安井行生のロードバイク徹底評論第5回 PINARELLO DOGMA F8 vol.10

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安井ドグマF8-10

ピナレロのフラッグシップが劇的な変化を遂げた。2015シーズンの主役たるドグマF8である。「20年に一度の革新的な素材」と呼ばれる東レ・T1100Gと、ジャガーと共同で行なったエアロロード化は、ピナレロの走りをどう変えたのか。新旧ドグマの比較を通して、進化の幅とその方向性を探る。東レ・T1100Gの正体に迫る技術解説も必読。vol.10

 

正確無比だが味は消えた新型フォーク

安井ドグマF8-10

スピードの上げ方だけでなく、ハンドリングや乗り味も従来の「ドグマらしさ」とは大きく異なるものとなった。ハンドルを大きく振ったとき、わずかに変形することでピタリと位置決めができた旧世代オンダフォークに比べ、明確に剛性を上げた新型オンダF8フォークは、硬いが故に過敏になるきらいがあり、慣れないとダンシングでふらついてしまう。この新型フォークはO脚&ガニ股という見た目通りの振る舞いをするのである。そこには、旧世代オンダフォークの「スッと沈んでしっかりと踏ん張りつつ衝撃を殺し振動を黙らせる」という、あの独特の乗り味はない。残念なポイントである。
 
しかし、新型フォークのこの特性にはメリットもある。どんなに激しい制動・旋回をしても、安定したまま正確に反応してくれるので、フロントフォークにとっての高負荷域(下りなど)で追い込めるのだ。ドグマF8で下っていると、冷静なまますさまじい高負荷機動ができることに気付く。センチ単位で操れるので、並走するカメラカーにギリギリまで近づいても全く怖くない。ブレーキング時にフォークやヘッドのたわみを考慮する必要はなく、ただタイヤのグリップに注意していればそれでいい。ドグマF8に扱いやすくグリップのいい高性能タイヤは必須である。
 
乗り味はややハードになったが、高剛性カーボンフレームらしく振動の減衰は速い。素材のもつ優れた減衰性能で振動を黙らせている印象だ。

 

本当に効いている「エアロ化」

では、空力性能について。同じサイズのドグマ65.1とドグマF8に同じホイールを付け、同じポジションにセッティングし、同条件で高速維持性能を比較した。結果、差はわずかだが、F8のほうが優れていると感じられた。しかし、これは本当に空力性能向上によるものか、それともパワー伝達効率が向上した結果なのか、判断しにくい。「抵抗が小さくなる」と「動力伝達効率が上がる」はどちらも「速くなる」という結果に帰結するためである。

ただ、パワー伝達効率の良し悪しが影響しにくい条件下(低負荷高速時=追い風や下りなど)でも、わずかではあるがドグマF8のほうがスピードの伸び&速度維持性能がいい。フレームのエアロ化は本当に効いているのかもしれない。フレームの空力性能については、そのうちどこかでしっかりと検証する必要がある。

ただ、「空気抵抗が少なくなる」は「スピードが落ちにくくなる」という方向の、「動力伝達効率が上がる」は「スピードを上げやすくなる」という方向の変化になる。その違いに注意して試乗すると、ドグマF8はどちらの方向にもよくなっていると感じられる。スピードを上げやすく、かつスピードが落ちにくく- これは、競争する乗り物として文句なしの正常進化である。では、欠点はないのか。失ったものはないのか。もちろんある。“一体感”だ。