーをちゃんと見ていないといけないからこそ、そんな時『フロント変速は今どっちだっけ?』という思考の判断が減り、変速タッチのミスも減る。小さな積み重ねの一つとしてとても重要だと思います。CXに採用するのもアリかもしれないですね」
拡張していく楽しみ
エリ「続いて、リヤで最大51Tまでギアを選択できる【アンストッパブル】です」
タブ「もうリヤのロー側がフロントのチェーンリングくらいある、大きい! まるでMTBと言えるくらい、見た目の迫力もスゴイ」
エリ「今回はスペシャライズドのディヴァージュに搭載されていましたが、もはやXC(クロスカントリー)MTBみたいですね」
タブ「これこそ日本のグラベル、そしてトレイルを楽しむという意味では最適な選択肢じゃないかと思います。日本の林道シーンではどうしたって山岳エリアに入っていきますし、そうすると急勾配を一気に上るような激坂も出てきます。これまでだと、そんなシーンにはギアが足りないことも多く、降りて押してしまい、100%フルでは遊びきれず……だけどギア比で0.8を切るほどワイドレシオであれば、MTBの人たちとも一緒に走れてしまいそう」
エリ「木の根っこや落ち葉、ぬかるみといった荒れた路面の激坂をどこまで上り切れるか、というのはオフロードを自転車で走る際のテクニカルな楽しみですね」
タブ「このアンストッパブルだったら、キャノンデールのトップストーンのレフティモデルや今回のディヴァージュのような、前後にサスペンションを搭載したグラベルバイクがいいなあ。もうMTBと遜色ないくらい、日本の林道を遊べるバイクになりそうです」
エリ「ちなみに今回のGRXのフロントシングルモデルでは、リヤディレーラーのプーリーケージが、ロングとショートに交換可能です。つまり変速機本体やレバーを換えることなく、ギアの構成を変更可能という拡張性も持っています」
タブ「それはすごくいいですね! もし1台グラベルバイクがあれば、夏のシーズンはちょっとレーシーに振って、冬のシーズンはトレイルでの遊びにといった、バイクの切り替えを行うことも楽しそう」
自分だけの選択を
エリ「あとは自転車に遊びのギアを積載して走る、バイクパッキング的ツーリングだと、フロントシングルで軽いアンストッパブルは合いそう。リヤ最大45Tだとちょっと足りないし、キャンプ装備などでどうしても荷物が重くなってしまった時にも、このワイドレシオなら安心です」
タブ「なるほどなるほど、僕は旅で採用するならフロントダブルの【アンドロッパブル】かなあ。アメリカの横断ツーリングではフロントシングルのコンポを使用していたのですが、旅をする上で問題はなかったものの、例えば下り坂でギア比が足りなくて脚を止めることになってしまったり。僕にはダブルがあった方が幸せだったかなとも思います。その上で【アンドロッパブル】は前者2つの良いとこ取りで、汎用性が高く、もちろんレースでも使えるし、バイクパッキングの積載でも不満なく使えるコンポです。あとはこのフロント変速システムって、ロードバイクに乗ってきた人が慣れていて使い方も分かっている。そういう人たちが選ぶのに良いかも」
エリ「僕らも含めて、ロードバイクからスポーツバイクを乗り始めたサイクリストって、『ギアが足りなくなること』をすごく恐れているというか。坂を上る時も下る時も、一枚でも足りなくなるということがすごく怖い(笑)」
タブ「パチパチ決まる変速タッチの良さも相まって、違和感無く運用できますね。ロングツーリングで山岳や裏道に入った時に、予想だにしない激坂や、あるいは強い追い風と、あらゆるシーンを気持ちよく対応できると思います。そういう意味で、どんな車体に付けても間違いない。初めて導入するなら、まずはこのアンドロッパブルでしょうね」
エリ「まさにこのキャニオン・グレイルのようなレーシーかつ拡張性の高いバイクにはぴったりです」
タブ「私けっこう手が小さめなんですけど、だからこそこのGRXの握りやすい細いシェイプや、コンディションに左右されずグリップ力があるレバーはとても重要だと思っていて。GRXに採用されている要素は、性別や年代を問わずあらゆるサイクリストにとって安心感を与えてくれると思うんです。だからこそ、GRXのDi2の12速モデルの登場にもとても期待できますね」
エリ「グラベルバイクを使った自転車の遊びって、バイクフレームやタイヤ、そしてコンポの組み合わせによって、どんどん走る領域を広げることができるもの。だからこそ地図でルートを探してパーツスペックを見て、実際に選んで走ってああでもないこうでもないと語り合うことこそが、ワクワクするものだなと改めて思いました。さあ、次はどんなグラベルへ走りに行きましょうか!」
【GRX】を冠したグラベル向けカーボンホイールへアップグレード!
ロードバイクを始め、各カテゴリをフルラインナップするシマノホイール。グラベル向けである「GRX」ホイールセットシリーズにも、カーボンリムモデルが用意される。リム内幅は、太いタイヤに最適な25mmのワイドな内幅となっており、32mmハイト、チューブレスレディのカーボンリムの採用によって、重量は前後で1394g(マイクロスプラインモデルの場合)と軽量。もちろんMTB、ロード用それぞれのフリーボディへ交換可能だ。走行性能を大きく変化させるホイールのアップグレードにおいて、「ロードバイクがディスクブレーキ化したことによって、いいホイールセットをワンペア揃えればグラベルと共有することもできますね」とタブチンさんも語る。
GRXホイールセット
WH-RX880
価格/27万1151円(前後セット、リアはHGスプライン12もしくはマイクロスプラインを選択)
※掲載価格は2024年4月1日時点