トレック・新型マドン登場 完璧なレーシングバイク

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プロジェクトワンではリドル・トレックのチームカラーもオーダー可能

  • text 吉本 司
  • photo 佐藤正巳、トレック・ジャパン、編集部

トレックのレーシングバイクにおけるアイコン、「マドン」シリーズ。
空力性と快適性を高度に両立した独創的な構造「エアロISOフロー」を搭載して、世界中のロードバイカーを驚かせた第7世代の登場から2年あまり。
〝完璧なレーシングバイク〟を目指して、さらなる進化を遂げた新型、第8世代のマドンシリーズの姿に迫る。

エモンダの軽量性とマドンのエアロのいいとこどり

おおよそ2年前、衝撃的なデビューを飾った第7世代のマドン(以下Gen7)。
今回、第8世代となる新型マドン(以下Gen8)が登場することは、多くのロードバイカーが予想しなかったはずだ。
ロードバイクの定石である4年というモデルチェンジのサイクルからすると、誰もがトレックの次作は軽量モデルのエモンダだと思ったに違いない。
今年のはじめにプロトタイプの写真が出回った時も、フレームチューブに入る「∞」のロゴ(実は8の意味)を目にして、「次作はエモンダ・インフィニティ(無限)だ!」という憶測がネットで飛び交っていた。
しかし蓋を開ければ、マドンがさらに進化するという結果だった……。

トレックはこれまで軽量な「エモンダ」、エアロな「マドン」を展開してきたが、リドル・トレックの選手との間で〝完璧なレースバイク〟について論議をすると、「UCIの車両重量規定6.8㎏を実現したマドン」「ツールからパリ~ルーベまで勝てるバイク」という要望があったという。
特化した性能を持つ2つのバイクがあるのは利点ではあるが、その反面、どちらかを選ばなければならない〝ストレス〟も生じる。
そうした面からエモンダの軽量性とマドンのエアロという、それぞれの利点を掛け合わせた第8世代のマドンが開発されることになった。

ちなみに本作のモデル名をエモンダにするかマドンにするかについては、社内でもいろいろな意見が交わされたというが、トレックのロードバイクにおける象徴は〝マドン〟であることから、その名を冠することとなったという。これにより〝エモンダ〟の名はトレックのロードラインアップから姿を消すことに……。

スリムなフォルムに秘めた高いエアロ性能

Gen8で追求される軽量性とエアロの高次元の融合を実現する一つのキーワードが「フルシステム・フォイル」という考え方だ。
専用の「RSLエアロボトルケージ&ボトル」を開発し、フレームと前後ホイール(アイオロス RSL 51)、さらにこの2つのボトル類も含めた上で空力をシミュレーションしている。
これによりGen7で採用されていた縦長の断面形状を持つエアロチューブ形状「KVF」(カムテール・バーチャル・フォイル)から、より図のように縦方向の長さを抑えた新たなチューブ形状が採用されることとなった。

Gen8の断面形状。前輪(画像右側)から後輪まで2つのボトルを含めたフルシステム・フォイルという考え方からGen8の空力はマネージメントされ、チューブ形状が導き出されている

エモンダ、マドンGen7,マドンGen8のチューブ形状の比較。Gen8はGen7よりも、かなり縦方向の長さを抑えて、横幅を広げている。さらにエモンダのようなKVFとは反対側の辺のアールも抑えられている

「フルシステム・フォイル」から導き出されたチューブ形状に加えて、Gen7で生み出された独創的な形状「ISOフロー」を引き続き採用。
さらに専用のステム一体型のハンドルセットは、前作よりもあえて前衛投影面積を増やす形状に設計することでライダーの脚に当たる空気が減速され、バイクに乗車状態での総合的なエアロ性能が高められている。

フルシステム・フォイルという考え方から生まれた、専用の「RSLエアロボトルケージ&ボトル」。リドル・トレックチームも実際にレースで使用する。ボトルケージは一般的な丸形のボトルも装備できる

ステム一体型のハンドルセットも再設計された。バー下側に対してドロップ部を30㎜内側に狭くしたフレア形状に加えて、アップバーの握りもGen7に対して細くなっている

見た目から想像されるエアロ性能では、これまでトレックが展開してきたKVFコンセプトを脱ぎ捨てスリムなフォルムとなったGen8よりも、〝エアロ感〟を強調したGen7の方が良さそうに見える。
しかし下記の表を見ても分かる通り、Gen8とGen7、そしてエモンダとのCFDによる空力比較(ライダーが乗車した状態)であるが、ほぼ全領域でGen8は優位に立っている。
ただし、横風が強い状況(風の角度が10度以上)を想定したCFDでは、Gen7の方が空力に優れているが、しかしながら実際のレースの場面では、それ以下の風向きが多いことから、トータルの空力性能においてはGen8が優位であるという。
そうした事実もこのGen8がエモンダではなく、マドンの新作としてリリースされた理由の一端とも言えるだろう。

ヨー角(横方向の角度)における空気抵抗の違い。10°前後まではGen8が優位であることが分かる

構成パーツは3モデル同様。Gen8は専用ハンドルを装備するとさらに10Wのパワー削減が可能。また、RSLボトル&ケージを装備するとさらに空力を低減できるという

エモンダとのフレームセットの重量差は僅か67g

新型のもう一つの開発テーマである軽量化は、「フルシステム・フォイル」のコンセプトから導き出されたGen8のスリムなフレームワークも大きな要因だが、それだけでなく素材面でも大きな進化を遂げている。
トレック自慢のOCLVカーボンは、従来の800シリーズよりも20%強度を高めた900シリーズにアップデートされた。
フレームの成型技術も新たなブラダー方式の「ネット・シェイプド・ブラダー」に変更することで、成型精度をより高めたフレーム作りが追求されている。
また、フロントフォークについては、Gen7がブレードとコラム部の2ピース構造だったのに対して、Gen8ではワンピースとなり、よりカーボン繊維の特性を生かすことができるようになった。

フロントフォークも前作と比べて、ブレード前後方向の幅が抑えられている。ワンピース構造となったのも大きなトピックだ。スルーアクスルの形状もスマートになった

タイヤクリアランスは33㎜幅まで対応。最新レーシングバイクとしては十分なスペックだ。写真は28㎜のタイヤを装着した状態

こうしてフレームのチューブ形状、素材とその製法に至るまで、全てのフレーム作りを見直したGen8は、Gen7に対して320g軽量化された760gのフレーム単体重量を実現。
フロントフォークは370gに仕上げられている。
ちなみにエモンダのフレーム単体重量は698gで、フロントフォーク重量は365gなので、エモンダとマドンGen8のフレームセットの重量差は、67gという僅かな差に収まっている。

快適性が大幅に向上したISOフロー

今回、開発チームは100を超えるフレーム形状のシミュレーションを行い、最高のパフォーマンスを発揮する形を探った。
その過程を経てエアロと重量の最良のバランスを両立する形状として、Gen7で開発された「ISOスピード」を引き続き採用する結果となった。
このエアロと快適性を両立する独創的なシート周りの構造は、Gen8に搭載されたことにより、バーティカルコンプライアンスをGen7に対して80%、エモンダに対して24%向上。快適性を大幅に高めることに成功している。

空力と快適性を両立する独創的な構造のISOフロー。Gen7と基本構造は変わらないが、シートチューブとシートポスト、シートステーの縦方向の太さは新旧で大きく異なる

さらに形状を最適化したフレームは、剛性の異なる3モデルが選手に与えられ、実走テストが繰り返された。
選手からのフィードバックは、剛性が高いモデルは良くないという意見だった。
あらゆるレースシーンでパフォーマンスを発揮するには、剛性そのものではなく、快適性を含めたバランスが重要であるという結論に至った。
また、フレームサイズごとに剛性を適正化するために、それぞれのサイズで最適なチューブ形状が採用されている。

ダウンチューブの太さもさることながら、ヘッド部とBB周りのボリューム感も大きな違いがある。このボリューム感の差がGen8の大幅な軽量化につながっている。ちなみに新型のBB規格はT47、ヘッドシステムはRSC仕様。そしてディレーラーハンガーはUDHに対応している

Gen8の剛性は、Gen7、エモンダに対して各エリアで向上しており、ヴァーティカルコンプライアンスについてもGen8の圧倒的な優位性が分かる 
※TFF=フレーム全体 TBB=BBエリア THT=ヘッド部

今回はサイズ展開も見直された。
従来は47〜62の8サイズだったが、今回はXS〜XLの6サイズとなり、フィット性も改められた。
表にあるとおり、ユーザーのボリュームゾーンとなるサイズ間におけるリーチの差がより均等になるサイズ展開となった。

こうしてマドンGen8は、エモンダとマドンGen7の長所を高次元で融合させることで、軽量性、エアロ、剛性の最適化、快適性を進化させている。
さらにドロップ部がバー下よりも30㎜狭いフレア形状とし、エアロポジションを提供する一体型ハンドルバー、最大33㎜幅を装備できるタイヤクリアランスなど、最新レーシングバイクに必要なスペックもしっかりと搭載されており、まさに〝完璧なレースバイク〟という命題にふさわしい仕上がりを見せている。
このGen8を駆るリドル・トレックのM・ピーダスンやG・チッコーネが、これから開催されるツールで、その優勢を示してくれるに違いない。

プロジェクトワンではリドル・トレックのチームカラーもオーダー可能

ロードレーシングバイクの本質へ回帰する時代へ

2000年代初頭にサーヴェロがエアロロードを提唱して以来、ロードレーシングの世界では、エアロロードと軽量モデルという2つのモデルを、コースによって使い分ける手法が定番となった。
それは長所を生かすのには良いが、短所を補うためのもう1台が必要となり、選手にとっては自転車選びの悩みが残る一方で、メーカーにとっては開発・製造コストも伴う。
しかしフレーム作りのテクノロジーが進歩したことにより、今回のマドンGen8をはじめ、スペシャライズド・ターマックのように、今までよりも性能の弱点が少ないさらに万能なレーシングモデルを作ることが可能になった。
過去を振り返れば本来ロードバイクは、それ1台で多様なコースに対応できる万能なレース機材だった。
今回のマドンGen8の登場は、ロードレーシングバイクが、再びその本質に回帰する時代に本格的に入ることを示唆している。
われわれのようなホビーサイクリストにとっても、こうした傾向は大いに歓迎すべきことだと言えるだろう。

Mt.富士ヒルクライムの大会前日に、その会場で秘密裏に行われた新型マドンの発表会。トレック本社からロードバイクとプロジェクトワンのプロダクトリーダーを務めるジョーダン・ロージン氏が来日。翌日は新型マドンで大会に参加した

エモンダSLよりも軽量! 価格を抑えた「マドンSL」も登場

新型マドンはプロチームに供給されるSLRの下に〝SL〟グレードも用意される。
基本となるフレーム形状は上位モデルと同様だ。
カーボン素材がOCLV500に置き換えられ、SLRよりも250g重くなるが、エモンダSLよりも175g軽くなっている。
ハンドルセットはステムとバーが別体で、ボトルシステムは汎用的な仕様になる。

ラインナップ&価格

マドンSLRは完成車で4グレードを展開し、カラーカスタマイズドプログラムの「プロジェクトワン」にも対応する。
フレームセット販売もある。
マドンSLは完成車のみの展開で、こちらはプロジェクトワンには対応していない。

マドンSLR完成車
 マドンSLR9 AXS 200万円(スラム・レッドAXS仕様)
 マドンSLR9 185万円(シマノ・デュラエース仕様)
 マドンSLR7 AXS 160万円(スラム・フォースAXS仕様)
 マドンSLR7 140万円(シマノ・アルテグラ仕様)
フレームセット
 マドンSLR F/S 79万円
マドンSL完成車
 マドンSL7 95万円(シマノ・アルテグラ仕様)
 マドンSL6 72万円(シマノ・105Di2仕様)
 マドンSL5 44万9000円(シマノ・105機械式仕様)

※発表会当日は試乗車の都合で十分な試乗が行えなかったので、改めて試乗をしてからインプレを掲載します。