スラムが新型レッドAXSを発表 試乗短評あり

目次

レバー

モデルチェンジが、うわさになっていたスラムのロード用最高級コンポーネント、レッドAXSがついに姿を現した。短い時間だが試乗する機会を得たので、その短評をお届けする。

ブレーキキャリパー

コントロールレバーとブレーキキャリパーで、計83gの軽量化を達成。レバーの設計は大きく変更されている。価格/11万3800円(片側)

エフォートレス(努力を必要としない)なライドを可能にする。そんなコンセプトを掲げて新世代のスラム・レッドAXS(以下、新型レッド)が登場した。そろそろ新製品が出そうだと言われていたが、スパイショットらしきものも少なく、突然、モデルチェンジした。最初に言い訳しておくと、本稿を執筆段階で仕様の詳細は分からない。詳しい資料もないが、サイクルスポーツは新型レッドに試乗できる機会を得た。そこで、現段階で入手した資料をもとに、期待の新作を紹介しよう。

スラムがロードコンポを作り始めたのは2006年の“フォース”が最初だ。翌年、軽量な上位モデルとしてレッドがデビューする。その後、2013年に11速化、2015年にワイヤレス変速システムのeタップを、2019年に12速化とAXSアプリの導入と進化を重ねてきた。今回紹介する新型レッドは、eタップとしては3世代目となる。

レッドAXS、電動ロード用コンポーネントとして磨きをかけた

最高級ロードバイクのコンポでトップシェアを走るのは、シマノ・デュラエースである。しかし、この10年を振り返って、機能面からリードしてきたのはレッドだったのも事実だ。手元の資料にある“エフォートレスなライドを可能にする”とはナニか? 次世代ロードバイクにどのような提案をするのか興味は尽きない。

端的に言えば、新型レッドはより使いやすく、より軽くなっているという。全面刷新となったコントロールレバーは、ブレーキ用油圧シリンダーの位置を、ブラケット先端からブラケットの中心部に移設。全体の設計を見直すことで、圧倒的とも言える軽い操作感を手にしている。また、ブレーキレバーのストローク調整幅も大きくなり、手の大小を問わずフィット感が向上している。

変速性能に目を向けると、フロントディレーラーはプレート間のクリアランスを狭くして変速性能を向上させている。また、リヤディレーラーはビッグプーリーを採用するなど、高性能化を図ると同時にトレンドを上手に取り入れている。

フロントディレーラー

ケージの形状を見直し、より高速で正確なフロント変速を実現。電動自動トリム機能を搭載したことで、チェーンとケージの干渉を防止。どんなギアの組み合わせでもチェーンの擦れがない。価格/7万6000円

リヤディレーラー

プーリーが大型化(上12T、下14T)され、16g軽量化されたリヤディレーラー。フロント1Xおよび2Xに対応。リヤスプロケットは10-28Tから10-36Tまで対応する。価格/11万8000円

軽量化については、ワイヤレスコンポとしては最軽量をうたっているが、スペックの詳細が明らかにされていない。ただ、大胆な肉抜き工作を施したブレーキキャリパー、そしてレバーは大幅な軽量化に成功しており、チェーンも13gほど軽くなっているという。どちらも絶対重量を考えれば、かなり軽くなっていると言える。現在、スラムはコンポだけでなく、ホイール&ハンドルメーカーの“ジップ”、サイクルコンピュータの“ハンマーヘッド”を傘下に抱えており、それらグループ企業と連携した製品作りをしているという。

クランク

中空カーボンクランクに、ワンピースのチェーンリングを組み合わせる。前作比で29g軽量化された。価格/11万1800円、20万5600円(パワーメーター付き)

スプロケット

スプロケットは、スチール塊から削り出されるワンピース。歯数構成は10-28T、10-30T、10-33T、10-36Tの4種類。価格/6万1710円、7万1330円(レインボーカラー)

ホイールに関してはライバルもラインナップを持っているが、サイクルコンピュータも視野に入れているとなると、かなり面白そうなことも考えられる。今回はハンマーヘッドがなく、詳細も明らかにされていないが、発売が楽しみである。

派手というよりは、落ち着いたモデルチェンジのように見えるが、こういうときこそ完成度の高い製品であることが多いので、期待が高まる。

レバー形状を大幅にアップデート

レバー

安定感のある大きなブラケットと1フィンガーでの操作を両立したコントロールレバー。リーチアジャスト機構は約25mm(実測値)と大きな調整幅を持ち、手の大小を問わず最適なレバーストロークが得られる

ボーナスボタン

ブラケットフード内側にある「ボーナスボタン」によって、親指で変速やANT+デ バイスの操作が可能だ。スラム AXSアプリを使ってカスタマイズすれば、“ハンマーヘッド・カルー”やその他のサイクルコンピュータのページを切り替えることもできる

ブラケット

極限まで軽量化を目指したのがうかがえる肉抜きされたブラケット。全長が延び、油圧シリンダーがプッシュ(縦ではなく手前)方向に内蔵されるようになった

シフトレバー用バッテリー

シフトレバー用のバッテリーはCR2032ボタン電池が採用されている。週15時間のライド時間でおよそ2年間の持続性がある

レバーのオフセット

選手間で人気のエアロポジションが取りやすいよう、ブラケットは若干内側にオフセットしつつ、レバーは大きく外側にオフセットする

ブレーキキャリパー

大胆な肉抜きを施し、左右レバー、前後ブレーキの合計で83gの軽量化に成功した。本体は2ピース構造を採用

クランク

カーボンの積層スケジュールに改良を加えて29g軽量化。また、北米のトレンドに対応するため160mmのショートクランクを追加。チェーンリングは52/39T、54/41T、56/43T、50/37T、48/35T、43/33Tの3種類がある

チェーン

中空ピン(Hollow Pin)とアウター&インナープレートの肉抜きを行い、耐久性を失わずに13gも軽量化したチェーン。レインボーカラーの設定あり

カセットスプロケット

スチール製のインゴットから削り出されるX-DOMEデザインを採用したカセットスプロケットは、全て10Tのトップギヤから始まり、ローは28、30、33、36Tの4種類が用意される

ビッグプーリー

ビッグプーリー(X-SYNC)を採用し、トータルキャパシティを増加。従来は2種類あったリヤメカのラインナップを1つにし、エネルギーロスも最小限に抑えている

フロントディレーラー

変速レスポンスが向上したフロントディレーラー。下の専用のセットアップツールを使ってベストセッティングが出せるのも魅力

フロントディレーラーのセットアップツール

樹脂製のフロントディレーラーのセットアップツール。アウターの歯数によって2種類が用意される

スマートフォンレベルの高性能ディスプレイを搭載したサイクルコンピュータ“ハンマーヘッド・カルー”。64GBのメモリー、4GBのRAMによって地図の読み込み速度などが軽快で操作性に優れるという。eバイクと接続してモーター出力やバッテリー残量にもアクセスできるという

レッドAXSグループセット価格/50万4600円(コントロールレバー&ブレーキキャリパー左右セット、フロントディレーラー、リヤディレーラー、チェーン、ブレーキローター160mm前後セット、バッテリー2個、充電器、ハンマーヘッド・カルー)※クランクセット、スプロケット別売り

 

【試乗短評】コントロールレバーが進化し、誰にでも扱いやすく、高いレベルの快適性を手に入れた。

流行から始まって、スタンダードになるまで、おおよそ10年かかる。電動変速システムにしても、ディスクブレーキにしても、同じような時間をかけて標準化されてきた。コンポーネントパーツの選択方法として「コントロールレバーのフィット感で決めればいい」と言われるようになって、そろそろ10年がたつ。実際に買うとなると、価格やアフターサービスなども重要になるが、新作のレッドは多くの人に魅力的な選択肢なのは間違いない。ブレーキレバーを引くときの軽さは、絶品だ。間違いなくライバルを置き去りにしている。レバーやブラケットの形状の評価は好みが分かれるだろうが、ベストチョイスの一つである。

コンポの性能評価をするときに変速性能を気にする人は多い。比較すれば、当然差はある。しかしスラム、シマノ、カンパニョーロを比較して、ストレスに感じることなどない。それよりも、選択できるギヤレシオやブレーキの制動感を気にした方がいい。試乗期間も短く、制動力は現在も向上中といった感じなので、最終的な評価は次回にしたいが、絶対的な制動力よりも、そこに至るまでのコントロール性の向上がモデルチェンジで得たアドバンテージだ。そして、キャリーオーバーに見えるクランクまで手を抜かず、しっかりと軽量化を進めたのも美点である。

レッドAXSを試す菊池さん

スペシャライズド・ターマックSL8×新型レッド

SワークスターマックSL8

完成車価格/179万3000円
スペシャライズド・ジャパン

スペシャライズドは最上級モデルSワークス ターマック SL8にレッドAXSをアッセンブルした完成車を設定した。それが今回の試乗車だ。重量はフレームサイズ54cmで6.8kg(実測)。元々、エアロと軽量性を兼ね備えたターマックだが、ペイント済みの重量だと考えると、レッドeタップAXSの貢献も小さくないだろう。

コンポが変われば、当然のように完成車の印象も変わる。フロント変速は応答性が良くなったし、ブレーキもブラケットポジションでは80%もレバーが軽く引けるようになったので、軽快にハードブレーキングができる。また、ブラケットのリーチが長くなったので、1cm程度ハンドルが遠くなる。ヘッドまわりの剛性が増し、ハンドリングに優れるフレームだが、ブレーキ性能が上がることで、旧型よりもシャープでコントロール性が向上している。