世界初試乗! コロンブス100周年記念チューブで仕立てたケルビムの特別仕様車「チェントレーサー」
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先に発表されたコロンブス100周年を記念した限定のスチールチューブ「チェント」。ケルビムが早速このモデルを使って「チェントレーサー」を組み上げた。スチールマニアが注目するチュービング、果たしてビルダーの今野真一氏はどう料理したのか。
肉薄・大径チュービングで作り上げるモダンスチール
特にスチールチューブ全盛期を知る古参のロードバイカーにとって、コロンブスの存在は偉大だ。これまで同社のチュービングを用いてチネリ、デローザ、コルナゴを始めとするイタリアの名だたる工房が世界に誇る名車を世に送り出しており、ロードバイクの歴史の一部はコロンブスによってもたらされたと言っても過言ではない。
ロードバイク史にさん然と輝くこのイタリアのチューブメーカーは今年創業100周年を迎え、これに際して特別仕様のスチールチューブセット「チェント」(イタリア語で100の意味)を世界限定500セット発売することとなった。
製品は既にデリバリーされているが、限定品だけに実際にこのチューブで組み上げられたフレームの姿は未だ見ることができない。そんな中、ケルビムがいち早くチェントで組み上げた「チェントレーサー」の試乗車を用意したというので、早速、試乗を試みた。
ケルビムのチーフビルダーである今野真一氏いわく「チェントで組んだフレームが世に出るのは、たぶんウチが世界で初めてじゃないかな」という。
ちなみにこのチェントレーサーのオーダーは2019年内までの受付けとなる(コロンブス受注締切のため)ので、手に入れたいサイクリストは急いで検討をして欲しい。詳細はケルビム公式Facebookでご確認を。
では試乗の前に、まずは「チェント」と「チェントレーサー」の概要について、今野氏の言葉を交えて紹介しよう。
やはり目を引くのは、大径に成形されたヘッドチューブとダウンチューブだろう。ヘッドチューブは1.5インチ径のロワーベアリングをセットするテーパードタイプ、ダウンチューブについては外径44㎜という超ファット仕様だ。そして、この大径ダウンチューブの溶接面積を確保するためにBBシェルは、樽型に成形されたチェント専用のタイプがセットされているのも見逃せない。
チューブの肉厚は最も薄いパートが0.4mmで、0.6/0.4/0.6mm(トップチューブとダウンチューブに採用)のダブルバテッド管となる。「肉厚0.4mmのチューブは他でもありますが、両サイドが0.6mmというのは少ないので、そういった部分では攻めたスペックですね」と今野氏が言う通り、かなり肉薄なチューブ両端はザグリや溶接作業がシビアになるのでビルダーの腕が問われるところだ。
その他に目を向けると前三角はテーパー管で、シートステーはダブルテーパーに仕上げるなど、チューブの成形には手間がかかっており、これらによってチェントのチュービングは高剛性と軽量化、そして快適性がバランスされている。
素材面では「オムニクロム」という添加物が加えられているのが大きなトピックだ。これまでコロンブス社のチュービングといえば、添加物の一部にニオビウムを使った通称〝ニヴァクローム〟を定番としていたが、今回発表されたチェントはもとより、スピリットなどこれまでの主要チューブもオムニクロムを添加したタイプにアップデートされているようだ。
コロンブスのデータによると、このオムニクロムの特性はニヴァクロームよりも引張強度が高く、さらに溶接時の熱劣化を抑えることができるのも大きな特徴で「溶接時の熱劣化が少ないのは、ビルダーにとっては品質を安定させやすいので大きなメリットですね」とそのスペックを歓迎する。ちなみにチェントレーサーの製作には、融点が低く母材の熱劣化を抑えることができる銀ロウが主に使われており、チュービングの特性を損なわない作りも追求されている。
「やはりこれだけ大きな外径としたチューブセットとなると剛性は高くなるでしょうから、必然的にいわゆる〝モダンスチール〟というレーシーなモデルがマッチしますね」とは今野氏。故に今回のモデルが「チェントレーサー」というのも納得できる。
フレームワークでは全体の剛性を〝固すぎない〟レベルに調整すべく、シートステーの溶接位置をできるだけ上側にして後三角のスペースを大きく確保することでバランスをとっているという。また、今回の試乗車はディスクブレーキ仕様だが、ケルビムが独自で設計した〝フロートディスクシステム〟と呼ばれる2階建て形のディスクブレーキ用リヤエンドの採用も大きな特徴だ。
「スチールフレームはチューブ構造が最大の特徴なので、それをディスクブレーキモデルにも反映したかったんです。ディスク仕様のリヤエンドは、ディスク台座からリヤエンド部分まで一体成型されるものも多く、そうなるとリヤエンド周りが固くなり、チューブ形状の美点とされるしなやかさを生かした走りを実現しにくくなります。このエンドはできるだけチェーンステーのチューブ部分の寸法を長くするための仕様です」と今野氏はこの独創的なエンドを開発した経緯について語る。
フレーム全体としてはチェントのチュービングはメインフレームの剛性が高くなりやすいので、それをバランスさせるために後三角をできるだけしなやかに作るというのが、今野氏がチェントレーサーで目指した作りだ。
こうして100周年記念の特別なチュービングが持つ性能を、最大限に発揮するための作りを展開したケルビム・チェントレーサー、その走りの魅力とはいかなるものか。
踏み応えが魅力のスパルタンなスチールレーサー(試乗インプレッション)
44mmのダウンチューブ、ワンポイントファイブのロワーベアリングを内包するテーパードヘッドチューブで組まれたチェントレーサーのフォルムは、スチールバイクとは思わせない程の迫力だ。さらに強めのラメを聞かせたペイントワークも相まって、レーサーらしい力強さとラグジュアリーな雰囲気が同居している。
大径チュービングを用いた極めてモダンなパッケージだが、細部の作りはトラディショナルなスチールフレームの作りが展開されている。近頃のスチールフレームは、作業の簡素化や母材への負担を減らすなどの理由から、シート部の処理に既成品のシートバンドを用いるブランドが多いが、チェントレーサー(ケルビムの多くのモデル)は、独自のフレーム小物を溶接する伝統的なシート部の作りを見せる。
そして、ダウンチューブに内蔵されたオイルラインの蓋もまた昔ながらの形状だ。今野氏が作るフレームといえばNABHS(北米ハンドメイド自転車展)受賞モデルを始めモダンで独創的なイメージが強いためか、トラディショナルな作りといった部分には目を向けられにくいのだが、、実はケルビムの現代的な仕様のモデルの多くは、今回のチェントレーサーのように伝統的なスチールフレームの機能美が上手に融合されている。
走りは見た目の想像に違わない。剛性はスチールフレームとしては最高レベルであり、加速はまさに〝打てば響く〟という言葉がふさわしい。肉薄・大径チューブらしい軽くて乾いたペダリングフィールで、鋭く加速してゆく様はまさにピュアレーサーの振る舞いで、ついつい加速の快感を求めてしまう。その性能はレースでカーボンフレームと渡り合ってもハンディとはならないレベルだろう。
スチールフレームとしてはかなり剛性の高い部類だが、この素材の美徳である〝しなやかさ〟は巧みに反映されている。恐らく前三角をスローピングにして後三角をコンパクトに設計したフレームだと、フレーム全体の剛性は相当に高くなるはずだ。
しかしチェントレーサーではホリゾンタルの前三角に加え、後三角も大きく設計することで後三角に微妙なしなやかさを与えて、レーム全体の剛性バランスを整えているのが効果的だ。これによってペダリングでの脚への負担が緩和され、加速の頭打ちのポイントがより先になり、高負荷のペダリングも持続しやすくなっている。
また、今野氏いわく「ハンドリングが重いとフレームの硬さが目立つようになるので、少しクイックに味付けしています」というのも功を奏しているのだろう。ちなみにハンドリングは俊敏だが扱いにくいという感覚はなく、レーサーらしい振る舞いが気持ちいい。
全体的なパフォーマンスは、踏み応えに優れたスパルタンな走りが魅力であり、レーサーはもとよりレースライクな走りを好むロードサイクリストにマッチする1台だ。スペシャルなチュービングの特性を最大限に引き出しつつも、その弱点を上手くいなしたチェントレーサーは、最先端スチールレーサーの一つの理想的な姿と言えるだろう。
ケルビム・チェントレーサー
フレームセット価格/39万円(リムブレーキ仕様)、43万5000円(ディスクブレーキ仕様)
※共にメッキ有・税抜
Spec.
フレーム/コロンブス・チェント
フロントフォーク/コロンブス・フューチュラディスク
メインコンポ/スラム・レッドeタップAXS
ホイール/HED.・ヴェンキッシュ
タイヤ/マヴィック・イクシオンプログリップリンク&パワーリンク
ステム/デダ・スーパーゼロ
ハンドルバー/ジップ・SL70エアロハンドルバー
シートポスト/デダ・スーパーゼロ
サドル/フィジーク・ヴォルタ
問い合わせ先:今野製作所 TEL 042-791-3477