猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第32回

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猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第32回

ゴールまであと50km。ようやく写真を撮る余裕が出来る。スタート時より2回り小さく縮んだ。

RAA青森650に出場!前回のお話

14時45分、私は223km地点のPC3の大間に到着していた。
想定タイムより2時間速い。

2時間の貯金(後に失う事になる)に満足気にカロリーメイトを食べていると、トントンと背中を叩かれた。
振り向くと、ロングライド女子部の志田ねね氏が立っていた。
リレーチームに追いつかれたわけだが、問題のマグロ事変はどうなったのだ?
すると「もうマグロ食べましたよ!」と満足気だ。

マグロを食べるため、女子部は頑張って貯金を作っていたのだ……マグロをモチベーションに変えたのだ!
まさにマグロ走法!と感心し大間を後にした。

 

バッテリーケーブルが……

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第32回

見事に完走を果たしたロングライド女子部。ゴール後 マグロの様に眠る。

 

海沿いをひたすら走っていると今回1発目のミスコースをしてしまう。
左折する所を直進してしまった。
そしてここでサイコンの電源が落ちる。
モバイルバッテリーを付けているのに、なぜだ?
なんとコードの接触が悪く、全く充電できていなかった。
道具は綿密にチェックしないとダメだ。

サイコンを失った私は、スマホのライドwith GPSが頼りだ。
交差点の度にスマホを開きルートを確認するので時間をロスしてしまう。

やがて海岸線からブナの森区間に入る。
ここは人気が全くないので明るいウチに走りたかった。
熊にでも襲われたら終わりだ。

 

ファミマ! イェーッッス!

全くの原生林……民家は全く無くどんどん暗くなり泣きそうになる。
すると白と緑に美しく輝くPC4のファミリマートの看板が現れた!「イェーッッス!!」と雄叫びを上げる。
人が居る……文明が有る……ファミリーマート……ブルベ走者にとってコンビニは砦だ。

時刻は18時18分。300kmを11時間18分で走り自己ベストだ!(信号が少ないからだ)
しかしここから十和田湖のファミリーマートまでの道が一番の難所だ。
目印が少なく、暗くルートミスの可能性が高い。

七戸に入った所でそれは起こる。
何かがおかしい……恐る恐るスマホを開くとルートから大きく外れているではないか!
GPSの誤差だ!とスマホ閉じて走り出す!
いや落ち着け!今のGPSはほとんど誤差は無い!
もう一度開くと、私の位置は無慈悲にルートから外れている。

今、考えたら来た道を戻れば良いだけなのだが、パニックに陥った私は七戸を永遠に彷徨う。
1時間彷徨い続け、ようやくルートに戻った……
頑張って貯めた貯金が1時間無くなってしまった。
さすがに心が折れる……しかし走り続けなければならない。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第32回

深夜の酸ヶ湯温泉。幸い心霊現象には遭わなかった。

 

折れた心で1番の難所、八甲田ヒルクライムが始まる。
看板に酸ヶ湯温泉20kmとある。
400km走ってからの20kmのヒルクライムはキツいが、それ以上にキツいのはここは日本屈指の心霊スポットだという事だ。
速く走り抜けたいが、もう脚が無い……極限状態だ……。

するとアントニオ猪木氏のお墓がある蔦温泉が現れる。
遠くから「元気ですかーっ!!」っと聞こえた気がする。
元気があれば何でも出来る!!
「馬鹿になれ!行けば分かるさ!1 !2! 3 ! ダァー!!」
猪木氏の数々の名言のお陰で、私は八甲田を捻り潰す事が出来た。

酸ヶ湯温泉に着いたのは深夜1時を過ぎていた。
ここから長い坂を下ると休憩地の弘前がある。
心霊スポットの城ケ倉大橋を一気に下り抜け弘前ルートインに到着した。

ルートミスにより2時間予定していた仮眠は1時間に短縮。
入浴や充電、大量のアスリート粉飴の廃棄で20分横になっただけで出発!
しかし「休んだ」という事実が心と脳を軽くする。

 

ご褒美まで、あと200km

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第32回

御褒美をあげるまでがロングライドという事で、新青森駅のホタテラーメン。ホタテがほぼ生で美味。

 

残り200kmはサイクリングだと言い聞かせてスタート!!
いきなり嶽温泉までの緩い上りだが脚は回る。やはり仮眠のおかげか?

メロンロード37kmを1時間あまりで駆け抜けてラスト50kmに来た時に体が悲鳴を上げる。
お尻が痛くなりダンシングすると膝が痛み、おまけに手のひらの感覚まで無くなりだした。
後から聞いたが、DHバーが無いと手をやられるらしい。

八方塞がりだが、私には1時間の貯金がある。このための貯金だ!このために頑張ってきたのだ!
ラスト50kmに2時間50分かかり、私はRAA青森650を31時間50分で完走した。

猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第32回

ゴール後に青森の海の幸で打ち上げ。ほとんど寝ていないが打ち上げとなると元気が出る。

 

あまりに壮絶過ぎて記憶が曖昧だが、青森というバラエティーに富んだ土地に助けられたのかも知れない。
走りやすく、とても良いコースだった。
一度ゆっくり走ってみたいものだ。

ちなみに人はなぜ、超長距離に魅力されるのか?
未だ答えが解らないまま、私は今も超長距離を走っている。

RAA青森650に出場編 第1回

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