安井行生のロードバイク徹底評論 第4回 LOOK 675 vol.8

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安井675-8

最初は誰もが異端児だと思ったルック・675。しかし同じスタイルをまとう795の登場によって、キワモノではなく次世代ルックのブランドアイデンティティーを背負う存在として見なければならなくなった。「なぜルックはこんなフレームを作ったのか?」をメインテーマに書く徹底評論第4回。発表されたばかりの795を見る目も変わる、渾身のルック論である。vol.8

安井675-8

トップモデルはコストの縛りも緩くエンジニアが大暴れできるというイメージがあるかもしれないが、商売とブランドイメージを考えるとそうも言っていられない。ライバルより軽く硬くあらねばならない。ライバルより効率よく空気を切り裂き、しかもライバルより快適に走らねばならない。見た目にも走りにもコンセプトにも、分かりやすく斬新な商品性を盛り込む必要がある。そうでもしなければ、ユーザーの単純で贅沢な要求に答えられない。
 
結果、出来上がるのは、軽く硬く踏んだ瞬間にキャンキャンと吠え立てるという実に喧騒に塗れた軽薄な物体であり、路面の状態を全く伝えてこない無機質無表情な冷たい乗り物である。筆者がことあるごとに「人間の生理感覚を無視した……」と非難するのは、そういうフレームである。
 
とはいえ、「深みのある剛性感に仕立てて人間に寄り添うべきなのだ」などという重要だが理解されにくいことを言っていれば、「空気の読めないブランド」「時代から取り残されたブランド」などというレッテルを貼られてしまう危険がある(だから新型ターマックを作り上げたスペシャライズドの勇気がたたえられるのだ)。

 

落差

トップモデルには、トップモデルらしいぶっ飛んだ走りが求められる。しかし少し大人しくても許されるセカンドグレードは、結果として走らせやすく、深みのある走りとなることがある。確かにトップモデルを薄味にしたセカンドグレードも多いが、セカンドグレードならではの走りを持つモデルも少なからず存在する。だから、金銭的に余裕があっても「あえてセカンドグレードを選ぶ」という買い物は大いにアリなのだ。
 
あえて選ぶ価値のあるセカンドグレード、それがまさに675である。今や旗艦の必修科目になっている「軽量・空力・高剛性」という使命から自由になれたからこそ得られる、肉厚で懐の広い走りを持っている。それが、このポジションを犠牲にしてまで得た斬新なルックスをまとうのだ。
 
では結論だ。675と約一カ月間を共にしたが、このフレームについての印象がはっきりと焦点を結ぶことは、最後までなかった。イメージは、「作為的に作り上げた斬新な意匠」と「深みある古典的な走り」という、いかにも相性が悪そうな2つの方向に拡散していった。そして、それらの間に生まれるギャップが最大の魅力であることに気付くのだ。
 
675とは一体なんなのか。675とは、落差を愉しむフレームなのである。
 
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